装填される操典
「…見事にやられたわね貴方」
「…うるせえよ」
「あの子達の前だからって、別に強がらなくても良いのに」
「しかし、なんなんだあいつら」
クリスティカ・アーヴァリス。
…所属不明だが、一体どこの…。
そしてあの紅い瞳と連動する様に光った斧に引かれたラインから浮かんだ光。
…見た事が無いタイプの魔宝だったが…もはやあれは魔宝なのか?
「…なぁリーヴァ、お前さ…紅いヒビの入った魔宝知ってるか?」
「え?…ごめんなさい、知らないわ。アルーノさんなら何か知っているんじゃないかしら」
「そうだな、プロフェッショナルに聞いてみるか」
「アルーノ」
申し訳程度にノックをし引き戸を開けると、子供嫌い(という設定)のアルーノがミリアとマリアを膝に乗せているという奇妙な光景を見かける。
「ん、なんだリュウトか。頼む、仕事の邪魔なんだ。こいつらを引っぺがしてくれ」
「…人気者だな…くくっ…」
思わず笑いをこらえる。あのアルーノが子供に纏わりつかれて戸惑っているとなれば笑わざるを得まい。
だが、いつまで経っても本題に入れないので俺はミリアとマリアを引き剥がした。
「…えー、お兄ちゃんアルーノさんの肩持つのー?」
「お兄さんだけは、私達の味方だと思っていたのに…うぅっ」
「あからさまな嘘泣きはやめろ」
「助かった。それで、何か聞きに来たんだろう?どうした」
「えぇ?あ、あぁ。そうだった。…紅い、ヒビの入った武器を見た」
アルーノはその言葉を聴き、少し肩を動かし反応を見せた。
「…何か、知っているな」
「…あぁ。それは「魔動武装」。言ってしまえば安全な魔宝だ」
「安全な魔宝ってそれ…もう魔宝じゃねえじゃねえか?」
「そうだ。魔宝の性能をそのままに安全性を確保した物だ。死んで融合する必要も無いし、破壊されても死亡されない」
「…昨日、それを持った奴を見た」
「そうか…どんな形状か解るか?」
「斧の形をしていたな。少し大きめで、紅いラインが入っていた」
「調べてみよう。それと、もし会ったら殺せ。あれは安全な物だが、「安心」できる物ではない」
「どういう事だ?」
「…使い続ければ死に至る可能性も十二分にある。普及すれば、それこそ人類が滅びるぞ…」
とんでもない物らしい。と言うのは今の説明で理解できた。
安全だからと進められた依存性の高い医薬品の様な物と言うのは簡単に理解できる。
「とにかく、破壊してやってくれ」
「はいはい、分りましたよ。んじゃまたなんか分ったら教えてくれ」
「無論だ」
話を聞き終わり部屋を出る。
最近良く聞く「魔宝のニセモノ」。それの正体が「魔動武装」だったとはな…。
そもそも魔宝って物は俺が生まれるもっと前に産まれた物だ。
昔、それこそ開発当初は生きた人間の体やら骨やらを利用していたが、最近では、そのせいで死んだ人間の魂や死体なんかを利用している。
俺のアマテラスも、誰かしらの肉を使い造った物だ。
そう考えると奇妙極まる。というか、気分が悪い。
どうやったら人肉からこんな硬い武器が生成されるんだ。原理も良く分らない。
数年前、古い魔宝が暴走し数百人の死者が出たという報告があった。
当時の俺はまだ魔宝使いでは無かった。だがそれも俺が魔宝使いになる理由の一つだった。
「ねー、お母さん。このお姉さんだーれ?」
少年は、無垢な瞳で母親に尋ねた。
見知らぬ女性と、母親が親しげに話しているのを見て気にならないわけがない。
「今日からね、このお姉さんと一緒に暮らすのよ?」
母親は、穢れない笑顔で少年を見つめる。
「え?なんで?お母さんと一緒が良いよー」
「お母さんお仕事が忙しいの。良い子だから分って、ね?」
「やだやだ!お母さんと一緒に住むの!」
そんな駄々をこねる少年に、母親はイラつきを見せる。
「良い?貴方は!今日から!ここで住むの!」
母親は、子供を突き飛ばした。
「そんな、お母さん!お母さん!」
「では、後日入金しておく」
「えぇ、では宜しくお願いします」
そそくさと、まるで逃げる様に母親は少年から、その場から立ち去った。
