#17 頼れる助っ人
「一色軍曹!シュープリーム島で怪人発生!出動がかかるかもしれません!」
食堂で遅めの昼食を取っていた一色の元へ円莉子2等陸曹が駆け寄ってくる。
「怪人!?…自分のデバイスにはなんの通知も来てません」
支給されている軍用デバイスを確認するが怪人発生を知らせる通知は来ていない。
「はい、私のデバイスにも来てないのですが、ネットで情報が発信されています。シュープリーム島は怪人対策が遅れている古い離島です。情報伝達に不備があるのかもしれません」
「了解!すぐに準備します」
一色は最近自分の小隊に配属された1つ階級が下で年上の先輩にそう答えると、残っていた白飯とハンバーグを飲み物のように胃に流し込み立ち上がる。
円はその光景に思わず吹き出しそうになるが上官の前なのでぐっと堪えた。
「んぐばもう!」
頬をリスのように膨らませて恐らくは、行きましょう、と言った上官に敬礼して一色の後ろを歩き出した円は下唇を嚙んでいた。
同時刻公安六課。課長室での会議を終えた舞杏と真夏が技研に出発しようと荷物をまとめていた時に緊急連絡が入った。
「シュープリーム島で怪人発生!?」
課長室から飛び出してきた清水からの第一報に驚く舞杏。
「ってそれドコよ!?」
「ここから約200キロ南の離島だ。急いでくれ、島にはまともなシェルターが小中併設校の体育館しかない。島民の安全を第一に、怪人化した人間の救出を!」
「了解!西園寺君、エアドライブの準備!真夏君…!」
と、真夏を見た舞杏。左腕に昼寝する猫を抱き抱え、右手にはコーヒーフラッペ。口はもぐもぐとクッキーを咀嚼している真夏はまったりとしていた。
「キミィ!?杖はどうしたの杖は!?」
リラックスモードの真夏は杖も帽子も装備していない。
「はぐぅっ!…!ずびばぜんっ!玄関の傘立てに」
「急いで取ってきなさい!8階駐車場から飛ぶよ!」
「りょっ、了解!すぐに取ってきますぅー!」
急いでクッキーを飲み込んで玄関へ向かう真夏。
「鷹司主任!」
追いかけるように出て行こうとした舞杏を清水は呼び止めた。
「うん?」
「どんな企みがあるか分からない。気を付けてくれよ」
「ああ、分かってる。最善を尽くしてくるよ」
舞杏は小さく頷いて駐車場へ向かった。
『真夏ちゃん、インカムは?』
エレベータを待つ時間、その場駆け足をしている真夏の無線通信機に双連の声が届く。
「はひっ!?き、聞こえます!付けてますよ!」
『おっけ、真夏ちゃんそのままエントランスから南に飛んで。空で合流しよう』
「あ、はい!わかりました!」
エレベーターが到着し、ピンポン、と音を出して扉を開く。無人のかごに駆け込み1階ボタンを押して深呼吸。
(怪人、久しぶりに出ましたね。これから怪人と…。怪人と戦…。かかか怪人!?そ、そうだ!怪人とこれから戦うんですよね!?うぅ~…きゅ、急に緊張してきました…!)
