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#13 覚悟



「幸谷を前線に出すのは危険じゃないのか?」

 ハイジャック対応作戦に公安8階駐車場から飛び立った舞杏一行を見送る清水の元へ、森永卓志が電子タバコを吸いながら近づいてきた。

「卓志か…」

「魔女の損失は許容できないって話では?」

「ああ、わかっている。それも狙ったうえで六課に出動を命令したんだろう。だが直接怪人化を操る連中とやり合う訳じゃない。今回のハイジャック犯、どちらかと言えば政治家の敵だ。協力関係にはないだろう。飛行機に到着さえしてしまえば、鷹司主任がうまくやってくれると思うよ」

「ふっ、あんなのでも信頼してるんだな」

「まあ、あんなのでも、私の弟子らしいからね」

 あははと力なく笑う清水。遠くまで飛び、透明化したパトカーを見る目は心配ではなく信頼の目だった。

 パトカーの運転席には双連が座り、ハンドルは握らずに自身のデバイスと連動させて簡略的にパトカーを飛ばしている。

「作戦の詳細です。約一時間後、EFS331便との接触予定地点に到着します。パトカーは飛行機の進行方向を横切るように飛ぶので、突入班は飛行機を待ち伏せてホバリング。対象方向に透明化魔法を展開し、こちらの指示で移動と透明化魔法の方向変換をお願いします。機体の真下まで到着したら貨物室の搬入口を開けるのでそこから突入してください」

 いつになく丁寧に説明する双連。

「え?外から開けられるんですか?」

「電子制御なので可能です。航空会社と航空機製造会社には許可とパスコードをもらってます。コックピットにはドアが開いている警報は出ませんが、貨物室にハイジャック犯が居合わせた場合は速やかに排除をお願いします」

「内部の状況はどれくらいわかってる?」

「コックピット他数カ所のカメラは物理的に破壊されているようで確認できません。ですが、生きている監視カメラと乗客のデバイスからネットに上げられている動画をリアルタイムで処理し、ある程度の犯人の動きは見えます。が、乗り込む際の数十秒の間に犯人がどう動くかは読めません」

「運次第の出たとこ勝負だな」

《な、なんだか真面目な西園寺さんですね》

《さすがにふざけていられる状況じゃないんだにゃ~》

「ハイジャック犯は全部で6人です。全員、身元が確認できていますが、1人だけ、老婆の姿が見えません。乗客の中に潜伏している可能性がありますので気を付けて下さい」

「うん、人質を取られると面倒だからね。猫君にはその老婆を探してもらおうか」

「こちらが老婆の写真です」

 デバイス上に老婆を表示する。

「ワッシートDRO国際空港で他のハイジャック犯4人と一緒に乗り込むところが確認されています」

「もう一人は別口かな?」

「はい。もう一人は副操縦士として搭乗していた水口操縦士です」

「パイロットもグルだったか…」

「はい、武器の持ち込みも、パイロットがグルならどうにかなるでしょう。確認できている銃は四丁、いずれも小型の拳銃です。現在、コックピットに二丁、巡回しているハイジャック犯二人がそれぞれ一丁ずつ所持しています。老婆が武器を持っているかは不明。ネコちゃんは犯人に見つからないように老婆を捜索してください」

 老婆の映像をじっと見つめるスカーレット。

《正直、人の顔を見分けるのは苦手だにゃ…》

「あ、あの!スーちゃん、人の顔を見分けるのが苦手みたいです…」

 通訳する真夏。

「それなら、この小型カメラも付けていってください」

(…も…?)

 双連は通信機に小型カメラを取り付けて真夏に渡す。

「ネコちゃんは私達の言葉が理解できるんですよね?一方通行の通信になりますがこちらでサポートするので、隠密行動で高齢の乗客を見て回ってください」

《それならできるにゃ。見つけたらブッ飛ばすにゃ?》

《やめて下さい、お婆さんですよ》

「は、犯人を見つけた場合はどうすればいいですか?」

「そうだね、猫君の攻撃は機体を破壊しかねないからね、老婆は発見後監視していつでも抑えられるように待機。私が動き出した後、老婆が武器を取りだしたりデバイスを操作しようとしたら軽ーく押さえつけるんだよ。他にもまだ仲間がいる可能性もあるから、周囲の警戒も怠らずにね」

