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魔宝使いのアマテラス  作者: 蔵田らく
3/13

堕落する奈落

拳銃を持った男性が、震えながら路地裏で銃を少女へと構える。

少女が手を握ると、男性の周囲に手が現れ地面へと引きずり込まれる。

「や、やめ…うわぁああああ…」

男性の断末魔は、誰に届くでもなく途絶えた。

「…どこにいるんでしょうか…」

路地裏から現れた少女は、壁に寄りかかって立っていた少女に目を向けた。

「…魔宝で人を殺すのは楽しいかい」

「…楽しいわけが無いじゃないですか。私の意志でも無いのに人が死んでいくんですよ」

少女は眉を寄せながらもう一人の少女に話かける。

「コントロールが上手くできないならあまり使う物じゃない」

「どうしようもないんです。…所で貴方誰ですか」

「そうだなぁ…強いて言うなら黒い馬に乗ってくる王子様かな」

「…名前を聞いているんです。貴方は誰ですか」

「あぁ、ここで私はあえて「こら貴様、名を名乗るならまず自分からであろうこの無礼者!」…って言うのが普通なんだろうけどこっちは

知ってるからいいよ。私の名前は…「トリガー・ヴァーファレッド」。対魔宝組織「イグドラシル」のメンバーだよ」

「…対魔宝組織のお姉さんが何の用ですか?」

「…何の用って…解ってるくせに」

「殺しに来たんですか?」

「うんにゃ、私は人を殺したことは無いよ。それがたとえ魔宝使いだったとしても、話は変わらない。私がしているのはゴミ掃除だけ」

「…貴方本当に何なんですか…」

「さて、選んでくれないかな、私に気絶させられてイグドラシルまで連れ去られるか、何も言わずについてきてくれるか…ここで死ぬか。

私としては二番目を選んで欲しいんだけどなー」

トリガーは右手の義手の指を擦り、鉄の乾いた音を鳴らしながら笑顔で少女に静かな脅しをかけた。

それに反抗する様に息を呑んだ少女が恐る恐るトリガーに訊ねる。

「すべて嫌、と言ったら?」

トリガーは余裕の表情で少女の問いに対して答えた。

「強制的に…一番になるけど」

「…ここで争うのも嫌です。いろいろ面倒なので。解りました。ついていきましょう」

「うんうん、お姉さん良い子は大好きだよ」



イグドラシル社員寮1回ロビー


「…早い話女児誘拐じゃねえかこのロリコン女!!」

俺は、夜の22時にイグドラシルの社員寮の大広間に響く大声で見知らぬ少女を連れた女、トリガーへ怒鳴った。

少女は少しビクッと肩を跳ねさせる。

「誘拐とは失礼な、任意同行だよ。半分実力行使になる所だったけどね」

「それを誘拐っつんだよ。半分実力行使って事は後の半分脅しじゃねえか」

「それを言うならリュウト君だって何人の子供を連れてきた?」

「ぐ…だが俺には疚しい気持ちは無いからな。何であんなちみっこに欲情できるのか俺には理解できねえな」

「あららー?この前つれて来た女の子、付きっ切りで看病してたのどこのどのリュウト君だったかな?」

「やかましい。んで、結局その子はどうすんだ」

「なんだったら私の相棒パートナーにしようかなと」

「「冗談だろ(ですよね)!?」」

俺と少女の声がハモった。なんだろうこの謎のシンクロ。本当に初対面かな。

トリガーが言うには「魔宝の制御が出来ない」「魔宝使いとしての自覚が無く、感情で魔宝が自律して動く」と言う厄介な手前らしい。

「…えーっと、俺の名前はリュウト・カガミだ。名前は?」

「知らない人に名前は教えられないです」

心もとない体格で、必死に抵抗する姿はまるで蛇や獅子がいたいけな子ウサギを捕食しようとしている瞬間にしか見えない。

「声震えてるぞ。つかしっかりしてんな小学生」

「な、しょ、小学生!?」

少女は何故か声を裏返して怒っている素振りを見せた。

「…わ、しは…」

「「ん?」」

「私は中学2年生です!これでも14歳!ふぉーてぃーんいやーずおーるど!!」

「英語できてる!最近の小学生はハイテクだな!トリガー!」

「うん!まさかここまで最近の教育が出来てるなんて!まだまだ捨てたモンじゃないね!日本エリア!」

「なんでこの二人は人の話を聞かないんですか!背が低いからですか!ちっこいからですか!解りました、声ですね!こんな声してるから

子供っぽいとかいいやがるんですねこのお二方!好きでこんなチビってるんじゃないですよ!ばーかばーか!!」

俺の体を非力な腕でぽかぽかと殴る様子は、どこかで見たことある何かを連想させる。

((反応が小学生だ…))

