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三国志異伝~演算する剣鬼(守銭奴)~最強の秘書官・李司が通る道には死体と領収書しか残らない~  作者: 斉宮 柴野


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第十八話:侍女という名の最終兵器と、夫たちの絶望

絶世の美女は、

男を惑わせる存在である。


だが乱世では違う。


美女もまた

戦い、働き、

組織を支える者になる。

「貂蝉。今日の卒業試験のパフォーマンス、しっかりとこの目で確認させてもらいましたよ」


「……はい、ハァ……ハァ……ゼェ……」


この短期間で、よくぞここまで私の要求するハードル(KPI)をクリアしてきましたね。


「よく耐えました。木人の破壊タイムも規定値を上回り、偽造帳簿の不正の洗い出しと物理的な裁断も完璧です。私が再計算して最適化した地獄のカリキュラムを、見事に全て消化しましたね。これ以上、私から手取り足取り教えることは、もうありません」


「!!……ハァ、ハァ……で、では!私は……私はついに、貴女を超えたということですか!?」


本当にこの娘は、私に勝つこと(市場での独占的地位の確立)しか頭にありませんね。


「はい。貴女のその類まれなる努力と、私の完璧な指導メソッドの成果を正当に評価し……貴女が『私の侍女』となることを、正式に認めてあげましょう!」


「や、やったわ!!!!ついに……ついにこの私が、あんたに私の実力を認めさせたのよ!!長かった……本当に長かったわ!!岩を背負ってスクワットした日々も、謎の数式で脳みそが沸騰しそうになった夜も、すべてはこの瞬間のために……!!………あれ?」


(侍女?ライバルとして対等な立場とか、正室の座を脅かす後継者とかじゃなくて?侍女って言ったわよね、今?)


「定義しておきますが。世間一般の侍女と、私の直属の侍女ハイスペック・メイドとでは、求められる職務要件ジョブ・ディスクリプションが全く異なります。

私の侍女とは……戦場において双頭戟を回して敵の首を的確に斬り落とし、

宮廷において高度な謀略を駆使して政敵を社会的に抹殺し、

行政において一円の狂いもなく的確に収支計算を行い、

家庭においては子供たちを超優秀な資産へと育てる完璧な教育ママであり、

社交界においては誰よりも教養深く振る舞ってブランド価値を高め、

ねやにおいては男を完全に骨抜きにする……

これらすべてのタスクを、涼しい顔で同時にこなす究極のマルチタスク存在のことです」


「…………は?」


「何ですか、その反応は。理解できませんでしたか?」


「理解できるわけないでしょう!!それは侍女の仕事じゃないわよ!!ただの超人よ!!というか、ほとんどあんたの仕事じゃないの!!」


「ええ、そうです。だからこそ、私と同等のスペックを持つ侍女が必要なのです。私が産休(という名の一時的なバックオフィス専念期間)に入る間、私の業務を完全にアウトソーシングできる存在がね」


「ア、アウトソーシング!?つまり私は、あんたの身の回りのお世話をする侍女じゃなくて、ただの業務の丸投げ先ってこと!?」


「人聞きが悪いですね。権限委譲エンパワーメントと言いなさい。貴女は出会った当初、最後の『閨で男を骨抜きにする』という機能しか実装されていない、極めて用途の限られた単機能ツールでした。ですので、私が責任を持って、武力、知力、経理、兵站管理のすべてをアップデート(魔改造)してあげたのです。私という優秀なコンサルタントに感謝しなさい」


「(こめかみに青筋)……ピキッ!!」


(つまり私は、今まであんたの目には、ただの色仕掛けしかできない無能なツールとして映っていたと……!?ふざけないでよ!!洛陽一の美女に向かって!!)


「顔のパーツの配置が良いだけの不良債権から、ようやく私の『足元』には及ぶ優良資産へと成長しましたので、精々その職務に励みなさい。大いに期待していますよ、『私の劣化コピー』さん」


「ピキッピキッ!!」


貂蝉の額の青筋が、さらに枝分かれして増殖します。


「……は、はい!わかりました!奥方様のご期待に沿えるよう、粉骨砕身、努めさせていただきますわ!!」


(いつか絶対、絶対に寝首をかいてやる……!私のこの完璧に鍛え上げられた肉体と頭脳で、あんたのすべてを奪い取ってやるんだから……!)


