繊細な戦災
「やっべ!遅刻だ!あかんやつやこれ!」
魔宝使いの俺、リュウト・カガミはごく普通の男子高校生!…とは言い難い。
魔宝使いの時点で普通とかけ離れてしまっているからだ。
俺は寮の柵を跳び越し、3階から1階へと飛び降りる。
この対魔宝組織、通称「イグドラシル」の寮は、例えるならば筒だ。真ん中に少し庭園の様な場所がある他は至って普通の社員寮だ。
「ん、リュウト君。珍しいね。君がこんな早く起きるなんて」
まるで声変わり途中の少年の様な声で俺に話しかけてきたのは少女だった。否、俺より歳が上だし女性でいいのか。
よし、彼女の名前は「トリガー・ヴァーファレッド」。ここ「イグドラシル」所属の魔宝使いの先輩である。
「へ?早起き?トリガーお前何言ってんだよ」
「何ってそりゃもう…決まってんでしょ。まだ朝の6時35分だよ?もしかして目覚まし時計の短針と長針を見間違えたのかな」
「げ、マジかよ。え、てことは俺もしかして一人で大慌てしてたって事になる?」
「なるね。しかも今日は土曜日だよ?何か忘れてないかな君」
「…なんか早起きしたってのに一文も得してねえな」
苦笑いしながら会話をしていると、トリガーを挟んで一人の少女が歩いていった。
「ん、おいトリガー、あいつは誰だ。見たことねえツラだが…」
「あぁ、あの子?あの子は数ヶ月前に入ってる子だよ。名前は確か…リーヴァ・アルンハルトだったかな?」
「リーヴァ?おい知らねぇぞ俺」
「そこでこれですよ旦那。研修と称して任務を行ってもらう、ってさ。良かったねリュウト君。あの可愛い女の子と触れ合う最高のチャンスじゃないか。あわよくばCまでしちゃいなよ」
トリガーが静かな声で後ろの少女を親指で指差す。何を言っているんだこいつは。
何で俺が初対面のほぼ見知らぬ少女とCまでしなくてはならんのだ。
「研修はやるつもりだが、そこまでするつもりはサラサラないからな」
トリガーに釘を刺すと、少し残念そうに頬を膨らませて地面を蹴った。
「つまんないな、君は。少しくらい大胆な方が高感度アップ…するんじゃないかな。私は女の子以外は恋愛対象として見れないからいまいちわかんないけど」
「あぁ、お前の少しくらいは「Cまですること」なんだな。つか言葉がいちいち古くせえよなんだよCとかBとか。って知ってる俺も大概か…」
「任務開始は午後。集合場所はいつもの駐車場だよ。おっけ?」
「了解だ」
仕方なく。仕方なく、だ。俺は仕事を承らざるを得なかった。
そして午後、どうしようも無い事なので仕方なく駐車場に来てしまった。
装甲車の前に突っ立っていたのは一人の少女だった。
先ほど庭園で見た、あの少女。黒く長い髪を隙間風に躍らせ、その端整な顔立ちに何かを秘めている様だった。
そして終に作戦内容を知らされないまま俺達は装甲車に乗せられた。
二人しかいないなんて聞いてないぞ俺は…すげえ気まずい。
「…仕事内容は…魔宝使い撲滅反対派ゲリラの制圧?知らねえよんなもん軍隊にやらせとけよ…あいつらの管轄だろ…俺たちは軍人じゃねえんだ」
「…独り言が多いのね。早死にするわよ」
「しねえよ、まず死なないだろ。あー、ゴホン。とりあえず自己紹介だ。俺は」
そう言おうとすると、少女…リーヴァが遮った。
「必要無いわ。問題は「強い」かどうかよ」
「いや、必要あるね。お前自分の知らない敵かも知れない相手に背中預けられんのか?そうだとしたら相当のバカか自信家か頭くるくるパーのキチガイのどれかだな」
