聖装編
世界には聖装と魔装と呼ばれるものがある。聖装は天を穿ち魔装は魔を従える…それらはそれぞれ六種類あるとされている。銃、太刀、槍、弓、鎌、手甲。聖装と魔装、両者を装備したものは天地を統べるとされている…
「こんなん在ると思うか?」
「ない」
千奈からの即答だった。氷牙は深くため息をつくとソファーに腰を下ろした。
「みんな~やる気は出せーおっさんから命令来てんだぞー。」
おっさんとは黒野藤太という、欠破者を統括する男である。氷牙が彼のことをおっさんと呼べるのは彼が『三闘刃』と呼ばれる、実力者の一人であるからだ。その黒野から先程直々に指令があった。
『あのさぁ、聖装っていう立派な武器があってだな、それ壊してきてくれ。聖装を祭ってるやつからの依頼でよぉ、奪われちゃったから壊そうぜっていうことだ。解った?よろしくー』
氷牙はモニターを殴らなかった自分を褒めたくなった。
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「さてと、転送場所はここであってるんだっけ?飛ぶの久々だからあんまし憶えてないんだよね。」
「頼むぞみかん。」
みかんは烈火隊のメカニックも担当している。彼女の作った転送装置で聖装の祭られている『聖殿』に行くところだ。カプセル型で六人が入れるようになっている。
「…よしっと。さてみんな~!行くわよ~!」
『おう!』
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「お待ちしておりました…烈火隊の皆さんですね。隊長殿は…?」
「俺です。聖装が奪われたとはどういう事ですか?」
年老いた男性の質問に氷牙は答えつつ疑問を言う。
「昨日、A級盗賊団『黒咢』の襲撃を受けまして…奴らのアジトはすでに発見済みなのですが我々ではとても手に…」
「そのアジトを教えてください。うちの優秀なメカニックの転送装置で行きますんで。」
「ですが奴らはとても強い…」
氷牙の突然の提案に驚いた老人は心配そうな表情を見せた。氷牙は「大丈夫。」と言って烈火隊の方を向く。
「こいつらはむちゃくちゃつえーっすから。」
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「団長、『手甲』の馴染み具合はどうっすか?」
「カルラか…主こそ『鎌』馴染んでいるか?」
「ええ、あたしのためにあるんじゃないかって位っすよ。」
「そうか…」
暗闇の玉座で彼はひっそりとほくそ笑んだ。
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敵のアジトに到着した烈火隊。しかしみかんのミスで全員バラバラに散ってしまった。
「これって全員一人ずつ聖装持ってるやつと戦うってパターンじゃねぇか…?」
セイバのセリフは、ものの見事にフラグとなり、全員が聖装を装備した幹部と相対した。
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「フラグ建てちまったな…。」
フラグ建てた張本人は前髪で目が隠れた黒髪の男と出会った。腰には身の丈ほどもある太刀。あれが聖装とみて間違いないだろう。
「俺は黒牙セイバ。お前の名前を教えてくれよ。」
男はセイバの声など聞こえていないかのように刀を抜き身構える。それを見たセイバも剣を抜く。両者が見合う。最初に動いたのはセイバだった。
「竜刃:一閃!」
刃に激を乗せて一閃する、セイバの技の中で一番初歩技を様子見がてら決めに行く。が、男はその一閃を軽くよけると跳躍し、上から刀を振りかぶりながらセイバのもとへ落ちてくる。セイバもそれをよけ元の体制に戻る。
(…あのでけー太刀を振る腕力どっから出てる?どう見たって細身の男だ…そんな腕力…まあ考えるより倒してあの刀こわさねーとな。)
そう考えるとセイバは一気に跳躍しもう一度一閃を決めようと近づく。そして男の太刀の一振りをかわしたと思った時…別の刃がセイバを襲った。
(真空刃!?あの刀はそういう仕掛けか!しかも同時方向じゃなく違う方向から…くっそ聖装ってのはこんなに厄介なもんか!)
セイバは刀を構えなおすとともに気を引き締め、一気に距離を詰める。男は一振りで真空刃を三枚発生させる。その三刃をよけたセイバは踏み込む。男は真空刃を出した反動で一瞬動けなかった。その隙を突き
「竜刃:双葉!」
太刀を破壊するため技を放つ。双葉は激の刃と実際の刃の両者で同時に切りつける技だ。その二つの刃は太刀を壊しそのまま男の体に傷をつけた。男は、気を失って倒れた。
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『太刀』破壊。残り五つ。
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雪は槍を持つ小さな少女と対峙した。どう見ても四、五歳の小さな子だが…
「こんな見た目でも私二十八だから遠慮しないで。この姿は聖装の代償なの。」
「代償…?」
「ええ。力を持つにはそれなりの代償がいるわ。私の場合、それが年齢だっただけ。声をとられた者もいるわ。だから…なめてると死ぬわよ。」
少女は槍を投げる。雪は一気に跳躍し、それをかわす。しかし、少女の手には投げられたはずの槍があった。
「この『槍』の力は瞬間移動。瞬時に移動できるの。」
そう言いつつもう一度投げられる槍。雪は瞬時に印を結び、
「業炎!」
業火を放つ。槍はその業火をもろともせず雪のもとへ。雪はそれをよけることに全神経を集中させた。しかし、突然目の前に槍を手にした少女が現れ、雪の脇腹を槍で貫く。
「がっ…」
口から血が出る。意識が飛びそうになる。少女は槍を瞬間移動させもう一度雪の体を貫かんと構えると…
雪の周りから現れた闇によって槍が壊され、光によって雪の傷が塞がれる。
「なんだ…?」
少女を闇が呑み込み消え去った後には気絶した少女が転がっていた。
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『槍』破壊。残り四つ。
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雪は消え去った闇と光の後を見つめる。雪はこの力を知らない。正確には、覚えていない。雪には、十二歳より前の記憶はない。常識は覚えてるが、誰と過ごしたとかの思い出を覚えていない。印術は忘れた後に覚えた。きっと、昔の力なんだろう。
「いつか、思い出さないと…」
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千次郎は未だまったく聖装使いと出会っていなかった。
「マジか…こういう時は一人ぐらいぶつかるもんだろ…」
千次郎のつぶやきに答えるように矢が千次郎の足もとに突き刺さる。
「弓!」
千次郎は飛んできた方向にクナイを投げる。しかし手ごたえがない。そして先程とは違う方向から矢が。
「くそっ!」
(どんな能力かわからない。気配もないし、飛んでくる方向もばらばらだ!)
