統制する頭声
「…懐かれたな、リュウト」
あの事件…爆弾設置の件が解決(?)した次の日、俺の腕に捕まっている二人の少女を見て、我が育ての親にして最高級医師の女性、アルーノは俺に嫌味を吐いた。
それもそうだろう。テロリストと同じ事をしたのだ、本来なら死ぬまで牢獄…なんてこともあり得ないわけじゃないのだ。
「…しかし、上がこの子達の処分をイグドラシル監視下における解放とするとは…お偉方は何を考えてるかわからんな」
「…お兄さん、お腹が空きました」
「私も私もー」
「ミリアにマリア、お前ら一応俺らの捕虜だからな。そこの辺を忘れるんじゃないぞ」
「「はーい」」
「お兄ちゃんと言うよりお父さんだな」
アルーノは溜息を吐くと作業に戻った。
「飯は食わせろよ、捕虜とはいえ扱いは法律に準じている」
「へいへい、お前ら何食べたい?」
「パスタ!」
「いかにも体に悪い油がギットギトのポテトとチーズバーガーが食べたいです。あ、ピクルスは抜いてください」
「…見事に偏ったな。んじゃ食堂行くぞ」
イグドラシル3F、食堂。
色んな企業の店が並ぶフードコートだ。
イグドラシル社員…中でも魔宝使いには毎月給金とは別に、食事が無料になるというなんともなサービスがあるのだ。
魔宝使いはアスリートがトライアスロンを完走する体力の三倍の体力を魔宝展開時に使用する。
燃費が悪く、摂取量の数割分しか発動出来ないのだ。
筋肉バカじゃない限り魔宝使いが全体的に細い体の奴が多いのはそういう事だ。
「あ、お前らこれ持っとけよ。不審者扱いされるぞ」
ミリアとマリアの首に名札の入ったカードケースに着いていた紐を通す。
「なぁに、これ」
「形式上はお前達は、お客様だからな。これ付けといてくれ。レベル1って書いてある扉なら開けられるからな」
「…難しそうですね」
「まあ気にすんな、飯買う時に提示すればタダで食えるぞ」
「…なるほど、行きましょうミリア」
「先席取ってるからな。ちゃんと来いよ」
「はーい」
「このお店のミートソース美味しいよ!マリア!」
「うーん、このあからさまに体に毒な脂ギッシュで塩分の高いポテト…これは素晴らしい…」
「マリア、ちょっと食べる?」
「では頂きます…うん!美味しいですよコレ!あ、ではこちらもどうぞ」
「ありがと!あむ…塩っぱいけど美味しいよ」
「良かったです」
俺は目の前でイグドラシル一大盛りのラーメンを啜りながら眼前の姉妹愛を堪能する」
「…隣いいかしら」
「リーヴァ、お前も飯か」
「えぇ、丁度コンビニで売っている子供二人と昼食を嗜む変態がいたので声をかけたの。…冗談よ」
「嫌味な奴。生憎俺の眼前は空いてなくてな」
「良いわよ、あなたの隣に座るから」
「あー、お姉ちゃん達カップルだー」
座った瞬間、ミリアが言う。
「な、何言ってるの⁉︎」
「そうだ、なんだ急に」
「おやおやぁ。焦るとは…ふふふっ」
「その名札が無くなったら部外者の侵入者になるって知ってるか?折角拾った自由だ。無駄にするなよ」
「「はーい」」
二人の返事は同時だった。
「…んー、特にやる事もありませんね…」
「そりゃ捕虜だしな」
「あ、ねえリュウト。この子達に自由時間を与えたら?」
「…普通に考えてダメだろ。…いや、待てよ。…二人とも聞いてくれ。お前達をこれからイグドラシル内部だけで自由時間にする。今が12時50分だから、14時30分から15時までの間に俺の部屋に帰って来れば素敵な物をあげよう。どうだ?」
「自由に社会見学しろ…と言う事ですか」