いいですね。その反骨精神こそが、業務効率を最大化する最高のガソリンです。


「ああ、それと。我が社(陣営)は福利厚生も充実しています。貴女の働き次第で、特別ボーナスとして、希望すれば『我が夫ズ(董卓・袁紹・曹操・呂布)』の子供を産むことも許しますよ。」


「ズコーッ!!」


鍛え上げた体幹のおかげで、転び方すら美しいですね。


「許すのかよ!!なんであんたが夫の浮気(子作り)の許可権を完全に握ってるのよ!!」


「当然でしょう。彼らのスケジュールとリソースは、すべて私が管理しています。無断で他社の生産ライン(別の女)を稼働させることは、重大なコンプライアンス違反です。ですが、貴女は私が鍛え上げた優良な母体インフラです。貴女ならば、高品質な製品(子供)を生産できるでしょうから、特別に許可を下ろすと言っているのです」


「な……何をおっしゃいますか。私はあくまで奥方様の侍女で……そのような恐れ多いこと……」


「謙遜は不要です。市場の変化が激しいこの乱世において、優秀な遺伝子を受け継いだ子供(資産)はたくさんいたほうが、一族のポートフォリオの分散投資となり、確実なリスクヘッジになりますので。我が陣営の永続的な繁栄のために、貴女の子宮も最大限に活用しなさい」


「子宮の活用って……!あんた、本当に人間の心を持ってるの!?全部そろばんで計算してるじゃないの!」


「経営者に感情というバグは不要です。ただし!」


「どれだけ貴女が夫たちの子供を産み、彼らから寵愛を受けようとも、この陣営の『正室(CEO)』は私です。その座だけは、絶対に譲りません。もしも正室の座を手に入れたければ……」


「戦場のど真ん中で、私を物理的に倒して、実力でその座を奪い取りなさい。敵対的TOB(買収)はいつでも受けて立ちますよ」


「…………!!」


「……はい」


彼女は、ついに完全に屈服した声で返事をします。


(くっ……悔しいけれど……今の魔改造された私でも、この化け物みたいな女に正面から勝てる気が全くしない……!どれだけ私がレベルアップしても、この女は常にその遥か上空を飛んでいる……!)


彼女の絶望と諦め、そして新たな決意が入り交じった表情を楽しみながら、私は卒業試験の終了を宣言しました。

これで、私の産休中の業務引き継ぎ(丸投げ)は完璧です。










薄暗い路地裏を、一人の男がニヤニヤとだらしない顔を浮かべながらコソコソと歩いている。

あのヒゲのオッサン……天下の奸雄とか呼ばれてる曹操よ。


本当に呆れるわ。あの化け物…もとい李司様が妊娠中で動けないのをいいことに、ちょっと視察名目で長安に来た途端、これよ。


「さて……李司も妊娠中で忙しくてピリピリしてるし、俺だって毎日の行政の仕事でストレスが限界なんだ。たまには息抜きに女遊びでもしないと、男として枯れちまうからな……」


「あそこの妓女は長安でも一、二を争う評判らしいからな。俺のへそくりを使えば、李司の厳しい経理監査の目も誤魔化せるはずだ。今夜は久しぶりに、天下の曹操の夜の武勇伝を作ってやるぞ……」


完全に頭の中がピンク色に染まりきっているわね。


あの女好きのオッサン、自分がどれだけ完璧な監視システム(私)の網の中にいるのか、全く理解していないのよ。


私は今、曹操がいる路地裏から遥か彼方、およそ三百メートルは離れている長安の巨大な城壁の上に立っている。


これも李司の押し付けよ。「私の侍女たるもの、後方からの遠距離物理支援は必須です。この特注の弓で、三百メートル先のゴマ粒を撃ち抜けるようになりなさい」とか、平気で狂ったノルマを課してきたわ。


曹操が一歩、遊郭の敷地内に足を踏み出そうとした。

その瞬間。


私はロングボウの弦をギリギリと限界まで引き絞り、狙いを定めて指を離す。


ヒュンッ!!


空気を鋭く切り裂く風切り音。


ドスッ!!