俺が再びリーヴァの方を向こうとすると、眉間に拳銃が突きつけられた。
その白銀の拳銃は、凝った繊細な装飾は無く無骨な物だったが、確実に銃として、生物としての防衛本能が危険のブザーを鳴らす物だった。
「おいおいご挨拶だな、なんだぁ?どこぞのパニッシャー気取りならやめとけ、お前みたいな可愛い女の子が「コインが落ちた時に同時に撃つ」とか言っても脅し文句にすらならねえよ」
拳銃が突きつけられていると言うのに湧き出るこの余裕はなんだろう。
「…貴方と言う人物が大体解ったわ。無神経で人を嘗めくさってるド底辺のクズ男ね」
リーヴァはより拳銃の引き金に力を込めながら眉間に皺を寄せ「呆れた」と言う顔で俺を睨んだ。
「6割当たりだ。そうだな、俺はお前が短気で沸点の低い恐らくここまで魔宝使いとしてやって来たら偶々うまく行っただけの自分が強いと勘違いしている本当は頭の弱い自称最強の魔宝使い様だって事が解った。実はお前に隠していた事があるんだ」
「何よ、とっとと答えなさい」
「短気がビンゴだな。実はな、この装甲車の運転手、緊急事態になると心臓発作を起こしちゃう様なギャグマンガみたいな奴なんだ。お前が俺の脳天ブチ抜いたとして、だ。そこで運転手の…仮にハリー君と呼ぶとしよう。ハリー君は驚いてパニックになり、発作を起こすだろう」
「だから何よ。車から降りれば良いじゃない」
「偶々上手く行った。もビンゴ。直感と考え方が俺ツエーしてる奴と同格だ。実はもう一つ隠してる事があってな。ここは橋でな。実はすっげえ狭いんだ。そこでパニックなんざ起こして車体のバランス崩して見ろ。ドタマぶち抜かれて死んでる俺と、パニックで発作起こしてる運転手と一緒に海の底へご案内」
「…そうね。それは流石に御免だわ」
まだ怒りを鎮められない様子だったが、拳銃を下ろした。
「さて先輩から一つアドバイス。「強さを勘違いするな」だ」
「勘違い…?」
「あぁ、お前は作戦上で上手く動けるか動けないか。そう思ってるだろ」
きょとんとした顔で俺の立てた一本指を見つめる。
「え、えぇ。それがどうかしたの?」
「良いか、強さってのはそうじゃない。確かに動けないより動ける奴のが使えるに決まってる。だがな、魔宝を使えなきゃウチは仕事にならない。そしてそれを扱いこなすには、経験と実績を積みに積み重ねて見事に体っつー器に突っ込んでこそ本当に強い奴って事だ」
「…勉強になったわ。とりあえず参考程度にはしておくわ」
「そりゃどうも」
二人の仲が、どうも険悪になっていく。やべえ…どんどん悪化するぞ…誰のせいだ…俺のせいだろどう考えても…このすぐカッカする癖直さねぇとな。
「…ねぇ、貴方はなんで魔宝使いになんかなったの?」
「んあ?どうした急に」
「「自分の知らない奴に背中を預けられるのか」そう言ったのは貴方よ」
今度は俺がきょとんとする番だった。今の俺は正しく「豆鉄砲を食らった鳩の顔」だろう。
「あぁ…俺が魔宝使いになった理由ねぇ…なんだったか…もし、もしだぞ」
「な、何よ」
「もし俺が赤の他人を…しかも何人もの人間を庇って魔宝使いになったっつったらお前は腹抱えて足ばたつかせながらバカみたいに大爆笑するか?」
「…本当の事なの?」
「まぁ、もしもの話だがな」
「だとしたら…それは、素敵な事なんじゃないかしら」
少し微笑みながら、その長く黒い髪を耳にかけた。
「…到着です」
「おう、あんがとな。あとそことそことそこ。地雷あるから気をつけてな」
