血統の決闘
「…リュウト、結果が出た。ミリア・ハートリンクと言う少女は、数ヶ月前に死亡扱いとなっている」
「やっぱり魔宝使いか…。6階から飛び降りてよほど飛び降りに慣れている自殺マニアじゃないのに無事なんておかしい」
「…しかし、まさか爆弾を仕掛けるとはな、手段は古臭いが新手のテロリストか?」
「そんな可愛い物だったらまだ良いが相手は魔宝使いだ。テロリストなんかよりよっぽどタチが悪い」
「…リュウト、私はもう少しあのガキ共を調べる。お前はとにかく明日に備えて寝るべきだ」
「そうだな、そうさせてもらうよ」
「ガキ見ると、あいつらを思い出すのか」
アルーノには、やはり見抜かれてしまっていた。
「…あぁ、どうも頭から抜けないんだ」
「…あいつらの事をいくら悔やんだって帰っては来ない。今は目の前に在る「過去の自分」を救え」
「そうだな、俺は寝る」
「お休み、寝過ごすなよ」
薄暗い自室に戻りベッドに身を投げる。
暗闇に慣れ始めた目で天井を見る。
…子供の魔宝使い…。俺の魔宝「アマテラス」は他の魔宝の存在と、俺の意思で起動する。
アマテラスの力は、魔宝を統べる太陽とも言える存在だ。
遠くから見ていれば、ただの眩しい日差しだが近付けばそれこそ火傷では済まない。
この力は過去の人間が生み出した愚の骨頂。魔宝を全て滅ぼすための力。
決して魔宝に踊らされた愚かな大人の犠牲になって現実という神に見捨てられた被験者を殺すための力じゃない。
俺は、こう見えて自分である程度自分の事が分かっているつもりだ。
もしミリアマリアのどちらかが俺をわざと煽る様な事を言って、アマテラスを起動させてしまったとする。
もし目の前で、再び二つの子供の死体を街中で見る、なんて事になれば俺は…昔のままから、一歩も進歩していない。
他人に偉そうに説教をできる立場では無い、と言う現実を叩き付けられる。
俺は、あの頃とはきっと違う…そう思いたい。
日本エリア、某所。
赤いカーペットを敷き、赤で統一された壁紙の書斎に、一人の老女がロッキングチェアに座り、紅茶を啜りながら読書をしている。
紺色に、金の線が入った装丁の高価そうな本だ。
ランタンの炎と共にゆったりと時間が流れる。
そんな時だった。
「あら、二人共。お帰りなさい」
似たような姿ををした似たような二人の少女、ミリアとマリアに老女は暖かな笑顔で迎え入れた。
「ママ、聞いて。リュウトお兄ちゃんにゲームをしかけたんだよ!!」
褒めてもらうのを待つかの様にミリアは少しはしゃぐ。
すると老女は人差し指を唇の前に当て、次にミリアの頭を撫でた。
「あまりはしゃぐ物じゃありませんよ。それにしても、偉い。貴方も来なさい」
「いえ、私は幸せそうな彼女を見れたので十分です」
「人の好意は拒むものじゃありませんよ」
「…では、お言葉に甘えて」
マリアも、老女の腕に抱かれる。
「…ママ、あのね。私達の仕掛けたゲーム聞いてくれる?」
「うん、聞くよ」
「あのね、イグドラシルに爆弾を仕掛けたの。これを解除するには私達を捕まえてリモコンをゲットする必要があるの」
ミリアはポケットから小型のリモコンを取り出した。
「ただし本物のリモコンはどっちが持ってるかわかんないの。私もだけどねー」
「そうかい、そうかい。でもそろそろ寝なさい。その様子だと、明日も早いんでしょ?」
「良く分かったね。じゃあおやすみ、」
「えぇ、お休みなさい」
少女たちが去ると再び部屋に静寂が訪れる。
老女は、机の上の写真立てに向けてため息をついた。
「あんたの作った娘たちは…失敗だよ。あんなに…」
「やはり、爆弾の解除は無理か。今爆弾解除のスペシャリストに爆弾の解除を依頼したが…爆弾をこれ以上解除しようとすると爆発するらしい」
「…そうか、徹夜させちまったのはお前だけじゃないらしいな」
「気にするな、お前らの仕事は魔宝使いを何とかすること。私達、魔宝使いではないタダの人間社員の仕事はそれを全力でサポートする事だ。昼夜問わず、な」