そして、トリガーと考えが一致した気がする。

「それで、お前名前名乗らないとずっとチビ子か小学生って呼ぶぞ」

「私の人間としての尊厳ってなんですか!?」

「お前まさか俺ら魔宝使いが普通の人間だとでも思ってんのか!?だとしたらお前脳みそ幼稚園児レベルだぞ。ひらがなの書き順解るか?ひ

らがなの「あ」は?」

「それくらい解りますよ!あ、あれ?えーっと…」

((アホの子だ…))

またもや考えが一致した気がする。

「で、だチビ子。お前一体どこの子だ?家は。両親は」

「…家は…まああるにはあります。両親はいません」

「…いませんって、事故か何かで?」

「トリガー、お前って本当たまに無神経だよな。答えたくなかったら答えなくていいぞ」

「いいですよ。別に。…まず名乗っておきましょうか。私の名前はアリス。アリス・フォールランドです。以後お見知りおきを。さて、本

題の私の両親ですが…ここにいます」

チビ子…アリスは人差し指で自分の足元を指した。

「…地底人?」

「違います。見ててください」

突如、アリスの足元に円形の黒い穴が開いた。だが不思議な事にアリスはその穴に落ちる事は無い。

「無形魔宝…なるほど、そういう事か」

「どういう事、リュウト君」

「あぁ、魔宝には二種類ある。まず俺らが普段使っている形のあって確かに接触および使用が可能な物を「有形魔宝」、そしてこのアリス

の所持している魔宝は、触れる事も出来ないが何か対象に直接の影響を与えることを主体としている魔宝…それが「無形魔宝」。これは破

壊も出来ない厄介な魔宝だ」

「いかにも、私の魔宝「タルタロス」は無形魔宝です。そして…両親がここにいると言うのが…」

アリスが言い出そうとした瞬間、一歩、二歩と後ろにさがった。

その表情はどこか何かにおびえている様子で、息もままならない様子だった。

「どうしたのアリスちゃん!アリスちゃん!」

「い、いや…こないでください!!」

そうアリスが叫ぶと、車のドアの閉まる音がなり、ロビーの自動ドアが開く。同時に数人の男が現れた。

「アリス、こんな所で遊んでいたのか、さあ帰る時間だ。全く心配させて」

現れた男の中の一人は、とても落ち着きのある男性だった。まさに紳士を連想させる。

だが、何かが怪しい。家族関係にあるとすれば…「何故アリスがここまで怯える」…?

