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#18 甘受すべき代償



 清水は一色との通信を終えると課長室で一人、深いため息をついた。

 敵側の罠が仕掛けてあることは想定していたものの、こうも堂々と裏切られるとは思っていなかった。しかし、一色から情報を得ることができた清水の顔にはまだ焦りの表情はない。

 頭を左右に振ってからぐるりと一周回して息を整える。

 清水は新たに音声通話をかける。

『……はい…』

 落ち着いた男の声が応える。

「あぁ、私です。先程の件ですが、やはり応援が必要なようで…」

『…わかりました。では、ザンドリーフの警察機動隊を動かしましょう。防衛省の火力には及びませんが、機動隊のバトルフレームでもないよりましでしょう』

「ありがとうございます。こちらも動けるものを連れて現場に向かいますので、シュープリーム島で合流するということで」

『ええ、そのように伝えます。…清水課長、あれは貴重な存在です。場合によっては…』

「承知しています。計画の為、幸谷真夏だけでも逃がしてみせます」

『…はい…よろしくお願いします…』

 ぷつりと通話が終了する。

 清水はネクタイを緩めて立ち上がり、課長室から出ると大きな声で呼びかける。

「危急の出動だ!動けるものは装備を整え、シュープリーム島へ飛べ!」

 清水の号令に十二名の捜査員が立ち上がる。



 シュープリーム島西側の沿岸で鳥型怪人と距離を保ちながら飛び続けている公安六課メンバー。

「やっぱり無理だったのか…?怪人の少ないところでこの体たらくか…」

 しょんぼりして俯いている舞杏。

「主任、明確にしておきたいことが」

「うん…?なにかな?」

 双連の問いに顔を上げる。

「人命が最優先。島の設備や建物への損害は二の次、人命の為であれば破壊活動は容認されると」

「う、うん?…積極的な破壊活動は認められないが、事件解決、怪人救済に必要であれば多少の損害は仕方ないことだろう?」

「なるほど、ありがとうございます。という事で、真夏ちゃんグッジョブ!」

 双連はパトカーの横を飛ぶ真夏に親指を立てる。

「ふぇ?」

 立てられた親指の意味が理解できずにポカンとする真夏をよそに双連は無線通信で呼びかける。

「kks-300!聞こえているなら返事をしなさい!」

「…!西園寺君…?やめるんだ、こけさんは、もう…」

 舞杏は唇を嚙みしめる。しかし、全員に通信が入る。

『…ーーー。電波妨害を確認…。アンチ、ジャミング使用の許可を…』

 ノイズ混じりだがこけさんの声が届く。

「こけさん!?」

「許可します。kks-300、生命探知機能で島民の位置をマッピング。真夏ちゃんのデバイスに送ってください!」

『かしこまりました、レディ。しかし、ワタシの生命探知機では外から建物の深部まで探知することはできません。建屋への侵入と侵入経路の確保の許可をお願いします』

 ノイズがなくなりこけさんの声が鮮明に聞こえる。

「許可します。すべての責任は主任が負います」

『イエス、レディ』

「!?」

「真夏ちゃん!人が居ない建物は破壊してしまって構いません。建物被害の責任はすべて主任が負います!」

「は、はいっ!」

「ちょっと、西園寺君!?」

 繰り返し押し付けられる責任にたじろぐ舞杏。

「ですがアンチジャミングはこけさんから半径2~3キロ程度です。離れ過ぎないようにしてください」

「そ、そうなの?中継ドローンとは繋がらない?」

「はい、残念ですが圏外です」

「で、でも。無事でよかったです、こけさん」

 こけさんの無事にほっと安心する真夏。

「まあ、kks-300はもともと捜査支援ロボットとして開発されたモノだから、攻撃性能は低いけど耐久性能はそこそこあるんだよ。そしてなんと支援機能についてはチート級なのだよ!」

「その代償にバッテリー駆動時間が致命的ですけどね」

 誇らしげな舞杏に双連がチクリと言う。

「し、しかし!その欠点は今、大魔女幸谷真夏の大魔法、マジカルワイヤレスチャージング!によって克服されたのだ!」

 ドヤる舞杏。島ではこけさんが高速で飛び回り、民家のガラス窓を突き破って侵入し、また別の窓から飛び出し生命探知のマッピングを構築していく。

『マスター!!』

 こけさんが叫ぶ。

「え、へ?私、ですか?」

『バッテリー残量11%!給電をお願いします!』

「へっ?あっ、そうですね。少し離れ過ぎてますね」

 無線給電魔法の範囲を離れていたため急速にバッテリー残量を減らしていたこけさん。

「さぁ真夏君!声高らかに叫ぶんだ!マジカルワイヤレスチャージングと!」

「あ、いえ、結構です」

『マスター!!!』

「い、今すぐ行きます」

『緊急事態です!島民が怪人に襲われています!海岸沿いの民家、マップ共有済み。確認してください!』

「西園寺君!急いでくれ!」

「了解!真夏ちゃん、先導します。付いて来てください!」

「は、はい!」

 高速で現場に向かう一行。

「主任、武装許可をお願いします!」

 その道中武装許可を願う双連。

「西園寺君が…!?なるほど、許可する。空の牽制を頼む」

「了解!kks-300!エアドライブの操縦を任せます!主任を下ろした後に鳥型怪人の牽制を行います」

 双連は狭い車内で舞杏と入替り助手席へ移動する。

『アイハブコントロール!』

 助手席でベルトを締めた双連。スイッチを操作すると屋根が開き、座席がせり上がってパトカーの外に双連の上半身が出てきた。パトカーの前部からはライフルが双連の取りやすい位置に出てくる。

「さ、西園寺さん!?」

 後ろを飛ぶ真夏、箱乗りでライフルを構える双連に驚く。

「空は任せて!真夏ちゃんは島民の救助を…!アイツ!さっきのタコ怪人!?」

 こけさんが指示した民家の玄関には建屋に入りきらないタコの足が見えている。

 ほんの数十秒前の事。その民家の津波対策用地下シェルターには親子が身を寄せ合っていた。母は地上の状況を確認するための扉の小さなガラスから入る光に揺らぎを感じ、ガラス越しに外の状況を確かめている。

(お父さん…?)

