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#14 ハイジャック



 自由人民党本部医療施設からの避難を余儀なくされた大泉鈍次郎。地元である首都エール隣県のカムナへ運転手付きの高級エアドライブで移動していた。ゆったりとした上品な移動に夢うつつな大泉。

 その高級車を追跡する一台の小型エアドライブ。フルフェイスのヘルメットに黒いライダースーツの男は首都を抜け出し交通量が減ったのを確認して仲間へ連絡をする。

「…こちらタングス…ターゲットフリー、これより作戦を開始する」

『…了解、こちらも行動開始します!』

 短い通信を終えてタングスと自称した男は加速して大泉が乗る高級車へ急接近する。

 高級車の運転手が異変に気付くよりも早くタングスは運転席の窓ガラスに機械を当てて防犯用に強化されたそのガラスを一瞬で粉砕した。

「!?」

「なっ!どうした!?」

 動揺する運転手。後部座席の大泉は、はッと目を覚ます。

 運転手が回避行動をとる前にタングスは容赦なく運転手の頭を銃弾で撃ち抜いた。

「!!?」

 運転手を失い逃場のない大泉。タングスはそのまま機体を横付けして高級車のコントロールをデバイスでハッキングして奪い取る。

「大泉鈍次郎…。少し付き合ってもらう…」

 タングスはそう告げると後部座席の大泉にスタンガンを撃ち込み気絶させた。



 EFS331便コックピット前。ハイジャック犯リーダー格の男、クロムがハイジャック犯の女アルに向けて放った弾丸は咄嗟に身を引きアルを庇い倒れ込んだ舞杏の肩をかすめて壁に着弾した。

 舞杏は次の弾丸が飛んでくる前にアルを引きずって通路の角に隠れる。

 銃声にどよめく乗客。舞杏は席を立つ客にハンドサインで座っていろと指示する。

「ふふっ、優しいのね…」

 乱暴に扱われ頬に擦り傷を負ったアルは舞杏に微笑む。

「困ったよ、人質が通用しないなんて。友達じゃないのかい?」

「ふふふ、違うわよ」

『報告します、トイレで老婆の死体を発見。腹を切開されています。おそらく、機内への武器持ち込みの為に利用されたと思われます』

 ハイジャック犯とは思えない程の柔らかい微笑み。耳に届く双連の報告を聞きながら、舞杏は同じように余裕の表情をつくる。

「トイレで亡くなってるお婆さんも友達じゃない?」

「ええ…。そうね…。みんな初めて会ったのは三日前。友達なんかじゃないし、他人という訳でもない…。そう、同志っていうんじゃないかしら」

「同志…。革命の同志ってことかな?ははっ、でも理想は無いんでしょ?理想なき革命家さん。おかしいよ、そんなことに命を懸けるなんて」

 コックピットの陰ではクロムが銃を突き出し舞杏を警戒している。

「アル!ブロンの状況は!?」

 クロムの声が響く。

 舞杏はアルの口に指を立てて自分でクロムの質問に答える。

「もう一人のハイジャックさんは後ろの客席で拘束してきたよ。もうこんなことやめて乗客を解放してくれないか?」

「あなたこそ、ここから出て行くべきだわ」

 リーダー格との対話に入り込むおばさんアル。

「あのねぇ、秘策はあるんだ。まだ負けた訳じゃない…。扉をしめられる前に猫…スカーレット隊員を突入…」

 舞杏が双連とスカーレットに作戦が伝わるように話しているところにクロムが機長を人質にしてコックピットを出てきた。

「!?」

 銃を構える舞杏。

「警察の女!撃つな!計画の邪魔さえしなければ我々に乗客を犠牲にする考えは元よりない!」

「おかしなことを言うね。とても信用できる言葉じゃないけど、一応話を聞こうか」

「本当のことよぅ。私達はしっかり計画して…」

「おばちゃん!?あなたはもう拘束されてるの!今、向こうの人と話してるんだから割り込んでこないでよ!」

 再び対話に割り込んだアルおばさんにシーっと指を立てる。

 しゅんとするアルおばさん。

「吉野吉彦の釈放は実現しないだろう。そもそも釈放要求は茶番。ハイジャックの最終目標は腐りきった政治の象徴、自由人民党の本部を破壊すること。この機体には非常用発電機と4万リットルの化石燃料が積まれている。本部を焼き尽くすには十分な燃料だ」

