高等な口頭
俺たちは、依頼を受けて嫌々この国の制圧に来ていた。
「…しかし、これどうすんだ」
警備は、さっきの男たちの部屋よりも厳重だった。
愉快な三人組を引き連れて赤い服着た大怪盗三世でも手こずりそうな警備だ。
どうにか行きたいが…裏口も当然警備が厳重だ。こればっかりはどうしようもない。
「強行突破しても良いんだが…そうすると騒ぎを起こしそうだな…」
「しかし、このまま放っておいてもな…となると、どうすれば」
「俺にいい考えがある。俺の魔宝でな…」
「やっぱり強行突破じゃねえかこの脳筋野郎。ブチのめす」
…とは言ったが、強行突破しか無い…。
あいつらの使いを演じて入る…のはどう考えても無理か。
「ったく…とことんまで面倒作り込みやがって」
「そういえば、彼女らどうしたのかしら」
「「それだ!!」」
二人して声が揃い、リーヴァは目を丸くした。
「…え、私今何か変な事言ったかしら」
「トリガー達を囮にして、侵入しよう」
「呼んだかい、お三方」
「ナイスタイミング過ぎんだろ、トリガー」
「山岳兵の経験者と寒冷地出身の子かき集めてきたよ」
アサルトライフルを構え、重武装、と言う言葉に相応しい武装で俺たちの目の前に現れた。
太ももに下げたホルスターには小型拳銃、多数のポーチをぶら下げ、ちらちらと見え隠れしているマガジンに白のファー付きコート。
雪山での戦闘で本気で人を殺しに来た、そんな格好だ。
「頼もしいな、早速警備の陽動、頼むぜ」
「お任せあれ、死人一つ出さずに警備を落として見せるよ」
「お前が言うと、警備兵は地獄へ落ちそうだな」
SOLが皮肉っぽく言うとトリガーはあはは、と苦笑いした。
「あ、そうだ。これ、対電波障害用トランシーバ。私の番号は657だから、作戦開始の合図にでも使って」
「おう、ありがとな」
トリガーは再び山の中に消えていった。
「…早いな…」
「流石元軍人ね…。ただものじゃないわ」
「そんなことより俺らはここで待機だ、トリガーから連絡があるまで動かねえぞ。あと今は夜、日も落ちてるしあんま迂闊にうろうろしな
いこと。良いな」
「えぇ」
「わかったわ」
「あー、もしもし?リュウト君、聞こえてる?」
「おう、聞こえてるぞ」
「作戦開始時刻は2000(ニーマルマルマル)を予定してる、そちらの状況は」
「待機状態だ、出ろと言われてすぐに出れる状況だ」
「了解、警備は四方に二人ずつ、一人は射殺し一人は絞殺。これを繰り返し対応する」
自転車のタイヤから空気を抜いた様な音が聞こえ、男の頭を打ち抜いてから入口から右側の警備を二人、瞬殺する。
この動作が、入口前以外ほぼ同じタイミングで行われていた。
「どうした!おい、応答し…がっ…」
一人が通信しようとした瞬間、トリガーは男を地面に伏せさせ、大量の雪を頭に被せてから「アルテミス」で射殺する。
もう一人が銃口を向けるが瞬時に距離を詰め、至近距離で心臓に銃弾を三発打ち込んだ。
この間、約数秒だ。遺体をずるずると引き摺り、森の中に隠してしまう。
「流石、としか言いようが無いな…」
「終わったよ、アリスちゃんが先に偵察に行ってるから行っといで。なんかあったら連絡して」
「あいよ、サンキューなトリガー!!」
「たく、手間のかかる後輩だよ…さて、皆、疲れてるとは思うけど次で最後だからね、戦闘範囲外の市街地の警護と残りの兵士の排除、はり切っていこう」
「「おー!!」」
「広いな、無駄金使ってる匂いがプンプンしやがる」
「あぁ、ところどころ金を使った装飾がある」
「まさかとは思うけど、落とし穴とかないわよね」
「はっはっは、まさかそんな…なんか踏んだっぽい」
リーヴァの読みは正しかった。どうも落とし穴のスイッチを踏んでしまったらしい。
最悪だ、こう言うときは…。
俺は壁にアマテラスを突き刺しリーヴァの手を握る。
SOLは壁を蹴り、落とし穴を脱出する。
「あぶねえあぶねえ」