少年は即座に理解した。否、脳が理解せざるを得なかった。
自分は…売られたのだ。母親に、唯一の肉親に…と。
怒りを越えた、笑いが現れた。
「あははっ!…殺してやる、殺して、殺してやる!!追い詰めて追い詰めて、必ず。必ず殺してやる!!」
「…落ち着いたか」
「うん…僕、お母さんにいらないって言われちゃったんだね」
女性は煙草を咥えながら黒塗りの壁に寄りかかる。
「あぁ、お前は今日からうちの実験体だ」
実験体、その言葉に少年は酷く恐怖した。
自分も魔宝の素材とされるのだろうか。自分も魔宝使いになるために、死ななくてはならないのだろうか。
様々な思考が、言葉にできない思考、不安、焦燥、恐怖が少年の頭と心を支配する。
「…何か、言いたい事があるようだな」
「…なんで、僕がこんな…」
「なんで僕がこんな目にあわなきゃいけないんだ。理不尽だ。拒否権は無いのか…そう言いたいんだろうなお前は」
「うん、そうだよ。なんで僕はこんな目に会わなきゃいけないの?教えてよ」
「それに関しては答えられん。逆に聞く、この世界は理不尽か?」
「うん、理不尽。こんな目に会わなくていい人がこんな目にあうなんて…理不尽だよ」
「それでいい、理にかなう事ばかりじゃないんだ」
女性と、今自分の立場が見せる現実は少年にとっては残酷だった。
「…さて、今私達はお前の身柄を自由に出来る。生かすも殺すも私達次第、と言う事だ。…取引をしないか?」
「取引…?」
「お前は賭けをすればいい。生きるか死ぬかの賭けだ。そして死ねばそのまま死亡し賭けに敗北。だが生きれば…お前は自由だ」
自由、今の少年にとっては重い言葉でもあった。
少年は、またも俯き、膝を抱えてしまった。
「…乗るか乗らないかはお前次第だ。取引と言うのは互いの合意があって初めて成立する」
女性は立ち上がり、独房を出る。
出て一言、向かい側の独房に座る同い年程の少年に声をかける。
肩を大きく震わせ、女性についていく。
だが、同時に女性の顔も、暗く曇っていた。
数日後、少年以外の独房から数多くの子供が連れて行かれて帰ってくる事は無かった。
「…さあ、どうする。取引をするか」
「…何人?」
「ん?」
「何人助けられるの。僕が実験体になれば、何人救えるの?」
「いいだろう、教えてやる。今現在20人いた子供はお前を含めて8人しかいない。つまりだ、お前がもし生き残る事が出来れば、8人の命を救う事ができる。どうだ」
少年は立ち上がり、女性をキッとにらみつけた。
「やるよ、僕…僕の命で命が助けられるなら…生きてみせる!!」
「取引成立だ」
少年は、苦しみに耐え抜いた。魔宝の与える「試練」を乗り越える為に。
少年は、痛みにも耐え抜いた。魔宝を授かる「儀式」を乗り越える為に。
そして少年は…魔宝使いとなった。
「お兄ちゃん!ウェイクアップ!」
「お兄さん、起きてください」
「寝てたのか…なんだ二人とも」
まだ子供とは言え、美少女二人に起されたんだ。こんな幸せな事は無いだろう。
だが、腹の上に馬乗りになるのはやめて欲しい物だ。
「見て、お兄ちゃん!これ!」
ミリアが首にぶら下げている物は、ビニールのカードケースに入れられた社員証だった。
マリアも同じ物をぶら下げ、得意げに口角を上げる。
「ん、お前ら。社員になったのか」
「アルーノさんにお願いしたらくれたの!これ何?」
「ミリア、教えたはずですよ!これは社員である事を証明するカードです。無くさない様にしてください」
「あ、そだっけ。これでお兄ちゃんとずっと一緒!」
「お兄さん、アルーノさんから伝言です。再生しますね」
『私だ、この二人をリュウト、リーヴァを教育係としてつけるという条件で上から許可が下りた。という訳でよろしく頼むぞ、「先輩」』
こいつ…。俺は思わず眉を寄せる。
ミリアとマリアの嬉しそうな顔を見ると、怒りを表せずにいた。
「…解った解った、よし二人とも。明日から職業体験だ。手加減はしないからな」
「「はーい」」
とりあえず、どいてくれないか。