「はいッス。では二人とも、健闘を祈るッス」
運転手のハリー君(仮名)は一度敬礼してから扉を閉めた。
「おし、じゃあ行くぞリーヴァ」
「えぇ…所で貴方魔宝は?」
「んー、まぁボスの所に行ったら見せてやるよ」
「ボス?」
「おう、こういうレジスタンス集団には大抵ボスクラスのお偉方がいるって相場が決まってんだ。そいつがいたら見せてやる」
「いなかったら私頼みってことね」
リーヴァは腕を組みながら俺を睨みつける。
「まあヤバそうだったらチラッと見せてやるよ」
「そう、行きましょう…」
「あ、そこ一歩も歩くなよ。粉々んなるぞ」
「っ!危な…感謝するわ」
「先輩として当たり前の事したまでだ。ほら、俺先に歩くから」
リーヴァを追い越し、地雷を確実に避けながら後についてくる様に指示する。
「…ここら辺の地雷は多分少年兵が仕掛けた奴だな」
「どうして解るの?」
「位置に規則性がある。ズル賢い兵士は規則性を持たせない。ほら、ギャグアニメとかで見た事無いか?「落とし穴避けたらそこに落とし穴ー」とか。ガキはそれが出来る自分が賢いと思ってるが、それは違う、タダのバカだ。例えば…ここに二つの石がある、そしてある程度の規則性を持って石を投げる…」
俺が軽く石を投げると、誘爆した地雷が次々に爆風によって砂を吹き上がらせる。
リーヴァが眼を丸くしてその光景をじっと見つめていた。
「だがな、地雷なんてアナログな兵器、踏まなきゃただの火薬敷き詰めた鉄の塊に過ぎない」
「…貴方本当にただの魔宝使いなの?」
「あぁ。た・だ・の…魔宝使いだ」
「…さて、そろそろ兵士達のお出ましかな」
俺が言うと同時に、銃を持った男達が現われた。
中には少年も混ざっており、両者ともボロボロの服で防弾ベストやヘルメット等の装備が見当たらなかった。
「あ、そうだ。弾喰らいたく無かったら…」
言いかけた瞬間だった、突如リーヴァは二丁の拳銃を持った腕を交差させ、兵士達の持っていた銃口に向け弾丸を発射した。
男達の持っている銃が突如暴発したのがその証拠だ。
「おいおい、あの多人数相手にあの一瞬で全員の無力化とか…マジかよ」
「目の前の光景すら信じられないのかしら?」
今までに見た事の無い…暗さを秘めた冷徹な笑顔を、俺に向ける。
殺意でもなく、恨みでも無い。…何か、深く冷たい闇を含んでいた。
「…私の魔宝の名前は「アイテール」。感情で動く銃よ」
「感情…?」
「えぇ、私が憎い、殺したい、とかの負の感情を持てば威力が増すけど、正の感情だと作動すらしないわ」
「アイテール…なるほどな」
「それで、貴方の魔宝…少なくとも、常識の範疇外の物の様だけど」
「やーっぱ雰囲気で解るか。そう、俺の魔宝…「アマテラス・ヒャクシキ」はあのタカマガハラシステムを採用したモンらしくてな。正直これっぽっちも興味は無いんだが…まあ得ちまったもんはしゃーねーだろ。ほら、多分ここ本拠地」
「…あっと言う間に着いたわね。正直自分でもドン引きするくらいだわ」
「あー…道が別れてんな…おし、二手に分かれよう。お前右俺左。異論は」
「無いわ」
「まあ、生きてボス部屋で会おうぜ」
「余裕よ」
流れる様にピースをしてリーヴァは右の道へと進んでいった。
「さて…俺も行きますかね…」
歩き出すと、普通の道だ。レジスタンス…魔宝使い撲滅反対派の言っちまえば反政府軍の基地にしてはデカすぎる。バックになんかついてるのか…?
