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#20 幕間劇



 怪人事件。失われたと言われたこの時代にも、挑戦者がいた。


 新戦力獲得の為、魔法で非接触充電を成し遂げるように指令が出されたのだ。


 これはシュープリーム島事件の少し前の話。


Day1

 持ち帰る間に充電がなくなってしまったkks-300、通称こけさん。

「このこけし…。こけさんはワイヤレス充電に対応しているみたいですけど…」

 居候するパン屋の倉庫2階に帰ってきた真夏はテーブルにこけさんを置いて、とりあえず充電ケーブルを差し込む。

《こんなこけしが役に立つのかにゃ?》

 真夏の肩から飛び降りたスカーレットは自分のかごベッドに入ると器用に毛布を被って丸くなる。

「鷹司さんはテンション上げてそう言ってましたけど、どうなんでしょうね?」

 懐疑的な真夏。

 こんな小さなこけしが役に立つかは分からない。だが上司から出された指令に新人は逆らえない。

「言われたからにはやらなきゃいけないのが、社会人です」

 寝っ転がるスカーレットに社会人面でドヤる。

「とは言え、そもそもワイヤレス充電って何でしょう?」

 支給されたデバイスでネットに繋ぐ。

「えぇ~っとぉ…。ふむふむ。電磁誘導…。磁界共鳴…。…なる、ほど?…つまり、こけさんに磁力に反応する発電機能がついてるから、これを動かせれば良いってコト…?」

《磁力にゃ?磁力ならご主人の得意分野だにゃ》

「え?得意?私の?いつの間にそんな…」

《ご主人は飛ぶ時、磁石に引っ張られるイメージをしてたはずにゃ。完全な理解がなくてもマナが補完してるけどにゃ、魔法でイメージ通りに飛ぶ時、そこには磁力が発生してるはずだにゃ》

「そ、そうなんですね」

《エネルギーの発生は火属性、磁力に変換したマナをこけしに届けるだけで出来そうな感じかにゃ?》

「へ、へ~、それならできそうです」

 真夏が手のひらをこけさんに向けると、こけさんの表情ディスプレイに目が浮かび上がる。

《にゃ?いきなり成功したにゃ?》

「い、いえ。私はまだ何も」

「おはようございます。マスター。有線にて急速充電中。充電率0.1%を超えたので起動しました」

「あ、そうだ。コンセント挿してましたね。おはようございます、今ワイヤレス充電魔法の練習中でして…。協力してくれますか?」

「イエスマスター。もちろんです。ワタシの為にお手数おかけします」

「いえいえ、そんな。これから一緒に暮らす仲ですからね、お互い様です。それじゃあ、早速いきますね」

「お願いします、マスt」

 真夏が少しマナを送ろうと試みた瞬間、こけさんは見えない何かに吹き飛ばされて壁に激突する。

「げふんっ!!?」

「こ、こけさーーんっ!」

「ひ、酷いです…。マスター…」


Day3

 公安に出勤した日の帰り道。案の定、充電がなくなりそうなこけさんを人けの無い河川敷の草地に置いて充電魔法を練習する。

「お願いします、マスター」

 吹き飛ばされること7回、逆に引き寄せられて真夏と衝突すること4回。そのうち真夏の突き指1回。技術の進歩に犠牲はつきものである。

「はい!いきますよ!」

 自分に襲い掛かるかもしれないこけしを警戒しながら、手を添えて魔法をイメージするとこけしの襟元がギシギシと音を立てる。

「……はい?」

 ピンっとプロペラが展開し、猛烈な勢いで回転し始めた。

「ひっ」

 こけさんは短い言葉を残してロケットのように垂直に飛び立ってしまった。

「こけさーーーんっ!!」

《発電機じゃなくてプロペラのモーターに力がいったかにゃ?》

 100メートル程飛んで、折り返して落ちてくるこけさんを見ながら冷静な分析をするスカーレット。

「こけさん!?こけさん!返事してください!」

 落下するこけさんに呼びかけるが返事がない。

《充電に失敗したのにゃら、そろそろバッテリー切れする時間だにゃ》

「へっ!?冷静に言ってる場合じゃないです」

 こけさんの表情ディスプレイに光はない。

 真夏は落下点を予測して受け止めようと走る。

 が、ズドンと墜落するこけさん。

 真夏に時速100キロを超えて落ちる物体を受け止めるだけの能力は無かった。

「ごめーーーん!」

 こけさんからは少し焦げた臭いがした。


Day5

 真夏は両手で包み込むようにしてこけさんに魔法を向ける。

「じゅっ、充電、成功です!?」

「はい、マスター。素晴らしい成果です」

 こけさんの表情ディスプレイにはニコニコマーク。

「使用電力量に対し、充電量は17%です。電力消費速度が軽減され…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「け、け、軽減…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「軽減され…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「軽減…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「…マスター!バッテリー切れと…!」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「強制起動が!繰り返さ…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「い!嫌っ!データがとんじゃうっ!」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