 エアドライブ同様、EFS331便も水を主なエネルギーとして利用しているが非常用電源として旧型の発電機を搭載している。非常用故満タンの化石燃料と到着地点を間近に底を突きそうな水。墜落すれば周囲を巻き込む火災は免れない。

「大胆な放火犯だな。キミ達が嫌いな政治家たちはもう避難して本部は無人になってるはずだよ。建屋を燃やすだけで満足するのかい?」

「そうだ。近隣住民の被害を避けるためには仕方ないことだ。…だが、隠居を決め込み厳重な警備の中で悠々と過ごす害獣を燻り出すには事足りる…」

(ハイジャックとは別に目的がある…?)

「この機の乗客も、我々の目的の為に死なせたりはしない。貨物室に安全パラシュートが用意してある。お前の要求通り今から人質の解放をしていく。邪魔はしないでほしい」

(安全、パラシュート…?)

「へ、へ~。随分と用意周到なことで。…一つお尋ねしたいんだけどさ、そのアンパラって航空保安協会認定の良いヤツだったりする…?」

 舞杏はEFS331便に乗り込む際に落下していった荷物を思い出す。

「…?どこの認定かは知らんが、実績のあるもの、確実に動作する物を用意したと聞いている」

 クロムの奥から副操縦士を人質にしてもう一人のハイジャック犯がコックピットから出てくるとその男はクロムとアイコンタクトをとる。コックピットに残ったハイジャック犯は一人だが、その男は操縦をせずにセンサー等の機材に何か細工をしている。

「…ふ~ん…。残念だがその提案は却下だね。大人しく投降してコックピットを明け渡せ!」

「ふっ…。お前もそっち側の人間か…?自由人民党本部、蓄えた財産が乗客の命よりも大事なのか!?」

 不満をあらわにするクロム。

「財産?…いやそんなもの知らんが…。…そのぉ…アンパラだけどさぁ。私達が乗り込む時に落っこっちゃってさぁ…。無いんだよねぇ!乗客を安全に降ろすアイテムがさぁ!!」

「……は…?」

 ぽか~んと口を開けるクロム。

「いやぁ…図らずともハイジャック犯の計画を潰していたとはびっくりだ」

「乗客解放の計画だけどな!」

 てへっと可愛らしさをアピールする舞杏。

「ふざけるな!なに勝手してくれてんだよ!?」

「はぁっ!?勝手!?だいたいあんたたちがハイジャックなんてするから警察が動くんでしょ!こっちだって暇してる訳じゃないのにさぁ!ジャックして自由人民党本部に突撃するなんて言われたら動かない訳にはいかないっての!!」

 ぷんぷんと怒る舞杏の大きな声にハイジャック犯よりも乗客の方が反応する。

「と、突撃するってどういう意味…!?」

「墜落させるってことだろ!!」

「私達に危害は与えないって言ってたのに!」

「アンパラ…落としたって…?」

「自由人民党本部に…?これだから政治犯は!」

「エールの避難命令ってコレのこと!?」

 伏せられていた情報が伝わり騒ぎ出す乗客。

「お客さん騒ぎ出しちゃったじゃないか!」

「お前の所為だろうが!どうしてくれるんだ!?」

「だぁかぁらー!ハイジャックやめて大人しく捕まれって言ってんの!」

 言い争う舞杏とクロムにアルおばさんが割り込む。

「あなた達ねぇ、子供みたいに言い合ってないで冷静になりなさいな。現状確認よ。安全パラシュートは全部無くなったの?」

「さぁ?全部かどうかは分からないけど、コンテナ一個分。数百個は落ちちゃったよ」

 素直に見てきた状況を話す舞杏。

「そう…。クロム、計画はどこまで進んでいるの?」

「…。ステン…。プログラムは?」

 クロムは隣のハイジャック犯に問う。

「インストール済み、もう取り消せない」

 ステンと呼ばれたハイジャック犯の答えにクロムとアルの表情が曇る。

「機長、この機に安全パラシュートは?」

「ない。救命胴衣ならあるが、ここから海に飛び込んでも生存率は低い」

 クロムの問いに答える機長。

「いい加減諦めなよ。乗客を道連れに突撃なんてすればキミ達はキミ達が嫌う政治家よりもよっぽど悪党ってことになるだろ?そんなんで良いのかい?」

「…残念だがそれは出来ない。墜落プログラムはインストールされ、機材は破壊してプログラムの更新も手動操縦も不可能な状態にしてある。…あとは乗客を逃がすだけだったんだ…」