「おや、君達が預かっていたのか。感謝するよ。そしてうちの娘がご迷惑を。さ、帰るよアリス」

すると、アリスは即座にトリガーの後ろに隠れた。

「…お前、本当にアリスの親か?」

「そうとも、尤も、本当の親ではないが、実の娘の様にかわいがっているよ。さあ…なんだね、その構えは」

「あぁ?お前親父だろ、そろそろ夜遊びしたいお年頃の14歳の娘ひっ捕らえて「さあお家に帰ってホットミルクでも飲んでお休み」な態度

はちょっと無ぇんじゃねえか?」

「そうだ、アリスちゃんが怯えているのは訳があるに決まってる。それが解らないのに、また何か危険にさらす訳に行かないね」

「…君達は賢い生き方と言う物を知らない様だ。良いだろう、大人の私が教えてあげよう。お前達」

男が杖を掲げると、周囲の黒いスーツを着た男達が一斉に拳銃を構え始めた。

「おいおい冗談だろおっさん。まさかそんなBB弾で俺ら殺せると思ってんのか?それマジで思ってんならお前こそ思考回路直した方が良い

ぞ」

「減らず口を。少なからず一度は死ぬだろう、撃て!!」

男達が拳銃を一斉に射撃しようとすると、突如として拳銃が暴発し、男達が次々と拳銃を手から放してしまう。

「…あっぶね…ナイスタイミングだリーヴァ」

「全く、あぶなっかしいわね貴方達は」

「魔宝使いが三人…分が悪いな。ここは一旦引くぞ。アリス、今日はお泊りだ。明日また迎えに来る。悪い子へのお仕置きを楽しみにしてい

ろ!!」

すると男の一人が胸ポケットから煙幕を出し、地面へ投げる。

「けほっ、けほっ…大丈夫?アリスちゃん」

「はい…だ、大丈夫です…」

「…詳しく話を聞かせてもらおうか」



「…私の両親は、幼い頃に私が吸い込んでしまいました」

「吸い込んだ…パンデ○ニウムかお前は」

「違います、タルタロスです。まだ3歳だった頃に何の予兆も無く覚醒した私は両親をこの「タルタロス」が吸い取ってしまったんです。私

の意思と関係なく。私は親戚の家を転々とし、最終的に孤児院へと行きました。そして引き取り手が見つかったんです。それが彼「ヘリニ

ア・シュヴァルツ」です」

「シュヴァルツ家ってあの大手会社のか?」

「えぇ、あの物流の大手会社「シュヴァルツカンパニー」の頭です」

「…引き取り…ってのも水面上の話っぽいね」

「えぇ、実は…私の魔宝を実験台にしたいだけ、と言うのを聞いてしまったんです」

「…実験台って…魔宝を使う?」

「はい、対魔宝武装を創っているみたいなんです」

「あー、そりゃまじーなー」

「うんーそれはやばいよー」

「なんでお二人ともそんなのんきにしていられるんですか!?魔宝に対抗する物ですよ?」

アリスはあたふたしながら俺達に問いかける。

問題が無い。第一魔宝は言ってしまえば「なんでもない物」だ。

なんでもない物に対抗した所でなんだと言うんだ、と言うのが本当の所である。

「対抗策だってよ。これで何百回目かねばあさん」

「そうじゃのぅ…もう4桁は行ったんじゃないかねじいさん…」

「…冗談はさておき、アリス。お前はこれからどうしたいんだ」

「解らない…です。自分がこれからどうしたらいいのか」

自分の服をぎゅっと掴みながら、少しずつ涙を落として行く。

俺とトリガーは、その姿をただ黙って見ているしかなかった。

「…だったらうちの社員になっちゃえば?」

涙を必死にこらえようとする声に耐えられなくなったのかトリガーが雰囲気を壊す様に口を開いた。

「募集要項は…そうだな、笑顔の似合う可愛い女の子…かな?年齢は不問だよ」

「…いえ、これ以上迷惑はかけられません。明日、彼の迎えと同時にここから去ります。今晩だけお世話になります…」

「今晩だけなんていわずにずっと世話になってりゃ良いんだ」

「それはできません。貴方達がいいよと言ってくださっても私自身が許せませんので…」

「クソ真面目な奴だな、お前」

そう言うと、アリスはすっと立ち上がり部屋を出て行ってしまった。

俺達はまた、その姿を見つめることしか出来なかった。



この社員寮には、ベランダがある。

夜に良く人が来る場所だが、流石に夜中なのであまり人はいないらしい。

「…ここの風は気持ちいいでしょ」

トリガーはベランダの柵に手を置いてたそがれているアリスを見つけた。

「はい、私の今の家では、あんまり風が通らないですからね」

「ほぼ密閉空間だね。…本当に帰るのか?」

