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転生官僚は最強のシステムを構築する  作者: 神代転一


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予算を正しく通したら、騎士団長に目をつけられた

一週間後。

 エルミナから報告が届いた。

「騎士団の予算申請、承認された」

 書庫の扉を勢いよく開けて現れたエルミナの顔に、珍しく感情が浮かんでいた。驚き、と、喜び。それから——

「アルフォン殿。あなたは、普通じゃない」

「褒めてるのか、それ」

「褒めている」

 エルミナはまっすぐ俺を見た。

「予算が通った。新兵に装備が行き渡る。もし先月のまま魔物が来ていたら、負傷では済まなかった。あなたが書いてくれた申請書一枚が、人の命を救ったんだ」

 俺はしばらく黙っていた。

 前世でも同じことを思っていた。書類一枚、制度一つが、誰かの命を救う。それが行政の醍醐味で、だから俺は死ぬまで働いた。

「礼はいい。それより——」

 俺は一枚の資料を差し出した。

「これを見てくれ。騎士団の予算、正規ルートで申請していたとして、通るべき金額はこれだ」


【演算】

騎士団年間正規予算(試算):金貨8,400枚

実際の支給額(記録):金貨3,100枚

差額:金貨5,300枚

→ 差額の行方:財務次官ゲルハルト侯爵管轄口座(推定)


エルミナの顔が、みるみる青ざめた。

「……これは」

「横領だ。国防費の六割以上が、ある人物に流れている。しかもそれが十年以上続いている」

「ゲルハルト侯爵……」

 エルミナの手がテーブルを強く握った。

「あの男が。だから毎年、訓練費も装備費も削られ続けていたのか。だから魔物の迎撃で兵士が死んでいたのか」

「怒るのは構わない。だが、今は動くな」

 エルミナが俺を睨む。

「なぜだ。証拠があるなら——」

「証拠が一枚では足りない。ゲルハルト侯爵は王国第一の権力者だ。告発すれば、逆に俺たちが潰される。動くなら、完璧な状態で動く」

 前世の俺は、不完全な証拠で上司に突き上げ、逆に左遷されたことがある。あの轍は二度と踏まない。

「……わかった。信じよう」

 エルミナはゆっくりと頷いた。そして少し間を置いて、低い声で言った。

「アルフォン殿。私はあなたの剣になる。いつでも言ってくれ」

 俺は少し驚いた。

「なぜそこまで」

「あなたは私が諦めていた問題を、一週間で解決した。それだけで十分だ」


問題は翌日に起きた。

 王国騎士団長・ドラクス=ヴァルゼンが、ヴェイン伯爵家に使者を送ってきたのだ。

「アルフォン=ヴェインを、本日中に騎士団本部まで呼び出せ」

 使者はそう告げ、去った。

 ミラが青い顔で俺を見る。

「ア、アルフォン様……ドラクス団長は、あの侯爵の息のかかった方で……」

「知ってる」


【鑑定】

ドラクス=ヴァルゼン

騎士団長・侯爵派閥

政治力:B

武力:A

腐敗関与:あり(証拠:中)

現在の思惑:「エルミナが動いた。背後を調べろ」


なるほど。もう動き始めたか。

 速い。だが——想定の範囲内だ。

「ミラ、父上に連絡を。それと、エルミナに伝言を頼む」

「な、何と?」

「『予定より一ヶ月早まった』と」


騎士団本部の応接室。

 ドラクス団長は体格のいい五十代の男だった。白髪交じりの顎髭。目には、威圧の光。

「アルフォン=ヴェイン。貴様が副団長の書類仕事に首を突っ込んだそうだな」

「首を突っ込んだのではありません。依頼を受けて、適切な申請フローを教えただけです」

「副団長が、格下の小僧に頭を下げた。笑えない話だ」

「笑えない話は他にもあります」

 俺は一枚の紙を取り出した。

「こちら、騎士団過去十年間の予算執行記録の照合結果です。正規申請額と実支給額の差が、毎年コンスタントに発生しています。総額で金貨五万枚以上。この差額がどこに消えたか、団長はご存知ですか?」

 ドラクスの目が細くなった。

「……何が言いたい」

「別に何も。ただ、会計監査が入る前に、内部で整理されることをお勧めします。国王陛下は最近、財政改革に関心をお持ちらしいので」

 嘘だ。今の段階では、国王はまだ何も知らない。

 だが——ドラクスはそれを確認する手段を持たない。

 沈黙が流れた。

「……今日のところは帰っていい」

 ドラクスは絞り出すように言った。

「だが、覚えておけ。貴族の世界は書類だけでは動かん」

「承知しています」

 俺は立ち上がり、一礼した。

「だから私は、書類以外の準備も整えています」


帰り道。エルミナが馬で並走してきた。

「どうだった」

「牽制には成功した。ただ、向こうも本腰を入れてくる。次の一手を急ぐ必要がある」

「次は何をする」

 俺は空を見上げた。秋の空は高く、どこか前世の東京を思わせた。

「味方を増やす。まず、商業ギルドだ」

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