 物音もなく、実家の父が帰ってきたのかと思った母親はおずおずと扉を開けて様子を窺う。

「お父さん…。早くシェルターに…!?」

 しかし、民家に侵入してきたのは7本足となった蛸の怪人だった。

「ひっ!」

 扉から半身を出した母親はその怪人の姿を目撃し、驚いて扉を閉めようとするが人間の存在に気付いた蛸怪人は素早く触手を伸ばす。

「フシュッ!」

 幼い子供がきゃーっと悲鳴を上げる。

 蛸怪人の1本の触手がシェルターに入り込んでうねうねと内部を探るように動く。

「奥に行って!」

 怪人の触手を扉で挟み、これ以上の侵入を防ぐように体重をかけて扉にしがみつく母。しかし怪人の膂力に敵うはずもなく、怪人は触手を母親に巻き付けてシェルターから引きずり出した。

 泣き叫ぶ子供。母を追って扉に近づくが、母親は声を荒らげる。

「ダメッ!そこに居て!!」

 怪人に必死に抵抗しながらなんとかシェルターの扉を閉めようとするが、別の触手がそれを妨げシェルターに侵入する。

「やめてっ!やめてーーー!!」

 母の悲痛な叫び。怪人を何度も叩きつけるが触手は子どもに迫る。

《一本釣りにゃーーっ!!!》

 子供に触手が届く寸前、スカーレットの巨大化した前足が民家の玄関から蛸を釣り上げた。

「キャーーッ!?」

《お、女も釣れたにゃー!?》

「魔力砲は人間には無害、だとは思うが…!」

 宙に舞った怪人に舞杏が飛び付いて触手をスタンロッドで叩き、怯んだ隙に救助する。

「真夏君!撃ってくれ!」

「はい!」

 魔力砲を怪人に放つ。魔力砲は怪人の解放と共に民家の一部を破壊していった。

「…!?」 

 パニック状態で辺りを見回す母親。

「落ち着いてください、警察です。どこか安全な場所に避難を」

 舞杏が助けた女性を抱えて移動しようとすると女性は民家の入り口を指差す。

「ま、待ってください!子供が、子供が地下シェルターに!」

「シェルター…?ちょっとお待ちを」

 舞杏は女性を下ろしてシェルターに向かう。

(津波対策の地下シェルターか。扉は、内側から開かれた?破損はしてない…)

「大丈夫だよ。お母さんは無事だからね」

 シェルターに残された泣きじゃくる子供に声をかける舞杏。

「すみません奥さん、あのシェルターを貸してください!」

 外に出た舞杏。

「え?シェルターを貸す…?」

『主任!?急いでください!こっちに余裕はありませんからね!』

 双連に急かされる。

「あのシェルター、狭いが押し込めば数人は入れる。助けた怪人の一時避難所として使えないだろうか?」

「助けた、怪人…?…それって、どういうことですか?」

 女性の質問に舞杏は蛸怪人から人の姿に戻った老人を指差す。

「詳細は省くが、怪人は人間が変身した姿で…」

「お、お父さん!?」

 倒れた老人に駆け寄ると抱き起して呼びかけるが反応は無い。

(お父さん?…狭い島だ、身内を襲う怪人も出てきて当然か…)

「大丈夫、眠っているだけだ。それよりも今は避難を優先してくれ」

 舞杏は老人を抱えて女性と供に地下シェルターへ向かう。

「あと数人、ここに置いていきたい」

「は、はい。どうぞ使ってください」

 老人を下ろして外へ出る舞杏。

「西園寺君、地下シェルターを一時避難所として使わせてもらう。搬送を」

「了解!援護お願いします」

 こけさんが遠隔で操縦するパトカーが地上に降りてくる。

「猫君、援護を頼む。こけさんは周囲警戒、真夏君は堕とせる怪人は堕としてくれ」

「こ、ここで怪人化を解除するんですか?」

「ああ、地下シェルターはここだけじゃないはずだ」

『サブマスター、地下シェルターを有する民家をマップに表示しました』

「流石だこけさん!その調子で頼むぞ!」

《そーゆーことにゃらッ!》

 パトカーを追って高度を下げた鳥型怪人の一体に飛び掛かりジャンピング猫パンチをぶつけるスカーレット。

《ご主人!やっちゃうにゃ!》

「は、はわわっ!」

 強く地面に叩きつけられた怪人を心配しながらも真夏は魔力砲を放つ。

「スーちゃん、無理しないでくださいね」

 しかしそのワンシーンに他の鳥怪人達は迂闊に襲い掛かるのをやめて高度を上げた。

「よし、いける!外堀を埋めて確実に怪人を減らしていくぞ!」

 こけさんが戦闘に加わり、使える避難所が見つかる。事件解決の糸口が見えてきたことで俄然やる気になる舞杏だった。



 エール駐屯地の待機室で動けないままの一色小隊は周りが騒がしくなっていることに気づいた。

「何でしょうか?騒がしいですね」

 円が待機室の外を確認する。

 慌ただしく人が動いている。

「一色小隊!?まだ出てなかったのか?どうなってるんだ?」

 円を見つけた一人の整備士が足を止めた。

「どうしたんですか?私達には待機命令が出されています」

「待機!?」

 その整備士は待機室に半身入り一色を見る。

「一色軍曹!シュープリーム島で怪人発生!怪人の、大量発生です!」

「た、大量発生!?」

 その情報はシュープリーム島を自力で脱出した漁師からもたらされた情報だった。警察を経由して防衛省に届いた情報は通常のルートではなく、上層部に握りつぶされることなく伝わった。そして自主的に動き出した隊員達。その結果が今の騒ぎとなっている。