「あぁ。ただ重要区と学園区…早い話五、六階層と外に行っちゃダメだ。それ以外ならそのキーが許す限りどこでも行っていいぞ」
「わーい!いこ、マリア!」
「ですね、でもミリア。あまり仕事をしている人に迷惑を掛けてはいけませんよ」
「なんだか…どっちが姉か分からないわね」
「私がお姉ちゃんだよ!」
「はいはい、んじゃ行ってこい」
「…地図の入ったデバイスを頂きました。まず1階層から行きましょうか」
「うん、えっとねー。まずここ、ロビーって所かな」
「ここですよ、ミリア」
「お嬢さん達見学かい?」
男がミリアとマリアに声をかける。
眼鏡をかけた平凡なサラリーマン風の男性だ。
「おじさん誰?」
「僕は見学者案内係の者だよ。案内するのが僕の仕事なんだ」
「…ではお願いしましょう」
「…リュウト、ちょっと良いか」
アルーノに声をかけられる。
「なんだ、仕事か?」
「…ある意味ナイスタイミングだ。もしかしたら…殺人犯が潜り込んでいるかもしれない」
「なんだって…?殺人犯?」
「…魔宝使いの少女を誘拐し、死なないのを良い事に嗜虐嗜好の為に甚振るのが趣味らしくてな。その為の手段は問わないらしい」
また面倒な奴が現れた。ミリアとマリアが危ない。
あの名札には、マリアの力を抑える力がある…早い話、今あいつらは能力を使えない。つまり…殺せば死ぬ、という事だ。
「どこだ、今どの辺にいる」
「二階…今ミリア達がいる場所だ」
「…クソ、行ってくる」
「当てもないのにか?」
「とりあえずミリアとマリアを保護するのが最優先だ。リーヴァにも伝えといてくれ」
「解った」
「間に合ってくれよ?」
「リュウトさん?どうしたんですか?」
「あ、アリス。この子ら見なかったか?」
「見てないですけど…どうしました?」
「この変に殺人鬼がいるらしい。お前も気をつけろ」
「は、はい!」
俺はアリスを他所に走り出した。
なにやら騒がしい。…人溜りが出来ている。
「ちょっと通してくれ‼︎」
俺が人混みをかき分けて出た先に、一人の少女が倒れていた。
「マリア‼︎」
「う、お兄…さん?」
「どうした?…ミリア」
「あ…あんないがかりっておじさんが案内の途中で私を襲ったの…だ、から…えと…マリアが…ごめんね…マリア」
涙がぽろぽろと溢れていた。恐らくパニックを起こしており、冷静でいられるのが不思議なくらいだ。
マリアの服の肩部に切り傷が出来ている。
俺はマリアをそのままに、目の前で手を振り意識を確認した。
「マリア、これ何本か解るか」
「…えっと…四本ですか」
庇った際に転けて頭を打ったのだろう。
目線が正常ではない事から伺える。
「2本だバカ。とりあえず魔宝のスペシャリストの所に連れて行く。ミリアもそこで保護してもらえ。良いな」
「う、うん…でもお兄ちゃん、マリアが!」
「大丈夫だ。その人に任せれば問題解決だ。安心して近くにいれば良い」
「ほんとに?マリア死なないの?」
「あぁ、本当だ」
いくら魔宝使いとはいえ、9歳の女の子だ。
妹が心配なんだろうな。優しい奴だ。
「リュウト!」
「あぁ、来たかリーヴァ」
「どうしたの?」
「最近流行りの殺人鬼だ。どうやらこの変にいるらしい。混乱に乗じて逃げる可能性があるから大きな声では言うな。アルーノに見せれば安心だろう。…このお姉ちゃんについて行け。そしたらマリアは治る。お姉ちゃんだからできるな?マリアを頼む」
ミリアはこくこくと頷いて涙目をぬぐってマリアを背負ったリーヴァについていった。
「…さて、と…」
俺は膝を伸ばし、立ち上がる。
「覚悟しろよ、犯人」