「気をつけてよ!!全くもう…」
「どんな罠があるか解らない。気をつけていこう」
深々と頷いて先を進む事にした。
本当にどんな罠があるか解らない。
「きゃー、だれかたすけてー」
「なっ、この声…まさか」
声が聞こえた方へ走っていくと、そこには金髪の少女、アリスがいた。
見た感じ俺らと同じ落とし穴にはまりかけている所を、魔宝「タルタロス」により発生した「黒い腕」でしがみついている。
「…おいアリス、何やってんだお前」
「あ、リュウトさん。助けてください」
「…はいはい」
手を掴んで引き上げると、えへへと笑う。
「どうして罠にかかるんだお前は」
「いやー、スイッチみたいなの踏んじゃったみたいです」
「このドジっ娘めっ」
「「お前が言うなッ!!」」
俺がアリスを小突くと、二人からの怒声が飛んできた。
「おい、お前たち、そこで何をしている!!」
武装した兵士が五人駆け寄ってきた。
リーヴァは即座に5発を打ち込み、銃を無力化する。
隙をついてSOLは兵士達を斬り裂く。
「…急いだ方が良さそうだ。ここも安全ではない」
「アリス。この場所の地図かなんかあるか」
「はい、数人既に巡らせてあります。来てください!」
アリスが号令すると、黒い影が地図を形成していく。
「…ここを突き進んで、道なりに進んでいこう。アリス、地図は移動できるか」
「はい、一応できます。常に物陰が必要ですが」
「なら良い、ささっと偉い人のところまで行くぞ」
市街地に、数人の兵士。
格好は防寒対策ばっちりの装備。
だが、逆にそれは動きを鈍らせる原因の一つでもある事をトリガーは知っていた。
雪を蹴り、音を立てずに男の首に少し長めのナイフを突き刺し、気管に貫通させる。
瞬時にナイフを引き抜き、次へ向かう。
「…トリガーさん、エリアC制圧完了です」
「お疲れ、エリアAの援護に向かって、集合地点はエリアDだからね」
「了解っす!」
軽快な少年の声の通信を切ると、眼前を横切る男をすれ違い際に刺殺する。
「…こんなもんかな…」
ナイフを鞘に収め、市街地の中心に起こる炎を見つめる。
だが、その火の中、逃げ惑う人々を見る。様子がおかしい。
…巨大な生物がいる。トカゲの様な体に、背びれがついて、尾に蛇が見える。不思議と首周りに鬣が生えている。
「なんだろあの生物…ちょっと通信してみよう…リュウト君、私だよ。トリガー」
「あ?トリガーか、どうした」
「うん、ちょっとね。市街地にデカい怪物がいるんだ。多分キメラの類だと思う」
「…しまったな、今ボスに剣と現実突きつけてる所なんだが…」
「…なんとかしてみるよ。多分あれ、消えると思う」
「どういうことだ?」
「まあそっちにカタがついたら来ると良いよ」
半ば強制的に通信を切断し、雪がつもる坂を滑り下る。
俺は今、おそらくこの街で一番偉いであろう人間に剣を突きつけている。
「よお、久しぶりだな。覚えてるかよ俺のこと」
「な、お前がどうしてここに!!」
「なんでだって?俺が聞きてえよ。何が悲しくて長い人生の中二回もこんなクソみてえな国に来なくちゃならねえんだ説明しろデブ」
「し、知ったことか!!それで、お前は何をしに来たんだ」
「…そうだな、必要以上の金の搾取。それと戦争権の放棄…。について話し合いに来た」
市長に剣を向ける経験なんてなかなかない。
だが、依頼は受けてしまった。受けてしまった以上完遂させなければ俺たちは給料泥棒だし、それに…依頼人に失礼だ。
だから俺は相手が誰であろうと剣を向ける。これが俺たち「イグドラシル」の心得だ。
「…さて、扉は開かない…それにお前に逃げ道は無いぞ。どうする、お前に残された選択肢は二つだ、一つはとある人間の要望をすべて飲
み込んでから大統領を辞職するか、それともここで首と体をおさらばさせるか、どっちかだ。選ばなければ自動的に後者が選択される。俺らはあんまり気が長くないんでな。もう今にもお前の首を刎ねる時を今か今かと待ちわびてるぜ」
