相異する総意
「…さ、マリア。そろそろ行こっか」
夜の街、消えかけた街灯の中を二人の少女が歩く。
二人共違う服を着ながらもまるで「同じ人間が二人いるのが当たり前」の様な容姿だった。
銀色の髪色も、髪型も、瞳の色も、唯一違う点を上げるとすれば、片方は元気いっぱい。もう片方はとてもだるそうな表情をしていた。
双子であることは分かる。だが、双子ではない気配を発している。
「しかしミリア、あのリュウト・カガミがどこにいるのか、当てはあるんですか?」
マリアと呼ばれた少女は、もう一人の少女に敬語で問いかける。
「うーん、でもまあこの街にいる事は確かだからね!探せば見つかるっしょ!」
「やれやれ、無駄足になりそうですね。ですが私達もお母様から頼まれごとをされているのです。あまり待たせるとまた何て言われるか分かったもんじゃありませんよ」
「そだね、早めに見つけないと…ん、いいこと思いついた!」
「嫌な予感しかしませんがまあ一応聞きましょう」
「あのお兄ちゃんが住んでる所…なんて名前だっけ?セキュリティだっけ?」
「イグドラシルですね。それがどうかしましたか?もしや…爆弾を仕掛けて…!?」
マリアが驚くとミリアは少しクスッと笑った。
「違うよ、依頼を出すんだよ。たすけてーってね」
「あぁ、ビックリしました。それが最速で最善な判断です。ミリア、何か赤くて白い斑模様のついたキノコでも食べましたか?」
「なんで私がアホの子みたいな感じになってんの!?マリアの中で私の像って!?」
「…あ、あそこですかね」
「無視しないでよー!」
ミリアがマリアに怒鳴りつけていると、車が一台二人の目の前に現れた。
黒い車だ。中から三人の男が現れた。
「お嬢さん達、こんな時間にどうしたんだ。いけないじゃないか」
「おじさん達がお家まで送ってあげよう。どこだい?」
「えっとね、イグドラシルって所。おじさんたち、連れてってくれるの?」
「あ、あぁ。良いよ」
「ミリア、知らない人についていってはいけないとあれほど…」
「だいじょぶだいじょぶ。おじさん達優しそうだもん」
マリアは男たちを睨みつける。
「心配しなくてもおじさんたちはなにもしないって。なぁ?」
「あぁ、そうだよ…ふふっ」
不敵な笑みを浮かべた後、男達は二人の口にハンカチを当てた。
「んーっ!!ん…」
二人の声と意識が一瞬のうちに消え去った。
「体は貧相だがいいツラしたガキだ、その手にマニアに売ったら良い金になるぜこりゃ」
「あぁ、大儲けしようぜ、早く車に乗せろ!丁寧にな」
男達は二人の手足をロープで縛り口を布で塞ぐ。
「早く車を出せ、帰るぞ!!」
車はそのまま、エンジン音を豪快に鳴らして発車してしまった。
「ふんふふんふふー…ったくリーヴァの奴、こんな時間にデザート買ってこいなんて…太りてえのか…ん?なんだありゃ」
俺の目の前に起こっている事をシンプルに話すとだ。
女の子二人(しかも結構可愛い)がいかにも小物っぽいゲスな顔した男どもに今誘拐されんとしている。
これは男として、っつーか良識ある人間として…って何一つ該当してないじゃないか。
まあいいや、とにかく助けなければ。
発車してしまった車を追いかける。おそらく傍から見れば車を猛スピードで追いかけている奇妙な化物同然かもしれない。
車の後ろにピッタリくっついて登る。
窓からガンガンと音楽が音漏れしている。やかましいな…。
「うぉらっ!!」
アマテラスで缶詰の缶を開ける様に天板を剥ぎ取る。
「よぉ、誘拐犯。その子達どうした」
「な、なんだお前は!!」
「質問を質問で返す奴は一生彼女はおろか女の子と手すら繋げないぞ」
「だからなんなんだ!!」
「はぁ…イグドラシルの人間…そう言ったら分かるか」
「ちっ、国家の犬か…おい!振り切るぞ!!」
