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転生官僚は最強のシステムを構築する  作者: 神代転一


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転生したら国家の帳簿がひどすぎた

その国は、滅びに向かっていた。


 白亜の王城は美しく、街は一見すると賑わっている。だがその裏で、農民は飢え、兵は装備を失い、魔物の影は年々濃くなっていた。


 原因は、誰の目にも明らかだった。


 ——腐敗。


 帳簿は改ざんされ、税は消え、責任は押し付けられる。仕組みそのものが歪み、正しく機能していない。


 それは、かつて俺がいた世界でも、何度も見てきた光景だった。


 だからこそ、理解している。


 どれほど立派な理念を掲げようと、どれほど優れた人材がいようと——「仕組み」が腐っていれば、すべては崩れる。


 そして逆に言えば。


 仕組みさえ正せば、国は変わる。


 人に頼るな。精神論に逃げるな。

 

 必要なのは、再現性のある構造と、逃げ場のない透明性。

 

 誰がやっても同じ結果になる「システム」だ。


 これは、英雄の物語ではない。


 剣も魔法も大して使えない、一人の官僚が。

 

 数字と記録と論理だけを武器に、腐りきった国家を作り替える物語である。


 ——さあ、改革を始めよう。

 目が覚めた瞬間、俺は確信した。

 また、書類の山の中で死にかけている——。

 違う、と気づくのに三秒かかった。

 視界の端に浮かぶ淡い光の文字。


【鑑定】

対象:ルドヴィア王国 第三次税務台帳(複写)

記録年:王暦447年

状態:改ざんあり(信頼度12%)

推定横領額:金貨2万3,400枚相当

関与貴族推定数:17名


俺は羊皮紙の束を膝の上に広げたまま、静かに目を閉じた。

 神代凛、享年三十五歳。

 総務省行政システム局・主任。

 日本の行政デジタル化に全力を注ぎ、過労死という形で人生を終えた男の末路がこれだ。気がついたら、剣と魔法の異世界——ルドヴィア王国の貴族の三男・アルフォン=ヴェインの体に転生していた。謎の神様から貰ったスキルが【万能書記官の眼】。あらゆるものを「鑑定」し「記録」し「演算」する、地味すぎる複合スキルだ。

 だが、この台帳を見た瞬間、俺の中で何かが燃え上がった。

「アルフォン様。お顔の色が優れませんが」

 声をかけてきたのは、書斎の片隅に控えていた少女だった。銀髪を三つ編みにした、十四歳ほどの使用人——ミラ。前世の記憶が教えてくれる。俺が転生したアルフォン=ヴェインの幼なじみで、今は付き人を務めている。

「大丈夫だ。それより、これを見ろ」

 俺は台帳の一ページを広げた。収入欄に堂々と記された数字。そして俺のスキルが弾き出した「実際の収入」との差。

「……え、随分と数字が違いますね?」

「随分、どころじゃない。この国の税収の半分以上が、どこかに消えている」

 ミラが青ざめる。当然だ。

 俺は静かに台帳を閉じ、窓の外を見た。王都の中心部に建つ白亜の宮殿。その美しさの裏で、どれだけの農民が死んでいるか。

 前世での俺は、抵抗勢力に潰され続けて過労死した。改革案を百本出して、通ったのは三本。上司に握りつぶされ、議会に否決され、それでも諦めずに働いて——死んだ。

 だが今は違う。

 俺には「鑑定・記録・演算」の複合スキルがある。データは嘘をつかない。証拠は逃げない。この眼が捉えたものは全て、完璧な記録として残り続ける。

 そして何より——俺はもう「お願いする側」じゃない。

「ミラ、紙とインクを用意してくれ。多めに」

「は、はい。何をお書きになるんですか?」

「改革案を書く。ルドヴィア王国を、根本から作り直す改革案を」

 ミラが目を丸くした。

 俺は答えながら、頭の中で設計図を描き始めていた。

 まず税務の透明化。次に支出の一元管理。予算の可視化、不正の追跡システム、そして官僚の評価制度の刷新——

「承知しました……!」

 ミラが部屋を飛び出す。

 俺は一人、夜の書斎で呟いた。

「今度こそ、誰も壊せないシステムを作る」


翌日、俺はヴェイン伯爵家の書庫に籠もっていた。

 目の前には三百年分の王国財政記録。

 普通の人間なら読み込むのに数十年かかるだろう。だが俺のスキルは、鑑定した資料を即座に数値化し、記録として脳内データベースに格納し、演算によって傾向分析まで完了させる。