《うぅ~、ボクもバトルがしたいにゃぁ》

「他のハイジャックの人は全員鷹司さんが捕まえるんですか?」

「ああ、客室の二人を一瞬で片付ければコックピットは動かないだろうからね。あ、そうそう、コックピットのロックは開けられるよね?」

「電子ロックは問題なく。物理的なバリケードは主任の方で処理してください」

「了解、何とかしてみよう」

 余裕のある表情の舞杏。

「わ、私は飛行機のすぐ下を飛んでればいいんですか?」

 舞杏とは対照的に緊張が表に出ている真夏。

「いや、飛行機の真下を飛び続けるのもきついだろうからね…」

「貨物室を開けっ放しにもできません。開放による多少の揺れは乱気流として誤魔化せるでしょうが、開けたら閉める。一緒に乗り込んで貨物室に隠れるのが安全かと」

「そうだね、そうしようか。旅客機の高度はすっごく寒いから風邪ひかないようにね」

 冗談っぽく笑う舞杏に一喝する双連。

「冗談はやめて下さい、高高度の装備は用意してあります。ただし、金属を使用していない前時代的な装備なので過信はしないでくださいね」

「前時代的…?」

「後ろの箱を開けてごらん」

 舞杏に促されて置いてあった箱を開けると宇宙服のような分厚い服が入っていた。

「要するにただの厚着だよ。酸素ボンベの酸素もちっちゃい缶しか持っていけないから、長時間の高高度飛行は割とガチで危険なんだ」

「そ、そうですか…。わかりました、大人しく貨物室で荷物になってます」

「ああ、それでいい。ただ、無線は聞いておいてくれ。状況次第では真夏君だけでも先に避難させることになるかもしれないからね」

「へ…?」

「今回の理想なき革命家のハイジャック事件、本来我々のヤマじゃない。真夏君には怪人化事件を終わらせる役目があるんだ。こう言っちゃ悪いが、乗客の誰よりも安全を優先させるべきなのはキミなんだ。肝に銘じておいてくれ」

「私が…」

《ご主人はオンリーワンにゃ!ハイジャック犯はボクがぶちのめすから安心するにゃ》

《あ、あれ…?スーちゃん話聞いてました?スーちゃんはお婆さんの捜索と監視ですからね》

《わ、わかってるにゃ!舞杏がヘマした時はボクが何とかするってことにゃ》

《よろしくお願いしますね!》

「それにしても、理想なき革命家、か…」

 舞杏がハイジャック犯の情報を再確認している。

「おかしな名前だね」

「そ、そうですね。なんか、やる気の無い努力家、みたいな名前です」

「ふふっ、そう、言葉遊びで楽しむだけならともかく、ハイジャックするようなグループ名にそんな名前を使うなんてね…。私の認識では、革命家とは理想家をこじらせた連中、としていた。自分の理想の為に社会の根本的な変革を目指し、革命運動をする奴等。自分達に理想がないなら、それはただのテロリストだろうに」

「実際にそういう人間の集まりかもしれません、ハイジャック犯6名の共通点が分かりませんから。老若男女、とにかく社会に対して一発かましてやろうって、そんな感じで集まった人たちが総理大臣暗殺未遂犯を担ぎ上げたってだけでしょう」

 双連も運転をしながら情報整理を続けている。

「そうかもしれないね。素人の集まりなら脅威ではないが…彼等だってハイジャック犯の末路くらいは知っているだろう。それなりの覚悟を決めてやってることだろうし、油断はせずに気を引き締めていくよ」