…いつまで魔宝なんて犬も食わない玩具を護ってんだか。
魔宝は一度死んだ人と融合し、第二の魂を提供する代わりに憑依する肉体を渡す事で形を作る。
俺もそうやって、一度死んだ人間の一人だ。俺は…魔宝使いを全て滅ぼす。そうしたら、不死の人間なんていない、元通りの世界に戻るんだ。
「…んぁ?なんだ、あいつら…銃持って…ってなんだもクソも、敵だよな。…良いぜ、相手してやるよ。全員まとめてかかって来な」
俺が剣を出さずに構えていると俺に向かい走って来た男達が、俺の目の前を通過していった。
まるで俺に向かったのではなく、何かから逃げていくかの様だった。
そして、その予感は、的中だった。
「な、なんだよこりゃ…ブレ〇ズ・キャノンかよ…」
機械的なデザインの大砲に、手足が付いている。
恐らく頭部パーツは無いらしい。横についてるカメラ…あれか。しかしなんであいつら逃げてたんだ…?自分らの兵器じゃないのか…。
思考していると、ミサイルを撃って来る。大型の、恐らく…。
「スティンガー!?冗談じゃねえ!」
スティンガーミサイル、低空を比較的低速で飛行するヘリや攻撃機…早い話空飛んでる飛行機類に撃ち込んで叩き落すミサイルだ。
そんなモン喰らったらいくら魔宝使いでも…粉々だろ。
「アマテラスッ!!」
当たる瞬間、俺の魔宝…即ち武器である「アマテラス・ヒャクシキ」を展開し、ミサイルを切断する。
俺の後ろで大爆発を起こした所を見ると、余計に冷や汗が出てくる。
「危ないな…ったく、こんなモンかよ…だったら絶ってやる。さあ、切ってやるからかかって来いよ」
そう言うと、その大きな足と腕を振り回して突っ込んでくる。
猪突猛進とはこういうことを言うのだろう。そのお前の胴体についてるデカい砲台はなんなんだ…。
「だが、その方が切りやすいからな…!」
アマテラスを片手で逆手に持ち、大きく振りかざす。
するとロボットは煙を上げながらショートする。その切り口からは電気がバチバチと音を鳴らしながら光を上げている。
「やっべ。あれ早めに逃げた方が良いな…」
「…ふぅ、こんな物かしらね…」
「オヤオヤ、どうしてこんな所に人が…」
リーヴァがある程度の兵士を片付けると、目の前から一人の女性が現われた。
「キヒヒ…アァ…美少女…ボス好みノ…」
「な、何よ貴方」
「ワタクシ、は…「サイス」。この反乱グンの…ボス。クフ、クフフフ」
「気味が悪いわね…何なの貴方」
「クフフフフ…」
瞬間、リーヴァのみぞおちに、重い拳の一撃が当てられた。
意識が薄くなり、膝から崩れ落ちる。
「リュウ…ト…」
「…ん?なんか今気味の悪ぃ声が聞こえた様な…気のせいか…」
長い長い廊下を歩いていると、何か壁にぶつかった。
「ってぇなぁ…んだよこの壁…行き止まり…なわけないよな。なんだ?」
光っている物を見つけ、そこに向かうとそれはただの機械端末だった。
「…なんだこりゃ、パスコードか?知らねえよんなもん…」
適当に操作しており、何度も違う、そうじゃないと言われた末俺はついに切れてアマテラスで端末を攻撃してしまった。
画面の光が序々に消えていくと、壁が横に開いた。
やはりただの壁ではなかった様だ。どうやらここが隠し扉になっている。
…いや、端末がある時点で隠しも何もあったもんじゃない。
全く隠す気の無い隠し扉を開くと、そこには部屋があるだろう。
いかにも…ボスのいそうな部屋だ。部屋の一番奥に崇め奉られる様に玉座がありそこにボスがふんぞり返っている。基本中の基本だ。
大体むさ苦しいオッサンに決まってる。…しかも考えは外れじゃないか。なんだこの 長ったらしい道は…。
しかし奴らは政府に牙を剝く様な奴らだ。案外話せば解るかも知れない。
「…そう思っていた時期が俺にもありました…ってか?」