「…ここまで上り詰めたんだ、今更やめられるか!!」
「心意気だけはいいみたいだな。じゃあ死ね」
俺は剣先を首に当てる。
市長は大きく唾を飲み込み、手をあげる。
「…所で、だ。このまま三途の川までご案内するのは残念だ、だから一つ聞いておく。「人体実験によって完成したキメラ、可愛いよな」
どう思うよ、計画実行者さん」
「し、知らん。キメラだと!?人体実験だと!?知らんぞそんな物!!」
「汗が出てるぞ、視線を逸らすな。話をしてるのは俺だ」
「…知らん、と言っているだろう」
「嘘つく相手は身長に選べ…全く、この国の人間は嘘をつくのが苦手だな。さて、人体実験について、説明してもらおうか?」
市長の男は、歯を食いしばった。
「だから、知らんと言っ」
「市街地のガキ共…カワイイ盛りだよな?」
「っ、なぜそれを!!」
「やっぱり嘘じゃねえか」
「…子供は単純だった。魔宝の実験台には彼らを使うしかなかった」
「ふざけんなよ。お前らがやれば良かっただろ。自分の足なり手なり、一本やニ本くれてやれ!!街のためだろ。お前らが言うのはいつもそ
うだ、一番偉い人間はいつも街のため民のためとか大した事抜かしながら結果自分はなにもしない」
「仕方がないだろう、これも街のため。犠牲になってもらうしかなかったのだ」
「だから、その犠牲になんであのガキ共巻き込んだんだって聞いてんだこのヘタレ市長!!俺は嫌いなんだよ、ただひたすらに。自分達は何
もしない癖に、自分たちは何があっても犠牲になる覚悟も無い癖に他人は何のためらいも同情もなく次々と実験台にしやがるお前らに、苛
つきよりも別の何かを感じるんだ!!一周回って笑えてくる」
「なら、君たちは国のために戦えるのか、犠牲になれるのか」
「いつだって俺たちは犠牲になってる。本来なら軍や警察とか、国を護るべき組織がしなきゃいけない事だが、最近は全くもって手に負え
なくなっている、だから俺たちは身を削ってこんなわざわざクソ寒くて上層部がクソな国に来てやってんだよ」
「…そうか、なら君たちだけ犠牲になっているが良い」
「アリス、地獄への片道切符一つ」
「了解です。タルタロス!!」
アリスが魔宝を展開すると、男の足元に黒い穴が出現した。特に落ちる訳でもないが、そこから現れた無数の手が男を引きずり込む。
「な、何をする!や、やめろ、やめてくれ!!」
「…実験材料にされた子供たちも同じこと言っただろうよ。だがお前は決行した。…よって答えは「NO」だ、アホ」
「う、うわぁああああああああああああああああ」
男の断末魔は、黒い影の中へと消えていった。
俺はコートを翻し部屋を出て入口まで向かった。
「ちっ、やっぱ部が悪いか」
トカゲ型キメラに苦戦を強いられているトリガーは自分を嘲笑する様に舌打ちした。
体の大きさが、自分数人分となると、やはり直接拳で攻撃するトリガーとは、相性が悪い。
皮膚はどうやら硬い生物でできている、もしくは肉を何重にも合わせて分厚い層を作っているのか。
どちらにしろ、銃弾が聞かないのでは子供たちを危険な目にあわせるだけだ。
「エリアB班、エリアBの子供たちを安全な場所へ避難、そして護衛を」
「「了解」」
クスクス、と奇妙な泣き声をあげて、首を180度揺らす。
「気持ちが悪い…早めに勝負をつけよう」
トリガーはトカゲ型キメラの下に潜り込み、「アルテミス」の弾を連射する。
高く飛び上がったキメラが落ちてくると同時に強力な一撃を叩き込む。
キメラは街の建物を巻き込んで横に倒れる。
「…エリアA班、半分はB班の援護半分はC班の援護に回って」
「「了解!」」
声が聞こえたと同時に、キメラはトリガーに向かって長い舌を伸ばしていた。
だが、その舌はトリガーに届くことなく切断された。
「…リュウト君、SOL、リーヴァちゃんまで!」
「間に合ってよかったわ」