『---』

 しかしそれすらも想定していたかのように駐屯地全体にアナウンスされる。

『緊急事態発生、シュープリーム島にて怪人群発の情報あり。対怪人部隊は出動待機。繰り返すーーー』

「なっ!?まだ待機させるのか?」

 上層部の命令に怒りを覚えた一色は待機室を飛び出すが。

「待て!一色!」

 整備士の後ろから現れた大柄な男に押されて待機室に戻される。

「西田准尉?」

円莉子えんりこも落ち着け。上に掛け合っても無駄だ」

 西田と呼ばれた大柄の男は一色とまどかを落ち着かせると、整備士を持ち場に戻らせて待機室のドアを閉めた。

「どうやら上の連中、誰一人シュープリーム島に行かせるつもりはないらしい。上はシュープリーム島での怪人群発がエールでも発生する可能性があると言ってやがる」

「首都エールで!?」

 思わず声が大きくなる円。

「もしそうなれば大惨事は免れない…」

「………」

 西田の言葉に惨事を想像して沈黙する。

「だが最近、防衛省の動きに不審な点があるのも事実。怪人群発に公安だけで対処させるなんてのもどうかしてる」

「…はい、単体なら問題ないと思いますが、大量発生となれば公安だけで相手するのは難しいと思います」

 一色の言葉に西田が頷く。

「…一色小隊、俺が責任を持つ。お前たちだけでもシュープリーム島へ出撃しろ」

「だ、だめです!」

 反対の声を出したのは待機室の奥に居た一色小隊の1人、望月上等兵。

「その命令は准尉の権限を超えています!」

「わかっている!だが見捨てることはできない。怪人群発事件、公安の失敗で被害を受けるのはシュープリーム島の島民だぞ。なんの罪もない、我々が守るべき国民だ!」

「で、ですが!上層部は我々の知らない情報を持っているはずです。エールで怪人の大量発生の可能性があり、それが現実に起これば被害は甚大、辺境の島とは比べ物になりません!」

 望月は大先輩の上官に退かずに喰いつく。

「シュープリーム島の人口はせいぜい数百人…」

「望月!言葉には気を付けろ!」

 西田は望月の発言を遮り、声を荒げて威圧する。

「少数だからと見捨てていい訳じゃない!我々の仕事は国民を怪人から守ること、1人でも多くの国民を救う事だ。そのために今、上層部の命令に従ってはいられないと言っているんだ」

「ひ、1人でも多く救うため、防衛省が一丸となって動かなければならないのではないのでしょうか」

「お前はわからないのか!?今の防衛省が何者かの傀儡になっているということが!」

 圧を強める西田と怯む望月に割って入る円。

「待ってください、西田准尉。傀儡となっている証拠はまだありません。命令違反、無断出撃は重罪です。一色軍曹、小隊の方針を決めてください」

 円が望月を庇いながら一色の判断を仰ぐと、一色は2人の小隊員を順に見て数秒思案する。一色は円の視線に自分の判断を支持するという意志を感じ取った。

(防衛省に不信感を抱いているのは俺だけじゃない。西田准尉や円さんも信念を貫くつもりだ。だが望月の言う通り、首都での群発に備える必要もある…。より多くを、1人でも多くの人を助けるためには…)

「……。すみません、西田准尉。准尉の命令には従えません」



 海岸沿いの低い土地の民家には津波対策の地下シェルターが高確率で設置されていた。地下シェルター近く、地上の怪人が少ない場所へ鳥型怪人を誘導して怪人化を解除していく。舞杏は怪人化が解けて意識を失っている人間を地下シェルターに運搬し、双連は地上と空の怪人をライフルで牽制する。接近した怪人はスカーレットが弾き飛ばして真夏と舞杏から怪人を遠ざけ、こけさんはパトカーの操縦、付近の探索、アンチジャミングを担っていた。小中併設校体育館シェルターの避難所との連絡も試みるがまだ返事は無い。

「はぁ…はぁ…」

 連続で魔力砲を放ち息が上がる真夏。

(まずいにゃ、流石のご主人でもこの怪人の数には魔力切れしてしまうにゃ…。もう10人以上怪人化解除して、飛び続けて、こけしの充電までしてるにゃ。ボクの戦い方もご主人の魔力を使ってるし、このままじゃご主人が…)

 真夏の魔力切れを心配しているスカーレット。しかし息が上がっているのは舞杏も同じだった。科学的に強化された身体を持つ舞杏でも怪人を避け、時に戦い、人間を抱えて走るのは体力の消費が多いようだった。