「あぁ、そうそう。そのハンドル壊れてるぞ」
「はっ!?」
男がハンドルを引っ張ると、本当に外れた。
嘘から出た真って奴か。やべえな、17年生きてきたがこんな経験なかなか無いぞ。
「お前らだけ事故ってな」
俺は二人の女の子を抱えて後ろのドアを開けて脱出した。
「あぶねぇ…っと、流石に二人抱えて帰るのは無理だな…迎えを呼ぶか」
俺は携帯端末を取り出してリーヴァに連絡を入れる。
「あー、もしもしリーヴァか?俺だよ、俺俺。あ?オレオレ詐欺じゃねえよ。買ったデザートそこらへんに捨てるぞ。…よし、いい子だ。今ちょっとしたお荷物を抱えててな。迎え出してくんね?」
数分後、リーヴァが車を運転して来た。あいつ運転できたのな。
「…私はデザートを買ってきてって言ったわよね」
「次にお前は「なんであなたは子供を買ってきてるの?最近のコンビニには子供まで置いてるの?すごいわね」とか抜かすんだろ、なんとなく予想はできてるよ」
「そうわかってるなら良いわ。さて、答えなさい」
「誘拐されそうな子供助けてこの扱いはねえだろ。賞賛される覚えはあっても罵倒を受ける覚えはねえぞ」
「でしょうね、けど私はこんな小さな女の子をお持ち帰りする、最悪犯罪者になりかねない人に罵倒する権利くらいはあると思うわ」
「やれやれ、お前には逆らえねえよ」
「わかれば宜しい」
「んでどうすんだこの子達、まさかそのへんに置いとく…なんてことはいくらお前でもしねえよな?」
「私を悪逆非道の限りを尽くした悪人みたいな言い方やめてくれないかしら」
「俺ならまず保護するだろうな。んでまあもし魔宝使いじゃなければ家にそのまま帰す」
「魔宝使いなら」
「…愚問だぜ、選択させる」
イグドラシルについてもなお、二人の目は覚めなかった。
俺は二人をかついで医務室に行きアルーノに治療を依頼した。
魔宝使いは死んでも数秒で回復するが怪我の治りや病気の回復が異常なまでに遅い。
「…クロロホルムか、少量だが人間を眠らせるには少しやりすぎだな」
「覚めるか」
「あと数分もすれば目覚めるだろう、心配ならいても良いぞ」
「そ、そんなガキのことなんか心配してる程俺は暇じゃねんだよ」
「心配なんだな、いいから座っていろ」
見透かされていたらしい。実際誰であろう子供が気絶なんてしていようもんなら心配してしまう。
それが自分の意思に関係あろうが無かろうが、無意識のうちに弱い者に反応してしまう。
こればっかりはどうしようもないな。
「…ん、ここどこ?」
一人の少女が目覚めた。少し元気な様だ。
「おい、大丈夫か」
「ん、お兄さん…リュウト・カガミくんだよね」
「あ、あぁ。なんで俺の名前知ってんだ?」
「やっぱり!マリア、起きて。リュウトくんだよ!」
「ん、人が寝てる時に大声で起こすとは…。そんな子に育てた覚えはありませんよ」
もう片方の少女も起き上がった。こちらは物静かで礼儀正しそうだ。
「あら、初めまして。私はマリア・ハートリンク。こちらはミリア・ハートリンク。私の双子の姉です。以後お見知りおきを」
「あ、ご丁寧にどうも…じゃなくて、なんでお前ら俺の名前知ってんだ」
「ママから聞いたの、リュウト・カガミは我々の計画にとって邪魔だから「アマテラス」と一緒に破壊しろってね」
「…させると思うか」
「おいクソガキ共、鬼ごっこなら外でやれ」
「だ、そうですよ。外に出て話を続けましょうか」
「マリアマリア、あれやりたい!」
「あれですか、仕方ないですね」
そう言うと、医務室を飛び出てすぐ前にある階段の踊り場に設置してある窓から、二人同時に飛び降りた。
アクション映画で爆弾が起動した時、爆破と同時に窓から飛び降りるシーンを想像させる。
「ここ6階だぞ!?いくらなんでもむちゃくちゃだろ!!」