千次郎は矢をよけながら考える。どんな能力かを考えその対処法を考える。するとある規則性が見えた。
1.六時の方向か、十時の方向から飛んでくることが多い
2.新しい矢が飛んでくるときは刺さっていた矢が消える
3.誰かが天井から撃っているのではなく、どこかで撃った矢を飛ばしている
「そうか…わかったぞ…」
千次郎は地面に伏せ床を叩く。音がおかしいところを探し、発見。そこを叩き壊す。弓矢を引き絞る少年を発見。その弓ごと少年に蹴りをかまし弓を破壊した。
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『弓』破壊。残り三つ。
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みかんは銃を持った女と戦闘中。女の銃撃にみかんは苦戦していた。一つ気になるのは、その女が弾丸を装填せずにもう千発以上撃っていること、もう一つは、彼女は…
「目、見えてないでしょ。」
「ええ。あなたの気配だけを頼りに撃っていますわ。」
その会話の内に一発足にもらってしまったみかんは、小さくうめく。
「もう終わりですか?」
「とっておきの技くらいあるわよ…」
「じゃあそれ撃ってください。打ち砕いてあなたの心を折ったのち殺しますので。」
「…その言葉後悔すんじゃないわよ。」
みかんは息を付き双銃を構え、技名を言った
「…八頭竜」
女は目が見えなかったことを初めて心の底から感謝した。こんな…
『異常』なものを見なくて済んだから
その『異常』は女の体には傷をつけず、激を食い尽くし、銃を壊した。
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『銃』破壊。残り二つ。
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千奈があったのは…
「あたしはカルラってんだ。この鎌は血を吸った分強くなるってもんだ。」
「自分の能力を明かす意味は…?」
「ん?こうしねーとフェアじゃないからな。この鎌まあまあ血吸ったから強くなってるぜー。」
「私の仲間だった場合、惨殺するわ。」
「大丈夫。御宅の仲間にやられた…」
カルラは袋を取り出す。その中にあったのは聖装を持っていた四人の首だった。
「あたしの仲間の首を切っただけだから。」
「…!」
「あんたの仲間には指一本触れてないよ。出会ってもないし。まあ会ってたら…ここに生首が増えてたろうね。」
千奈はそれを聞いた瞬間跳躍しカルラに蹴りを入れる。
「っつ…!鎌に血吸わせまくったのにこんなに痛いって…」
「黙れ。」
さらに一撃を加える千奈。重い一撃がカルラの脇腹に命中しカルラは壁に叩きつけられる。そして壊れた壁の先に…千次郎が居た。その千次郎にカルラは飛びかかる。血を吸わせるためだろう。が、それより早く千奈の蹴りが鎌に当たり鎌が壊れ、そのままカルラを吹っ飛ばした。
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『鎌』破壊。残り『手甲』のみ
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「む…カルラめ勝手なことを…奴らはまあまあ使えおったのに全員殺した挙句、自分も負けるとはな…」
「すまねーな。うちの連中はつえーんだ。」
暗闇の玉座の前、団長と氷牙は相対す。
「氷の三闘刃…『創造者』か。三闘刃という事は『無限術』か?」
「ごちゃごちゃうるせー。俺はお前の手甲壊して帰って寝るんだ。」
「そうか…ならおれも貴様と貴様の仲間を殺して寝るとしよう。」
氷牙は氷の槍をつくるとそれを投げる。それを団長は正面から殴り壊す。
「俺の手甲は大地を砕く。氷を砕けんはずがない。」
「なるほど…とにかく力が強くなる手甲ってことか…じゃあよ。」
そこで区切ると氷牙は息を吸い込み言った。
「形のない氷はどうすんだ?」
氷牙はそのまま構え氷を出した。それはまるで水のようにうねり…団長を飲み込む。団長は必死に氷を殴るが、割れない。感触も水に近い。
「シャーベットあるじゃねぇか。あれみてえなもんだよ。」
団長は意識を失っていた。氷牙は氷のハンマーをつくり両手の手甲を壊す。
「任務完了。」
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生き残っていたカルラと団長を警察に引き渡し、死んだ四人の遺体はアジトの近くに埋葬した。
「…ひでぇもんだな。」
「そうね。」
千次郎の言葉に千奈が反応する。
「…まあ、こうなってしまったもんは仕方ねぇだろ。こうならないようにすんのも俺たちの仕事だ。」
氷牙の一言に皆うなずく。氷牙はそれを見た後、重い溜息を吐いてこう言った。
「…じゃ、帰るか。」