「真夏君、大丈夫かい?」

 視界が開けた民家の屋根の上で一息つく舞杏。すぐ近くを飛ぶ真夏に声をかける。

「はい!まだぜんぜんいけます!」

 息を整えて答える真夏。

《ご主人、無理はダメだにゃ。魔力を使いすぎると命にかかわるにゃ》

《大丈夫です、魔力は、なんか平気みたいです》

《そんなわけないにゃ!あんなに魔力砲を撃って…。せめて無駄撃ちがないようにボクが怪人の動きを止めるから、魔力を温存するにゃ!》

 ぴょーんと飛び出して行くスカーレット。

「スーちゃんも、無理はしないでくださいね!」

《任せろにゃ!》

「猫君もやる気だね。こけさん、島の火災状況は?」

『はい、サブマスター。火災5個所の内、建屋の火災は自動消火設備で鎮火に向かっています。しかし、自動二輪車の火災が1件、消火されずに燃え広がりつつあり、放置すれば森林火災に繋がる恐れがあります。その他、体育館シェルターに集まる怪人が約30体。通信設備の一部が破壊され煙が上がっている様子。その為ここからでは連絡が取れません』

 島から上がる煙は減ってきている。だが黒煙が上がり続ける場所がある。

「シェルターのボヤは心配ないだろうが…。あそこか、少し高台だな…。こけさん、あの近くに地下シェルターは?」

『現時点では確認できていません。もうしばらくお待ちください』

「頼む」

 せわしなく飛び回るこけさん。

 化石燃料を使用する古いタイプの自動二輪車火災。走行中の島の老人を怪人が襲ったことで発生した火災だった。近くには犠牲になった島民の無惨な死体が転がっている。

 その近くに身を潜める少年と幼い少女が居た。

「お、お兄ちゃん…」

 口を押えながら、できるだけ声を出さないようにしている少女は涙を流している。

 少年は妹の手を握りながら二輪車の近くで倒れている老人を見つめる。

「じいちゃん…!」

 怪人事件発生時、学校に居た兄妹はシェルターへ避難できずに校舎裏の森に逃げることになった。その後、隠れながら家に帰ることを選択したその途中、倒れている祖父を見つけて立ち止まった。だが近くに怪人が居る為駆け寄ることもできなかった。歯がゆさに妹と繋ぐ手に力が入る。

「も、もうダメだ…。じいちゃんも、助けてくれた先生も死んで…!友達は怪人に変身した!もう、父さんも母さんもきっと…」

 必死に妹を守りここまで耐えてきた少年の目から涙がこぼれる。

 絶望する兄の姿に妹も堪えきれずに声を出して泣き出す。

「おじいちゃん…!」

 繋いだ手が離れ、少女が祖父の元へ歩き出す。

 少年も妹の後を追ってふらふらと歩き出した。

 そんな2人を怪人は見逃してはくれない。

 燃え盛る炎の傍、血まみれの祖父の手を取る少女。

「やだ!いやだよおじいちゃん!」

 立ち尽くす少年。怪人とは無縁だった島で起こった怪人の群発は少年と少女の心を折るには十分な事件だった。

 兄妹の存在に気付いた怪人が3体、新たな獲物に迫り来る。

「クウェーーーッ!!」

《そこまでにゃーっ!!!》

 飛び掛かるスカーレット。

 微動だにしない獲物に油断したのか、スカーレットの攻撃に反応することができなかった3体の怪人は道路脇の電信柱にべしべしべしっと弾かれて重なる。

《一発で3体解除の省エネにゃ!》

「はいっ!助かります!」

 電信柱を破壊しながらも3体の怪人化を解除する真夏。

「こけさん!消火できるか?」

『はい、サブマスター。消防ロボットとの通信に成功。最寄りの待機所から出動させます』

 怪人化が解けた3人をまとめて担ぎ上げる舞杏。

「しかし、困ったね…。この付近に地下シェルターは無いんだが…」

 消防ロボットよりも先にやって来た新たな怪人が吼える。それを聞きつけた近隣の怪人達も黒煙が上がるこの場所を目指して走り出していた。

「キミ達!ここは危険だ!付いて来てくれ!」

 3人抱えて精一杯の舞杏が駆け出すが島の兄妹は動かない。

「あ、あなた達は…?」

 涙を流す少年の問いかけ。

「警察だよ。ほらあそこ、パトカーも飛んでるだろう?もう少しで制空権が取れそうなんだが、いかんせん怪人が多すぎる。動けるなら自力で付いて来てくれ」

「…でも、じいちゃんが…」

(じいちゃん…家族か。既に死亡しているのは明らかだが、離れられないか…)

「キミ達、おじいさんの為にも今は生き抜くことを考えるんだ。…怪人は死んだ人をこれ以上傷つけたりしないだろう。もうすぐ消防ロボも来てくれるから、落ち着いたらまたここに来よう」

 少しの噓をついた舞杏。怪人が襲った人間を捕食した事件を知っていたが、今は子供たちを避難させる為になんとか励まそうと言葉を選ぶ。

「たっ、鷹司さん!囲まれます!」

《ボクが突破するにゃ!そこからここを抜けるのにゃ!》

 囲まれた四方の一角を切り崩しに向かうスカーレットだが、民家に潜んでいた怪人が突然飛び出して間に入り、スカーレットが孤立してしまった。

《にゃっ!?また増えたにゃ!?》

 後ろに現れた怪人に気を取られて前方から間を詰める怪人の攻撃に対応が遅れる。

「スーちゃん!」

 怪人の長い手が地面すれすれに振るわれて小さなスカーレットの体を薙ぎ払う。

《にゃふんっ!》

 飛ばされて壁に激突するスカーレット。

 駆け寄ろうと杖を怪人に向ける真夏だが、撃つのを躊躇う。

(今この状況で怪人化を解除したら、意識を失った人が別の怪人に襲われてしまいます!?)

 舞杏は既に3人抱え、小さな子供まで2人いる。双連は空の怪人で手一杯なこの状況でこれ以上怪人化を解くべきじゃないと考えた。

(で、でも何もしない訳には…!)

