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エルフに土下座で告白したら振られたけど、なぜか一緒にダンジョン攻略することになった  作者: 紅茶伝


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第11話:止まれない理由

 戦闘の余韻が、まだその場に残っていた


 砕けた岩の粉が靴の裏でざり、と細かく潰れる


 焦げた匂いが薄く漂っていて、吸い込むたびに喉の奥に引っかかるような感覚が残る


 地面には、まだ消えきっていない魔力の揺らぎがあって

 踏み込むたびに、わずかに空気が震えるのが分かる







 ミミがその場に座り込む


「はぁぁ……」


 肩で息をしながら、そのまま地面に手をつく


 指先に付いた土を気にも留めないまま


「もう無理……ちょっと休憩……」


 カイルも剣を地面に突き立てる


 鈍い音が響き、刃が土に沈む


「ちょうどいい」


「この先はもっと厄介だ」


 その声は落ち着いているけど、呼吸はわずかに重い


 アルトは軽く周囲を見渡す


 壁の削れ方、通路の傾き、空気の流れ

 全部を一瞬でなぞるように確認する


「少し奥に、いい場所あるよ」


 そう言って歩き出す

 少し進むと、壁に囲まれた小さな空間に出る


 通路からわずかに外れていて、視線も通りにくい


 音も反響しにくく、空気の流れも緩やかだった


「ここなら安全」


 ミミがすぐに立ち上がる


 疲れているはずなのに、その動きは軽い


「任せて!」


 腕の魔法道具に指をかける


 カチッ


 乾いた音と同時に、水晶が淡く光る


「展開!」


 空気がふわりと揺れる


 目には見えない膜が広がって、外の気配がすっと遠ざかる


 さっきまで感じていた微かな振動や音が、少しだけ鈍くなる


 ミミが振り返る


「これでOK!」


 手を軽く叩くようにして結界の端を確認する


「中の音も外に漏れにくいし、安全だよ!」


 カイルが壁に手を当てる


 ざら、とした感触を確かめるように指を動かす


「……悪くない」


 アルトも少し笑う


「ほんと便利だね」


 ミミがポーチを開く


 布の擦れる音と一緒に、中身を取り出す


「はいこれ!」


 乾燥肉、ナッツ、干し果実


 指先でつまめる程度の量だけど、しっかりとした重みがある


「携帯食!」


 さらに小さな筒を取り出す


 ひねると、内部からひんやりとした空気が流れ出る


「これも」


 水が、静かに流れ出る


 透明で、冷えているのが分かる


「保存水!」


「魔法道具で冷やしてるの!」


 カイルが一口飲む


 喉を通る音が、静かな空間に小さく響く


「……うまいな」


 ミミが得意げに笑う


「でしょー!」


 そのやり取りを、ニナは静かに見ていた

 結界の縁に手をかざす


 指先でなぞるように、魔力の流れを追う


 触れているわけでもないのに、わずかに空気が揺れる


(安定してる)


(でも……)


 ほんのわずかな歪み

 整っているはずの流れの中に、引っかかるような違和感がある


 ニナは小さく言う


「……このダンジョン少し、魔力が乱れてる」


 カイルが眉をひそめる


「さっきの揺れか」


 アルトは黙って聞いている


 その時


 ニナの指先が、ほんの少し動く


 空気が静かに揺れる


 結界の一部が、自然に整っていく


 歪みが消える


 ミミが気づく


「あれ?今なにしたの?」


 ニナは短く答える


「整えただけ」


 それ以上は説明しない


 アルトはそれを見ていた


(水じゃない……?)


 水の魔法とは違う


 もっと直接的に、魔力そのものを触っている感覚


 一瞬だけ、背中に引っかかる違和感


 その時、ニナが言う


「アルト」


 アルトが振り向く


「なに?」


 ニナはまっすぐ見る


「さっき頭、押さえてた」


 ミミが驚く


「え?」


 カイルも振り向く


「本当か?」


 アルトは軽く笑う


「気のせいだよ、ちょっと疲れただけ」


 声は軽い


 でも


 ほんの一瞬だけ、呼吸が浅くなる


 ニナは目を逸らさない


「……そう」


 短く返す


 それ以上は追わない




 でも


 視線だけは外さない


 アルトは少しだけ視線を逸らす


「そんな心配しなくて大丈夫だって」


 ミミが笑う


「そーだよ!」


「アルくん強いし!」


 カイルも頷く


「余裕だったな」


 アルトは肩をすくめる


「まぁね」


 軽く返す


 そのやり取りの中で

 ニナは一人だけ違うものを見ていた


(違う)


(余裕じゃない)


(あの瞬間)


(ほんの少しだけ遅れた)



 記憶をなぞる


 動きのズレ

 呼吸の乱れ

 視線の揺れ



(……無理してる?)


 ミミがそのまま寝転がる


「はぁー」


「ダンジョンでご飯ってなんかいいね」


 カイルが小さく笑う


「慣れれば普通だ」


 アルトも壁にもたれる


 背中に伝わる冷たさ


 目を軽く閉じる


 呼吸が、ほんの少しだけ浅い


 ニナはそれを見る


(この人自分のこと、後回しにしてる)


 理由は分からない


 でも


 放っておけない


 言葉にならない感情が、胸の奥に残る


 ニナは小さく口を開く


「……どうして」


 アルトが目を開ける


「ん?」


 ニナは少しだけ間を置く


「そこまで奥に行こうとするの」


 アルトは少し考える


 少しだけ視線を上に向けて


「んー……なんでだろうね」


 小さく笑う


「気づいたら、奥に行きたくなるんだよね」


「危ないって分かってるんだけどさ」


 一度、息を吐く


「……行けるなら、行かなきゃって思う」


 軽い言葉


 でも


 ニナの中で何かが引っかかる


(違う、この人は)


(行きたいんじゃない)


(止まれない)


 ニナは何も言わない

 ただ、ほんの少しだけ視線を落とす


(……このままだと)


(どこかで壊れる)


 理由は分からない


 でも、そう感じる

 ミミが立ち上がる


「よし!」


「元気出た!」


 カイルも剣を持ち上げる


「行くか」


 結界の光が静かに消えていく


 空気がまた外と繋がる


 その中で、ニナはもう一度アルトを見る


 ほんの少しだけ迷うように


 そして


 何も言わずに歩き出す


 四人の足音が揃う


 ざり、ざり、と


 ダンジョンの奥へ


 止まれない少年と


 それを見過ごせない

 少女と共に

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