「動くな」
後ろから銃を突きつけられている。
首を少し横に回し、横目に見ると男だ。俺が今まで見た中で若め。少年でも中年でもなく青年、推定年齢は20代前半ほどだった。
持っている銃は古式のオートマチックライフル…装備は…左腰に拳銃と…ナイフ。左利きか。装備が左側に集中している。
様式美として、俺はあたかも「銃を突きつけられ劣性に立っている政府の役所から来たかわいそうな調査隊」を演じるために両腕を上げておく。
「ヘイヘイ兄貴、ちょっと質問なんだがボスはどこだ」
「ボス?ボスなら…」
男が言いかけた瞬間だった、振り向き様に見ていた男の首に紅い一筋の線が描かれた。
紅いペンか何かで書かれた様なその線は、即座に男の首をずらす為の誘導線となった。
「…っ!!誰だ!」
怒鳴ると、奥から巨大な鎌を持った女が奇怪な笑みを見せながら近付いてきた。
「全ク、ボスの場所はオシエテはイケナイトあれホド…」
「お前…何もんだ」
「…オマえコソ、何者ダ」
「俺はリュウト・カガミ。ただの魔宝使いだ」
「クフ、クフフ。イグドラシルノ犬、か・・・クフフフ」
「なんだお前、気持ち悪い笑い方するな…」
「オまエノナカマをアズカっていル。オマエタちはワレワレと話をしに来たノダロう。申し送れたナ。私ノ名はサイスだ。」
「鎌」を意味する名前だ。文字通り鎌を持っている。
サイスは俺を通り越し、奥へ向かった。
その長い通路を、鎌を引き摺りながら。
俺は警戒しつつサイスと一定の距離をとりながら歩く。
「なぁ、なんでお前ら魔宝撲滅に反対してんだ。戦争でもしてえのか」
「…戦争ガしたイワケではなイ。ムしろ戦争は望マなイ。我々ノ望むハ…魔宝使いと一般の人間ノ共存。現に私ハ魔宝使いダ。先程殺した彼モナ」
「…生き返るとは言え、痛いんだぞアレ」
「…承知シテイル。私トテ、ナカマを殺したくナい。ここの連中はイイ奴バかりデな。魔宝使いである私ヲ、ナカまとして受け入レてクレた。ダカラ思っタのだ。魔宝使いハ、生きテイて良いト。普通の人間と生きても、良いのダと。ダカら私は魔法使いの撲滅ニハ反対している。否、私達は…と言うベキか」
サイスは悲しそうな顔をしながら俯く。
「…多分、俺とお前じゃ意見が合わないと思う。俺は魔宝使いに自ら望んでなった。知ってるか、魔宝を破壊したら生存するか否かを選択できるんだ。だから、それで自由にさせてやりたいと思う。魔宝は、言っちゃえば死んだ人を縛る枷なんじゃねえかなって思ってんだ。だがお前の考えが間違ってるとは言うつもりはないから安心しろ。…むしろ、俺もそういう柔軟な考えが出来たら良いかもな」
「…お前にはわカラんダロウ。むしろ解られてハ困る。…着いた。ここだ、入れ」
俺は案内され、部屋に入った。
廃墟の様な屋内と違い、地下研究所の様な場所だった。
「…おい、なんだここは」
「…ワタシのヘヤダ。お前タチは我々と殺し合いをしにキタノデハないだろう」
「あぁ、できればめんどいのは無しだ。んでリーヴァはどこ行った」
するとサイスが指を鳴らし、一人の筋骨隆々の男がリーヴァを小脇に挟んで持ってきていた。
「安心シロ、生きテイル。だがこの娘を放すニハ、条件がアル」
「なんだ、言って見ろ」
「…軍と、他全組織の我々への攻撃の禁止の宣言だ」
「つまりお宅らには関わるな、と言う事だな?」
「…話が早クテ助かル。どうスル。断った場合、彼女の魔宝モロとモ粉々ニなル」
「…魔宝壊されちゃたまんねえからな。解った。こっちから軍に言って…危ない!逃げろサイス!」
そう言った瞬間だった。横の壁が簡単に破壊され、空洞が出来てしまった。
同時に天井についていたランプが赤く光り、緊急事態を知らせていた。
そして空洞の奥から何かが現われた。