あわあわと緊張して猫とフラッペを持つ手に力が入る。
「ふにゃ~ん」
《ご主人~?どこか行くのにゃぁ?》
「ス、スーちゃん…。か、怪人が出ました…。これから怪人と戦いに…」
大きなあくびをするスカーレット。言い淀む真夏の顔を見上げてぱちくりと瞬きをする。
「うにゃ?」
「…いえ、怪人を…。怪人さんを助けに行きましょう!」
いつも通りのスカーレットに落ち着きを取り戻す真夏。
《うにゃ。任せるにゃ!ボクがワンパンブッ飛ばして、ご主人が魔力砲でブッ飛ばす!すぐに終わる簡単なお仕事にゃ》
真夏から飛び降りて寝起きの伸びをするスカーレット。
「ふふっ、やり過ぎはダメですからね」
《にゃは~。…で?今はエレベーターかにゃ?》
「はい、急ぎで杖を取りに玄関まで」
《は~、だから言ったにゃ?六課の掃除用具入れの方がいいって》
真夏はかさばる杖の置き場に困っているのだった。
シュープリーム島、海岸沿いの古い民家にまだ幼い子供の手を引いて駆け込む母親。
「お父さん!帰ってる!?」
島には悲鳴が響き、慌てふためく母の姿に子供は恐怖し涙を浮かべている。
玄関に鍵はかかっておらず、母親は子供を連れて家の中へ入る。
「お父さん!?…居ない…?まだ漁港かしら」
島の状況を見て体育館のシェルターではなく実家へと避難した親子。古い家、怪人の攻撃に耐えられるような建物ではないが、この家には津波を凌ぐための小さな地下シェルターがある。
廊下の床の扉を開けるともう一回り小さい金属製の扉。その扉を開け、三畳ほどの空間に子供を抱いて降りる。明かりや非常食が備えられたそのシェルターに子供を座らせて、ぎゅっと抱きしめる。
「ママ…。みんなどうしちゃったの…?」
「大丈夫、きっと大丈夫だから。ここでパパとおじいちゃんが来るのを待ってようね」
子供を落ち着かせるように頭を撫でる。
一度も怪人被害に遭うことがなかったシュープリーム島、怪人事件は対岸の火事だった。しかし、初めて島に怪人が現れ島中がパニックになっている。
人けのない北の船着き場では怪人化ライトの光を浴びたベテランの漁師が漁船の上で苦しみもがいていた。身体は少しずつ変異し、蛸の足ような触手が肩回りに生えてくる。身体はぬめりを帯びて黒く変色し、目玉が大きく膨らんだ。
「フシャァーーーッ!!」
蛸の怪人と成った漁師は触手の足でヌルヌルと動き海へと飛び込んで消えてしまった。
小隊の格納庫に駆け込み、並ぶバトルフレームの中で一際目立つ赤い機体に跳び乗った一色。隣のバトルフレームには円が乗り込もうとしている。
「お前達!何をしている!?」
この場で普段見かけることのない上官が2人を制止した。
「!」
上官の存在に気付いた2人はその場で姿勢を正し敬礼をする。
「シュープリーム島で怪人発生の情報を確認しましたので、これより出動待機に入りたいと思います!」
「その情報については現在確認中だ。不確実な情報だが怪人を人に戻したとか言う魔女を現地に先行させている。我々には出番はないかもしれんぞ」
「不確実な情報、でありますか?防衛省の怪人監視が機能していないのでしょうか?」
一色は円が言っていた情報伝達の不備について上官に確認する。
「海底ケーブルが断線しているという情報もある。怪人発生が確定情報でない以上出動はできん。今回は魔女に任せると思って待機室で待機していろ」
「…了解!」
言い残して格納庫を出て行く上官に再度敬礼して見送る2人。
(…魔女…。幸谷真夏か…)
「…一色軍曹…!…怪人化事件。防衛省が係わっているという噂、どう考えていますか…?」