「ひっ!!」


曹操の鼻先、わずか数センチの地面の石畳に、私が放った矢が凄まじい勢いで突き刺さる。


正直、ちょっと当ててやりたい気もしたけど、李司から「殺すのはまだダメです。不良債権処理が面倒になりますから」って言われてるから手加減してあげたのよ。感謝しなさいよね。


「曹丞相ーーッ!!」


怒鳴り声だけど、絶世の美女としての優雅さだけは絶対に忘れないわ。


「こんな時間に、そのような風紀の乱れた場所で、一体何をなさるおつもりですかーーッ!!不純異性交遊に、李司様の決裁印は降りていないはずですよーーッ!!」


「さ、三百メートル先から威嚇射撃だと!?」


「あの細腕で、どんだけ強弓を引いてるんだ!?しかもこんな豆粒みたいな距離から、俺の鼻先数センチを正確に狙い撃つなんて……!呂布並み……いや、それ以上の異常な腕前になってるじゃないか!!」


あの時、お義父様の屋敷で「十八番目の味見」とか抜かした恨み、まだ忘れてないからね。次また怪しい動きを見せたら、今度は威嚇じゃなくて、あんたのそのだらしない急所(股間)を直接射抜いてやるわよ。


「ご、ごめんなさい!!俺が悪かった!!今のはちょっと道を間違えただけだ!!」


「すぐに宿舎に直帰して、徹夜で明日の稟議書を書きます!!だから次の矢を番えるのはやめてくれーーッ!!」


本当に情けない男ね。李司の恐怖支配が骨の髄まで染み込んでいる証拠よ。


「目標の逃走と、業務への復帰を確認しましたわ。ミッション・コンプリートね」


「さて、曹丞相の勤怠管理の報告書をまとめて、洛陽の李司に送らなきゃ。あの女に提出するフォーマット、一文字でも間違えたらまた木刀で頭を叩かれるからね」










翌日。


「ぬうう……計算が全く合わん」


董卓が、丸太みたいな太い指で小さな算盤を弾きながら、太い眉間にシワを寄せている。筋肉が邪魔で、算盤の珠を正確に弾けていないのよ。不器用ね。


「貂蝉、ちょっと来てくれ!この長安西部地区の税収の報告書なのだが……どうも数字の辻褄が合わんのだ。各村からの徴収額と、府の国庫に入った額に、かなりの差異がある。これ、不正があるのではないか?」


「過去の帳簿との照らし合わせが面倒で面倒で……儂の脳みその筋肉が悲鳴を上げておるのだ」


「董相国。その件でしたら、すでに私の方で処理済みですわ」


李司の地獄のマルチタスク訓練のおかげで、右手で筆を持ちながら左手で算盤を弾くくらい、今では息をするようにできるのよ。


「長安西部地区の代官が、過去三年にわたって税の二割を中抜きし、自分の隠し口座に横領していました。帳簿の偽装工作はかなり巧妙でしたが、李司様直伝の財務分析アルゴリズムを通せば、あんな三流の粉飾決済など三秒で見抜けます」


「お、おお……処理済みとは。で、その横領していた代官はどうしたのだ?」


「ええ、先ほど私が直々に赴いて、物理的に解雇(半殺し)してきましたわ」


「物理的……解雇?」


「はい。言葉による説得(コンプライアンス指導)では応じなかったので、李司様から支給された双頭戟の柄の部分で、彼の膝の関節と右腕の骨を粉砕し、社会への復帰を少しばかり困難な状態にして差し上げましたの」


「ひっ……!」


天下の相国が、一介の侍女の暴力報告に怯えているわ。情けない。


「そして、彼の屋敷の隠し金庫を破壊して、未納分の税金はもちろんのこと、遅延損害金と私の出張手数料、さらには精神的苦痛への慰謝料を上乗せして、本来の税収の一二〇%の額をキッチリと現金で回収いたしました。国庫への入金処理も終わっていますわ」


「こちらの書類に、相国の承認印を押すだけで全ての処理が完了します。さあ、早く押してください」


「お、おお……仕事が早いな。早すぎるぞ……」


「お主……李儒より怖いぞ……。李儒は陰湿な策を練るが、お主は躊躇なく物理的な暴力と完璧な経理処理を同時にやってのけるからな。李司殿の教育の賜物というやつか……」


「本当に、李司殿が産休に入って不安だったが、お主がいてくれて助かる。頼りにしておるよ、貂蝉」


「(ニッコリ)お任せくださいませ」


「これくらい、李司様なら三秒で終わらせる仕事ですので。私なんて、まだまだ足元にも及びませんわ。もっと効率よく、より残酷に債権回収ができるよう、精進いたします」


(ふん。あの女に褒められるためじゃないわ。私が完璧に業務をこなすことで、あの女の存在価値を少しずつ奪ってやるのよ。いつか、「貂蝉の方が優秀だ」って、この筋肉オヤジどもに言わせてやるんだから!)