 覚悟を決めた真夏はスカーレットの傍に立つ怪人に狙いを定めるが、ピーッピーッとデバイスから音が鳴る。

(射線上に生体反応!?これじゃあ撃てません!)

 一瞬デバイスを確認した真夏は怪人の後ろの民家に人が隠れているのを知る。

「真夏君!一度空へ上がるんだ!」

 舞杏は意識の無い3人を下ろして泣いている少年と少女を掴み上げ、真夏に渡すように差し向ける。

「子供2人なら一緒に飛べるだろう?上で西園寺君と合流してパトカーで保護してくれ」

「た、鷹司さんは!?」

「真夏君が戻るまでなんとか凌いでみるさ」

 しかし空の双連は高速で飛び回り怪人を牽制している。とてもすぐには戻れないと思った真夏はまた二の足を踏む。

「行くんだ!真夏君!」

「で、でも…!」

 スカーレットもここに残していくことになる。

 よろよろと立ち上がりフシャーっと怪人を威嚇するスカーレット。

《ボ、ボクは大丈夫にゃ…!》

 スカーレットが立ち上がったことに安堵するが、思考が整理できずに動けない真夏。

「真夏君!」

 迫る怪人から逃げろと叫びを上げる舞杏。

 四方八方から迫る怪人、その中に超高速で接近する赤い機体があった。

「動くなッ!!」

 赤く目立つバトルフレームがそのまま超高速で通り過ぎ、その一瞬で周囲の怪人を撃ち倒した。

「きゃっ!!?」

 銃声は響き続ける。

 バトルフレームは怪人を次々に撃ち倒していく。

「防衛省!?やっと来やがったか!」

 難癖をつけるように言う舞杏だがほっとした表情を見せる。

「あっ!ちょっ!ちょっとやり過ぎじゃないですかぁー!?」

 怪人の血飛沫が舞うなかで真夏が叫ぶ。

 しかし、バトルフレームに装備された高火力の対怪人兵器は怪人を殺すことはなく、その足や羽を精確に撃ち抜き怪人達を行動不能に追い遣った。

「殺さないようにはしてくれてるみたいだね」

『怪人化が解除されても怪我は残りますが、この状況では致し方ないですね。こけさん、あのバトルフレームと無線を繋いでください』

『了解、接続します』

『赤い機体、聞こえますか?こちら公安六課西園寺。そちらは一色軍曹で相違無いでしょうか?』

 牽制していた鳥型怪人が堕とされて手すきになった双連は舞杏の傍に着陸する。

『聞こえます、こちら一色。救援遅くなってすみません』

「遅い!遅すぎる!遅刻もいいとこだよ一色君!防衛省は一体何を考えているんだ!?」

 淡々と怪人を行動不能にしていく一色にここぞとばかりに攻め立てる舞杏。

『す、すみません…』

『いえ、気にしないでください。来てくれないものと思っていましたから。島の怪人は100体を超えてるみたいです、防衛省の戦力はどれほどでしょうか?』

『戦力…は…1…?いや、ある意味、0でしょうか…』

『はい?』

『か、重ね重ね申し訳ありません。防衛省はこのシュープリーム島に部隊を送らず、首都怪人群発の可能性に備えて全隊員に待機を命令しました』

「…ふん、ならキミは命令違反かい?怪人で溢れ返るこの島を見殺しにしようって中で、キミだけ出撃させた訳じゃないんだろう?」

『…はい、自分はこの島の事件を知り、見捨てることができずに単独で飛び出してきました』

『助かりました。ですがこの件が片付けば軍法会議ですね』

『覚悟の上です!』

 躊躇うことなく怪人を撃ち続ける一色。自分にとって大事な人を撃ち抜いた一色にとって、相手が怪人になった民間人であろうと容赦なく攻撃することができている。

『命令違反も、民間人に銃を向ける罪も、すべてを背負う覚悟です!俺は…1人でも多くを、いや、俺の手が届くすべてを助けるためにここに来ました!』

『ふふっ、もし一色軍曹が軍を追放されたら公安で戦ってもらいましょうか、主任』

『是非お願いします!』

 一色の圧倒的な戦闘に笑顔の舞杏。

「ふざけるなッ!ウチにバトルフレームは配備されてないんだよ!機体の無いパイロットなんて馬の居ないジョッキーみたいなもんだ!」

 表情を一変させて鬼の形相。

『えぇ……』

 しゅんとする一色。

『すみません、気にしないでくださいね。主任、人としてダメなところがあるので…』

「聞こえてるぞー」

「あ、あのぅ…。倒れた怪人さんは、どうしましょう…」

 一色の登場によって優勢になり余裕がでてきた真夏。倒れた怪人が這ってでも動こうとしているのを見て魔力砲を撃つか迷っている。

「怪人化解除しても大丈夫でしょうか…?」

「んー。そうだね。一色君ひとりでも怪人を殲滅してしまいそうだ…。このまま一気に片付けてしまおうか。…その後は島民総出で怪我人の救護だね」

『自分が前に出ます!化け猫は魔女の護衛に専念させてください!』

《誰が化け猫にゃ…?》

 真夏の元へ戻るスカーレット。

「スーちゃん、怪我は!?」

 抱き上げて身体を隅々まで確認する。

《ご主人、大丈夫にゃ。なんとか防御が間に合ったにゃ…。それより!魔力は温存にゃ!倒れた怪人はボクが寄せ集めるから、乱発しちゃダメだにゃ!》

「わ、わかりました。でも、スーちゃんも無茶したらダメですからね」

 強がるもののボロボロになっているスカーレットを心配する。

《任せろにゃ!赤だるまには負けないにゃ!》

 一色に対抗心を燃やすスカーレット。倒れた怪人を弾いてまとめていく。

「それではこれよりシュープリーム島解放作戦を開始する!」

 張り切って号令をかける舞杏だが一色の凄まじい活躍に暫く静観するだけだった。

