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寒村の図書館  作者: デョ
14/15

おでん

うぅ〜


寒いですねぇ


こんな寒い日は暖かい物でも頂きたいですねぇ


確か昨日のお裾分けの煮物が残ってたから温め直しますかねぇ


そういえば、あの煮物、なんて名前だったかしら…?


あら?


誰かいらっしゃったわ


どなたかしら?


あら?


あらあら!


村長さんじゃありませんか!?


へ、いつものを頼む?


分かりました、ちょっとお待ち下さいねぇ


え〜っと確かこの辺りに…


嗚呼、有りましたよ?


それではお読みしますね?


┌────────┐

│        │

│  お で ん  │

│        │

└────────┘

━━━━━━━━━━


とあるところに森に囲まれた辺野辺(へのへ)の村という寂れた小さな村があったそうじゃ。


細々と慎ましく暮らしておった村にある日奇妙な事がおこった。


「なんじゃぁ、この匂いはぁ」


「く、臭かぁ」


なんと村中に嗅いだ事の無い生臭い臭いが充ちておった。


それからというもの、時々くる行商のものもパッタリと来なくなった。


肉の獲れぬ農村では死活問題じゃった。


そんなある日の事。


「た、助けてくんろ〜!?」



村に行商の若い者が駆け込んできおった。


「ど、どうしたんじゃ!!」

「山じゃ、沼に化け物が…!!」


「それは大変じゃぁ!!」


行商の案内で村の若い者が山に登る事となった


道すがら話を訊いてみると


「沼の近くで休んでおったら蛸の化け物に…」


「山で蛸が出るか!

ありゃあ海の者じゃ」


「大方なにかを見間違えたんじゃろうよ

出たら退治してやろう」

若い者の中でも腕っぷしの立つ抜け作と弁の立つ三郎が息を巻いた。


やがて沼の畔に辿り着き


「何も居らぬではないか」


その時じゃった。



沼から何かが伸びて来て三郎と抜作を絡め捕った。

「なんじゃ〜、コリャ〜!」


「蛸じゃ、蛸の足じゃ〜!」

そのまま二人は沼に引き摺りこまれてしまった。


辺りに響くバリボリという何かを噛み砕く音…


茂平治と行商は二人が食われてる間に命からがら山を降りた。


行商は別の道を行くとそのまま去り、村に戻った茂平治は起きた事をありのままに話した。


村人は困った。

化け物退治のあてなど無い。

結論の出ない話し合いが続いた。

そんな時、一人の襤褸を纏った隻眼の老爺が村で行き倒れた。


「…水を…、水を一杯恵んで下さらぬか?」


村の若い者の茂平治は老爺に水をやりながら訊いた。


「爺っ様はこんなところになんで」



「行商じゃぁ。

とはいえ村を越えたところで化け物が出ると聞いてのぉ。

荷を捌いたら来た道を戻るつもりじゃぁ」


「そおかぁ、大変じゃのぉ」


「力になってやりたいがのぉ

そおじゃ!!」


そういうと荷物の中から一本の見事な槍を取り出した。


「この槍を貸そう。

これで退治したらええ」


茂平治は首を振った。


「無理じゃぁ。

近く前に長い足に捕まってしまう。

それにしても見事な槍じゃのぉ」


「グングニルという。

ところでどんな化け物なんじゃ?」


茂平治は老爺に問われるままにありのままを答えた。


「それならばなんとかなるかもしれん。お前さんの話からするとその蛸は食ってる間はそれにしか目が行かんのじゃろう。

その間にこの槍で突きまくれば良い」


「じゃが槍なぞ使うた事もないぞ。

ろくな食い物も無い」


「なら儂の荷を使えば良い。

ここで捌けなければ腐るだけじゃしのぉ。

槍も問題無い。

その槍は戦うつもりで握れば勝手に動くよう術をかけてある」


この言葉に茂平治はたいそう驚いた


「あんれま〜。

爺っ様は仙人様じゃったか!?」


「オーディンじゃぁ。

まあ似たような者かのぉ」

茂平治「おでん?