夕方。

私の休まる時間はまだ来ない。次は肉体労働(戦闘訓練)よ。


ガギィィィン!!


「遅い遅い遅い!!貂蝉!!もっとこい!!」


「そんなへっぴり腰じゃ、敵の皮一枚切れないぞ!もっと深く踏み込め!俺の懐に飛び込んでくる気概を見せろ!李司なら、そのタイミングで俺の首の動脈を正確に狙ってくるぞ!!」


「(髪を振り乱して)はあああああ!!!!」


「うるさい筋肉ダルマ!!いちいちあの女の名前を出さないでよ!!」


ドゴォッ!!


私の蹴りが、呂布の鋼のような腹筋に直撃する。


「ぐはっ!」


「やった……!一発入ったわ!」


私が歓喜の声を上げかけた、その時。


「……いいぞ!!」


「痛い!今のは骨に響いたぞ!効いた!!筋肉が喜んでる!!」


「えっ……?」


「燃える!!!!やっぱり女の細腕でも、的確に急所を突けばこれだけの破壊力が出るんだな!李司に教えられた通りだ!李司が産休で休んでる間、お前は俺の最高の相手(サンドバッグ兼スパーリングパートナー)だぜ、貂蝉!!さあ、もっと俺の筋肉を痛めつけてくれ!!」


完全にドMの狂戦士バーサーカーよ、こいつ。


「(肩で息をしながら)はぁ、はぁ……」


「ちょっと待って……タイム、タイムよ……」


「どうした!まだ百合(打ち合い)もやってないぞ!俺のアップはこれからだ!」


「あんたの体力基準で考えないでよ!私はまだ成長期の乙女なのよ!」


「この戦闘狂の相手をするのが、一番カロリー消費するわ……。いくら李司の特訓でスタミナがついても、こいつの相手を毎日してたら、過労死通り越してただの肉塊になっちゃうわよ……」


(でも、負けない。あの李司は、この筋肉バケモノを毎日手玉に取っていたのよ。私がここで音を上げたら、またあの女に『劣化コピー』って鼻で笑われるだけだわ。絶対に、こいつから一本取ってやる!)









私の本日の最後のミッションは、これまた厄介な場所にある。

名門・袁紹の巨大な屋敷。その奥にある、世界で一番カオスな空間、子供部屋よ。


「こら、曹昂!袁譚のおもちゃを取るんじゃないわよ!順番って言葉を知らないの!?」


私は、手際よく赤ん坊のオムツを替えながら、部屋の真ん中で取っ組み合いの喧嘩をしている二人のクソガキに向かって怒鳴りつける。


「なんだよ貂蝉ねーちゃん!袁譚が貸してくれないから悪いんだぞ!」


曹昂が、生意気な口答えをしてくる。こいつ、親父譲りの女好きのくせに、変に頭の回転が速いから厄介なのよね。


「僕が先に遊んでたんだ!曹昂はいつも力ずくで奪おうとする!野蛮だ!」


袁譚が、曹昂の頭をポカポカと叩きながら泣き喚く。こいつもこいつで、名門のプライドだけが高くて我慢が足りないのよ。


「うるさーい!!どっちもどっちよ!!」


私はオムツ替えを神速で終わらせると、立ち上がり、二人のガキの頭の上に両拳を振り下ろす。


ゴチン!!


「いったぁ~!」


手加減はしてるけど、李司直伝の「気」を込めた拳骨よ。相当痛いはずだわ。


「喧嘩する元気があるなら、外で千回素振りしてきなさい!ここは遊び場じゃないのよ!」


横のベビーベッドでは、、董白が、「私にも構え」と言わんばかりに大声で泣き出している。さらにその横には、呂玲綺までがおしゃぶりを噛みながらハイハイでこちらに向かってきている。


「はいはい、董白ちゃん、お腹すいたのね。今ミルク作るからね。玲綺ちゃんはそこにあるダンベル(幼児用)でも舐めてなさい」


もう、完全に保育園のベテラン保育士よ。絶世の美女の面影はどこへ消えたのよ。


「おお、貂蝉。すっかり子守りが上手くなったな!」


「あやし方も堂に入っている。さすがは李司が鍛え上げた侍女だ。これなら、我々が安心して政務や戦場に集中できるというものだ。袁家の跡継ぎたちも、お前の厳しい教育のおかげでたくましく育ちそうだな」


(あんたの跡継ぎ、さっきまでおもちゃの取り合いで泣き喚いてたわよ。たくましいどころか、ただのワガママよ)