「それにしても、やっぱりすごいですね、噂の一色軍曹。私、知ってます。赤い機体は通常の3倍の性能が…」

『ねぇよそんな性能差!ふざけてないで迅速に怪人化の解除を!こちらは対怪人用シェルター周辺の掃討に入る!』

「ふぇっ!?もうそんなところに?」

 スカーレットを追って、数体固まった怪人に魔力砲を放ちながら進む真夏。いつの間にか一色の姿が見えなくなっていた。

『流石防衛省のエース。あれが一色軍曹の全力なんですね』

「これでも殺さないように加減してるんだ。恐ろしい奴だよ」

 2人の子供を乗せたパトカーで広範囲を警戒しながら飛ぶ双連。舞杏はスカーレットと真夏の後ろを追いかけながら怪人化が解けた負傷者に簡単な止血を施している。

『サブマスター。体育館シェルターとの通信に成功しました』

「よくやったこけさん!状況は?」

『はい、避難者97名。負傷者少数。島の現状を説明し、怪人解放後に外の負傷者の救助を要請しました』

「よし、いいぞ!勝利は目前だ、気を引き締めていこう!」

 舞杏は勝利を確信したかのように拳を握りしめた。



 シュープリーム島の北東3キロのところに一隻の駆逐艦が止まっている。

 異様な雰囲気に包まれたその船から水空両用型エアドライブがゆっくりと離れていく。エアドライブに乗る十数名の男女は運転手以外全員が眠っているようで車内は静まり返っていた。

 一方の駆逐艦内部。自動化が進み乗組員30人となるこの船に転がる銃殺死体が十数体。そんな死体を気にすることもなく艦橋には数人の乗組員。

「はぁ…米さん…。エール駐屯地は抑えてくれるって言ったのに…」

 外が見える席に体育座りでもじもじしている40代の男性がひとり、その後ろから声をかける若い男の乗組員。

「レイナさん」

「ん?やめろよその呼び方。このダンディなオジにその名は相応しくないぜ」

「では何と呼べば…?」

「艦長、ここではそう呼びな」

 風格のある帽子をきゅっと直してキメる艦長。

「はぁ…。艦長…公安六課が機動隊を動かしました。想定よりも早くこっちに到着しそうです」

「…そうだな。シュープリーム島の方も、ありゃぁダメだな…。あの魔女、幸谷真夏。あれは異常だ。まさかあれほどリベレーションを乱発しやがるなんて…!…はぁ…米さん…。せめて一色を止めてくれてさえいれば…」

 悔しそうな艦長はため息をついて指示を出す。

「…小田氏おだしに出撃準備させろ…。作戦を最終フェーズに移行する…」



 一色の戦力が加わり無双となった対怪人チーム。最も怪人が密集する体育館シェルターでさえ数分で制圧してみせた。一色、真夏とスカーレットが島に散る怪人を解放する中、島民を動員して舞杏指揮の下負傷者の救助活動が始まっていた。

『これで最後か?』

 一色が岸壁に張り付いていた怪人を掴んで地面に押さえ付ける。

「撃ちます!」

 真夏の声に一色が素早く怪人から離れると魔力砲が放たれる。

『本日10時時点での島民及び観光客の数と現在確認された人数と自力で島を脱出した避難者総数が過不足なく一致します。漏れがある可能性はありますが、ひとまず任務完了です!』

 島民輸送を担当していた双連が2人に追いつき報告する。

「や、やりましたぁ~」

 最後の怪人を無傷で解放してへなへなと座り込む真夏。

「やったね真夏ちゃん!大金星だ!」

 輸送のためにパトカーから飛び降りた双連が真夏に抱き着き地面に押し倒した。

「さ、西園寺さん…。苦しいです…」

 強く抱きしめられ、うぐぅと声を漏らす。

「あはは、ごめんごめん…。応援が到着するまでは気が抜けないよね。…こけさん、周辺警戒怠らずによろ~」

『了解、レディ』

 疲労感を見せる真夏。そんな真夏を不思議そうに見るスカーレットが居た。

(ご主人…これだけの魔力を使ってもまだ余裕があるのにゃ…?)

 スカーレットには女神から貰った転生特典の力で魔法についての知識を持っている。しかし実際に接している真夏と知識の中の魔法使いには大きな隔たりがあるのを感じた。

(ご主人はやっぱり…!)

《最強ーだにゃーッ!》

 一度気が抜け、また気を引き締め直そうとした2人の少女に飛び付いて喜びを身体いっぱいに表すスカーレット。

「ス、スーちゃん…!」

「こらこらネコちゃん、ふざけてないでこの人をシェルターに運ぶよ」

 双連は気を失って倒れている島民を抱える。

《オマエだってやってたにゃ》

「あ、手伝います」

「いいよ、真夏ちゃんはパトカー乗って休んでなよ」

「え、でも」

《いいにゃ、ご主人は魔力を使いすぎて疲れてるはずにゃ。雑用はコイツに任せて休んでるにゃ》

「先に乗ってなボウズ。助手席が開いてるぜぃ」

 手伝い不要とマッチョなポーズをとって真夏に休息を勧める。

「そうですか…?ではお先に…。よっこらせ」

 タイヤが戻らず地面すれすれで滞空飛行しているパトカーに乗り込む真夏。

《にゃっこらせ》

 ドアが閉められる前に真夏の膝に跳び乗るスカーレット。

 双連は慣れた手つきで島民を後部座席に乗せて運転席に座る。

「一色さ~ん、シェルターに向かいます。護衛お願いしまーす」

『…了解』

「いよ~っし、一段落だ~!」

 ハンドルを握らずにぐっと伸びをしてリラックスする双連。公安パトカーは自動で体育館シェルターに向かって飛び立つ。その後ろを一色が乗るバトルフレームが追従して飛んで行く。

『…!…北東方向約3キロ、こちらに接近する軍艦を確認』

「おっ、ようやく応援の到着かな?」

(防衛省からの応援…?独自で動いてくれたのか…?)