「はい、どうしたら良いか解らないからとりあえず…帰ってみようと思います」

「…解った、因みにそこの住所教えてくれるかな。たまに遊びに行くよ」

トリガーはアリスに笑顔を向ける。

するとアリスは、四角く薄いガラスの様な物を取り出す。そこから立体映像が表示される。

これは携帯端末の一種で、薄型で頑丈な事から信頼を得ている物である。

トリガーも同じ物を出し、アリスの携帯端末と接触させる。

軽快な着信音と共に立体映像にシュヴァルツ家の住所が表示された。

「うん、ありがと。じゃあ私は寝るね」

「はい、おやすみなさい」

トリガーが立ち去るとまた、アリスは笑顔でベランダの柵から顔を外へ覗かせた。



「…お前、何かいう事があるんじゃないのか」

「さて、何のことかな?」

「まぁ良いけどよ。一人だけかっこ良く決めんのは卑怯だろ」

「仕方ないね。じゃあ手伝いを頼むよ。リュウト…それと、そこに隠れてるリーヴァちゃん」

「な、何故ばれたの!?貴方サーモスコープでも目に埋め込んでるの?」

「そりゃお前、こいつ元軍人だぞ?そんなガキのかくれんぼみたいな隠れ方じゃ見つかるに決まってんだろ」

「…仕方ないわね、協力してあげるわ。その代わり…」

リーヴァは目付きをきりっとさせてトリガーをにらむ。

「解ってるよ、そんな怖い顔しないでくれないか。可愛い顔が台無し。じゃ、また明日ね」

「おう、じゃあまた明日」

「か、かわ…」


翌朝

「さあ、アリス。迎えに来た!共に家に帰ろう!!」

「…はい…」

「おう、アリス。またな」

「じゃあまた」

俺達が手を振って見送っていると、シュヴァルツ…ヘリニアが不快そうな顔で俺達を睨み付ける。

「何がまた、だ。二度目は無い。これで会うのは最後だ」

「まあ、そりゃそうかもだが、お前と会うのも次が最後かもな」

「ふん、意味の解らん事ばかり言いおって」

「まぁまぁ、そう怒らずに。さ、用件は終わっただろ。さっさと帰れオッサン。イグドラシルは関係者以外を拒む」

「二度と来んわこんな所!!」

この前と同じ様な黒いスーツの男を連れてアリスを連れてそのまま車に乗って帰ってしまった。

「…さて、寝るか!」

「そうだね!寝よ!」

「へっ!?ここは普通「よし、アリスを助けに行くぜお前ら!」って言う所よね。なのに貴方達何なの!?」

「だって、よく言うだろ、果報は爆睡して待てってな」

「寝て待ちなさい。起きれなかったらどうするの」

「「いや、そういう問題じゃねえよ」」

二人の声が重なる。

「いやさ、いきなり襲ってもしょうがないよ。だってまだ家についてないんだから」

「…どういう事?」

「あのな、トリガーはアリスが家に近づいたらこっちにアラームが鳴る様にしてあんだ。お持ち帰りされる事も計算のうちだ」

最近流行っているこの携帯端末は、アラームさえ設定してしまえば勝手に鳴ってしまう仕様になっている。

いくら機械音痴なトリガーでも取り扱い説明書を見ればなんとか設定できる。

「…なるほど、そこから場所を割り出す訳ね」

「それだけじゃないよ。私実は逮捕権所持してるの」

「なんか今さらっとすごい事言ったけど…」

「まあ秘密よ秘密。まあそんなこんなで魔宝の実験に生物を使用する事は許されてはいないからね。逮捕出来てアリスちゃんも救えて一石

二鳥って事」

「待ってるばっかじゃなんだからとりあえず作戦の説明でもしとくか。まずトリガー、お前はアリスの救出を最優先にしてくれ。シュヴァ

ルツは俺達で請け負う」

「了解」

「解ったわ」

「恐らくこのペースだとあと十数分の内に家に着く。おし、作戦開始。と言うわけで運転頼むわ…」


「…アリス、お前は何か彼らに言われていないか?」

「何も言われてません」

「嘘はつかない方が良いぞ」

「本当に何も言われてません」

「…そうか。なら良い。所で…あの車はなんだ?我々の後をずっと付いてくるが…乗用車だな」

「振り切りますか?」

「構うな、どうせついて来れない」

「…ですが彼ら、着々と距離を縮めていますが…」

「何!?」



「…なんで私が運転手をやらなきゃならないんだ答えろリュウト」

白衣に身を包み、後ろで結んだ黒い髪を肩にかけ不健康そうなクマを作った女性が赤い乗用車をレーシング感覚で運転していた。

彼女の名前はアルーノ。俺達イグドラシルの魔宝使いの母親の様な存在だ。

