最高の再考
「俺だ。全階層のシャッターを全て閉じろ。蟻一匹逃がすな。良いな」
俺は今、最高に激昂している。
だが、逆に冷静でもある。
今なら、子供を傷つけるしか脳の無い人間のゴミを捕まえることなど容易いことだ。
ロビーの受付嬢に、案内係の男のことを尋ねた。
「確か…黒いスーツを着ていて…眼鏡をかけていて…ひっ!!う、後ろ…!!」
言われたとおり、後ろを振り向くと、鉈を振り上げ今にも俺の首を撥ねんとする男が立っていた。
黒いスーツ、眼鏡。モロにマッチしていた。
本来、イグドラシルの社員は制服を着ている。
紺色で、白のラインが入った学ランの様なデザインの制服だ。
女子制服も似たような感じの制服を着ている。
階級によってデザインも多少違うが、基本スーツを着ている人間はここにはいない。よって…。
「スーツを着てるとなぁ…すぐバレんだよ!!」
鉈の振り下ろしの前に、俺は男に蹴りを入れる。
横腹にあたったその蹴りは、男を吹き飛ばす結果となった。
「…お前か、うちのに手出したってのは」
「あぁ、そうだが」
男は立ち上がり、スーツの埃を払ってからネクタイを締めた。
同時に受付嬢や、周囲にいた人間が次々にその場から逃げ去り静かになった。
「…一応、聞いて良いか。なんでこんな事をしたのか」
「僕はね、子供を殺すのが趣味なんですよ。無抵抗で、無力で、非力な子供を。拷問から、殺人まで」
「あー、もう良い。もう良いから。そこら辺にしとけ。さて…素敵な殺人鬼さんは…どうされるか、わかってるよな・」
「そんな脅し効かない」
「元々脅してるつもりは無いんだがな。俺はさ、腐っても魔宝使いなんだわ。それに、心のある生き物」
「私にも心はあります。今もこうして私に拷問されたがっている子供の魔宝使いがいると思うと…はぁ…」
とことんまで気持ちが悪い。
魔宝使い…その上子供を拷問か…考えただけでも腹が立つな。
「だが、まぁ…吐いてくれて助かった。探す手間が省けるってもんだ。さあ…殺してやるよ。来い」
「ふふっ、一つ取引をしませんか?」
「断る」
「せめて話くらい聞いてください。ここで貴方が逃がしてくれれば、私は今拷問している全ての子供を開放します」
俺は、黙って聞いていた。
引っかかる点があるからだ。
「全ての子供を解放する」
がどうも引っかかる。「生きて返す」とは一言も言っていない。
よって俺の出した結果は・・・。
「お断りだ。お前はここで死ぬ」
「残念です、では…一つ教えてあげましょう。僕も…魔宝使いです」
「だったら、どんな殺され方されても文句言うなよ」
男はさっきの鉈を取り出した。
アマテラスを展開し、男の前に立った。
「僕の名は「ジャック」だ。さあ、始めようか?」
「遅えよ、灼き殺してやる」
気付かせ、俺は男…ジャックの脳天を突き刺した。
「その程度じゃ僕は死なない。知っているだろう?」
「だったらこういうのはどうだ?烈火百式「崩膨絶刀」!!」
アマテラスの刀身が熱を持ち、橙に輝き始める。
「な、なんだ、熱い。熱い!!」
「お前が切ったり刺したりした子供たちの痛みは…こんなもんじゃねえぞ。飛び散れ」
男は爆発し、その肉片を周囲に弾け飛ばす。
血は蒸発し、肉は煙を挙げて解け始めた。
「ミリア…マリア…兄ちゃんやったぜ?」
「まだだよ、まだやってないよ。リュウト・カガミ」
少女の声が、静かなロビーに響く。
後ろを振り向くと、少女が立っていた。
輝く様な銀髪、奇妙な程赤…否、紅の瞳。半袖の黒いパーカーに、スパッツと軍用の黒いブーツを履いた小柄な少女だ。
「あーあ、こいつ死んじゃったのかぁ。ボスなんて言うかなー。まったくもー、余計な事しないでよ」
どこから出したのか、少女は巨大な斧を振った。
瞬時に防ぐが、その勢いに押され吹き飛ばされてしまう。
「クソ…何者だお前…」
「僕の名前は「クリスティカ・アーヴァリス」。クリスって呼んでね。それじゃあ一回。さよーならっ」
斧がまた振り上げられた。
…あれ以来、死んでいなかったんだがな。
クソ、足が動かない。体が言う事聞かねえし…なんか頭がボーっとしてきた。
「はっ!!」
「目が覚めたか、リュウト」
目覚めると、医務室だった。
なんだか、嫌な夢を見ていた様な…あれは現実らしい。
俺の肩に一直線に描かれた傷跡が証拠だ。
「…お兄ちゃん、大丈夫?」
ミリアがひょこっと顔を出す。
俺は不安そうなミリアの顔を撫でると、犬のように喜んだ。
「あ、マリアは?」
「今は寝ている。すぐに回復するだろう」
「良かった…守れなくて、悪かったな。ミリア」
「ううん、お姉ちゃんの私がしっかりしてなかったから…うぅ」
「お前は立派にお姉ちゃんやってたじゃないか。誇って良いぞ」
「うん、ありがと。お兄ちゃん!!」
ミリアは、涙を目じりに浮かべながらも笑顔でそう言った。
「やっはろー、ボス。挨拶してきたよ」
クリスが、玉座に座る男に話しかける。
「ご苦労。では…再びで悪いが行って貰う。次の場所は…」
男はモニターをクリスに見せた。
「ん、了解だよボス。僕に任せて。あんなやつらすぐ片付けるからさ」
「あぁ、頼りにしているよ、クリス」
男は不適な笑みを浮かべると手に持ったワインを全て床へ落とした。




