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エルフに土下座で告白したら振られたけど、なぜか一緒にダンジョン攻略することになった  作者: 紅茶伝


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第12話:止まれない理由とアルトの気持ち

 結界の中で、目を閉じる


 外の音が一段だけ遠くなる


 さっきまで耳に残っていた土の擦れる音や、かすかな振動が、膜を一枚挟んだみたいに鈍くなる


 ミミの声も、カイルの気配も、完全には消えないのに、少しだけ遠い


 その分だけ、内側がはっきりする


 頭の奥に残っている違和感だけが、浮き上がるように感じられた


(……今日、おかしい)


 じわ、とした鈍い痛み


 鋭くはないのに、じっと居座るような感覚


 消えそうで消えない

 気にしなければ忘れられる程度なのに、意識すると確実にそこにある


(中層だぞ)


 呼吸をひとつする


 空気は問題ない


 重くもないし、苦しくもない


 本来なら、まだ余裕がある場所


 深層とは違う


 体の奥に負担が溜まるような領域じゃない


 それなのに


(なんでだよ)


 最初に違和感を覚えたのは、中層に入って少し進んだあたり

 一歩踏み込んだとき

 足の裏に伝わる感触と、体の動きがほんの少しだけ噛み合わなかった


(あれ?って思ったんだよな)


 遅れたわけじゃない

 ちゃんと動いている

 剣も振れるし、距離も詰められる


 でも



(ほんの少しだけズレてる)


 それだけ


 ほんの一瞬のズレ


 普通なら気にしない


 でも


(自分の体だから分かる)


 足の運び


 重心の移動


 踏み込みの感覚


 全部が、ほんの少しだけ遅れてついてくる


(まぁ、疲れかと思ったけど)


 そうやって流した


 いつも通りに


 少しの違和感なら、気にしない


 動けるなら、それでいい


 そのまま進んだ


 戦闘に入る


 カイルが前に出る


 ミミが後ろから支える


 ニナが全体を見ている


(いい動きだった)


 自然とそう思った


 三人とも強い


 無駄がない


 だから


(多少無理しても、問題ない)


 そう判断した


 それが当たり前だった


 でも


(あの時も)


 魔物の攻撃


 軌道は読めていた


 タイミングも合っていた


 避けられる位置にいたはずだった


 それなのに


(……遅れた)


 ほんの一瞬


 ほんのわずか


 でも確実に、間に合わなかった


 風圧が当たるはずのない位置で、当たった


 腕に残る鈍い衝撃


(おかしいだろ)


 その違和感が消えない


 次の動き


(浅い)


 斬撃の手応えが軽い

 当たっているのに、届いていない


 力は出ているはずなのに


(なんでだよ)


 ズキッ


 頭の奥がまた痛む


 さっきより、少しだけ強い


(……これ)


 思い出す


 深層に近づいた時の感覚


 もっと奥


 魔力が濃くなった場所


 あの時と似ている


 でも違う


(あの時は深層だった)


(今は違う)


 まだ中層だ


 浅い場所のはずだ


 それなのに


(なんで同じ症状が出る)


 理由が分からない


 分からないまま


 いつも通り流そうとする


(まぁいいか)


 その思考が自然に出る


 昔からそうだった


 少しおかしくてもいい


 多少無理してもいい


(動けるなら問題ない)


 それでやってきた


 それで困ったことは――




 ……なかった、はずだ


 ふと、思い出す


 夜の空気


 噴水の水音


 冷たい石の感触


 ニナに手を取られた時のこと


 火傷していたはずの手


 残っていた痛み


 それが、気づいたら消えていた


(あれも……)


 水の魔法のはずだった


 でも違う


 冷やされた感覚じゃない


 もっと直接


 中に触れられたような感覚


 皮膚の上じゃなくて、その奥に触れられたような


(……なんなんだ、あれ)


 そして今日


 結界を整えたときも同じだった


 水がないのに


 流れだけが変わった


 魔力の形そのものが、自然に整えられていく


(魔力そのものを……?)


 一瞬だけ、そう思う

 でも確信はない


 分からないことが多すぎる


(まぁいいか)


 また流す


 今はそれより、自分の状態だ


 ズキッ


 また痛む


 さっきより、少しだけ深く刺さるような感覚


(……やっぱおかしいな)


 それでも


 止まるという選択肢は出てこない


 浮かぶのは別の言葉


「どうして奥に行こうとするの」


 ニナの声


 あの静かな視線と一緒に思い出す


(なんで、か)


 考えたことがなかった


 気づいたら、そうしていた


 奥に進めるなら進む

 危ない場所でも関係ない


 それが普通だった


 でも


 あの時だけは少し考えた


(なんで止まらない)


 答えは出ない


 でも、一つだけ分かる


(止まったら)


 呼吸が少しだけ浅くなる


(ダメな気がする)


 理由はない


 でも確信だけある


 止まった瞬間に


 何かが抜け落ちる気がする


 自分がここにいる意味が


(……意味ってなんだよ)


 小さく息が漏れる


 そんなこと、今まで考えたことなかった

 でも考え始めてしまった


 その時点で、もう戻れない気がする


 ニナの視線を思い出す


 静かで、逃げ場のない目


「無理しないで」


 あの短い言葉


(……気づいてるな)


 隠したつもりだったのに


 見抜かれている


 理由は分からない


 でも分かる


 それでも止まる気にはならない


(この三人なら)


 ミミの道具


 カイルの力


 ニナの判断


 頭の中で自然に並ぶ


(支えられる)


 だから


(多少無理してもいい)


 その考えが当たり前のように出る


 それが少しおかしいことにも気づかないまま


 目を開ける


 結界の外


 空気がまた重く戻る


 魔力の歪みが、肌の表面にまとわりつくような感覚


 頭の奥の違和感も、はっきり戻る


 それでも




(……行くか)



 迷いはない



 体が重くても


 頭が痛くても


(行けるなら、行く)


 それが自分だ


 そう思って、ゆっくりと立ち上がる




 ――止まれない理由に、まだ名前はない

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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