「貂蝉ねーちゃん、怒るとすげえ怖いけど、ご飯作らせるとめっちゃ料理は美味いんだよな。李司母上のご飯は、栄養価が高すぎて味がしないから嫌いなんだ」


頭の痛みが引いた曹昂が、調子に乗って私にすり寄ってくる。


「そうそう!貂蝉ねーちゃんの作ったハンバーグ、最高だよ!僕たち、もう降参だよ」


袁譚も、涙目になりながら私のエプロンの裾を引っ張る。


「お母さん2セカンド!!!」


「…………ピキッ!」


「誰がお母さん2号よ!!」


「私はまだ独身の、ピチピチの華の十代よ!!あんたたちの母親になった覚えは一ミリもないわよ!!二号って何よ、二号って!!李司の代用品みたいな呼び方すんじゃないわよ!!あんまりふざけるなよ、このクソガキどもが!!次その呼び方したら、晩ご飯はプロテインの粉末だけにしてやるからな!!」


「く、口が悪くなっている……」


「あのかつての、上品で可憐だった貂蝉が……まるで市場で魚を売る荒くれのオバチャンのような口調に……。これもすべて、あの恐るべき李司の教育(魔改造)の賜物というわけか……。恐ろしい、恐ろしすぎるぞ、李司の教育システム……」


(ふん。口が悪くなって何が悪いっていうのよ。この異常な陣営で生き残って、あの悪魔みたいな李司を倒すためには、上品ぶってる暇なんかないのよ!)


董白の口に哺乳瓶を突っ込む。


「美味しい?美味しいわよね。たくさん飲んで、あんたの母親より強くなりなさいよ」


(見てなさいよ、李司……。私が必ず、あんたの築き上げたこの完璧なシステムを、私のこの手で乗っ取ってやるんだから……!まずは、明日の兵站の計算テストで、絶対に満点を取ってやるわ!)


絶世の美女・貂蝉は、もはや自分が何と戦っているのか、本来の目的が何だったのかすら完全に忘れ去り、ただひたすらに「優秀なスーパー侍女」としての業務スキル向上に命を懸ける、悲しき企業戦士(社畜キメラ)へと変貌を遂げていた。








髪はボサボサ、着物は泥と汗とベビーフードの残骸でドロドロよ。


かつて洛陽一の美女と謳われ、殿方たちから蝶よ花よとチヤホヤされていた私の面影は、もはや一ミリも残っていない。


今日一日を振り返るだけで、胃酸が逆流してきそうになる。


これ、全部一人の人間の、たった一日の業務スケジュールなのよ?

頭がおかしいわ。完全に労働基準法という概念が崩壊している。


でも、これらをすべて完璧にこなさないと、あの悪魔みたいな女――李司に、鼻で笑われて「劣化コピー」の烙印を押されるだけ。


それだけは絶対に嫌よ。私のプライドが許さない。

私は、いつか必ずあの女を超えて、私の足元に跪かせてやるんだから。


「……貂蝉です。本日の業務報告に参りました」


寝室の中は、最高級の香木が焚き染められていて、むせ返るような甘い香りが漂っている。


その姿を見た瞬間、私の中で猛烈な殺意(嫉妬)が湧き上がる。

こっちは一日中泥水と汗にまみれて働き詰めだっていうのに、この女は綺麗にお風呂に入って、リラックスモードで優雅に寛いでいるじゃないの!


しかも、寝間着姿だっていうのに、その姿勢には一切の隙がない。

背筋はピンと伸び、どこから攻撃されても一瞬で反撃できるような、恐ろしい体幹のバランスを保っている。


本当に人間なの? この女。寝る時くらいダラッとしなさいよ。


「本日のカリキュラム、およびすべての業務、滞りなく完了いたしましたわ」


「ご苦労様でした、貂蝉」


「孟徳、本初、奉先、仲穎……あの四人の夫ズの管理状況、及び子供たちの育成と兵站の計算処理……今日の報告書データを見る限り、すべて合格点です。私の設定したKPIをしっかりとクリアしていますね。だいぶ、私の手足として『使える』ようになりました」


「……光栄ですわ」


(使えるようになった、じゃないわよ。こっちは命削ってやってるのよ。褒めるならボーナスの一割でも寄越しない。いや、今はそんなことより、とにかく一秒でも早く自分の部屋に帰って泥のように眠りたい……。頼むから手短に終わらせてよね)


「さて、本日の業務報告はこれで終了ですが。貴女に、非常に重要な業務連絡があります」


私は嫌な予感しかしないわ。この女が「重要な業務連絡」と言う時、ろくなことがあった試しがない。


また新しい微積分の公式でも暗記しろって言うの? それとも、明日のスクワットの回数が一万回に増えるの?