【演算結果】

・過去50年間の税収推移:年平均-1.2%

・同期間の貴族資産推移:年平均+4.7%

・農村人口推移:年平均-0.8%

・魔物侵攻件数推移:年平均+3.1%

・国防予算の実支出(推定):名目の34%

結論:あと17年で財政破綻。魔物侵攻との複合で国家崩壊の可能性大。


想定より速い。

 俺は唇をきつく結んだ。放置すれば、数十万人が死ぬ。感傷に浸っている時間はない。

「失礼いたします」

 書庫の扉が開き、見知らぬ女性が入ってきた。鎧姿。銀と黒の騎士装束に、腰には長剣。身長は俺より高い。引き締まった体格に、切れ長の碧眼。年齢は二十五前後——


【鑑定】

エルミナ=ハルト

王国騎士団・副団長

戦闘力:S(王国最高峰)

事務処理能力:F(壊滅的)

現在の悩み:「月次報告書の書き方がわからない(三ヶ月連続)」


 ……Fか。

「アルフォン殿。父君のヴェイン伯爵から、あなたが財政に詳しいと聞いた」

 エルミナは真剣な目で俺を見た。

「騎士団の予算申請書を、半年前に提出したはずなのに、いまだ承認されていない。おかげで新兵の装備が足りず、先日の魔物迎撃で三名が負傷した」

 俺はピンときた。

「書類の書式が間違っていたか、提出先が違ったか、どちらかだ」

 エルミナが目を見開く。

「……なぜわかる」

「この国の予算申請フローは二系統ある。軍事費は財務省ではなく、王室直轄の軍務局に出さないといけない。財務省に出すと、棚上げされて終わりだ」

 三百年分の記録を読み込んだ俺には、この国の「お役所仕事」のパターンがすべて見えていた。書式の罠、提出先の迷宮、承認権限の曖昧さ——どれも、意図的に複雑にされているとしか思えない構造だ。腐敗貴族たちが、意図的に「わかりにくく」してある。

「……その知識、どこで」

「独学だ」

 エルミナはしばらく俺を見つめていた。それから、ゆっくりと頭を下げた。

「申請書の書き直しを、手伝ってもらえるか」

 俺は書きかけの改革案をいったん脇に置いた。

 これは小さな一歩だ。騎士団の予算申請一件など、国家改革の全体像から見れば塵に等しい。

 だが——前世の俺が学んだことがある。大きな改革は、信頼の積み重ねからしか始まらない。

「いいだろう。座ってくれ」

 エルミナが椅子を引く音。

 俺は新しい羊皮紙を取り出し、ペンを走らせ始めた。

 ルドヴィア王国の再建計画、第一歩。

 騎士団・装備予算の適正申請フロー構築——着手。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


 本作は、「もし行政のプロが異世界に行ったらどうなるのか」という発想から生まれました。剣や魔法で無双するのではなく、制度や仕組みそのものを作り替えることで世界を変えていく——そんな物語を書いてみたいと思ったのがきっかけです。


 現実の世界でも、問題の多くは「誰かが悪い」だけでなく、「仕組みがうまく機能していない」ことに起因しています。主人公の凛が持つ力は派手ではありませんが、だからこそ現実にも通じる“変革の形”を描けたらと考えています。


 また、堅いテーマだけでなく、エルミナをはじめとした個性的なキャラクターたちとの関係や成長も楽しんでいただければ嬉しいです。シリアスな改革の裏で、少しずつ広がっていく人との繋がりも、本作の大きな魅力の一つになるはずです。


 物語はまだ始まったばかりです。これから主人公の改革がどのように広がり、どんな反発や出会いを生むのか——ぜひ見届けていただければ幸いです。


 今後とも応援、よろしくお願いいたします。

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