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ー零ー
とある時代のとある日本…。
誰かの夢。
無機質な広い部屋に一人の男がいた。男の傍らで花に埋め尽くされた棺で眠るのは、天使のように美しい女性。彼女の閉じた瞳から流れるものはどちらの雫なのか…。
男には、彼女が目を覚まさないことが信じられなかった。冗談だよ、と今にも目を開けて笑顔を見せてくれそうだった。しかしそう思ってもう何十年、何百年と経っているのだろう。男は自嘲的な笑みを浮かべる。
「俺もそっちへ行くよ…。」
銃を懐から取り出し、目を閉じる。鈍い音と同時に弾がこめかみを貫く。血をたくさん流し、男は倒れる。しかし数分後、男はゆっくりと起き上がった。死ななかったのだ。こめかみの大きな傷口が閉じていく。終いには何もなかったかのように痕もなくなっていた。
「やっぱり、無理か…。こんな身体じゃ永遠に君に会えないな…。」
俯き嗤ったその時、ツーンと甘い香りがするのを感じた。テーブルに飾られた一輪の花。それはこの世のものとは思えない美しい輝きを放っていた。