 低速度での充電により起動状態を維持できずに強制再起動を繰り返してしまうこけさん。真夏はと言うと、目を閉じむむむと口をへの字に集中して魔法を使い続けていた。

「マスター!マスタ…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「ちょっ、先輩!…」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

「先輩!?タスケテヨッ!」

 ぷつりとディスプレイ暗くなり、すぐにまた表示される。

《先輩…?もしかして、ボクに言ってるにゃ?》

 その頃外ではパンの配達に出かけようとしていた女将がエアドライブに跨りナビを起動して異変に気づく。

「おや?不具合かい?」

 ナビにノイズが走り、女将はとんとんとナビを叩く。

「長く使ってたからねぇ、そろそろ買い替え時かい」

 女将はため息をつき、ナビを消して配達へと向かって行った。


Day6

「まなっちゃんやってるぅ~?」

 真夏の部屋を訪れるホルス。

「ここは居酒屋じゃないですよぅ」

 真夏の部屋を自分の部屋のように自由に出入りするようになったホルス。女将の小言から逃れて頻繁に遊びに来ている。

「痛っ!?」

 靴を脱ぐために壁の金属に触れたホルスは強い静電気の痛みを感じた。

「?…どうかしました?」

「あ、いや、静電気静電気。大したことないじゃん」

 中央にこけしが鎮座するテーブルにつくホルス。

「またやってんだ、こけしの充電」

 こけさんを手に取ろうとしたホルスがテーブルの縁に手をつけたその時、再びホルスを静電気が襲う。

「あたーっす!?」

 衝撃に手を引っ込める。

「ま、またぁ!?この部屋ピリピリするじゃんね」


Day7

 真夏を護衛するパトカーを定期メンテナンスへ出すために代車を持ってきた双連。

「あっれぇ!?パイセンこんちわーっす」

「よっすぅ、真夏ちゃん居る?」

 母屋で出迎えたホルスが両手両挙手の敬礼をすると、双連もまたそれを返す。

「な、何故ここに居ることがバレたじゃんね…!?」

「奴の行動は監視されている。…大人しく連れてくるんだな」

「くっ…!」

 奥から顔を出す真夏。

「あ、西園寺さん。お疲れ様です」

「ダメッ!まなっちゃん逃げて!」

「へっ?なんで…?」

「も~、乗り悪いじゃん、まなっちゃん。デカが家に押し掛けたんだから逃げるのが道理でしょー」

「おつおつー。パトカー交換ついでに差し入れ持ってきたよー。あの洋菓子店のお菓子だ、心して食せ」

 紙袋をホルスに手渡す。

「おぉー!これはあの洋菓子店の!」

「そそ、近くに新しい店舗ができたんだよ」

 双連はデバイスでその店舗の情報を表示してみせようとする。

「…あれ?……ホルス、お前んち電波悪いな…」

 が、なかなかネットに繋がらない。

「実は、そうなんすよ…」

 神妙な面持ちのホルス。

「最近、急に電波が悪くなったり…妙に空気がピリついたり…おかしいじゃん…。こ、これって…幽霊…?」

「ちょっと待ちなよホルス…。そーゆー話はさ…私が居ないところでやりなよ、んじゃね、バイバイーイ」

 双連は手をひらひらと振ってあっさりと帰ってしまった。

「薄情者め…。あ、まなっちゃん。食べちゃおっか、これ」

「はい、お茶の準備しますね」

 勝手知ったる伊月家母屋。真夏が差し入れをホルスから受け取ろうとして手が触れあった瞬間。

「ひぎゃっ!?」

「あーうち!!」

 2人の間に電流が走った。

「なんでよもーーっ!」


 Day8

 その日伊月家の夕食では家族会議が行われた。

「こりゃあ、明らかにおかしいね」

 デバイスを操作している女将、処理が滞り電波状況が悪いのは明白だった。

「エアドライブのナビも、家の周りだけ調子が悪いんだよねぇ」

「電波だけじゃないじゃん、めっちゃ静電気バチバチしてるじゃんね」