 少しの違和感を覚えた一色。しかし体育館シェルターに近づくにつれて島民達の歓喜の声に違和感が掻き消されていく。

「一色軍曹だ!」

「島を救ってくれた英雄だ!」

 パトカーとバトルフレームを歓迎する声。そしてパトカー助手席側の窓からはみ出る杖に気付く島民。

「魔女だ!魔女様が乗ってる!」

「怪人にされた人を魔法で元に戻したって!」

 島に現れた怪人が島民自身が変身したものだったことは既に周知されていた。

「救世主だ!」

 誰かの叫びに島民の歓声が沸く。

 声を上げて手を振る島民達。

 舞杏も応急手当している子供と一緒にパトカーに手を振る。

『真夏君、こういう時は手を上げて応じるんだよ』

「で、でも…」

 真夏は隠れるように車内で小さくなっていた。視線の先には破壊されて変わり果てたシュープリーム島の姿。怪人対策が不十分な島で多数の怪人が暴れたことによる被害、それと同じくらいの被害を魔力砲を撃ったことで出してしまっている。人命救助を最優先させた結果だが、自責の念にかられた真夏は島民の声に応えることができないでいた。

『島民を救ったのは事実、誇っていいことだよ。それに、多くの被害を出したこの島には希望の光が必要なんだ。キミはそれになり得る』

「…私が…?」

 島民の顔色を窺うように窓から覗く真夏。中には涙を流しながら手を振る者も居る。受けた被害を一時でも忘れるように、灯火に縋るように島民は真夏を歓迎している。

 窓からひょこっと顔を出して、どこか申し訳なさそうにてへへと小さく手を振り返す真夏。その姿に島民の声は一段と大きくなった。

 その光景を見守りつつ警戒を怠らない一色は島に接近する駆逐艦の異変に気づく。

(VLSが開いてる…!?)

 駆逐艦の甲板から垂直に4つの飛翔体が飛び出し、轟くような大音響を鳴らすと大きく旋回して針路をシュープリーム島に向ける。

「アラート!アラート!!」

 こけさんが注意喚起するよりも早く一色は動き出していた。

「ミサイル接近!ミサイル接近!!」

 こけさんの声が各所のスピーカーから鳴り響く。

 突然の警報に動揺するシュープリーム島でバトルフレームの14mmガトリング砲が轟く。

 一色によって4つのミサイルが破壊され、爆発と共に大きな衝撃波が伝わる。

「何だ今のは!?こけさん!?」

『島北東2キロ、駆逐艦からのミサイルです』

「防衛省か!?一色君!攻撃を止めさせろ!」

『呼びかけてますが応答ありません!次が来ます!』

 一色が言う通り駆逐艦から再び4つのミサイルが発射される。

 1発、2発3発と迎撃するが4発目が一色のバトルフレームを通り過ぎて島山間部に着弾した。

 悲鳴を上げる島民。

 洋上の駆逐艦では艦長が不敵な笑みで小躍りをしている。

「さぁさぁ、撃て撃て!次々撃て撃て!」

 その言葉に従い、転がる死体を気にせず駆逐艦の乗組員はミサイル発射の準備をする。

(弾切れか!?)

 怪人群発の報告から通常の倍以上の弾丸を準備していたが主兵装の弾丸を撃ち尽くしてしまった一色。

「あはは…。こりゃ、やられたね…。奴等、島民ごと皆殺しにするつもりだね」

(真夏君だけでもここから…。いや、敵の目標が真夏君なら、まだ追撃の一手はあるのか?…だったら…)

 一瞬肩を落とした舞杏だったがすぐに切り替えて指示を出す。

「西園寺君!今すぐ退避だ!真夏君を連れて本土へ退避!一色君はパトカーの護衛を頼む!!」

『主任!?今私達が抜けたら迎撃できませんよ!?』

「…一色君はもう弾切れだろう?西園寺君のライフルもミサイル相手には無力だ」

『!?』

『まだ武器はあります!』

 兵装を切り替えてハンドガンを構える一色。

「そんな豆鉄砲で何ができる?敵は防衛省の軍艦。バトルフレームだって出てくるかもしれない。今のうち、逃げられるうちに行くんだ!」

『主任は!?どうするんです!?』

(ミサイル相手に体育館シェルターでは耐えきれない、的にされるだけ。地下シェルターならあるいは、直撃さえなければ凌げるか…?だが島民全員の避難は無理…か…)

「私は動ける島民を連れて海に避難する!こけさん!避難の呼びかけを!」

『海に逃げてどうするんですか!?』

「島は焼き尽くされるだろうからね。応援が来るまで寒中水泳でなんとか耐えるさ」

(まだ目を覚まさない人もいる。負傷した島民の多くは犠牲になってしまうが…)

『応援なんて来るかどうかも…!』

「来るさ!きっともう少しの辛抱だ!行け!キミ達だけでも逃げ切れば敵の計画は狂うはずだ!」

『でも…!』

 次の4発のミサイルが発射される。一色は懸命に迎え撃つが、2発が島に着弾。その内1発は集落で爆発した。

(ダメか…!この武装では4連発には対応できない…!)