この『ぐんぐん煮る』とかいう槍もそうじゃが変わった名前じゃのぉ」


その日、茂平治と老爺は遅くまで化け物退治の段取りを組んだ。


翌朝…

茂平治と老爺は化け物が出た沼の近くまで来た。


「では始めるかのぉ」


そういうと荷から肉や魚、野菜を取り出し鍋で煮だした。


辺りに旨そうな匂いがしだすと不意に茂平治の腹が鳴った。


「ハッハッハ。

化け物の前にまず儂らが相伴に与ろう」


茂平治と老爺が荷物を食い始めた。


久方ぶりの肉はたいそう旨かった。


しばらくするとズルリ、ズルリと何かが這う音が聞こえだした。


「茂平治、隠れるぞ」


二人が隠れてほどなく蛸が姿を表した。

二人に気づく事なくそのまま鍋に食い付き始めた。

好機を得た茂平治は槍で蛸を突いた。



ようやく蛸も気づいたのか暴れて足を振り回し始めた。


暴れる蛸。


なぎ倒される木々。


茂平治は必死に槍にしがみつき胴を抉り続けた。


蛸の血で森が赤く染まり暴れる音が辺りに響き渡った。


やがて力尽き出したのか蛸の動きが鈍く鳴り出した。


「あと、もう少しじゃぁ」


そして蛸が最後の抵抗を始めた。


暴れるでなく少しずつ


ズルリ…


 ズルリ…


と沼に向かって動き出した。


しがみつくのに必死だった茂平治に踏ん張る力は残っておらんかった。


強ばり固くなって槍から離れなくなった茂平治を引き摺ったまま蛸は


ズルリ…


またズルリ…


と少しずつ沼へ移動していき、

そのまま沼へと引き摺りこんでしまった。


沼も森もそのまま最初から誰もおらんかったように静まり返った。


それからしばらくして様子見に来た村人の達が見たのは沼の畔に打ち上げられた蛸と茂平治の亡骸だけじゃった。


村人は茂平治を手厚く葬ったとさ。


…………………………


「プレイ、今戻ったぞ」


「お帰りなさいませ、オーディン様」


「情勢は?」


「欧州地区に動きはありません。


北米では雷鳥族が国際救助隊なる組織を編成、勢力を広げています。

続いて極東では…

…?」


「どうした、さっさと報告せんか」



「…極東では"おでん"なる煮込み料理が急速に広まっているそうです。」


一瞬の静寂が場を支配する。


フレイの目が問う。


アンタ、極東への出張でナニやってんの?と


「…そうか。

極東で何人か収穫しておいた。


ラグナロクに備えて鍛えておけ」


「解りました。


人別帳をお預りします」


人別帳を確認してたフレイの指があるページで止まる。


「オーディン様、

この者の名は何と読むのですか?」


フレイが指差したページ、

そこには…


「ンム、

辺野辺(へのへ)茂平治(もへじ)と言う」


フレイ「…ええ加減にせい!」



━終━

━━━━━━━━━━


おしまい…


っと、そうだ思い出した。


昨日頂いたおでんを今から温めますけどご一緒にどうですか?


へ?


嫁に来ないか?


もう、からかっちゃ嫌ですよぉ。


へ?


本気!?


駄目ですよ、私みたいな年齢不詳な怪しいの?


気にしない?


いやでも、私司書辞めるつもりありませんよ!?


なら入り婿にって…


村長の仕事はどうす…


もう若い者に引き継いだ?


私、冬しか村にいないんですよ?


…それでも私が良いって…


ふぅ…


そういう所はちっちゃい頃から変わりませんね。


こんな私で良ければ…


冬が明けるまで一緒に暖まりましょ?


━おしまい━

捕捉


辺之辺(へのへ)…とんでもないド田舎の意。

多分造語。

言葉の元ネタ忘れ。

辺は辺境の意だったかな?

つまり『辺境中の辺境』


此方に写すにあたり司書のお姉さんと元村長さんのやり取りを追加しました。


元々は読者の脳内イメージが『読み始めでは普通の村人っぽい顔だった茂平治が読み終りでへのへのもへじにドロンと化ける』となるトリックギャグを目指した作品。

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