浅見晶の怪人化事件以降、一部で広がり始めている噂。一色は格納庫に人が居ないことを確認する。
「可能性はある、と思っています…。防衛省はこの30年怪人と戦い、その死体…遺体の回収と解剖研究までしてきましたから…」
「異常な速度で腐敗が進むとしても、なにか掴んでいるはず…。いえ、掴んでいないと言うのはおかしな話ですね」
頷く一色。
「本当に何も知らなかったのなら無能。知っていて何かに加担していたとしたら…。自分達もただ利用されているだけかもしれません。…今回、機材トラブルで怪人発生を確認できないのであれば直接確認に出向くのも本来防衛省の仕事。魔女、幸谷真夏だけに怪人対応を任せるのは危険ですね」
「危険ですか?恥ずかしながら、あの魔女の猫、あれは相当強い。不意を突かれたとはいえ…」
円は以前スカーレットの猫パンチ一撃で行動不能にされている。
「確かに、あの小ささで素早く動き回り、攻撃時には巨大化して威力を増す。厄介な戦い方ですね。怪人にも通用するでしょう。しかし、万が一にも魔女がやられれば怪人を人に戻す手段を失うことにもなります。万全を期すのは当然のこと。魔女が動くなら防衛省も動くべきなんです」
「わかります。シュープリーム島での怪人発生情報を知っていて、故意に出動命令を出さないのであれば、シュープリーム島で何か起こるのかもしれませんね」
一色は難しい顔をして上官が出て行った扉を見つめた。
エール南の洋上をさらに南へ向かって飛ぶ覆面パトカー。緊急走行規定に則りサイレンを鳴らし、赤色灯を点灯させて高速飛行をしているがそれを見聞きする者は居ない。
公安を飛び出して約20分。持ってきたフラッペも空になり手持無沙汰となった真夏に緊張がぶり返す。後部座席でゆっくり深呼吸をしていると運転席の双連が前方に異変を発見した。
「シュープリーム島を目視で確認。煙が上がっているようです」
「煙?火災か?」
ダッシュボードに足を乗せて助手席で寛いでいた舞杏はばッと起き上がりシュープリーム島をその目で確認する。
「シュープリーム島は古い島です。怪人対策で建築法が改正される以前の建物がほとんどで、公共施設も少ない島です。怪人がひとたび暴れ出せば建造物への被害は免れないでしょう」
パトカーの高度を下げながらシュープリーム島の状況を公安六課へ報告する双連。
(西園寺さん…。お仕事モードですね…。私も切り替えて頑張らなきゃ…!)
「……あれ…?おかしいですね…。通信が不安定です」
「シュープリーム島の通信基地局圏内に入ったんだろう、通信障害の報告も上がっていたからね。中継ドローンを飛ばしておこうか」
「了解、展開します」
パトカー後部から小型のドローンが飛び出して行く。
「さて、真夏君、猫君。仕事の時間だ。私も現場に降りるし防衛省の応援も直に到着するはずだから、無理せずに距離を取って戦ってくれ。島民と、自分の安全を第一に。敵側が何を狙ってるか分からないから、十分に気を付けるんだよ」
「は、はひっ!」
《ご主人はボクが守るにゃ~》
《はい、よろしくお願いしますねスーちゃん》
「にゃ~ん」
「怪人!発見しました!煙が上がる集落から離れた一軒家、耳が長い、ウサギ型怪人でしょうか。皆さん、お願いします!」
島の北側から接近し、早速見つけた怪人に向かうパトカー。
「よーし!行くよっ!」
「はいっ!」
高度を下げたパトカーから先に飛び降りた舞杏。降下しながら銃を撃ち怪人の注意を引く。
一瞬遅れ、スカーレットを連れて飛び出した真夏は怪人の斜め後方に着地し、森を背にした怪人に杖を向けた。
(大丈夫、晶さんの時と同じように、魔力だけを怪人さんに…!)