口も悪いしいつも煙草は吸っているが内面はすごく優しく、面倒見の良い人だ。そして何より、運転技術が半端じゃない。

「…やっぱアルーノの運転じゃないと追いつけないし俺ら未成年だし免許もってねえし?」

「…消去法か。まあいい、後でたっぷり説教してやる。大体話は解ったからちゃんとその子を救ってきな、トリガー」

「解ってるって。あの子は絶対に私が助ける」

アルーノは口角を上げると、さらにアクセルを踏んだ。

俺達は今、普通の乗用車の走っている公道を猛スピードで走っている。

本来なら警察沙汰だ。だがまあしょうがない。

「…おいリュウト、あの白い車に追いついたらどうするつもりだ」

「ジャッキー・チェンもびっくりのスーパーアクションを見せてやるよ」

「え、まさか…貴方飛び出すつもりなの?」

リーヴァがおそるおそる俺に訊ねる。だが俺はトリガーと目を合わせると、にやりと笑った。

「…私達は普通だよ、これが。さて…屋敷についたらお姫様の救出撃だよ」



「クソっ…おい、スピードは上がらないのか!!」

「これが最高のスピードです!!」

「クソ…なんなんだ一体あいつらは…」

「もうすぐで屋敷です、そうすれば警備が…」

「なら急がんか阿呆!!」

「はっ…!!」


「おうおう、あっちは仲間割れしてるみたいだねぇ…あー、愉快愉快」

俺が足を組んで背もたれにもたれかかっていると、アルーノがさらにスピードを上げた。

そのGで俺はシートに食い込んでしまう。

「ってーな。何すんだ!!」

煙草に火を点けながら大きく舌打ちし、カーアクション顔負けの急カーブをドリフトで曲がる。

俺達は今度は右に大きく振られてしまう。

「あいつら曲がりやがった。全く、そんなんだからへそ曲がりな性格してるんだ…」

「「「いや、それは関係ない」」」

三人の声が被ると、アルーノは左にカーブする。

「…私もうアルーノさんと車に乗りたくないわ…三半規管が死ぬ…」

「…そうだね、私も嫌だよ…」

「トリガー、俺知ってるぞ。お前運転免許取るときバイク1台と乗用車3台ぶっ壊したんだってな」

「私に簡単に扱われない機械が悪い」

「…そんな事言ってたらお前自転車も漕げなくなるぞ…」

「戦車と装甲車運転できたら十分でしょ!?」

「トリガーさんとも乗りたくないわ…」

「そろそろ着くぞ。…って、門閉めやがったあの…」

「やめろアルーノそれ以上はいけない!!おいリーヴァ、お前銃であの鍵壊せないか!?」

「任せて、余裕よ…と言いたい所だけど、ちょっと狙いが定まらないわね」

「だったら…私の番だね。ちょっと待ってね」

そう言うと、自分の右腕に魔宝を顕現させた。黄金のガントレットだ。

これぞトリガーの持つ魔宝「猟神「アルテミス」。ガントレット状になっており、可変機能を備えた物だ。

銃弾の反動を利用して攻撃をする事も出来るし、そのまま銃として使う事もできる。

トリガーが車の天板に向けて拳をたたきつけると、コンパスで描いた様な円の形に穴が開いた。

「こういう時こそ、「元兵士」の出番だよ、「弾丸・壊錠」!!」

腕の部分のアームに拳銃用の弾倉をセットすると、腕を門に向けて掲げる。

魔法陣が出現し、弾丸が発射されると、たちまち門は火花を散らして砕け散った。

「ほほー、さすがぁ!!さあ突っ込むぜ!!」

「うるさい、お前らは降りろ。私はこのまま突っ込むわ」

「おうよ、頼んだぜアルーノ」

俺達が車から飛び降りると、アルーノはそのまま車で玄関の門に突っ込んだ。

「やるわね、さすがアルーノさん」

リーヴァが尊敬の眼差しでアルーノの車の後ろを見る。

「さて、行くぞ。お姫様を探しに」


「…」

少女…アリスが、椅子に手足を括り付けられている。

「さあ、お仕置きの時間…の前に、少々鼠退治に行かなければならない。良い子で待っているんだよ」

「…はい」

アリスは、怯えた声で問いに答える。

それも無理は無い。この椅子は通称「地獄への扉」と呼ばれる大昔から存在する拷問器具だ。千通りの拷問方法がある事も有名である。

大人の男性でも死ぬまでずっと悲鳴を上げ続ける椅子に、小柄な少女がくくりつけられているのだから。

シュヴァルツは巨大なライフルを持って男達を連れて部屋を出た。数人が残り、その事がアリスへの不安を加速させた。

「…トリガーさん…」


「…アリスちゃーん!どこだー!!」

「ちびっ子ー!!おーい!!」

「っ…誰か来るわ!!」

