第17話:噛み合いはじめる四人
崩れ落ちた魔物の残骸は、乾いた砂のようにさらさらと散るのではなく、どこか湿り気を含んだ重たい粒としてゆっくりと形を失っていき、踏みしめるたびに靴の裏へまとわりつくような感触を残しながら、わずかに沈み込む地面の柔らかさとともに、この場所の異質さを静かに伝えていた
中心に残った黒い塊は、周囲の光を吸い込むように鈍く沈んだ色をしており、その表面には細く走るひび割れのような筋が幾重にも重なっていて、近づくにつれて空気がほんの少し冷えるような違和感が肌に触れることで、それがただの石ではなく、魔力の塊であることを自然と理解させる存在感を放っている
ミミがゆっくりとしゃがみ込み、指先で触れるか触れないかの距離を確かめてから慎重にそれを持ち上げる
「……これ、やっぱり核だよね?」
軽く指で叩くと、乾いた硬質な音が返ってくる
中に詰まっているものの密度が、そのまま音として響いていた
「魔石だね」
アルトが短く答える
「質も悪くない」
「ちゃんと換金できるやつ」
ミミの表情が一気に明るくなる
「よかった……ちゃんと稼げる!」
カイルが肩を回すと、鎧と布が擦れる低い音が重たく響き、その音がやけに長く残ることからも、この空間の密度の高さが伝わってくる
「戦って金になるなら文句はねえな」
軽く足元を踏み鳴らす
ズシ、と遅れて返ってくる感触
「……この地面、やっぱ変だな」
ミミも足を動かしながら頷く
「踏んだとき、ちょっと遅れて沈む感じする」
ニナは少し離れた位置に立ったまま、崩れた地面の断面や削れた跡をじっと見つめており、そこに残る目に見えない流れを追うように視線をゆっくりと動かしていた
完全に静まっていない
それどころか、ゆっくりと動いている
(……集まってる)
地面の下で、魔力が寄っていく感覚
ニナが顔を上げる
「……この先」
三人がそちらを見る
「同じの、来る」
「間隔が短い」
ミミが少しだけ顔をしかめる
「また連戦?」
ニナは首を横に振る
「違う」
一瞬だけ間を置いてから、言葉を続ける
「流れてきてる」
カイルの目が細くなる
「湧きじゃねえってことか」
アルトも足元を軽く踏み込むと、沈んだあとにわずかに押し返されるような感触の奥に、はっきりとした“動き”があるのを感じ取る
音でも振動でもない
でも確実に“そこにいる”
ズキッ
頭の奥に鋭い痛みが走る
(……やっぱり来てるな)
さっきより少し強い
それでも、顔には出さない
ミミがぱっと立ち上がる
「じゃあさ、集まる前に叩けばいいんじゃない?」
「溜まる場所分かるなら、そこやる!」
カイルが短く頷く
「正面で待つより楽だな」
ニナも静かに同意する
「……それでいい」
アルトは軽く笑う
「決まりだね」
四人の位置が自然に整う
誰かが指示したわけではないのに、カイルが前に出て、ミミが一歩引いた位置で装置を構え、ニナが全体を見渡せる角度へ移動し、アルトはその間を自由に動ける位置へと滑り込むように収まっていく
一歩進むごとに、空気がじわりと重くなる
足元の土が、内側から押し上げられるように膨らむ
一つではない
二つ、三つと同時に盛り上がる
「来る」
ニナの声が落ちる
次の瞬間
ドゴンッ!!!
地面が弾け、湿った土と細かい破片が飛び散る中から現れたのは、直径三メートルほどの丸い岩の胴体を持ち、その表面に無数のひび割れを走らせながら、内部で何かが擦れ合うような低い音を響かせている土の魔物で、その左右からは関節も指も持たないただの塊でありながら、振り下ろされればそれだけで地面ごと砕く質量を持った腕のような岩塊が突き出ていた
三体
ミミが思わず声を上げる
「いきなり三体!?」
カイルが踏み込む
「まとめて来い!」
足元が沈む
重さが返る
一体が腕を振り上げる
空気が押される
肌に圧が触れる
「右、強い」
ニナの短い声
その一言で、全員の動きが変わる
カイルが右へ寄り、アルトは中央へ滑り込み、ミミは角度をずらして装置を構え、ニナは一歩引いて全体の流れを捉える
「【雷よ】」
アルトの足に電流が走る
地面を弾くように加速する
岩の側面へ入り込み、剣を振る
ガンッ!!
硬い
振動が腕に残る
浅い
その瞬間
左から腕が薙ぐ
(届く)
避けられる
でも
後ろにミミがいる
(抜ける)
避ける動きが消える
代わりに、体が横に流れる
剣を当てる
ドンッ!!!
衝撃
完全に受けず、力を逸らす
足元へ逃がす
それでも重い
足が沈む
「今!」
ミミの声
装置が投げられる
「拘束!」
空間が沈む
一体の動きが鈍る
カイルが叩き込む
「【炎よ】!」
ドゴンッ!!
岩が割れ、熱が一瞬で広がり、焦げた匂いが空気に混ざる
「中心、下!」
ニナの声
アルトが即座に反応する
「【土よ】」
槍を生成し、狙いを変えて突き刺す
ズドンッ!!
一体目が崩れる
残り二体
同時に腕が振り上がる
広い範囲
ミミが息を呑む
「来る!」
ニナが一歩前に出る
「少しだけ、ずらす」
手をかざす
空気がわずかに歪む
完全には止めない
ほんの少しだけ軌道が変わる
そのズレを、アルトが拾う
(軽い)
体が動く
「今!」
カイルと同時に踏み込む
左右から叩く
ドンッ!!
二体目が崩れる
最後の一体
ミミが装置を重ねる
「固定、重ねる!」
動きが止まる
アルトが踏み込む
呼吸が浅い
頭がじんとする
それでも止まらない
「終わり」
槍を押し込む
ドンッ!!!
三体目が崩れる
重い音が地面に広がる
静寂
空気がさらに重くなる
ミミがその場にしゃがみ込む
「はぁ……でも今、めっちゃ良くなかった?」
カイルが笑う
「繋がってきたな」
アルトは軽く息を整える
右手を握る
少し鈍い
でも動く
ニナが隣に並ぶ
自然に同じ位置へ
「……今の」
小さく言う
「受けてない」
「流してた」
アルトが少し笑う
「見てたの?」
「見てた」
短く返す
「その方がいい」
アルトは頷く
「じゃあ次もそれでいく」
ニナもほんの少しだけ頷く
四人はまた歩き出す
深層の奥へ
重たい空気の中で
互いの動きを前提にした距離を保ちながら
少しずつ、確実に噛み合い始めていた
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