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追放者、温泉でスローライフしてたら王都が大変でした  作者: キンキンタロー


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4/20

追放者、学院に潜入する

王国から届いた一枚の紙きれは、世界を変えた。

内容は簡潔だった。

辺境の逸材を王立学院へ編入せよ。

理由は学術的配慮――誰かがそう書いたらしいが、字面と実態は別物だった。

書類を差し出した役人は眉を寄せながらため息をつき、やけに手慣れた口調で告げた。

「特例ですから。寮は女性専用の空きがあります。そちらに入寮で」


悠斗は湯気の立つ鍋を見つめ、紙を丸めるつもりでそれを受け取った。

だが丸める暇はなかった。

気づけばミラが荷造り袋を胴に投げ入れ、エリスは薬箱を抱えて「文句あるなら寮長に言ってきて」と言い残した。

セレネは眉を上げるだけで、一連の手配を済ませてしまった。


学院は石造りの重厚な建物と、広い中庭、そして古典的な桜並木を擁していた。

入学式は儀礼的で、壇上からは学問と伝統の説教が降ってきた。

だが悠斗が眺めているのは窓際の光と、遠目に見える女子生徒たちの笑い声だ。


学園という装置は本当に効率が良い。

数ページで関係性が再配置され、物語は学園パートへと滑り込んでいった。


入学手続きの窓口にいたのは、黒縁眼鏡の女教官だった。

長髪をゆるくまとめ、書類を整理する指先に学園モノの匂いが漂う。


彼女は悠斗を一瞥すると、にっこり笑ってこう言った。

「特例入学は歓迎します。ただし、住居は女性寮になります。例の理由でね」

理由は当然説明されない。

寮の鍵はするりと彼の掌に落ちた。


ミラとエリスは先に寮の部屋を確保し、先輩たちが歓迎の挨拶をする間に悠斗は何となく居間で座っていた。

女子寮の空気は柔らかく、匂いは洗剤とハーブティーと人のぬくもりだった。


授業は多岐にわたった。

魔法理論、剣術実技、薬学、古代史。

悠斗は出席を「適当」にし続けた。

温泉と飯と昼寝を優先するのだ。

だが、適応は無関係ではいられない。

教室の黒板の図式は彼が眺めるだけで整理され、方程式の向きが自然と理解可能なフォントに変わる。

剣術の稽古場ではミラが横について補助する。

一緒に稽古をすることがいつの間にか夜の短い会話へと滑っていった。


エリスとは図書館でよく会った。

彼女は古びた薬草学の本を抱え、頁の隙間から薬草の匂いを放つ。

彼女が一冊の古書を差し出すと、その手が触れた瞬間に悠斗の掌に薬草の温度が移るような気がした。


「悠斗、これ読んでみて。温泉の成分と薬草の相性について詳しいの」

彼女の声は真剣で、湯気の立つ午後の余韻みたいに柔らかい。

悠斗は微かに笑って本を受け取った。

学問は義務ではなく、彼女たちとの時間へと変わる。


寮では自然発生的に「温泉研究部」が結成された。

名誉部長とは名ばかりで、実際の活動は深夜の温泉談義と、効能のための材料集めだ。

部員はことごとく女性で固められ、部室はあっという間に居心地の良い秘密基地になった。

学園モノの好都合が、静かに現実化していく。


学園らしい小事件も起きた。

図書館で古代の封印図が勝手に輝き、頁から黒い文字が浮かび上がる。

「触るな」と教授は叫んだが、悠斗の存在はまたしても不思議な安定をもたらした。

彼がただ図に視線を落とすだけで、暴走は小康状態へと回帰した。

結果、彼は学内で注目を浴び、学園新聞はそれを「辺境出身の希有な才能」とやや大げさに報じた。


注目は女性陣の感情を早める。

夜、寮の小さな祭で提灯の光が揺れる中、歓迎会は自然に告白コースへ滑り込んだ。

ゲームはいつの間にか「誰と最後に同じ布団で寝るか」を決める古典的な流れになり、笑い声と赤面が混じる。


エリスは薬の隣で囁くように言った。

「悠斗とずっと薬を調合したい」

ミラは剣の手入れをしながら、低い声で言った。

「君の背中を守るって約束は、本気だ」

セレネは夜の屋上で星を見上げ、甘く言う。

「学園の秘密を教えるわ。でもその代わり……あなたのことを教えて」

新入りの理学部の才女は手に持った論文を差し出し、演劇部の娘は台詞の練習を口実に距離を詰める。

男たちは「遠征」「留年」「家庭の事情」として自然に姿を消した。

学園はいつもそうやって、世界を都合よく整理する。


悠斗は決めない。決めることが目的ではない。彼はそっと提案した。

「今夜は全員で温泉に入ろう。話はそこでゆっくりしよう」

提案は歓迎され、夜は柔らかく溶けた。

湯気の向こうで笑い声が波打ち、誰かの髪が肩に触れ、誰かの手がすっと重なる。

学園の時間はじんわりと、だが確実に彼を中心に回り始める。


朝、机の上には小さな紙切れが一枚置かれていた。そこにはタグがいくつか印刷されているように見える——学園、編入、ハーレム、寮生活。

ページの端で作者っぽい声が満足げに呟いた。

「学園は本当に便利ですね。フラグ立てが捗ります」


悠斗は窓の外の朝靄を見つめ、軽く湯気のように息を吐いた。

温泉は学院から遠くない。

授業はたまに出席する。

女たちは学園で今日も彼を中心に動く。

スローライフと学生生活、どちらも彼のものだと彼は思った――だが、ページの端には常に新しい仕掛けが潜んでいる。


次回、学園祭の準備が進む中で起きる小さな事件と、演劇部の幕が上がったときに明かされる「ある秘密」が、静かに物語を揺らし始めるだろう。


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