「不可能?自動操縦プログラムにハッキングしたのかい?我々の天才ハッカーなら別ルートでプログラムを変更できるかもしれない」

「無理だな。そもそもシステムにアクセスが出来ない」

「そんなのやってみないと…」

『主任!ダメです!こちらからのアクセスに応答がありません。ロックではなくシステムの一部が破壊されているようです』

「あ…そう…。既に試したみたい…。ダメだってさ…」

『防衛省へバトルフレームの出動を依頼しますか?』

「ああ、依頼して」

(バトルフレーム数機なら飛行機を強制的にコントロールできるか…。私がここに陣取っていれば乗客の被害はない。最悪機長と福祉操縦士は助けられないかもしれないな)

『主任、防衛省ですが、これから審議するとのことです』

「これから?ぐずぐずしてたら間に合わないよ!?」

『…課長から、防衛省の動きが不自然との報告があります。まるで私達が失敗することを望んでいるかのようだと』

「なんだよそれぇ…。間に合わせる気がないって?自由人民党本部に突っ込まれて困るのは自分等じゃないのかよ…」

(一人でも多く助かるなら、一か八か乗客を海に放り出す…?…ダメか、タイムリミットがもう30分切ってる。もうじき陸地に入っていくし、生存率は無いに等しいか…)

 考え込む舞杏とハイジャック犯達の間にスカーレットがぴょこんと飛び出す。

《オマエばかかにゃ~?この飛行機には魔女様が乗ってるにゃぁ!》

 ドヤ顔でふふんと胸を張るスカーレットだがその言葉はにゃにゃ~んと伝わりはしない。

「あらあら、可愛いネコちゃんね」

 暢気なアルおばさんはまるで状況を諦めたかのよう。

 しかし、沈みかけた舞杏の表情は輝きを取り戻す。

「…真夏君!…いけるかもしれない!」

『はい!真夏ちゃんなら墜落を阻止することができるかもしれません!』

 双連が舞杏のデバイスに情報を送る。

『自動操縦プログラムですが、そもそも飛行機を墜落させるような命令を書き込むことはできません。ハイジャック犯が用意したプログラムはおそらく、着陸地点の位置情報を誤認させるもの。自由人民党本部を通過するルートの先に空港があると認識させ、ダブルチェックするセンサー類を破壊し誤情報を送り続ければ自由人民党本部に飛行機をぶつけることは可能になります。つまり、突撃する直前に魔法で機体を持ち上げてあげれば衝突を回避することができます』

「なるほど…。着陸に向けて速度を落とす。衝突回避後は誤認した架空の空港に勝手に垂直着陸する、か…」

『自由人民党本部は10階建てと低めですが、現在の進路から予測するに回避した先は国道246号線、およそ3キロの直線が続きます。飛行機には狭い道ですが、真夏ちゃんに誘導してもらえれば被害は軽微かと』

「そうだね、既に2キロ程の避難は済んでるはず。課長に連絡して予定進路方向に避難区域を広げさせて!」

『了解!』

「ハイジャック諸君!乗客の安全が確保されるまでは休戦といこう。キミ達はもう何もするな!」

「あぁ…元より俺達にできることはもうない。…好きにしろ」

「猫君はここで待機。ハイジャック犯を見張っててくれ。私は真夏君に作戦を伝える」

「にゃ~ん」

 銃を下ろして機長を解放するクロム。

「…いいのか?」

 隣のステンは小声で問い、同じように小声でクロムは答える。

「墜落すれば我々の目的は果たされる。乗客には申し訳ないが地獄に付き合ってもらおう…。もし、回避できれば乗客は救われる。俺達はもうここまでだ。あとはタングス達に任せよう…」

