愛人の一人や二人を気にしてはいけないよと言う婚約者を捨てて、王子を婿に迎えました。
マドリーヌ・フェルト公爵令嬢は驚いた。
ディアド・ステイ公爵令息との婚約者同士の交流の席。ディアドの隣に一人の令嬢が腰かけていたからだ。
美しい金髪碧眼の美男のディアド。
隣に座っている令嬢はそれはもうフワフワの金髪碧眼でとても可愛らしい顔立ちをしている。
銀髪碧眼で冷たい顔立ちの自分とは大違いだ。
ディアドは令嬢を紹介する。
「アリア・ファイ男爵令嬢だ」
「アリアですっ」
「どうしてもアリアが一緒に居たいっていうものだから」
マドリーヌはきっぱりと、
「婚約者との交流の席に他の女性を連れて来ると言う事は、貴方は我が公爵家に婿に来る気はないという事ですのね?」
「どうしてそんな話になる?私はアリアを連れて来ただけだ」
「私、ディアド様の婚約者のご令嬢ってどんな方だか知りたくて」
「お二人はどのような関係なのですの?」
ディアドははっきりと、
「恋人だ」
アリアも頷いて、
「恋人よ。私とディアド様は身分が違えども、心は通じ合っているの」
マドリーヌは驚いた。
「恋人?ディアド、貴方、わたくしと婚約中よね」
ディアドは頷いて、
「でも、君とは愛のない政略だろう?私はアリアとは愛があるから恋人同士なんだ」
アリアも頷いて、
「そうなのです。私達は愛し合っている恋人同士なのです」
マドリーヌは呆れて、
「不貞は許さなくてよ。貴方はうちに婿入りするのではなくて?」
ディアドは頷いて、
「婿入りするのは解っているよ。でも、愛のない結婚をする私は不幸だろう?だから、アリアを愛人にしていいと思うんだ」
アリアを愛人にですって?この男、頭大丈夫かしら。
マドリーヌはきっぱりと、
「愛人は認めません。もし、この女と別れられないと言うのなら、我が公爵家に婿に来る話は無かった事に致します」
「器が小さいな」
ディアドが言えばアリアも、
「器が小さいですよね」
「はぁ?」
思わず変な声を出してしまった。
ディアドはマドリーヌに向かって、
「名門フェルト公爵家の令嬢ともあろうマドリーヌが、こんな器が小さいだなんて。君が正妻なんだから、愛人の一人や二人を気にしてはいけないよ」
アリアはうんうんと頷いて、
「そうですよ。私は愛人なんですから。だって愛がない結婚なんてディアド様が可哀そうでしょう。だから私が愛人になって愛を差し上げる事にしたんです」
ディアドは嬉しそうに、
「私はアリアから愛を貰ってとても嬉しいよ」
アリアが頬を染めて、
「私もディアド様から愛を貰えてとても幸せです」
何?こののろけの世界は?わたくしを馬鹿にしているのかしら。
立ち上がって、
「貴方の考えは良く解りました。ディアド。ステイ公爵家に苦情を入れさせて貰いますわ」
ディアドはふうとため息をついて、
「だから、君は狭量なんだ。公爵令嬢たるもの、心は海より広く持たないといけないよ」
ディアドの背後にざば~んと波立つ海が見えたような気がした。
この男を海に簀巻きにして放りこみたい。
一瞬、そう思えた。
ステイ公爵家に父から苦情を入れた。
ステイ公爵自身がフェルト公爵家に訪れて、フェルト公爵夫妻に向かって、
「愛人の一人や二人、許せないだなんて困りますな」
謝罪するでもなく、はっきりとそう言ったのだ。
フェルト公爵は眉を寄せて、
「私は愛妻家で愛人を持ってはおりませんが。うちに婿入りですよね。愛人を一緒に連れてくるつもりですか?」
ステイ公爵はハハハと笑って、
「別宅を建てれば済むことです。愛人が住む別宅を。これだけ敷地が広いのですから。もし、おたくに建てる金が無かったら、私が出して建ててもいいんですよ。可愛い息子ディアドの為だ」
愛人の別宅を建てる???