俺はアマテラスを振り下ろし、キメラの舌を斬り裂く。
キメラは悲鳴を挙げながら転がる。
「…悪いな、気付いてやれなくて」
再び舌を再構築したキメラは、背景に溶け込み、舌を伸ばす。
「悪いな、守ってやれなくて」
舌を再び灼き斬る。キメラは先ほどよりも巨大な悲鳴を挙げる。
森、地面に積もった雪にも響き渡るほどの大きな悲鳴だ。
その声には、幾多もの人間の声が重なっていた。
「苦しいよな、悲しいよな。すぐ楽にしてやる。アマテラス、特殊太陽回路展開」
アマテラスを雪に刺し、ゆっくりとアマテラスに差されたアマテラス・ヒャクシキを引き抜く。
刀身に篭められた熱で雪が一気に蒸発し、湯気を大量に発生させる。
「烈火百式、「雪刀天照」!!」
高熱で橙に染まったアマテラスを振るうと、周囲の雪が一気に蒸発し雨のような大粒の水滴となって降り注ぐ。
キメラの頭に水滴が触れると、キメラは悲鳴をあげて暴れだした。
その理由は明らかだ。皮膚に穴があいている。それだけではない、地中を掘り進むドリルの様にキメラの体を掘り進んでいく。
振り向いた瞬間には既に、穴だらけになり、地に伏せていたキメラの姿がそこにはあった。
「もうすぐ楽になるからな。目を閉じて、それだけで良いんだ」
キメラは俺の言葉を理解したのか、涙を流しながら目を閉じた。
「雪降ってるせいかな…こいつが死んでんのかわかんねえ」
「…心配は停止しているはずよ」
「…そうか、さて。…お前らは先に帰ってろ」
「彼らを、殺しに行くの?」
「この街に戦争も、兵士も、犠牲になる人間も必要ないんだ」
「…私達だけ省けなんて…ひどいじゃない?」
「あぁ、それに…まだ仕事は終わっていないぞ」
「私達は本部に帰るよ。この子達の治療もあるし」
「…じゃあリーヴァとSOL。行くぞ、地下通路に」
「…なんの真似だ」
先ほど俺たちの通った通路には、また銃を持った男が数人立っていた。
「…リーヴァ」
返事をするでも無くリーヴァは即座に男の一人を蹴りながら隣の男の頭を撃ち抜いた。
それに便乗してSOLは次々に切り倒していく。
「魔宝使いに銃器突きつけんのが流行ってんのか、最近は」
「にしてもザル過ぎないかしら、少しくらい警戒したら?」
「警戒する必要ゼロ。土砂崩れで窒息死でもさせてえのか。さっきから柱グラグラだぞ」
「いざとなったら土の中を掘って行くぞ」
「そうだ、SOLがいるんだ」
「おい、お前らなりのやり方に従ってあいつらを狩ってきたぞ。首が欲しいんなら数ある罠を抜け屋敷の奥底まで行くこった」
「…何が目的だ」
「…この国にはもう戦いは必要ない。首捻りちぎっても知恵一つ出ないクソ猿にはそれはわかんねえか」
男はぐっと歯を食いしばり目を細めて俺たちを睨んだ。
「俺たちは反戦争団体じゃないんだ。戦争するなとは言わない。だがな、争うならてめえらだけでやってろ。関係ない人間巻き込む奴はど
こにいようと俺が叩き潰す」
「…君たちは、一体何をしにきたんだ」
「…何しに、だ?そりゃお前…戦いを止めにだよ。くだらねえ戦いをな。帰るぞ、お前ら。帰って極上のシャンパンでも飲もうぜ」
「リュウトは未成年だからシャンメリーかこどもビールでいいのよ」
「うるせえ、お前もだろうが!!」
「…しっかし、あの街は何年たっても変わらないだろうな」
帰りのヘリの中、俺は窓から街に灯った明かりを見て呟く。
「えぇ、どこかの偉い人が言ってた「四回目の世界大戦は石と棒」って言ってたけど、石と棒じゃなくてキメラと魔宝になりそう」
「…それをさせない為の俺たち、だろう」
「そうだな、一刻も早く魔宝を全滅させちまわないと…」
「リュウト…」
「魔宝なんかあっちゃいけないんだ。全部なくなっちまえば良い、アマテラスも含めてな」
その言葉の意味を、俺は理解していた。否、理解しなければならなかった。
魔宝をすべて壊す上で、魔宝と対立し、魔宝と向き合うために。




