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エルフに土下座で告白したら振られたけど、なぜか一緒にダンジョン攻略することになった  作者: 紅茶伝


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第22話:選ばれる境界

 

 見えないはずの揺らぎは、ニナの指先がなぞるたびにその輪郭をわずかに浮かび上がらせ、まるで水面の奥に沈んでいたものがゆっくりとこちら側へと滲み出してくるように形を持ちはじめていたが、それは先ほど通ってきた安定した揺らぎとは明らかに質が異なり、空間そのものが薄く裂けているというよりも“深く沈んでいる穴”のように見え、覗き込めばそのまま底へ引きずり込まれるのではないかという感覚が視線に重く絡みついてくる


 誰もすぐには踏み込まない


 さっきまでの戦闘とは別の種類の緊張が、その場にゆっくりと広がっていく


 ミミが小さく息を呑みながらアルトの袖を軽く引く


「……これ、さっきのと違うよね」


 声はいつもより少しだけ小さいが、その中に混じる警戒ははっきりしている


 カイルも腕を組んだまま揺らぎを見下ろし、踏み込むべきかどうかを測るように視線を細める


「帰りのとは別物だな」


 低く言うその声には、これまでの経験からくる直感が含まれている


 ニナは何も言わず、ただ揺らぎのすぐ手前で止まり、その流れを確かめるように空間へと触れ続けていたが、ほんのわずかに眉を寄せることで、その中に含まれている“何か”を見極めようとしているのが分かる


 アルトはその横に立つ


 視線は揺らぎから離れない


 ズキッ


 頭の奥に走る痛みは、さっきよりもはっきりとした形を持ち始めていて、ただの違和感ではなく“反応”に近いものへと変わりつつあることを自覚する


(……これ)


 引かれる


 というよりも


 呼ばれているような感覚


 ニナが小さく言う


「……通れる」


 それは確認ではなく、確信に近い声音だった


 ミミが顔を上げる


「ほんとに?」


 ニナは頷く


「でも……」


 言葉を切る


 一瞬だけ視線がアルトに向く


「そのまま入ると、弾かれる」


 空気が変わる


 カイルが眉をひそめる


「弾かれる?」


 ニナはゆっくり説明するように言葉を選ぶ


「流れが合ってない」


「このままだと、通れない」


 アルトは理解する


(選ばれてる、のか)


 完全な確信ではない


 それでも感覚としては、はっきりしている


 カイルが一歩前に出る


「なら試す」


 止める前に、踏み込む


 揺らぎへ足を入れる


 その瞬間


 バチンッ


 見えない衝撃が弾ける


 空気が歪む


 カイルの体がわずかに後ろへ押し戻され、踏み込んだ足が滑るように戻される


「……チッ」


 舌打ちが漏れる


 ミミが目を見開く


「え、今のなに!?」


 カイルは足元を見て、もう一度踏み込もうとするが――


 ニナが静かに言う


「無理」


 短く、はっきりと


「通れない」


 カイルは少しだけ考え、それから肩をすくめる


「……なるほどな」


 完全に納得したわけではないが、状況は理解する


 ミミが不安そうにアルトを見る


「じゃあ、どうするの?」


 その問いに、誰もすぐには答えない


 アルトは揺らぎを見つめたまま、ゆっくりと一歩前に出る


 ニナが隣に並ぶ


 自然とそうなる位置


 カイルとミミは、その少し後ろで止まる


 距離が、変わる


 さっきまでの“四人で一つ”の形から


 わずかに分かれる配置へ


 ニナが言う


「……アルトは、通れる」


 迷いはない


 アルトは小さく息を吐く


 ズキッ


 痛みが強くなる


 それでも


 足は止まらない


「……行くよ」


 振り返らずに言う


 ミミが少しだけ慌てる


「ちょ、ちょっと待って!」


 一歩踏み出そうとするが――


 その瞬間、ほんのわずかに揺らぎが波打つ


 見えない壁のような圧が、そこにあることを本能的に理解する


 足が止まる


 カイルがその肩に手を置く


「無理に行くな」


 低く言う


 ミミは悔しそうに唇を噛むが、それでも無理に踏み込まない


 それが正しいと分かっているから


 ニナが一歩前へ出る


 アルトの隣に並ぶ


 ほんの少しだけ近い距離


 そして、短く言う


「……一緒に行く」


 アルトは横を見る


 一瞬だけ目が合う


 それだけで十分だった


 カイルが背中越しに言う


「行ってこい」


 短い言葉


 だがそこに迷いはない


 ミミも頷く


「待ってるから!」


 その声は少しだけ強がっているが、それでも信じているのが分かる


 アルトは軽く手を上げる


 それ以上は何も言わない


 ニナが揺らぎに手を伸ばす


 空間に触れる


 流れを整える


 ほんのわずかに、歪みが静まる


「……今」


 二人が同時に踏み出す


 足が境界を越える


 感覚が途切れる


 音が消える


 重さが抜ける


 落ちる感覚もないまま


 ただ、切り替わる


 ――その瞬間


 カイルとミミの視界から、二人の姿が消えた


 残された空間には、揺らぎだけが静かに揺れている


 戻ることも、追うこともできない境界の前で


 二人は、ただ立ち尽くす


 カイルがゆっくりと息を吐く


「……さて」


 ミミが不安そうに揺らぎを見る


「大丈夫かな……」


 その問いに、カイルは少しだけ笑う


「大丈夫だろ」


 根拠はない


 それでも、言い切る


「アイツならな」


 揺らぎは、何も語らない


 ただ静かに、そこに在り続けていた


 その向こう側で何が起きているのかを、完全に遮断したまま


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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