王女が夜中に書庫に忍び込んできた件
深夜の書庫。
俺が三日間の資料整理と演算の結果をまとめていると、窓が内側からゆっくりと開いた。
俺は手を止めずに言った。
「忍び込む前に、ノックくらいしてほしい」
「……なぜわかったの」
窓枠を乗り越えて入ってきたのは、金髪の少女だった。動きやすい暗色の外套を着ているが、その下の衣装の質は一目でわかる。年齢は十八歳ほど。顔立ちは絵画から抜け出たように整っている。
【鑑定】
ヴィオラ=ルドヴィア
王国第一王女
政治知識:A
行動力:S(無謀とも言う)
現在の心境:「この男を試しに来た」
王女か。
予想より早い登場だ。
「窓から入る前、外で三分間止まっていた。迷っていたんだろう」
ヴィオラが少し顔を赤くした。
「……見ていたの」
「気配で。座るか?」
「……お邪魔します」
ヴィオラは椅子に座り、ゆっくりと外套を脱いだ。それから、真剣な目で俺を見た。
「アルフォン=ヴェイン。あなたが騎士団予算の問題を動かしたと聞いた。ゲルハルト侯爵の件にも、首を突っ込んでいると」
「誰から聞いた」
「私には情報源がある。貴族の子女たちは、私を王女だと思ってなんでも喋ってくれる」
なかなか賢い。
「それで、王女殿下が私に何の用ですか」
「協力したい」
ヴィオラは前のめりになった。
「私はずっと、この国の腐敗を憎んでいた。父王は善人だが、侯爵たちに囲まれて何も見えていない。私がどれだけ訴えても、証拠がないと動けないと言う。でもあなたは——証拠を作っている」
「証拠を作っているんじゃない。すでにある証拠を集めているだけだ」
「それが凄いんじゃない」
ヴィオラの碧眼が、まっすぐ俺を見ていた。
「あなたなら、この国を変えられる。そう思って来た。間違っている?」
俺は資料から目を上げた。
「間違っていない」
「じゃあ協力する。私にできることを言って」
俺は少し考えた。
王女の協力は、想定外のカードだ。だが——国王への直接ルートが開く可能性がある。
「一つ聞く。王女殿下は、父王を動かせるか」
「……直接は難しい。ただ」
ヴィオラは静かに言った。
「父が信頼する顧問が一人いる。その人を動かせれば、父に届く」
「その顧問の名は」
「元首相・アウレル卿」
【鑑定】(名前検索)
アウレル=クロイツ
元首相・現王室顧問
清廉度:A
影響力:A
現在の状態:「腐敗を知りつつ動けずにいる老人」
これは使える。
「わかった。作戦を立てる。協力してくれ」
「喜んで」
ヴィオラが笑った。初めて見る、飾らない笑顔だった。
「……ありがとう。やっと、一緒に戦ってくれる人が見つかった気がする」
俺は少し間を置いてから、言った。
「一つだけ条件がある」
「何?」
「次からは窓じゃなくて、ちゃんと表から来い。ミラがびっくりする」
ヴィオラが吹き出した。
「……そこ?」
「そこだ」