俺とトリガーがリーヴァの静止と共に壁際に背中をくっつけると元いた場所に銃弾が一直線に飛んでいった。

「ほう、勘が良いな…そこのガキは先に始末しておこう」

男が巨大なライフルを構えると、男達が一斉にサブマシンガンの乱射を始めた。

「だから、そんなんじゃ…リュウト君、危ない!!」

「あ?あんな弾丸どってこと…ねぇよッ!!」

俺は巨大な剣で大きめの弾丸を切り裂く。

「奴の弾丸の本当の狙いは…切り裂いた後の、核だ!!」

切り裂いた後の、ほんの直径数ミリの矢の様な形状をした物体が光る。

一瞬光によるスタンが行われたが、なんとも無かった。

「へっ…こんなモン、どうってことねえよ。おいトリガー、お前とっととお姫様の所行って来いよ」

「リュウト君…」

「…一度言って見たかったのよね…」

「「ここは俺(私)達に任せて先に行け!!」」

「二人とも…しょうがない、後輩達の気遣いとあっちゃ断るわけには行かない。後で好きなご飯奢るからね」

そう言うと、トリガーはすぐそこの曲がり角を全力疾走していった。

「さて、リーヴァ、足引っ張るなよ…」

「それはこっちの台詞よ」

「ふん、小賢しい真似を…」

「へっ、そりゃこっちの台詞だぜ。お前は何やってんだ?対魔宝分解組織だな」

「ご名答…私の研究成果はどうだね?」

「ったく、お前は本当に無駄な事に金を使うな…」

「なんだと…?」

シュヴァルツはいらつきを覚え、顔を怒りにゆがませ始めた。

「良いか?良いことを一つ教えてやる。魔宝ってのは文字通り「魔法で出来た宝」。元々魔法

なんて形の無いモンだ。形が無い物が何を創ろうと最終的には「なんでもない物」になってんだ」

「何が言いたい!!」

「なんでもない物に金ばっか使ってたんだよお前は!!もうちょっと研究を続けるべきだった。まぁ、そんな事俺が許さないがな」

アマテラスを一振りすると、黒いスーツの男のみ吹き飛ばされ、武装解除せざるを得ない状況になった。

何がなんだか解らない様子だった男達が気付くと、一気に振り返り、逃げ出した。

「おいおい、良いのか?お前さんの部下帰っちまったぜ」

「フン、あんな腰抜けなどいなくても私一人で十分だ」

「さっきから思ってたんだけど貴方、キャラが定まらないわね。そろそろ死ぬんじゃないかしら」

「無駄口をたたくな。私にはまだアリスのお仕置きが残っている。お前らの相手をしている暇は無い」

「だったら、問答無用だ。子供に暴力振るう上に躾と暴力を勘違いしてる大人ほどクズな奴はいねえからな」

俺は天井に向ってアマテラスを突き刺す。そして手を伸ばし引き抜くと紅い鞘に収められた刀が現れた。

「アマテラスの真の姿を見せてやるんだ、感謝しろよ」

片手で軽く鞘を回し、左手で刀を引き抜き素早く鞘に収めると大型のライフルが三つに刻まれる。

鈍く重たい音を立ててライフルが落とされる。

「…こんな物が壊された程度で私が許してくださいと膝を突くとでも?」

「突かせてやるよ、膝」

どこからかシュヴァルツは一本の剣を出して立ち向かう姿勢を取った。

「なるほどな…って後ろからもきやがったかクソ…おいリーヴァ!!」

「貴方の言いたい事は大体解ったわ」

「おう、頼むぜ後ろ」

「任せなさい、背中は守るわ」

掛け声と共に、お互い別方向へと走り出す。


「…はぁ…はぁ…やっと着いた…たぶんここ…」

トリガーが巨大な扉のある部屋に着くと、即座に銃弾を打ち込んで蹴破る。

「なんだお前は!!」

男が銃を構えるが、トリガーには全てが遅く見える。

三人ほどいた男達も、あっという間に全員が倒れる。

「戦場だったら、体も残らないよ。さて…アリスちゃん!!待ってて、今助けるから…ってうわぁあー!!これ機械だぁぁあ!!ダメだ、兵器以

外の物は全く動かせないんだ…っ!!あ、そっか。この枷はずせば良いんだ。それにこれ拷問用兵器じゃん!やった、動かせる!!」

キーボードを操作し、トリガーは「地獄への扉」を解除する。

するとアリスがぐったりとしたまま、地面に倒れた。

「アリスちゃん、大丈夫!?アリスちゃん!」

「ん…ト…リガーさん…?」

「そうだよ、私。怪我は無い?めまいとかは?」

「大丈夫です…」

「…アリスちゃん、とりあえず歩ける?」

「問題ありません」

「よいしょっと…それで、考えはまとまったかな」

「…逃げられないんです、私は。彼から」

アリスは、また俯いてしまった。

