第6話:ハウスの仲間
炎が消え、訓練場に静寂が戻った
ギルマスの炎とニナの水がぶつかった場所から、白い蒸気がゆっくりと立ち上っている
アルトが作った土壁は、パキッと乾いた音を立ててひび割れた
次の瞬間
ゴロゴロと崩れ落ちる
岩が床を転がり、砂煙が舞い上がった
アルトは大きく息を吐く
「……危なかった」
壁に触れていた右手をそっと離す
その手のひらは赤くなっていた
土を通して伝わった炎の熱で、軽く火傷していたのだ
アルトはすぐに手を軽く振る
そして何事もなかったように拳を握る
「よし」
振り返る
「三人とも大丈夫?」
ミミが元気よく手を挙げた
「大丈夫!」
カイルも大剣を肩に担ぎ直す
「問題ない」
二人はアルトの様子に特に違和感を感じていない
だが――
ニナだけは違った
視線がアルトの右手に向く
赤くなった指先
ほんの少し焦げた皮膚
アルトはすぐに手を後ろへ回した
気付かれないように
でも、遅かった
ニナは見ていた
そして思い出す
炎が飛んできた瞬間
アルトは三人より前に立っていた
あの炎は、避けようと思えば避けられた
でもアルトは避けなかった
最初から三人を背にする位置に立っていた
ニナは小さく眉を寄せる
(……この人)
その時だった
ミミがぴょんと跳ねた
「やったー!」
「勝ったよね!?」
腕の魔法道具を振りながら回る
カイルが言う
「当てたのはニナだ」
ミミが笑う
「でも三人で追い詰めた!」
ニナは短剣をゆっくり鞘に収めた
アルトを見る
アルトは両手を軽く上げた
「はい、完敗です」
ミミが嬉しそうに笑う
「アルくんめっちゃ強かった!」
「全然当たらなかった!」
カイルも頷く
「普通の冒険者なら最初の数分で終わっていた」
アルトは苦笑する
「ハウスの冒険者だからね」
「それくらい出来ないと怒られる」
その時
階段から重い足音が響いた
ドスン
ドスン
「……終わったか」
ギルマスだった
眠そうな顔のまま降りてくる
訓練場を見回す
砕けた岩
焦げた地面
濡れた床
そして四人
ギルマスはため息をついた
「……派手にやったな」
アルトが苦笑する
「ギルマスが炎飛ばしてきたんで」
ギルマスが睨む
「お前が風使ったからだ」
アルトが視線を逸らす
「……ごめんなさい」
ミミが手を挙げた
「それで!」
「私たち合格ですか!?」
ギルマスがアルトを見る
「当たったか?」
アルトはニナを見る
「一応」
ニナが小さく頷く
ギルマスは腕を組む
少し黙る
そして言った
「合格」
ミミが跳ねた
「やったーーー!!」
カイルも笑う
「よかった」
アルトが笑う
「ようこそ」
「ハウスへ」
ミミが興味津々で聞く
「アルくんもハウスの冒険者なんだよね?」
「うん」
アルトが頷く
「まぁ長くいるだけだけど」
ギルマスがぼそっと言う
「長くいる問題児だ」
アルトが苦笑する
「ひどい」
ミミが聞く
「ハウスってどんなギルド?」
ギルマスは短く答えた
「自由」
ミミが首を傾げる
「自由?」
ギルマスが続ける
「依頼も受ける」
「ダンジョンも潜る」
「好きにやれ」
少し間を置く
そして低い声で言った
「ただし、仲間は見捨てるな」
静かな言葉だった
だが重かった
カイルが頷く
「悪くない」
ミミも笑う
「うん!」
ニナも小さく言った
「……いいと思う」
アルトは三人を見る
「じゃあ」
「これからよろしく」
その時
ニナが静かに言った
「アルト」
アルトが振り向く
「ん?」
ニナは少しだけアルトの手を見る
アルトは気付いていない
ミミもカイルも気付いていない
ニナだけが知っている
さっきの火傷
そして――
アルトが避けなかった理由
ニナは小さく言った
「……ありがとう」
アルトの思考が止まる
(……え)
(今の)
(やばい)
(かわいい)
ミミが笑う
「アルくんまた固まってる!」
カイルが肩を叩く
「おい」
「大丈夫か」
アルトがゆっくり言う
「……大丈夫」
でもニナは思っていた
この人は
自分を守るより先に、
誰かを守る
そしてそのことに――
自分では気づいていない
ニナは小さく思った
(……変な人)
でも
ほんの少しだけ
口元が緩んだ
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