 緊張感が高まる客室、一方貨物室にて眠気に耐えながらもうとうとしている真夏。

『真夏君!…真夏君!?』

「は!はひっ!?」

 久しぶりに自分に向けられた通信に飛び起きる真夏。

『まさかキミ、この状況で寝ていたわけじゃあるまいね?』 

「い、いえ、そんな!おはようございます!」

 荷物の間に挟まれて体育座りをしていた真夏は勢い良くお辞儀をして膝に頭をぶつける。

『おはよう!仕事の時間だよ!』

 その通信と共に貨物室の扉がドンと開かれて舞杏が現れる。

「はい!」

 真夏は荷物の隙間からㇴッと飛び出して正座で着地する。

「現状、ハイジャック犯を大人しくさせることには成功した。どうやらこのハイジャックには別の側面があるようだね。今そっちに構っている暇はないが、乗客を助けることに邪魔はしないようだ。真夏君の任務は約20分後に墜落するこのハイジャックされた飛行機をハイジャックして墜落しないように魔法でコントロールすることだ」

「へ…?」

「西園寺君の調べでは墜落に向けてこの機体は減速する。出力が落とされることで真夏君が飛行機のコントロールを乗っ取ることが可能になるはずだ」

「はい…?」

『目標に対して出力を維持た状態で突っ込んでいくのではなく、目標を誤認させて着陸態勢をとらせる形で高度をコントロールしているようです。衝突時点での速度は300~400キロと予測。真夏ちゃんは衝突直前に機首を持ち上げるようにして出力を補助してください。自由人民党本部を越えた後は数キロ以内に垂直着陸態勢に入るはずなので墜落しないようにサポートをお願いします』

「…はえ…?わ、私が、この飛行機を飛ばすんです…?」

「ぶつかんないように補助するだけだ。よかったね、念願のハイジャックだよ!」

 おどける舞杏。

「ね、願ってませんよそんなこと!」

『乗員乗客400名以上の命を預かるぶっつけ本番の一発勝負です。集中して備えて下さい』

「はぅ…」

 脅かす双連に怯える真夏。

「そ、そんな…。飛行機を飛ばすなんて…。ど、どうせやるなら、一発勝負?するより、今からゆっくりでも下ろしてみるのはダメなんでしょうか…?」

『現在、この機は自動操縦で飛行しています。真夏ちゃんが減速させれば飛行機は出力を上げます。高度を維持しようとすれば飛行機は出力を落とし、真夏ちゃんにより大きな負荷が掛かり続けることになります。自動操縦のプログラムを書き変えることはできませんので、衝突直前に回避行動をとるのが無難な策と思われます』

(えぇ~…ひ、飛行機を飛ばすなんて…)

「自力でマッハを飛ぶ女がビビってんじゃないよ!でっかい杖を飛ばすと思って頑張りな!」

 パーンと真夏の丸まった背中を叩いて伸ばす舞杏。しかし、いつになく真面目な表情で真夏を見つめる。

「ひゃいっ!」

「私は混乱を抑えるために機内に残る。外のことは若い二人に任せるよ」

(そ…そうだ、私が失敗したら鷹司さんも…)

『はい、タイミングの指示はこちらでします。任せてください』

 落ち着いている双連。真夏も落ち着きを取り戻し、気合を入れる。

「わ、私も!がんばります!」

 


 自由人民党本部周辺ではハイジャックされた飛行機の墜落に備えた配置が整っていく。

 防衛省のバトルフレームの他、火災に備えて消防も建物の陰に隠されるように待機している。

「本当に我々が民間人に向けて発砲して良いのでしょうか?」

 バトルフレームにてロングレンジライフルを空に向けて構える隊員が小隊長に問いかける。

「殺すのではなく生存率を上げるための発砲らしいからな。俺達は上からの命令に従っていればいいんだよ」

 まだ若い隊員を諭すように話す小隊長。

 EFS331便が正面から建屋に衝突すれば生存率はゼロ。しかし、墜落位置をコントロールして胴体着陸させることができれば乗客の生存率は飛躍的に高まる。火災対策も着陸後の乗客救出の準備もできていると、そう説明を受けた隊員達だが納得いかない者も多い。機体に干渉するのであれば直接バトルフレームで誘導すれば良いだけなのだ。そうしないのは何故なのか、何故出来ないのか。その部分の説明があやふやで腑に落ちないのだ。