アルーノはパソコンのキーボードを叩き、俺を見ずに淡々と語った。
俺はただ、感謝するしか無かった。
「行ってくる。俺はあいつらを止めなきゃいけない」
「あ、そうだ。実はな…彼女達についてまた調べたんだ。あのガキ共の資料だ。目を通しておいてくれ」
資料を受け取り部屋を出る。
そこには昨日あの双子が飛び降りた窓がまだ修理を終えていない状況があった。
…とっ捕まえて親に連絡いれて修理費も請求してやる。
「っ…頭痛!?…ってお前か。どうした」
マリアだ、昨日連絡先(脳波)により連絡が可能になったのを忘れていた。
『どうしたじゃないですよ。もうすぐ正午です。この街全体を私達が歩き回ります。貴方は私達を見つけて捕まえるなり殺すなりして鍵を得て爆弾を解除してください』
「…鍵は、極力とらせてもらうよ」
『何を考えているか分かりませんが…鍵にはちょっとした仕掛けがあります』
「仕掛け…?」
『えぇ、それは…私達二人をとっ捕まえてからのお楽しみです』
…こいつらこそ何を考えているんだ。どうにも解らない。
俺を殺す利点はなんだ、恨みならクーリングオフできないくらい昔から買いすぎて解らない。
『わかりました?では正午ぴったりからスタートです』
「あいよ、とりあえずどこから行く?」
『そうですね、第一国立公園あたりじゃないですかね』
「適当すぎやしませんかねマリアさん」
『では後ほどー』
そう言うと、電話が切れる様な音が鳴り再び貫く様な頭痛が襲う。
通信する度にこれをしなくちゃいけないのか…。
「リュウトさん、あ、あの」
振り向いて見えたのは少し戸惑った様子の金髪で低身長の少女、アリスと。身長差のある黒い髪の少女、リーヴァが立っていた。
「なに独り言言ってるのよ貴方」
「リーヴァにアリスじゃないか、どうしたんだこんな所で」
「アルーノさんから話を聞いたのよ、貴方が何やら子供相手にゲームを仕掛けられたらしいじゃない」
「少しでもお力になれれば、と思いまして」
お前らにできる事はなんもない、そんな事言えるわけがなかった。
「お前らに頼みたい事は一つだけある。俺があのガキ共と遊んでる間、イグドラシルの子供たちを不安がらせない様にしてくれ」
「分かったわ、要は遊び相手をしていればいいのね」
「そういう事。じゃあまあ頼むわ」
俺はそう言うとその場を去る。すまないが俺にはあまり時間がない。
あいつらに任せておけばガキ共は大丈夫だろう。
…とっとと、とっ捕まえてお説教タイムと行こうじゃないか。
「…さて、第一国立公園だったかな…あいつの言い方からして嘘では無いだろう」
第一国立公園。…第一次魔宝戦争終戦を記念して作られた公園だ。
巨大な手が握手をしているモニュメントが特徴の公園で、今も昼間なせいか犬を引き連れた若人や散歩中の老人、遊んでいる子供たち。
いつもと変わらない、風景だ。
…戦争…、数千年以上も前…人々は今の米国エリアと和平の条約を結んだ。
平和は、到達するよりも維持する方が難しい、とは良く言ったものだ。
窮鼠猫を噛む…だがいくら賢い鼠でも、牙が無ければ猫に噛み付いても振り落とされ、猫の餌になるのがオチである。
…平和だなんだとか言っておいて、結局日本エリア(ウチ)は極秘に非人道的な研究、実験を繰り返し戦力を集めていた。
「…人は、戦争でもしなきゃいけない法律でもあんのかね。和平を結ぶ条約は組めても戦争しちゃいけませんよって条約はどこの国でも結べないんだな」
繋がれて隠された手の部分に、噛んだガムか画鋲でも隠されているんじゃないか。
そう思うとため息が出てきた。
「お兄ちゃん遅い!何時間待たせるつもり!?」
聞いたことのある、幼い声が聞こえた。
振り向くと、銀髪の少女が二人立っていた。
「いやぁ、お前ら「ガキ」だからあんまり待ってられない…そう言う一般的常識に賭けたんだが…見事正解だった様だな」