魔力の光が放たれる。
その光は怪人を包み込んですり抜けると後ろの木々を数本、大きな音を立てて薙ぎ倒した。
「ひゃっ?」
撃ち放った本人が一番驚き尻もちをつく。
《ご主人、もっと抑えて大丈夫だにゃ》
「怪人は!?」
舞杏が素早く近寄り確認する。
「大丈夫、成功だ!人の姿に戻ってる!」
魔力砲を受けて衣服がズタボロになり半裸な少年を舞杏は抱き抱える。
「西園寺君、少年をパトカーの一時収容。島の状況を確認して安全な場所に移そう」
視認できる範囲を旋回して戻ってくるパトカー。しかし双連からの返事は無く、ザザっとノイズが入る。
「は、はひぃ~…。よ、よかったです、難なく終わりましたぁ…」
尻もちをついたまま杖を抱きしめて安堵する真夏。それに対してスカーレットの表情が硬い。
《………!?》
森の中から何かが駆ける音が聞こえた。音が近づき、それが茂みから疾風のごとく現れると一直線に真夏に向かって突進する。
《ご主人っ!》
間に割って入り巨大化した猫パンチでそれを弾き飛ばす。
「ギャァーッス!!」
「ひぃっ!?」
数回転がり四本足で立ち上がる。
《ご主人!まだ終わってないにゃ!》
「怪人!?イノシシ型!?まだ居たのか!西園寺君!急いで少年の収容を!」
パトカーが接近する。だが速度を落とさない。
「んなっ!?」
『ーッーー人っ!怪人がーーー…!』
舞杏の頭上を飛び去るパトカー。そしてそれを追いかけるように飛ぶ鳥型の怪人。
舞杏は少年を抱えたまま横っ飛びして距離を取るが、鳥型怪人は舞杏と少年を見つけるとターゲットを切り替える。
「何なんですかこの島はッ!?」
双連は急旋回してパトカーのタイヤを切り離し、それを小型ロボに変形させると鳥型怪人に向かわせた。
「集合!主任!真夏ちゃん!一旦集合してください!」
パトカーから拡声器を通して双連の声が届く。
「グワァーッ!グワァーッ!!」
小型ロボの連射を喰らい雄叫びを上げる鳥型怪人。それに呼応するように森から雄叫びと羽音が聞こえてくる。そして数秒後には上空に複数の鳥型怪人が真夏達を獲物と見定めて滞空飛行しだした。
ドンっ、と真夏は四本足で駆ける怪人に魔力砲を放つが外してしまい、木々だけが薙ぎ倒される。
「はっ、外れました!」
間に入って自分を守るスカーレットを気にして逸らしてしまったのだ。
《昇にゃー拳ッ!!》
突進してくるイノシシ型怪人を地面から突き上げるように巨大な肉球をぶっ放す。
《ご主人!》
「はい!」
真夏は宙に舞ったイノシシ型怪人に魔力砲を浴びせる。
「スーちゃん!怪人さんの保護を!」
「にゃす!」
落下する元イノシシ型怪人の回収をスカーレットに任せて真夏は舞杏と対峙する鳥型怪人に杖を向ける。
「鷹司さん!伏せて!」
舞杏が地面に転がったのを確認して魔力砲を放つが、鳥型怪人は上空に素早く飛び、これを躱した。
「早く!乗って!」
パトカーを低く寄せて舞杏と少年を回収する双連。続いて急発進、真夏の元で怪人化が解けた初老の男性を後部座席に詰め込み低く飛んでその場を離れる。
「さ、西園寺さん!?」
スカーレットと杖で飛び追いかける真夏。
「まだ鳥の怪人さんが!」
「鳥だけじゃない、完全にやられました!」
拡声器を使って話す双連。ついて来るように指示を出す。鳥型怪人達は真夏を追いかけようとするが小型ロボがかく乱している。
「西園寺君、状況は?」
「島中に怪人が出現しています!確認できただけで30!集落の方にももっといるはずです!」
「そりゃあ…。厄介だねぇ…」
「それにこの通信障害。中継ドローンとの接続も途切れています」
「うん?」
「ジャミング!電波妨害ですよ!」
「!?」
「敵の狙いが真夏ちゃんだとすると、この島ごと私達を消すつもりで動いてるんでしょう」