「今度は、本初の子を身籠りました」


「…………は?」


「えっ? 身籠った? 本初様の子供を……ですか?」


「ええ。前回の出産(仲穎の子)から、私の綿密な母体回復プログラムを遂行し、完璧なタイミングで生産ラインを再稼働させました。予定通りのスケジュールで、本初の遺伝子を持つ新たな優良資産が、私の子宮に着床したのを確認しました」


なんなのこの女。本当に細胞レベルで自分の体を管理してるの?

というか、また産む気!?

この前、董白を産んだばかりじゃないの!


年子でボコボコと子供を量産する気なの!? この女の体、どういう構造になってるのよ!


「は、はい……。それは、誠に……おめでとうございます……」


(また産むのかこの人は……。っていうか、妊娠したってことは、また私がベビーシッターの業務を押し付けられるってことじゃないの! 今でもクソガキどもの世話で手一杯なのに、これ以上増えたら私の精神が崩壊するわよ!)


「ついては……。これから私が臨月に入るまでの数ヶ月間、私は胎児の健全な育成と、初期段階の安定化を図るため、夜の業務を完全に休業します」


「夜の業務……?」


「ええ。つまり、私の代わりに、我が夫ズ(孟徳、本初、奉先、仲穎)の夜の相手メンテナンスは、貴女がしなさい」


「…………」


「……は?」


私は、自分の口から出た声が、誰か他人のもののように聞こえるわ。

え?今、この女、なんて言った?


「よ、夜の相手……? 私が……ですか?」


「ええ。そうです」


李司が、全く表情を変えずに肯定する。


「あいつら四人とも、無駄に精力が余ってうるさいのです。私が相手をしないとなると、必ず不満バグが溜まり、日中の行政や軍事の業務効率に悪影響を及ぼします。それは我が陣営にとっての重大な損失ロスです。ですから、私が休業している間、貴女が責任を持って四人を徹底的に絞り取って、大人しくさせるように」


「よ、四人全員……ですか?」


「当然でしょう。誰か一人だけを贔屓すれば、残りの三人のモチベーションが低下します。均等に、かつ徹底的にリソースを配分しなさい」


ふざけるな!!

冗談じゃないわよ!!


あの四人の相手を、私が全部一人で!?

頭がおかしいんじゃないの!?


まず、曹操。

あの女好きのスケベオヤジ!


書斎ではポエムの朗読で私を直立不動にさせて精神を削ってくるくせに、夜の寝室になったら絶対にネチネチと気持ち悪い手口で絡んでくるに決まってるわ!


「貂蝉殿……君のその美しい肌は、まるで月の光を浴びた白玉のようだ……」とか、聞くに堪えないクサい台詞を吐きながら迫ってくる未来が容易に想像できる。鳥肌が立つわ!


次に、袁紹。

あの名門のプライドの塊のエプロンおじさん!

昼間は台所でブロッコリーを茹でてるくせに、夜になったら絶対に面倒くさい性癖を押し付けてくるはずよ!


「名門袁家の血を絶やさないためにも、お前も励むのだ! ほら、俺のこの高貴なオーラを感じろ!」とか言いながら、無駄に上から目線で迫ってくるに違いない。想像しただけで胃が痛くなる!


そして、呂布。

あの純度一〇〇パーセントの筋肉ダルマ!

あいつの夜の相手なんて、もはやただの格闘技よ!


「おお! 貂蝉! その大殿筋の張り、素晴らしいぞ! もっと腰を入れろ! 筋肉が喜んでるぞ!」とか言いながら、絶対にプロレス技みたいな体位を要求してくるに決まってるわ!

下手したら、一晩で私の骨が数本折れるわよ! 命に関わるわ!


最後に、董卓。

あの超重量級の筋肉魔王!

あいつの体重と圧倒的なバルクで圧し掛かられたら、私の内臓が口から飛び出すわよ!


「ガハハハ! 貂蝉! 儂のこのパンプアップした大胸筋に顔を埋めるが良い!」とか言って、完全に窒息死させられる未来しか見えない!