「危険な作戦です」

「わかってる…。政治的判断が絡むことなんだろ。あんまり深く考えるな。今は与えられた任務を全うすること。チーム全員で全力を尽くすこと。それだけを考えていればいい」

 小隊長は冷静にライフルの照準器を覗き込み、遠くに姿を見せたEFS331便を見つめる。



 現場を離れ、安全な場所に避難した宮沢屋洋一郎。自由人民党本部が見える超高層ビルの超高級料亭でまだ明るいうちから熱燗を体に染み渡らせていた。

 向かいの席には同じ竹中派の国会議員が2人。体格の良い男が上品とは言えない所作で贅沢な料理を貪る。その隣で短髪の女が酒を浴びるように飲んでいる。

「イヒャヒャヒャヒャ、それじゃあ本当に乗客が助かる可能性があるってことぉ?」

 酒に酔って少しふらついている女。

「いや、翼の電磁推進機を撃ち抜かせる作戦だが、ライフルには炸裂弾を仕込ませている。作戦が開始されれば、バーン!って翼ごと吹っ飛ばす算段だよ。魔女も乗り込んでるようだし、逃げ出す前に墜落してくれれば一石二鳥、ってな」

 わっはっはと上機嫌で笑う宮沢屋。

「イヒャヒャヒャヒャッ、魔女は飛べるのよぉ?1人で先に逃げちゃうんじゃな~い?」

「いーよいーよ、逃げたってね…。魔女を始末する準備も進んでるから。来週には楽しいショーが見れるよぅ」

 体格の良い男も卑しく笑う。

「さっすがよねちゃん!ヨッ!大統領!」

 料亭の一室では、がっはっはと下品な笑いがこだましていた。



 着陸準備の為EFS331便は時速300キロ程度まで速度を落としていた。

 真夏は乗り込んできた時同様に厚着をして貨物室から飛び出し飛行機の上に移動する。

(や、やっぱり、おっきいですよね、この飛行機…)

 強風に煽られながら飛行機中央まで移動する。

 50メートルを超える機体を操れるか自信を無くす真夏。

(で、でも、私がやらないとお客さんや鷹司さんに、スーちゃんだって無事じゃ済まないですよね…)

 機内では状況を知ってパニックになる乗客たちを舞杏や機長がなだめているところ。機内後方で拘束したハイジャック犯の1人ブロンが咳き込み苦しみだす。

「あら、もう時間かしら…?」

 同じ場所に拘束されたハイジャック犯のアルが苦しむ仲間を見て呟く。

「CAさん、彼に、お薬を飲ませてあげて」

 荒い呼吸をしながらその言葉を聞いたブロンは体勢を変えて仰向けになる。

「む、胸のポケットに…」

「は、はい…」

 近くに居た客室乗務員の1人がハイジャック犯に用心しながらポケットから薬を取り出してブロンに飲ませる。

 ブロンとアルは視線が重なり、アルは優しく微笑む。するとブロンは落ち着いたように目を閉じて動かなくなった。

「ありがとう…。落ち着いたわ…」

 アルは礼を言い、客室乗務員は会釈してその場を離れた。



 首都エール隣県のカムナの廃倉庫内で大泉鈍次郎は目を覚ます。

「こ、ここは…?…!?」

 パイプ椅子に両手両足を縛られた状態の大泉は目の前に立つライダースーツのタングスに怯える。

 倉庫内を見渡し、乗ってきた高級エアドライブで死んでいる運転手を見つける。

「な、なな何が目的だ…!?金か!?金ならくれてやる!だから、どうか命だけは…!」

 自分がどうなるのか察したのか大泉は涙を流して命乞いをする。

「俺達の目的が金だと思ってるのか?」

 タングスはパイプ椅子を大泉の前に置いてそれに座る。

 フルフェイスのヘルメットを脱いで素顔を見せたタングス。二十代後半、体格は良く顔立ちも整っている。

 銃を取り出し、弾倉を確認する。

「ま、待て!待ってくれ!私は君のことを何も知らない!君が誰なのか、何故私の命を狙うのか、私は、何も知らないまま殺されるのか…!?」

「いいや、知ってもらうよ。…お前は知らなければならない。俺達…理想なき革命家のことをな…!」



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