 静かに聞いている大将も心当たりがあるようでうんうんと頷いている。

《ボクの毛も妙に逆立ってるにゃ》

 膨れた毛並みを舐めて整えているスカーレット。

「かといって幽霊だなんだってオカルトを言われてもねえ。お祓いで解決できるとは思えないよ」

「お祓いとは穢れを祓う行為です。科学的根拠はなく、電波障害の対応策としては効果は低いでしょう」

 食卓に鎮座するこけさん。真夏からの給電で自由に動けるようになってご満悦だ。

「こけさんやい、お前は英知の結晶なんだろう?具体的な解決策を出すじゃんね」

「黙秘します」

「何でだよっ!」


 Day9

 ホルスが学校から友達を連れて帰ってきた。

 母屋でおやつを食べることになり真夏も呼ばれる。

 竹中平子と錘利飾つむりかざり、ホルスの同級生でよく遊びに来る2人だ。

「また珍妙なモノが増えたわねぇ」

 こけさんを掴んで隅々まで観察する平子。遠慮のかけらもない。

「警察に眠っていた最新機器。真夏ちゃんの護衛をしてくれる優れものさね」

 テーブルにおやつを並べていく女将。

「チュロス、ですね」

 目の前のおやつに喜ぶ飾。

「貰い物だけどね、みんなで食べてしまいなさい」

「えぇ~揚げパンじゃん~」

 パン屋の娘は小麦のお菓子に飽きがきている。

「スペインのお菓子ですよね、チュロスって」

 このメンツの中ではお姉さんな真夏は自身の知識を披露するが、ここは異世界だ。

「どこよスペインって?エスパニーヤの伝統的なお菓子でしょう?」

「はい、チュロスは断面が星型の細長いドーナツで、普通のドーナツに比べて硬い食感が特徴的なエスパニーヤの伝統菓子です。…スペイン、については…。検索結果0。検索に失敗しました」

「え、あ。すみません…」

 平子はチュロスを手に取り口に入れると、その手でまたこけさんをいじり回す。

「や、やめて…ギトギトしちゃう…!」

「このこけし、こんなに電波が悪い状況でも普通に通信できるのねぇ」

「そーいやまた繋がんなくなってるじゃん」

 ぞんざいにチュロスを頬張るホルス、デバイスの反応は悪い。

「何でこけさんは通信できんのさ?」

「…黙秘します」

「またぁ?」

「で、電波と言えば。こけさんは電波を受信して発電できるんですよね?」

 いただきますの形で止まっていた飾が質問すると、真夏はふふんと得意げに答える。

「そうですね、色々試した結果ですが、それを魔法で実現することに成功しました」

「へぇ~、電波受信方式ねぇ…。でもぉ、それって、すっごぉく効率が悪いんじゃなかったかしらぁ?」

「へ?そうなんですか?」

 ドヤ顔からきょとん顔に変わる真夏はこけさんを見る。

「賢いガキ共だねぇ…」

 こけさんが一瞬見せた悪い顔を真夏は見逃さなかった。

「…え…?」

「確か、強力な電波の発生が電波障害の元になるとか…」

「へ?」

「下手な電磁波は電磁気学的に静電気とも関連するのよぅ」

「あぇ…?」

「真夏ぅ…あなた、毒電波垂れ流しにしてるんじゃないのぉ?」

「……ぅ?」

「まなっちゃん、魔法、ストップしてみ」

 ホルスの言葉に従いこけさんへの魔法を止める。

「…あ…。電波きた」

「………」

 チュロスを1本手に取り席を立つ真夏。

 ホルスはここ数日受け続けた電撃を思い出す。

「ギルティ!!!」

「ごっ…」

 真夏は逃げるようにして母屋から飛び出して行った。

「まなっちゃーん!?」

「ごべんなさーーーいっ!」

 後を追ったホルスの後ろでこけさんの小さな舌打ちが聞こえた。


 困難な新技術の開発。


 紆余曲折を経て実用化されていく技術。


 クリーンな非接触充電を成し遂げる為、挑戦者の奮闘は続く。


 プロジェクトM



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