この王都の屋敷の庭に?
話を聞いていたマドリーヌは驚いた。
ディアドはステイ公爵に似たのかしら。
ステイ公爵は自慢するように、
「私は愛人が二人おります。別宅を庭に建ててそれぞれ囲っていますよ。妻は何も言いません。妻を大事にしながら、愛人達にも愛を注いでいますから。庶子も何人かおりましてな。ですから、少しは大目に見てやって下さいよ。ディアドの事を」
フェルト公爵ははっきりとした口調で、
「誠に申し訳ないが、今回の婚約、解消させて貰おう。私は娘が最初から不幸になる婚姻を望んでいる訳ではない。名門公爵家同士の婚約という事だから承知したが、婚約が解消になってもうちは困る事はない」
マドリーヌも、
「誠に申し訳ありませんが、わたくし、愛人持ちの夫は許せませんの。ですから、今回の婚約お断り致しますわ」
ステイ公爵は不機嫌そうに、ため息をついて、
「息子に言っておきましょう。理解がない妻を持つのは、息子が気の毒だ。今回は婚約解消という事で承知した」
婚約は解消されることとなった。
心からマドリーヌは安堵したのであった。
最初から愛人持ちの夫なんていらない。
一年後、王宮の夜会でディアドと再会した。
彼はいまだに婿入りが出来ないみたいで、
「君に断られてから、どこの家も私を受け入れてくれない。私は愛しいアリアと共に婿入りしたいと言うのに。君が反省するならば、もう一度、婚約を結んでやってもいい」
マドリーヌははっきりと、
「わたくし、婚約者がおりますの」
マドリーヌの背後から現れたのは、この王国の王子、プラウド第三王子殿下だ。
プラウド第三王子は微笑んで、
「マドリーヌを私に譲ってくれて有難う。私はフェルト公爵家に来年、婿入りすることになってね。このような素敵な令嬢と婚姻出来るとは嬉しいよ」
プラウド第三王子殿下から熱烈なアプローチを貰ったのだ。
同い年で、婿入り先がなかなか見つからない。
隣国に留学している間に、目ぼしい女性は皆、婚約か婚姻してしまった。
プラウド第三王子は、マドリーヌに、
「王族たる私にふさわしい婿入り先だ。どうかマドリーヌ。婚約して欲しい」
薔薇の花束を差し出されて申し込まれた。
マドリーヌは愛人持ちの男は嫌だったので、
「愛人を作らなければ、よろしいですわ」
プラウド第三王子は、
「私は愛人なんて作らない。君、一筋に愛すると誓うよ」
そう言ってくれたのだ。
嬉しかった。
だから、彼の求婚を受け入れた。
両親も大賛成だったから。
ディアドはプラウド第三王子の顔を見ていたが、諦めたように背を向けて行ってしまった。
愛人付きの男なんて誰が婿に欲しがるのかしら。
まだアリアと付き合っているみたいだし、どうしようもないわね。
プラウド第三王子は、マドリーヌに対して紳士的で、気を使ってくれる。
やはりこういう人が婚約者でないと駄目ね。
彼にエスコートされながら、そうマドリーヌは思うのであった。
婿入り先が見つからないディアドの姿をいつの間にか社交界で見かけなくなった。
どうも、屑の美男が好きな変…辺境騎士団がディアドをさらっていったらしい。
彼はそれはもう美しい金髪碧眼の美男だったから。
アリアは男爵家に嫡男が既にいたので、平民の商人の愛人になったとのこと。
彼女にふさわしい身の振り方だろう。
常識あるプラウド第三王子殿下とは来年、結婚する。
その幸せを感じながら、マドリーヌは王宮へ出かける支度を今日もするのであった。