 2発破壊したところで再装填して3発目を撃ったが破壊は出来ず、軌道を逸らすだけにとどまった。

 島民をまとめ、海への避難を支持する舞杏。連れて行けるものだけを連れて行く、残酷な判断だったが島民達もそれに従うしかなかった。

(…なんで…。なんでこんなことを…!)

 真夏の目に涙がにじむ。上がる悲鳴と爆音、燃盛る炎に真夏は悲しみ以外の感情を覚えた。

(…どれだけこの島の人を苦しめれば気が済むんでしょう…?)

 速くなる鼓動を抑えるように心に手を当てる。

「私達はここを離れる。キミ達も急ぐんだ!応援が来ないと思うならキミ達が連れてきてくれ。なるはやで頼むよ」

 いつものように、努めて明るく言う舞杏。その振舞いさえ真夏の鼓動を大きくする。

『俺は!すべてを守る為にここに来ました!最後まで戦い抜きます!』

 一歩も引かずに次の攻撃に備える一色。

(…すべてを…守る…)

「一色君、キミならわかるはずだ。何を優先させるべきか。だからキミもこの島まで独りでやって来たんだろう?」

『…!?』

 怪人化を解除する魔女の存在。それは怪人を支配する者にとって最大の怨敵。

『いえ…』

「…?」

『いいえ…』

 否定する言葉は真夏からだった。

《…?ご主人…?》

 スカーレットを置いてパトカーからすぅーっと飛び出した真夏。

「真夏君…?」

『私、怒ってます…!』

「今は感情の話をしてる場合じゃない!敵の狙いはキミだ!早く退避するんだ、これは命令だぞ!」

 真夏の行動に焦る舞杏。それは舞杏にとって最も優先させるべき存在が真夏だったからだ。しかし、そんな舞杏を置いて真夏の冷たい視線が洋上の駆逐艦に刺さる。

『…あれは…。あれは、手加減しなくていいんでしょう…?』

「なに…?」

 更に4発のミサイルが空へ上がる。

 杖にしがみつくように飛んでミサイルに照準を合わせる。

「全力全開です!!」

 真夏の周囲が白く光り輝きだす。

『無駄だ、下がってろ幸谷!音速の10倍で飛ぶミサイルだ、お前の魔力砲は当たりもしない!』

 数十分共に戦った一色の判断。一色自身、コンピューターの補助無ではミサイルを撃ち落とせないことを自覚している。

「当たりますよ!」

 魔力砲が一直線に放たれる。

 しかし極超音速で飛ぶミサイルを捉えることはできなかった。

(やはりだめか…!)

 一色は銃を構えて射程に入るまでの一瞬を待つが。

「私は!なぞってくだけですからっっ!!」

 外れた魔力砲の光は途切れることなく、ミサイルの軌跡を追って輝き続ける。それは水道ホースで水を撒くように、やがて目標に辿り着く。

《ご主人!そんな魔力の使い方ダメにゃ!》

 叫ぶスカーレットの声は破壊されたミサイルの爆音に掻き消されてしまう。

 発射された4発のミサイルが真夏によって破壊されたことに誰よりも驚いたのは駆逐艦で小躍りしていた艦長だった。

「なんだとぉぉおおおぉっ!!?」

 小躍りは止まり、驚愕の表情。

「有り得ない!有り得ない有り得ない有り得ないぃぃいいぃぃ!!!」

『艦長、俺が出て魔女と一色を叩く!』

 狼狽する艦長に進言する声。

「お、小田氏ぃ!?だっ、ダメだ!ダメダメ!死んじまうよ!あんなの聞いてない!米さん!幸谷半端ないってぇ!!!」

 膝をついて項垂れる艦長。バトルフレームに乗り込み待機している小田氏は声を荒げる。

『艦長!あそこに一色が居るんだ!俺にやらせてくれ!』

「ダメだ!あれは異常だ。人のレベルを超えた魔力…。現時点をもって作戦を放棄!証拠隠滅後に撤収する!」

 艦長の指示を受け取り乗組員が動き出す。

 真夏は一色の隣まで飛んでくる。

「幸谷、大丈夫なのか?」

 一色は息が上がる真夏を心配する。

「はい!まだまだいけます!」

 真夏の返事に頷く一色。

「…。このまま受け続けてもじり貧だ、おそらくまだ100発以上ミサイルは残ってる。幸谷がミサイルを堕とせるなら、俺が前に出て艦橋を堕とす!」

 駆逐艦からまたミサイルが発射される。

「あれを撃ち落とした後に別れるぞ!」

「は、はいっ!」

 魔力砲を放ち、先程と同じようにミサイルを破壊する。

「行ってください!」

 真夏がそう叫んだ直後、駆逐艦はミサイルの爆発とは比べ物にならないほどの大爆発を起こした。

「ひぎゃっ!」

 衝撃波が襲い掛かり、一色がバトルフレームで真夏を庇う。

「な…何が起こった…?」

 大爆発は駆逐艦を粉々に破壊していた。

「わ、わかりません…」

 バトルフレームの陰から覗き見る真夏。

 その衝撃は島全体を包むほどだった。

 洋上の状況が確認できる場所に移動していた舞杏、大爆発で上がる炎を見て呆れたようにあははと笑う。

『…。…真夏君…やり過ぎ』



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