彼女にとって衣食住は全てシュヴァルツが管理している。

そうなれば必然的にアリスの生命はシュヴァルツが握っている事にもなる。

そう、二つの意味で逃げる事が出来ないのだ。

「…だったらうちに来なよ。私はいつでも大歓迎だよ」

「…無理です、シュヴァルツはどんな力を使ってでも私を取り戻しに来ます」

トリガーは少し微笑み、歩みを進める。

「アリスちゃんはなんでイグドラシルを国が立てたと思う?」

「解りません」

「それはね、あらゆる権力から護る為なんだ。イグドラシルに所属する魔宝使いは、あらゆる国家権力、それ以上の者も受け付けない」

「…なるほど、良い事です…まさか」

「そう、そのまさか。私も元は少年兵だったんだけどイグドラシルに拾われてね。結構大変だったんだ。「兵士としての愛国心はどこに行

ったんだー」とか…だからさ、私はアリスちゃんに、何も怯えずに暮らせる場所をプレゼントしてあげたいんだ」

「ありがたいお誘いですが…」

「お断りさせていただきますって?」

「はい、やはり私にはどうする事もできませんよ。選択する権利すらシュヴァルツに奪われたんです」

「ライオンには、人間をうっかり殺しちゃっても裁判では裁かれない。蛇は毒で人を殺しても裁かれないよ」

「何が…言いたいのか解らないです」

「選択って人間に許された唯一の我侭だと思うんだ」

「わがまま…ですか?」

「うん、その我侭は誰にも奪えないし、誰かにあげる事も出来ない。選択できるのはシュヴァルツじゃなくて、アリスちゃん自身だよ」

「…そう、なんですね。私が選択しても…良いんですね」

アリスは呟くと少し笑みを浮かべて顔を上げる。


「うぉらっ!!」

「ふんっ!!」

「やるな…」

シュヴァルツとの戦いが長続きしている

少々傷をつけられた程度で済んでいるが、アマテラスの鞘がひび割れて来ている。

「リュウト、こっちは片付いたわよ、援護するわ!!」

「おう、任せるぞ!!」

重い一撃を鞘で受け流すと軽い音が連続で鳴り響く。

飛び交う銃弾ですら、シュヴァルツは軽々と跳ね返す。

「あいつ…人間じゃねえな。お前まさか…」

「そうみたいね、アレはもう人じゃないわ」

「…今更何を…お前達魔宝使いの攻撃を受けて平気な時点で察する事が出来なかったのか?」

「あぁ?何言ってんだお前。知らねえのか?俺の師匠は普通の人間で、魔宝を使わず俺を地に伏せたぜ?」

「知ったことか…」

シュヴァルツの激昂に合わせる様に、肉体の細部から、徐々に緑色の線が現れる。

その線は血管の様に何かの液体が流れる様だ。

「…私は、魔宝と一体化した。否、私自身が魔宝となったのだ」

「あぁ、知ってるよ。魔体インヴォーカーだろ。禁忌の存在が堂々と道端歩いてんじゃねえよ。Gが掛かって歩けねえはずだろ…」

「フン、そんな物とうの昔に克服した…私は親の愛の力を以ってアリスと一体化する。それが目的だ」

「…随分と押し付けがましい愛だなぁ。それは愛じゃなくて欲だ。ふざけんじゃねえよ」

「お前に親の気持ちが解るかッ!!ガキが!!」

「17歳のガキに親の気持ち求めんなクソジジイ!!魔力出力炉最大展開!!これがアマテラスの力だ!!」

刀の鍔を押し上げ、刀を引き抜くと太陽の様に真っ赤な刀身が見える。

刀身が溶けそうな程の高熱により橙に染まっている。

烈火百式れっかひゃくしき、「溶刀天照ようとうあまてらすッ」!!」

刃が溶けて空中に消える。だが俺は構わずシュヴァルツの心臓部にアマテラスを突きつける。

だがシュヴァルツはそれでも剣を振りかざす。

「戻れ!!」

すかさず命令すると空気中に消えたアマテラスの刃が再び高熱を持って現れた。

必然的にシュヴァルツの心臓部に高熱のアマテラスが貫通する。

「ぐぁあああああああああっ!!あぁっ、ああーッ!!貴…様ッ…!!何故ッ!!」

「なーんで弱点が心臓にあるか解ったかって?解りやすいんだよお前は。その血管、心臓に向けて埋まってんだ。それに心臓は左寄りだ。

バカでもそれは解る」

「く、クソ…」

「どうした?元から無い品がもっと無くなってるぞ?」

「やかまし…いっ…」

俺が上に向けて切り上げると、心臓を引き左肩から引き抜かれる。

「がっ…く、あ…」

「…やったみたいだね」

「まだだ、魔宝が破壊出来てない」

「アリス…アリスアリスアリスアリス…アァリスゥァアア!!」