「ふふっ、やられたねぇ…。これまで怪人発生の同時多発は報告されていない…。が、怪人化ライトを浴びせるだけで怪人化するなら、こんな芸当も朝飯前ってか」
「最悪、退却して防衛省に任せるのも選択肢の一つかと」
「シェルターは?」
「まだ確認できてません。……が、付近で島民の死体が何体か発見しました」
「逃げ遅れた人はまだ居るかもしれないね。…シュープリーム島の人口は300人程度。観光客は多くても30人ほどかな?体育館のシェルターなら収容できる、か…」
舞杏は珍しく気持ちを引き締めている。
「主任!?数が多すぎます!我々だけで戦うのは不可能です!」
「怪人化を解除した瞬間、それは要救助者になる。連れて行けば足かせ、置いておけば怪人のいい攻撃対象。…私達に出来ることは、怪人化の解除と解除後の要救助者をシェルターまで輸送、これを何度も繰り返すこと」
「無理です!パトカーからシェルターへ救助者を移すのにも時間がかかります。シェルター付近で動いていればそこに怪人が集まってきますよ」
「だったら、集まってきた怪人から解除していけばいい。輸送の手間も省ける」
「しかし、怪人が集まってくればシェルターがもたないかもしれません。建築法も怪人の同時多発は想定していませんから」
「シェルターに負荷がかからないように立ち回るしかないだろうね。…それに、逃げたところで、逃げ切れる保証もない」
「!?…まだ罠があると?」
「ここまで大胆に動いたんだ。私なら逃げ道も塞ぐね」
舞杏は不敵な笑みを浮かべた。
堀レイナは海上に浮かぶ水空両用エアドライブの屋根に上がりシュープリーム島を見て笑う。
「あははははっ!泣け!喚け!そして死ねぇえぇぇーっ!!!」
「…レイナさん、魔法使いの戦闘を確認。移動するので中の方に…」
呆れた表情を隠しながら男はエアドライブの屋根によじ登ってレイナに声をかける。
「あぁ…クソ、このまま魔女が死ぬところを見させてくれよぉ…」
「はぁ…。そんなに魔法使いってのは危険な存在なんですか?」
「はぁ!?…あぁ、お前はそれを知らない世代か…。危険、なんてもんじゃない。あいつらを消すのに俺達がどれだけ苦労したか…」
「こんな大規模な作戦を実行するほどですか?これは流石に隠蔽できませんよ…」
「ふっ…若いな…。歴史とは勝者が書き上げたフィクションだよ」
半笑いのレイナは逃げ惑う真夏に満足したのか大人しく車内に戻った。
「さぁ、防衛省が来る前に移動するぞ」
偉そうに指示を出したレイナに見られないように、一回りは年上の男はやれやれと呆れた表情をした。
待機室の硬いソファーに座らず、立ったままで落ち着かない様子の一色。正式に待機命令が出されて動けないことにもどかしさを感じている。そんな一色の元へ着信が入る。
「…晶…?」
一色は少し迷ったが、デバイスを手にして扉を開ける。
「少し、出てきます」
待機室に残る円ともう一人の小隊員は軽く手を上げて了承する。
「…晶?どうかした?」
『あー、うん。一色君、私のパシリ…魔女の幸谷さんと連絡が取れなくて…何か知らない?』
「魔女…?何で俺に?」
『あれ?チームじゃないの?』
「チーム…?公安六課と防衛省が協力関係を結んだのは事実だけど、直接的な接点はまだないかな」
『あー、そうなの?持ってきてほしいものがあったからさ、連絡したかったんだけど』
「…。公安六課と幸谷真夏は任務中らしいよ。詳しくは話せないけど、怪人が発生した可能性があるらしい。その調査だよ。終われば連絡してくるんじゃないかな」
一色は小声で晶に自分が知っていることを伝える。
『そうなんだ、なんだか繋がりそうで繋がらない、変な感じだったからさ。ちょっと心配してた』
(繋がりそうで…?電波障害か…?)