人型とも喩え難い、何かだ。その巨腕で自分の巨体を支えており、四足歩行とも取れる生物だった。
肌は砂の様に白に近い色で、その肌は岩の様な凹凸が存在していた。
「クソ…なんだあいつ…」
「あレハ…この組織で作ッテイル魔宝生物…その試験体ダ」
「…おいおい、お前なんてもん作ってんだよ。おいそこのデカブツ!リーヴァ連れて逃げろ!こいつは俺がなんとかする!」
「冗談じゃないわよ!私だけ逃げられる訳無いじゃない」
俺がリーヴァを抱えていた大男に命令すると、突然起きて即座に暴れだした。
「お前起きてやがったのかよ!つか起きてんなら早く戦え!」
「解ってるわよ!」
「おし、リーヴァ。今こそ約束を果たす時だ。見せてやるよ、俺の魔宝…「アマテラス・ヒャクシキ」をな」
俺が手を横に向けると、一本の剣が現われた。先程と同じ大剣だ。
見た目からして、片手で扱うのは難しいほど重そうな物。
「こ、これが貴方の魔宝…?」
「さあて、いっちょお仕事してやりますか!」
「待テ!コレは、私ノ役目だ。こイツを作り出したノは私だ。だから…私がやる、下がっていろ」
「「下がってるのはお前だ(貴方よ)!!」」
二人の声が、同時にサイスに直撃する。
「ナ、何故だ。何故お前ラが奴を…!!」
「貴方、私を気絶させるつもりなんて無かったでしょ。ずっと話を聞いてたのよ。貴方みたいな人間が、傷付いて良いはず無いわ」
「あぁ、お前には立派な理想があるじゃねえか。その理想、こんなバケモンに終わらされてたまるかよ」
怪物は、声にならない咆哮をあげる。
その周囲のガラスで出来た物が音を立てて内部破裂したかの様に割れていく。
だが俺とリーヴァだけは、平然と不適な笑みを浮かべながら立っていた。
「…面白い事を考えた」
「多分貴方と考えてることは一緒よ」
「どっちが先にあいつぶっ潰すか勝負…だよな」
「えぇ、あの子、絶対に右腕から振ってくるわ。そうしたらスタートよ」
「いいね、お前とはなかなか気が合いそうだ」
リーヴァの言った通り、怪物はその大きな右腕から振り下ろした。
俺とリーヴァは同タイミングで飛び上がりその一撃を避ける。
二人して左右の腕を走り、またも同タイミングで頭に蹴りを入れる。
「あら?剣は使わないの?」
「とどめに使うんだ。こういう雑な攻撃の為にアマテラスはあるんじゃねえ」
俺は剣を怪物の肩から突刺しながら降下、リーヴァは拳銃を落下しながら乱射。
どちらも確かに致命傷レベルの攻撃だった。
そう、あいつが「自己再生」が可能な怪物だとしたら…話は別だ。
「…再生してないかしら、アレ」
「みたいだな。試しにあの銃痕撃ってみてくれねえか」
「解ったわ」
そう言うと涼しい顔をして全く同じ場所に銃弾を当てる。
すると、その銃弾はまるで小石の様に弾かれ、弾かれた。
「…まぁ、軍に反対するくらいだからこれくらいは予想出来てたけど…まさかここまでとはなぁ…しょうがない、アレ使うか」
「あ、アレって何?大砲?」
「レールガンならまだ話は別だが…こいつは鉄の塊ぶつけたくらいじゃ死んでくれねえだろ…だからコイツ使うんだよ」
俺はアマテラスを片手で持ち上げる。
「アマテラスならさっきから使ってたじゃない」
「まあ見てろって。ちょっと怪物ひきつけててくれ」
「…解ったわ。ほら僕、こっちよ!」
銃弾を何発か打ち込みながら怪物を誘導する。
俺はアマテラスを地面に剣先から鍔まで一気に差し込む。
すると機械音が次々に鳴り響き、アマテラスから湯気が排出される。
湯気が収まると、アマテラスからは刀が出ていた。
紅の鞘を持つ、一本の刀だ。先程の巨大な剣からは想像も出来ない様な細い刀。誰もが錯覚し、本当に細く見えるだろう。
「な、か、刀!?貴方最初からそれ使いなさいよ!」