「うるさいうるさい!あーもう、こうなったら!マリア!あれをやるよ!」
「あれ?あれってなんですか。合体ですか」
「私達を誰だと思ってやがる…じゃなくて!必殺技だよ!あのお兄ちゃんを一発でぶち抜くよ!」
「あぁ、アレですね。アレじゃ解らないので具体的な名前を言ってください」
「お前ら何をコントやってんだよ…」
ミリアは右手を、マリアが左手をお互いに向けて翳す。
「真を弾く銀よ!」
「嘘を挫く鉄よ!」
「「虚実を拒絶せよ!!「真実の終わり(ジ・エンド・オブ・トゥルース)」!!」」
二人が声を揃えて叫ぶと、ふたりの間に女神像が降ってきた。
「へっへーん、さぁ…かも~ん」
「今私達に近づくと…バラバラですよ」
「そいつだけは勘弁して欲しいな…だが…やらないわけには行かないんでな!とっとと捕まえてお尻ペンペンの系だ!!」
「うぇぇ、それも勘弁だよ…マリア!」
「了解ですミリア、「消失!!」
女神像が開き、光が発せられると、俺の体が言う事を効かなくなった。
下を見ると、黄色い輪が俺を包んでいた。
「な、なんだ!?」
「「真実の終わり(ジ・エンド・オブ・トゥルース)」の第一の力。「消失」です脳では行動に移そうと思っていても体はそうは行きません」
「クッソ…おらっ!!」
アマテラスを振る動作を見せると、俺を拘束していた光の輪がガラスの様に割れ、飛び散る。
「こんなんじゃ俺は縛れないぜ?」
「最初から期待してません」
「来ないならこっちから行くぞ!!」
アマテラスを振り下ろすと、剣が弾かれる。
周囲にバリアの様な魔力も感じられないし、何かで防がれたとは思えない。
「な、なんだ!?」
「「私達」の魔宝、「双神アシュヴィン」の力ですよ。真実を通し、虚実を拒絶する…」
「おたく、嫌な能力持ってんな…」
「どんな魔宝も破壊しちゃう剣持ってるお兄ちゃんのがずるいよ!!」
「それもそうか、んで。次はどんな技見せてくれんだ?」
そう言いながらアマテラスを再び構えると、マリアがため息をついた。
「…あなたが望んでいるのは、これですよね」
ミリアはリモコンを取り出す。
ゲームを仕掛ける、そう言ってイグドラシル本社に取り付けた爆弾を起動させるリモコンだ。
見かけはただのラジコンのコントローラーなのだが、本当にあれで起爆できるのかが疑問だ。
「…これは差し上げますよ。しかし…我々のクイズに答えてもらいます!!」
「題して!第一回!ドキドキ!イグドラシル大爆破クイズ~!!」
「…は?」
2秒の間と、思考の末に出た言葉が、これだった。
まず「大爆破クイズ」ってなんだろう。
「ルールは簡単!クイズに答えて、リモコンをゲット!!」
「そんな「クイズに答えて旅行を当てちゃおう!!」みたいなノリで爆弾のリモコン渡すんじゃねえ!!」
「じゃあクイズの準備するから待っててー」
「暗黙」
「ぐっだぐだじゃねえか!!っておい!なんだこりゃ!真っ暗だぞ!!」
「準備できたよ、いつまで一人コントやってるの?」
「誰のせいだよ!!…ってなんだ?ミリアが…二人?」
「うん、どっちが本物のミリアか当ててみて!!」
先程は、声色も違っていた。だが、服装から髪型に声、仕草まで。
まるでミリアがもうひとりいる様だ。
「ふっふっふー、当てられまい?…何故なら、本当のミリアは私なんだ!」
「何言ってんのミリア!私が本当のミリア!」
「あーもう鬱陶しい!!こっちだ!!」
「理由は?なんとなくって言ったらだめだよ!」
「うっ…理由も聞くのか…」
「ぶっぶー!時間切れー!正解は、私がミリアだよ!」
俺が指した方とは逆のミリアが手を挙げた。
不正解だった様だ。
「あ、あと回答権一回ねー。じゃあこの公園内にいるからまた探してねー」
「「煙幕」!!」
「がっ、ケホッ…ゲホッ…あの野郎、喘息持ちじゃなくて良かったぜ…あークソ!探してやるよ!探しゃいいんだろ!本当のお前を!!」
また俺は、広い公園の中を探し回る事になってしまった。




