ー弍ー
子どもたちが走りまわって遊ぶ、賑やかな孤児院。真夏の天気はとても暑く、セミの声がうるさく響く。しかし、慈は子どもたちの輪に入ることもなく、一人ぽつんと木陰でぼーっとしていた。青い空を背景に赤いリボンを結んだうさぎのぬいぐるみがひょっこりと顔を出す。
「こーんにちは、慈ちゃん。はじめまして、ウサギのうさちゃんです!可愛いでしょー?よろしくぅ!!」
澄子だった。屈託のない笑顔が眩しい。慈は怪訝そうな顔をして立ち上がり、その場を去ろうとした。
「あっ、待ってよっ。慈ちゃん…。これ、私が小さい頃大好きだったぬいぐるみ!慈ちゃんにあげちゃう!!」
澄子はぬいぐるみを慈に与える。決して綺麗とはいえないが、破れたところが修繕されていることから、大切にされていたことが伝わる。慈はそれを受け取り、抱きしめる。一瞬笑ったように見えたが、はっとしたようにツーンとした表情に戻ると、いらないと澄子に押し付けて速足で立ち去った。追いかけようとする澄子に子どもたちが群がる。
「せんせーい、あーそーぼー!」
「あっ、ごめんね。先生は慈ちゃんにお話があるから、また今度ね!」
「えーっ!!めぐみちゃんは、ひとりがすきなんだよ~。」
「いつもおこってるんだよ~!ぜんぜんしゃべらないし。」
「やーだー、こわーいっ!」
きゃっきゃっと笑う子供たち。この子たちの無邪気な悪意がさらに彼女を孤独へと追いやるのだろう。
「そんなことないの、本当は仲良くしたいのよ。一人ぼっちってとても辛いんだから。」
空を見上げながら澄子は言った。その瞳には何かが宿っているようにも見えた。優しい声の中に何とも言えない威圧感があった。子どもたちはいまいち理解できない様子で、曖昧に「はーい」と言って向こうの広場へ駆けていった。