「む、無理です!! 絶対に無理です!!」


私は、土下座の勢いで床に手をついて叫ぶ。


「あの四人の怪物の相手を一人でこなすなんて、人間の体力がもつわけないでしょう!? 私、明日には過労死どころか、物理的な肉塊になって死んでしまいますわ!!」


「何を弱音を吐いているのですか。私が組んだあの地獄の筋肉ブートキャンプを乗り越え、五千回の岩背負いスクワットをこなし、呂布のフルスイングを躱せるようになった貴女の今の強靭な肉体インフラなら、たかが四人の男の相手くらい、徹夜で連続してこなしても絶対に壊れないでしょう?」


いや、そういう問題じゃないのよ! 精神的な問題よ!


「嫌です!!いくらなんでもそんな業務、侍女の仕事の範疇を超えていますわ!! パワハラです!!労働基準監督署に駆け込みますよ!!」


「……そうですか。嫌ですか」


「嫌なら……」


李司は、腰に下げている愛用の剣の柄に手をかけ、親指でチャキッと鯉口を切る。


「戦場で、この私を物理的に倒してから、拒否権を行使しなさい」


「私の指示に従えない不良債権ポンコツに、この陣営で生きる価値はありません。今すぐここで、私と殺し合いをして、貴女が勝てばその業務命令は撤回してあげますよ。……できますか?」


妊婦だっていうのに、そのプレッシャーは普段の十倍は恐ろしい。


今の私が、ここで李司と戦った場合の勝率は?

……ゼロよ。完全なるゼロ。

私が剣を抜く前に、あの女の剣が私の首を正確にスパンッと切断する未来しか見えない。

いくら私が魔改造されて強くなったとはいえ、この女は根本的なステータスの次元が違う。

戦う=即死、という計算結果が、0.1秒で弾き出される。


(戦うよりマシだわ!! あの四人に一晩中絞り取られる方が、ここで首を撥ねられて一生を終えるより、一万倍マシよ!! 命あっての物種よ!!)


「……はい! 喜んでお受けいたしますわ!!」


「奥方様が安心して産休に入れるよう、私が責任を持って、あの四人の精力を一滴残らず徹底的に絞り尽くして、骨抜きにして差し上げますわ!! お任せくださいませ!!」


ヤケクソよ。もうどうにでもなれだわ。


「素晴らしい返事です。やはり貴女は優秀な人材ですね。では、早速ローテーションを組んで実行に移しなさい。まずは孟徳あたりからが良いでしょう。彼のポエムの朗読は、夜の営みの前戯としては非常に退屈で無駄な時間なので、手刀で気絶させてから事を始めるのがタイムパフォーマンスが良くてお勧めですよ」


気絶させてからって、それもう夜の営みじゃなくてただの犯罪じゃないの!?

でも、あのポエムを聞かなくて済むなら、それも一つの手かもしれないわね……。


「……承知いたしましたわ。奥方様のアドバイス、肝に銘じて業務に邁進いたします……」


「では、私はこれで失礼いたします。明日の早朝のスクワットに備えて、プロテインを飲んで寝ますので……」


「ええ、おやすみなさい。四人の相手、期待していますよ」


ああ……終わったわ。私の人生、完全に終わった。

絶世の美女として天下の権力者を操るはずだったのに、どうしてこうなったのよ。


李司の奴隷として働き詰めな上に、あのむさ苦しいオッサン四人の夜の相手までさせられるなんて。


もう、完全に高級娼婦兼、戦闘用サイボーグ兼、ベビーシッターじゃないの。


でも、負けないわ。

私は絶対に、この過酷な労働環境を生き抜いてみせる。


あの四人を完全に骨抜きにして、私の虜にして、いつか必ずこの陣営の実権を内部から乗っ取ってやるんだから。

その時こそ、あの李司の余裕ぶった顔を泥水に沈めてやるわ。







こうして、私、貂蝉は、李司という絶対的な独裁者が産休に入っている間、漢王朝最強の「第二夫人(実質的な現場監督)」という、極めてブラックな役職に就くことになってしまったのだ。