シュヴァルツが左肩が裂けた上体で飛び跳ね、アリスへ向かう。

だが、アリスの目の前にトリガーが立ち、シュヴァルツを殴り飛ばす。

「ジャ…魔をするなぁ…わた、私は…アリ、スと一体となり、完全な親子となるのだァ…」

「…だって、さ、どうするアリスちゃん。今こそ、わがままを言う時だよ」

「…解りました、私は選択します」

きりっとした顔立ちでアリスはシュヴァルツの元へと歩く。

「ア、リス…さあ、一緒に…」

「…」

アリスは無言のまま、自らの魔宝「タルタロス」を展開する。

そこに墜ちたシュヴァルツは、漆黒の手に引きずり込まれる。

「な、何故だアリス!!」

「…お父さん…いえ、シュヴァルツ。今までお世話になりました。ですが、貴方は私の人生にとっての枷でしかありません。私は私なりの生き方を

してみせます。だから…沈んでください」

「や、やめろ、やめろぉぉぉおおおおお!!」

水に沈んだ様な音を立て、シュヴァルツは黒い闇の中に沈んでいった。

「…これで、良かったんですよね」

「君の我侭を聞いてくれたのは自分自身だったみたいだね」

「んで、これからどこに行くんだ。送ってくぞ」

「いえ、大丈夫です。ちょっと外の空気を吸いたいので、先に帰っててください」

「おう」

俺はアリスの頭をぽんぽんと叩くと踵を返して歩き出した。

それにつられてリーヴァも歩き出す。


「…これで、良かったんですよね」

「正解かどうかは解らないけどね。どうする?一人が良い?」

「いえ、久々にフル稼働でタルタロスを動かしていたので少し疲れました…その、負ぶってもらえますか?」

アリスは少し照れくさそうにトリガーに頼んだ。

「…お姫様の仰せのままに」

軽々とアリスを持ち上げ、所謂お姫様抱っこの状態のまま歩き出した。

「ちょ、トリガーさん?私負んぶって言いましたよね!?」

「お姫様をお姫様抱っこしてなーにが悪いのですかお姫様」

「お、お姫様だなんて…うぅ…トリガーさんには色々勝てない気がします…」



「…んで、だ。アルーノ、アリスはどうなったんだ」

「気になるなら見て来れば良いだろ、たぶんトリガーの部屋だ」

「それもそうだな」

俺は立ち上がりトリガーの部屋へ向かう。

ノックをするが返事は無く、なにやら騒がしいようだった。

「入るぞー」

とりあえずノックはした。部屋に入るとそこには、漫画さながらのラッキースケベが待っていた。

アリスがトリガーに服を脱がされて下着姿で女の子座りしている姿だ。

少し涙目なせいか半ば強引にファッションショーをさせられているのが目に見える。

「わわっ、りゅ、リュウトさん!見ないでくださいー!」

「わ、悪い!出てく!!」

「…やっぱりこっちのワンピースが似合うかなぁ…うーん、リュウト君はどっちがいい?」

「俺に聞くな!!第一涙目じゃねえか、少しはアリスの意見も尊重してやれよ!!」

「あ、やっぱりメイド服も可愛いよぉ~」

「「人の話を聞け(聞いてください)!!」」


少し時間を置いて、俺とリーヴァ、トリガーがアルーノに呼ばれた。

「良いぞ、入れ」

アルーノのやる気の無さそうなドスの聞いた声に俺達は驚いた。いや、知っていながらも驚かざるを得なかった。

「今日からここの社員として働かせて頂きます、アリス・フォールランドです。改めましてよろしくお願いしますね」

小首を傾げながら微笑む彼女は、イグドラシルの紺色の制服に身を包んでいた。

やはり、彼女のした選択はこれで正解だったらしい。


「…ねえ、…ちゃん、あのお兄さん面白い物持ってるね」

ビルの屋上から、寝そべって双眼鏡を持っている少女と、立ってイグドラシルの本拠地を見つめる少女がいた。

二人とも、容姿も、髪型も全て揃っていた。

唯一違う点は、言葉遣いと声のトーンの違いだけ。

「そうですね、ですがそろそろ私たちも急がなくちゃいけませんよ」

「解ってるよ、早くあのお兄ちゃんと戦いたいなー」

「誰も勝てませんし、誰も見抜けませんよ、私達以外には攻略不可能なんですから、私達の「真実」には」

「でもでも、あのお兄ちゃんは魔宝を破壊するのが目的なんでしょ?あー、やばいかもー!」

「…リュウト・カガミ…要注意人物ですね」

立っている少女は、イグドラシルから視線を外すと、その場に座り込んでしまった。


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