「仲が良いんだな。あんまり接点ないだろ?」
『あはは、今は私のパシリでもあってね。…それに…命の恩人だよ。一色君もね』
「…!俺は、べつに…」
『幸谷さんと戦ったりしたみたいだけど、これからは仲間でしょ?ちゃんと守ってあげてね』
「…うん。わかってるよ」
『うん、じゃあまたね』
晶は明るく通話を終了させた。
(通信障害…。怪人…。怪人を人に戻す幸谷…。怪人を生み出す何者かと防衛省が結託していた場合、幸谷は防衛省にとって邪魔な存在…?…だとしたら今回、離島での怪人発生は…)
考え込む一色のデバイスが音を鳴らす。
(晶…じゃない…。知らない番号、誰だ?)
「…はい」
警戒しながら通話に出る。
『防衛省の一色軍曹だね。私は公安六課課長、清水次郎吉。すまないが少し話を聞きたい』
「公安六課の?」
『ああ、申し訳ないが、浅見晶君との通信はこちらでも監視させてもらっている』
「はい、了承しています。晶を保護していただき感謝しています」
『早速だが、君達の話題にも上がった幸谷真夏との連絡をこちらでも取ることができない。幸谷さんだけじゃない、一緒に現場へ向かったメンバーともだ。無人機に後を追わせたがどうやらシュープリーム島付近にはジャミングがかけられていることがわかった』
「ジャミング!?」
『その上君の上司とも連絡が取れなくてね。今防衛省がどう動いているのか、教えてもらいたいのだが』
「………」
一色は一瞬躊躇して口を開く。
「…防衛省は今、自分達に待機命令を出しています」
『待機?それは、君以外の部隊がシュープリーム島へ向かっているということかい?』
「いえ、シュープリーム島へは誰も向かってません」
『…!?』
「自分達には怪人発生が確定情報でないから出動命令は出せないと。魔女を先行させているという説明だけで、以降何の進展もありません」
歯がゆさで奥歯を噛み締める一色。
『…そうか…。私達は裏切られたのか…。情報をありがとう、失礼させてもらうよ』
清水は一呼吸置いて通話を終了させた。
(公安は防衛省が動いている前提で魔女をシュープリーム島へ送りだした…。シュープリーム島では電波妨害が発生して上官は待機を命令…?クソッ!完全にクロじゃないか!)
ドンッ、と近くの壁に一色は拳を突き立てた。
「幸谷真夏、出ます!」
海岸沿いに民家が並ぶ地区に単独で徘徊するオオカミのような怪人を見つけた真夏は急降下する。
「ちょっ!真夏ちゃん!?離れると通信もできなくなりますよ!?」
「珍しくやる気のようだね。西園寺君!降下して!」
「ーーーっ!これに乗せて行けるのはあと一人くらいです!あのオオカミを確保したらシェルターに向かいますよ!」
「ああ、そうしよう。応援が到着するまで1人でも多くの人を助けてやろうじゃないか」
少し高度を下げたところで舞杏も飛び降りる。
「グルルルッ!ググゥァアアアッ!」
真夏に気付いたオオカミの怪人は民家の屋根に跳び乗り咆哮を響かせる。
「くっ…!」
真夏はその怪人に魔力砲を撃ち込むのを躊躇った。
「真夏君?」
着地して銃を構える舞杏は周りを警戒している。
「怪人が集まってくる前に怪人化の解除を!」
「で、でも…!」
真夏は移動して射線を探している。
「民家ごと壊しちゃいそうで!中に人が居たら大変です!」
怪人は屋根に低く構えて真夏を威嚇している。
(確かに!…魔力砲は恐らく人体にダメージを与えたりはしない。だが家屋を破壊する威力はある。とすれば破壊された家屋の瓦礫で中にいる人を…)
「西園寺君!生命探知機で中を!」
『そんなもの搭載してませんよー!』
地面付近を飛ぶ双連。通信が途切れない位置をキープしている。