「だから言ってんだろ、雑な攻撃の為に「アマテラス」はあるんじゃねえって」
「まさか…それが「アマテラス・ヒャクシキ」なの?」
「…そういうこった。さぁリーヴァ、後は俺の方に走って来な。そしたら振り返った瞬間デカイ山と血の雨の出来上がりだぜ」
「…解ったわ。ほら、僕!お姉さんと遊びは終わりよ!あのお兄さんが代わりに遊んでくれるわ!」
怪物はリーヴァの挑発に乗り、真直ぐ突進してきた。
やはりバカだ。特に道具を使う攻撃をする訳でもない、単調な動き。あいつの知能はとても低い。だからすぐ、直進して来ると予想できた。
腰を真直ぐに伸ばし、左手に持った鞘を後ろにやって余裕を持った表情で怪物を見る。
リーヴァが横を通り抜けた二秒後に、俺は刀を抜き、背後で刀を戻した。
怪物は身体を硬化するまでも無く、腰を境目に上半身だけ前に倒れた。
「…終わりっと…」
「…貴方本当にただの魔宝使いじゃないのね」
「んなわけねだろ。俺は「ただの」魔宝使いだぞ」
「…まぁそういう事にしておいてあげるわ。「先輩」」
「めんどくせえ女だな。リュウトで良いよ。俺の名前はリュウト・カガミだ。ちゃんと名前があんだからそれで呼べ」
「そうね、じゃあ私も名前で良いわ」
「最初から呼んでんじゃねえか…んで、サイスさんよ。あんたどうするんだ。作戦めちゃくちゃだろ。それともこの奥にまだいんのか、さっきみたいな怪物が」
サイスは膝から崩れ落ち、地面に両手をつく。
「いや、アレガ我が軍ノ最高兵器ダ…。あれがなくなってしまったら…もう何もできナイ…」
「じゃあ無力化…ってことか」
「…殺しテクれ」
俯きながら、単調にサイスはそう言った。まさか彼女が、こんな事を言うとは思っても見なかった。
「…理由を聞こうか?」
「…あの怪物…いや、私達が開発シた生物兵器…通称「フィテス」は、私の息子ダ。私ハ、アノ子を…生き返ラセてやリタカった。私ノ腹のなかデ外を見るコトナク死んデイッタあの子ヲ…だが、ソノ願いは、叶うコトはナカッタ…」
「……」
リーヴァはただ、俯いて他所を見るしか無かったらしい。
「…甘えんな」
「ヘ?」
「甘えんなっつったんだよ。生き返らせてやりたかっただぁ?お前は神様かよ。何様だお前は。俺は男だし腹ん中で子供が死んだ時の気持ちも、死んだ子供の気持ちも当然わからん。だがな、その子がお前の腹の中でいくら生き返りたいと言ってもだ。生き返らせて良い権利なんて…誰にも無いんだよ」
「…私達は、魔宝に生き返された。けど、そんな事本来はあってはいけないの。だから私達「イグドラシル」は魔宝を…魔宝使いをこの世から亡くす為にあるの」
「…ソウか…ソウダったな…そんな権利誰にモナインダッタな」
「あぁ、だがま…理想の高さはあってもいんじゃね?」
「…感謝スル」
重そうな足を引き摺り、パイプの様な物の近くへ行った。
「…この基地、土地にいる全員に告ぐ。ワレ我魔宝使い撲滅反対派は、今日で解散とする。尚、今後コの組織を再建シヨウとする者が現ワレた場合、私は全力ヲ以ッてその人間全てを排除スル。…子供の兵士達。スマナかった…今後は、この全てを以っテ、君達の学習ニ力を注ごう。では、サらバダ」
帰りの装甲車の中で俺達は向かい合いながら、けれど視線をそらしながら、やっと戦闘以外で会話が出来た。
「…なんだか、後味の悪い仕事ね」
「…いや、なんか逆にスッキリした」
「貴方嫌な性格してるわね」
「そういう意味じゃねえよ。ただな、誰にも誰かを生き返らせる権利なんてねえんだって再確認できた。それだけだ」
「…そう。…気が変わったわ。貴方だけは信用できるかもね」
「…他の奴らも良い奴らばっかなんだけどな。まあ今はそれで良いんじゃねえか」
夕日と、静けさだけが残る土地を背後に俺達はイグドラシルへと向かった。