長安の夜は、私によって完全に支配(管理)されることになる。


数日後の夜。

私の部屋の扉を、コンコンと控えめに叩く音がする。


「貂蝉殿……起きているかね? 俺だ、孟徳だ」


「李司が産休で相手をしてくれないから、最近どうも夜が寝付けなくてな……。君の美しい顔を見れば、少しは心が安らぐかと思ってね。……入ってもいいだろうか?」


本当に愚かな男ね。

李司の不在をいいことに、私で羽を伸ばそうって魂胆でしょうけど、そうはいかないわよ。


私は、李司から徹底的に叩き込まれた「効率的で容赦のない業務処理(物理)」を、ここで遺憾なく発揮してやるわ。


「ええ、孟徳様。開いておりますわ。どうぞお入りになって」


「おお!すまんな。邪魔をするよ」


彼は私を見るなり、鼻の下を限界まで伸ばして近づいてくる。


「いやあ、貂蝉殿。君のその薄着の姿、実に美しい……。李司の堅苦しい鎧姿とは大違いだ。今夜は、君と二人きりで、俺の最新のポエムについて朝まで語り合おうじゃないか……」


「ポエムの朗読は、タイムパフォーマンスが悪すぎますわ!!」


「えっ!?」


右腕を彼の首の下に滑り込ませ、鍛え上げられた大腿四頭筋のバネを全開にして、彼の体を空高く持ち上げる。


「な、なんだ!? 貂蝉殿!?」


「李司様直伝の、夜の業務効率化(プロレス技)ですわ!! 喰らいなさい!!」


頭から真っ逆さまに床に向かって叩きつける。

完璧なフォームから繰り出される、必殺のバックドロップよ。


ドゴォォォォン!!!


「ぐはぁっ……!!」


見事な一撃だわ。これなら、あの面倒くさいポエムを三時間も聞かされる無駄な時間を完全にカットできる。


李司のアドバイス通り、手刀よりバックドロップの方が確実で手っ取り早いわね。


「ふう……。さて、まずは一人目、完了ね。気絶している間に、さっさと業務(夜の相手)を済ませてしまうとしましょう」


私は、床に倒れている孟徳を足で転がしながら、非常に事務的な手つきで彼の帯を解き始める。


翌日の夜は、本初がターゲットだった。

彼は「名門袁家の血を引く俺が、直々に相手をしてやろう!」と無駄に上から目線で部屋にやってきたわ。


もちろん、彼が服を脱ぐ前に、私は彼の延髄に強烈なドロップキックを叩き込み、一撃で沈黙させてやった。


「名門の血よりも、私の睡眠時間の方が大事ですわ!」と吐き捨てながら、私は気絶した本初の相手を無表情でこなした。


その次の夜は、奉先。

こいつが一番厄介だったわ。


「おお、貂蝉! 今夜はベッドの上で、俺の大胸筋とお前の広背筋、どちらが強いか勝負だ!」とか言いながら、完全にスパーリングのテンションで組みかかってきたのよ。


私は、李司から教わった関節技をフル活用して、一時間ほど寝室でガチの総合格闘技の死闘を繰り広げたわ。


最終的に、私が奉先の右腕を腕ひしぎ十字固めで極めながら、彼の首を三角締めで落として、なんとか勝利(気絶)をもぎ取った。


あいつの筋肉、本当に硬すぎて私の足が折れるかと思ったわ。でも、気絶させてしまえばこっちのものよ。


そして最後の夜は、仲穎。

あの巨体で「ガハハハ! 貂蝉、儂の胸に飛び込んでこい!」と圧し掛かってこようとした瞬間。


私は、部屋の天井の梁を利用して三角跳びをし、彼の巨大な頭頂部に向かって、全体重を乗せたかかと落とし(トマホーク・チョップ)を炸裂させてやったわ。


さすがの筋肉魔王も、脳天への物理攻撃には耐えられず、ドドォォン! と地響きを立ててその場に倒れ伏した。

あの巨体をベッドに引きずり上げるのが一番の重労働だったわね。


彼らは翌朝、首や腰に激しい痛みを抱えながら目を覚まし、「あれ? 昨夜はどうやって寝たんだっけ……?なぜか体がバキバキなんだが……」と記憶喪失に陥っている。


そして、私は涼しい顔で「皆様、昨夜はとても激しくて、私、体が持ちませんわ……」と嘘泣きをして誤魔化すのだ。

完璧な業務遂行よ。これぞ、ハイスペック・メイドの真骨頂ね。


李司が産休から復帰するまでの間。

私はこの過酷な夜のローテーション業務と、日中の地獄の修行をこなしながら、静かに、そして確実に自分の牙を研ぎ澄まし続ける。

いつか必ず、この理不尽な世界をひっくり返し、私がナンバーワンの座に君臨するその日のために。


私の戦いは、まだまだ終わらないわ。


皆さんは


・曹操のバックドロップ

・袁紹のドロップキック

・呂布の格闘戦

・董卓のかかと落とし


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