《ボクがあいつを…!》
「ちっ!いちいち民家を確認している暇もない!私が引き剥がす、真夏君は射線を確保次第魔力砲を撃ってくれ!」
残弾を気にしながら舞杏は怪人に発砲。怪人は標的を舞杏に変更して高速で飛び掛かるが舞杏はそれをひらりと回避してみせる。
「真夏君!」
「はい!」
魔力砲が放たれてオオカミ型の怪人を解放し、後ろの電信柱を破壊する。
「はうぅぅっ!ご、ごめんなさいぃ~!」
砕けて倒れる電信柱。残骸と電線が狭い道路を塞ぐ。
「気にするな!人命を最優先、建造物への被害は二の次だ!」
『主任、急いで乗っけてください!上空のミニロボ、残弾数残り僅か!牽制しきれない!』
言われるよりも早く、舞杏は怪人化の解けた男性を担ぎ上げて近寄るパトカーに駆け込む。
「制空権の確保を優先させるべきかな」
「空中で怪人化が解ければ墜落死ですよ!」
空に気を取られる舞杏と双連の後ろに音もなく影が這い寄る。
「西園寺さん!後ろ!」
「んなっ!?」
真夏の声で怪人の接近に気付いた双連は舞杏を半分外にぶら下げた状態で急発進させた。
「たっ、蛸!!?」
吸盤が特徴的な8本の足をうねうねさせている怪人。その足の1本が素早くパトカーの後部にぺたりとくっつき車体を大きく揺らす。舞杏は振り落とされるが、地面に落ちるまでの一瞬に蛸の足を銃撃した。
「こんにゃろっ!」
吸盤は剥がれ、パトカーは制御を取り戻すが墜落して転がる舞杏。
「そのまま伏せて!」
杖を構える真夏が目に入った。
「真夏君!」
真夏の後ろにもまた別の怪人、トカゲ怪人が迫っていた。だが舞杏が警告するよりも早く動くスカーレットの姿。
《こんにゃろめっ!》
その怪人はスカーレットの巨大化猫パンチに弾き飛ばされるが驚いた真夏の手元は僅かに狂い、魔力砲は蛸の怪人を仕留めきれずに足を1本だけ撃ち抜いた。
すかさず蛸の怪人との距離をあける舞杏。
「こっちは大丈夫!そっちから先に!」
と、指示を出す舞杏。しかし上空から小型ロボのかく乱を抜けた鳥型怪人が一人接近している。
『上からも来ます!』
空を見上げる真夏。
「ウギャァアアアス!」
スカーレットに弾かれたトカゲ怪人が立ち上がって吠える。
「うっ!?あっ、えっと…。こ、こうなったら、奥の手です!」
「奥の手!?」
真夏は半回転してローブを舞わせると左手を掲げる。
「発表します!幸谷真夏、日頃の特訓により、ワイヤレス充電対応の魔女になりました!!!」
「な!なんだってーーーっ!?」
真夏の発表に驚く舞杏。
「お願いします!」
真夏の呼びかけに応え、ローブ下から小さな機械が飛び出す。
「了解です、マスター」
「こけさーーーん!!!」
公安六課配属備品kks-300 の登場に1人歓喜する舞杏。
首元のプロペラを高速回転させて滞空飛行するこけさん。トカゲ怪人に狙いを定め、頭から突進する。
ギュイーン、ぺしーん、どっかーん。
と、高速で一直線に怪人に突撃したこけさんだったが、トカゲのしっぽに叩かれるとそのまま軌道を変え、民家の壁を突き破って消えてしまった。
「こけさーーーんっ!!!」
膝から崩れ落ちる舞杏。蛸怪人のいい的だが、蛸怪人は足を1本失って怯んだのかうねうねとその場を逃げるように這っていった。
少し呆れた口調で双連は言う。
『そりゃそうでしょう、暴徒鎮圧程度の戦力ですよ、kks-300って。怪人には通用しませんて。早ぅ立ってくださいよ』
「はっ!…撤退…。撤退撤退!撤退ーーーッ!!西の沿岸へ一時撤退だっ!!!」
がばっとパトカーに跳び乗る舞杏。その号令に公安一行は脱兎の如くシュープリームから退避するのだった。




