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エルフに土下座で告白したら振られたけど、なぜか一緒にダンジョン攻略することになった  作者: 紅茶伝


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第27話:残された温もりと、核の声

 

 ニナの手は、最後まで離れることなくアルトの指に絡められたまま残っていて、その接点からわずかに流れ続ける魔力が、先ほどまで崩壊しかけていた内側の均衡を静かに繋ぎ止めるように働き続けていることで、完全には安定していない状態を“なんとか保っている”という現実をはっきりと感じさせていた


 その温度ははっきりと分かるほど近く、わずかに震えている指先の力が伝わってくることで、ニナがどれだけ気を張ったままこの状態を維持しているのかを言葉にしなくても理解できる


「……ほんとに、大丈夫?」


 何度目か分からない問いかけは、抑えた声でありながらも奥にある不安を隠しきれておらず、ただ確認するための言葉ではなく“失いかけたものが戻っているか確かめ続けている”ような響きを持っていた


 アルトは小さく息を吐きながら、その言葉にどう返すべきか一瞬だけ迷う


 体の内側は確かに落ち着いている、あの崩れ落ちるような感覚も、頭の奥を焼くような痛みも、今はほとんど残っていない、それでも“完全に元通りか”と聞かれれば違うと分かっているからこそ、軽く答えることにほんのわずかな抵抗が生まれる


「……うん、大丈夫」


 それでもそう答えるしかなく、言葉としては簡単な一言でありながらも、その裏にある曖昧さを自分自身が一番理解していた


 ニナはその返答を聞いてもすぐには頷かず、視線を逸らさないままアルトの呼吸や表情のわずかな変化を読み取るように見続け、そのままほんの少しだけ指に力を込めることで“まだ繋いでいる理由”を無言のまま示してくる


「……無理してない?」


 重ねられる問いは、さっきよりも少しだけ低く、より直接的に内側を見ようとするものへと変わっていて、アルトはその視線に耐えながらほんの少しだけ苦笑する


「さっきからそればっかだな」


 軽く流そうとした言葉だったが、ニナは一切表情を変えず、ただ事実だけをそのまま返す


「……崩れてた」


 短いが、重い言葉だった


「だから、確認してる」


 それ以上でもそれ以下でもない、ただ“当然のこと”として言い切る声音に、余計な感情が混ざっていない分だけ、その心配がどれだけ真っ直ぐなものかがはっきりと伝わってくる


 アルトは一瞬だけ言葉を失い、視線を少しだけ逸らしてから小さく息を吐く


「……悪い」


 自然と出た謝罪に、ニナはすぐに首を振る


「違う」


 間を置かずに否定することで、その言葉をそのまま受け取らない意思を示しながら、ほんの少しだけ力を抜いた声で続ける


「戻ったから、大丈夫」


 その一言に含まれていたのは責める気持ちではなく、安堵だった


 だがそれでも、手は離さない


 そのまま、ほんの少しだけ力を残すことで、まだ終わっていないという判断を崩さない


 アルトはその感触をはっきりと感じながら、別の意味で意識が揺れるのを止められずにいた


 近い


 思っていた以上に距離が近い


 呼吸のわずかな揺れが分かるほどに近く、触れている部分から伝わる温度がやけに強く意識に残ることで、さっきまでの戦闘とは全く違う種類の緊張が胸の奥で膨らんでいく


(……やばい)


 思考が一瞬だけ逸れる


(……普通に可愛いとか思ってるし)


 気づいた瞬間に、自分で引く


(……何考えてんだよ)


 さっきまで崩壊しかけていたのに、助けてもらった直後なのに、そんなことを考えている自分に対して一気に嫌悪が押し寄せる


(……最悪だろ)


 だが、それでも消えない


(……離したくないとか思ってるし)


 はっきりと自覚してしまうことで、余計に逃げ場がなくなる


 視線を逸らし、呼吸を整えようとするが、内側のざわつきは簡単には収まらない


 ニナはそんな内面を知らないまま、ただアルトの状態だけを見ている


 わずかな変化も見逃さないように


「……まだ、変」


 小さく呟く


 断定ではないが、確信に近い言い方だった


 アルトはそれに対して何も返せず、ただ曖昧に息を吐くことでごまかすしかない


 そのとき、ふと頭の奥に引っかかっていた“何か”が浮かび上がる


 さっきの瞬間


 意識が落ちる直前


 あのとき確かにあった“声”


 思い出すというより、内側から浮かび上がってくる感覚


 ザ……


 わずかなノイズと共に、それははっきりと形を持つ


『……怖がらなくていい』


 静かで、穏やかな声だった


 押しつけるでもなく、命じるでもない


 ただ、寄り添うように響く声


 アルトの意識が、その瞬間だけその場へ引き戻される


『本来は、こうなるはずではなかった』


 続く言葉は、責任を感じているような響きを持っていた


『流れが乱れ、制御を失っていた』


 ダンジョンの異常が、繋がる


 あの歪み、あの暴走した魔物


 全部が一つの原因へと収束する


『……すまない』


 はっきりとした謝罪だった


 敵ではない


 むしろ、守る側に近い存在


『だが』


 わずかな間のあと、声が続く


『お前たちのおかげで、戻ることができた』


 その瞬間、胸の奥にじんわりとした感覚が広がる


 温かい


 不思議なほどに自然に受け入れられる感覚


『だから、少しだけ預ける』


 その言葉と同時に、内側の流れがわずかに変わる


 強くなるが、暴れない


 自然に馴染むように、そこに収まる


 そして――


 声は、静かに消える


 アルトはゆっくり息を吐き、現実へと意識を戻す


 目の前にはニナがいる


 変わらず近い距離で、手を繋いだまま


「……どうしたの」


 すぐに気づく


 ほんのわずかな変化に


 アルトは少しだけ言葉を選び、それからゆっくりと口を開く


「……さっき、核に触れたとき」


 ニナの視線がわずかに鋭くなる


「……声、聞こえた」


 空気が、ほんの少しだけ張り詰める


 ニナは何も言わない


 ただ、続きを待つ


 アルトはそのまま続ける


「……優しい感じだった」


 言葉を探しながら


「ダンジョンがおかしくなってたのは、制御できなくなってたからだって」


 ニナの瞳がわずかに揺れる


 ほんの一瞬だけ


 アルトはさらに続ける


「……ごめんって言ってた」


 静かに落ちる言葉


 ニナはそのまま聞く


「……俺たちのおかげで戻ったって」


 少しだけ、表情が緩む


 ほんのわずかに


「……あと」


 一拍置いて


「……少しだけ、力預けるって」


 言い切る


 沈黙が落ちる


 短いが、深い沈黙


 ニナがゆっくりと息を吐く


「……なら」


 小さく言う


「大丈夫」


 はっきりとした判断だった


 敵ではない


 危険ではない


 少なくとも、今は


 アルトは小さく頷く


「……多分な」


 そのまま、視線を落とす


 繋がれた手を見る


 まだ離れていない


 ニナも気づいているはずなのに、離さない


 その理由を言葉にしなくても分かるからこそ、アルトも何も言わない


 ただ、そのまま


 少しだけ近い距離で


 少しだけ長く


 その状態が続いていた


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