「リュウト、命令だ。あのガキ共ひっとらえて私のもとに連れてこい。説教してやる」
「イエスマム」
俺も医務室から飛び出てさっき二人が通った窓を飛び降りる。
「うぉおおっ!やっぱ高いな6階!!」
「あっ、きたきた!」
受身をとって転がりながら着地すると、ミリアとマリアが拍手をした。
お前らさっき同じことやってただろ。
「…んで、なんで俺を殺せって命令が来てんだ。人気者なのか俺は」
「そうだね、だってこんな可愛い女の子二人に殺されるんだもん。モテモテだよお兄ちゃんは」
「お、お兄ちゃん…だぁ?」
「あれ、日本エリアの男の子ってこれで一発で落ちるって…その情報確かなの、マリア!」
「…妹萌え…行けると思ったんですがね…まさか!!お兄さんもしかして後輩キャラのが好きなんですね!?」
「そういう事でもねえよ…」
「くっ、お色気作戦は失敗かぁ…どうしよ…」
ミリアが戸惑っていると、マリアが何かを閃いた様で拳をポンと手のひらの上に置いた。
「ミリア、プランBに移行しましょう」
「ないよ、そんなの!!」
何かのコントを見ている気分になるな、コレ。
「とにかく、俺を殺したいなら相手になるぜ。俺はガキだろうがなんだろうが容赦はしない」
「だって、マリア。どうする?」
「お兄さん、私達そこまでバカじゃありません。なので…これをば」
着ている服のその真っ平らで無い胸の間からリモコンらしき物を取り出した。
「ゲームをしましょう、このリモコン…このイグドラシルに仕掛けられた爆弾を解除するための物です。ですが、お兄さんにさっき持たせた鍵を使わないとこのリモコン作動しないんですよ」
「…イグドラシルにいつの間に…」
「さっき窓を突き破った時ですよ、壁に密着しながら数十個、貼らせてもらいました。気付かなかったんですか?」
これでどうよ、と言わんばかりの顔で俺を見つめる。
頭がキレる奴だな…。しかしこのドヤ顔、腹が立つ。
「それと、あなたは子供を大事にする、とお母様から聞きました。という訳で…子供のいる層…第二階層に設置させていただきました」
「…っ…お前ら、いくらなんでもやりすぎだろ…」
「やりすぎ…だって、マリア」
マリアに対して顔を向け、口にてを当てこちらを嘲笑う。
「さ、どうします?やってくださらなければ今すぐにでもここを爆破しますが…」
「しゃあねぇ、住居を爆破されるのだけは困るからな。良いぜ、どこにでも逃げな。だが、ルールを一つ追加しちゃくれねえか」
「…まあいいでしょう、なにがいいですか?」
マリアはため息をついて、ルールの追加を了承した。
「…連絡が取れる様にしてくれ」
「「はい?」」
二人して、同じ声で、同じトーンの声が響く。
やはり、驚くだろうな。驚くと言うことは想定外と言う事だ。
「…ま、まあ連絡が出来た所であなたに勝目はないです。いいでしょう、連絡事項があったら頭の中で私を思い浮かべて話してください」
「留守番電話みたいなもんか、良いぜ。以上だ。どこへなり逃げるがいい」
「わっかりましたー、じゃあ逃げますよ。ミリア」
「おっけー、どこ行く?公園とかどー?」
「ミリア、いきなり場所をバラしてどうするんですか、全くこの子は…ではスタートは明日の正午にしましょう。今日はお開きと言う事で」
「…ちゃっかりしてるな、お前」
「ちゃっかりしてる事でこれから有名になるマリアですから。行きますよ、ミリア」
「じゃあね、お兄ちゃん。また明日ー」
二人はまた、暗闇に消え去っていった。
…あいつら、絶対に只者じゃない。俺の勘がそう告げている。
ヤバいなんてもんじゃない。…それにあのマリアとか言う奴…「本当に人間か」…?
それだけが気がかりだった。おそらくミリアの方は人間だが…あいつは…。
俺は寮棟に戻り、アルーノに調査を依頼した。