 作戦開始が近づき舞杏の表情も真面目なものになっていく。

「は、はい!」

「まあほぼほぼ主任の仕事なので頑張ってください」

 素直に返事をした真夏とノリが悪い双連。

「ひゃー、真面目ちゃんはノリが悪いねぇ」

「それより、早く着込んでください。もうすぐ作戦開始です。そんな薄着で飛び出したら風邪ひいちゃいますよ」



 墜落声明を出された自由人民党本部から東に1200㎞、タイムリミットまで1時間となったところで公安六課は動き出す。

 透明化し、ホバリングして待ち伏せていたパトカーから雪山の登山者のような恰好をした舞杏と真夏、かごに入れられたスカーレットが杖に乗って飛び出す。

「気を付けて!」

 双連は見送りの言葉を掛けるとハイジャック犯の探知を避ける為、EFS331便の飛行予定進路から離れて身を隠す。

 真夏は覚えたての透明化魔法を東に展開し、来た道を戻る様に西へゆっくり進む。

『EFS331便、視界に入りました。これから誘導します』

 数十秒後、双連の声が通信機に届く。

「は、はい!よろしくお願いします!」

『速度600、左に2度、上に1度進路を修正してください』

「はい!速度600…ろっぴゃく!?ろっぴゃくって、600キロってことですか!?」

『早くしてください、追いつかれちゃいますよ』

「最終的には1200キロくらいで速度を合わせるからね。同じ方向に600キロで飛んでても、600キロの速度で近づいて来るんだ、今のうちに加速しとかないと乗り遅れちゃうぞ」

「ひ、飛行機ってそんな高速で飛ぶんですか…?」

 自信なさげな真夏。

「当たり前だろう?真夏君ならできるはずだ」

 真夏なら出来て当然といった顔の舞杏。

(こ、この人は私のなにを知ってるんでしょう…?)

「これでも領空に入る前に速度を落としてるんだ。ハイジャックされててもこの辺のルールはセーフティ装置の関係で守られる。我々に使える時間を最大限にする為の最適なタイミングでの突入だよ」

《ご主人なら1000キロは余裕だにゃ…ボクのこと落とさないでにゃ~》

 真夏を先頭に舞杏がスカーレット入りのかごを自分と真夏の間に挟んでいる。箱入りのスカーレットはなされるがままとなった自分の状況を心配している。

「そ、速度なんてどれくらいでてるか分かりませんよ?」

『こちらで支持します。今は加速です!』

 双連の細かい指示に従い数分間の難しい飛行が続く。

(ほ、本当に近づいてるんでしょうか?後ろの状況は見えませんし、風を切る音で飛行機の音なんて…)

 恐る恐る後ろを見る真夏だが後方の視界はぼやけてよくわからない。

(だいぶ速度は上がったはずですが…。これ以上はキツイかもです…!)

 真夏が指示される加速に限界を感じ始めた時。

『進路、速度そのまま……。来ます!』

 双連が言うのと同時に頭上数メートルの所に巨大な飛行機がㇴッと現れて圧縮された空気の衝撃がドンッと真夏達に伝わる。

「ひぎゃーーッ!?」

《にゃにゃーッ!!?いきなりきたにゃ!?》

「西園寺君!ハッチは!?」

 EFS331便はすぅぅっと真夏達を追い越していく。

『ロック解除!開きます!』

 機体のお尻付近についた真夏は離されないように気を引き締める。

「真夏君、透明化を解除!突入に専念してくれ!」

「はいっ!…い!?いぃぃーっ!?」

 ゆっくりと開かれる貨物室の扉の奥から固定されていないコンテナが数個外へ滑り落ちる。

「ひゃうぅっ!」

 間一髪のところで回避に成功する真夏。

 飛び出したコンテナは互いにぶつかり、回転して内部の荷物をまき散らしながら落ちていく。

(航空保安協会認定マーク…?)

 障害物を躱し、貨物室を目指す真夏の後ろで舞杏は落下する荷物を目にしていた。

「よく躱したね、褒めてあげよう」

「とっ、突入しますよぉっ!」

 飛び出すコンテナがなくなったことを確認して突入する真夏。貨物室に突っ込み転がる。

「…!あ、痛たた…」

「ふぅ…なんとか潜入成功か」

《し、死ぬかと思ったにゃ…》

『積載方法に問題があったようですが仕方ありません。飛行中にハッチを開くことは想定していないはずですから…。とにかく、潜入成功したみたいなのでハッチを閉じます』

「お…落っこちた荷物は大丈夫でしょうか…?」

 箱の中で爪をガリガリ扉にこすりつけているスカーレットを出してあげる真夏。

「まだ陸地からは離れてるからね…西園寺君、海上に船舶は?」

『付近に船舶はありません。人的被害なし、荷物の弁償はハイジャック犯に押し付けましょう』

「うむ、いい判断だ。我々はハイジャック犯の身柄確保に専念していればいい。…さて、貨物室は無人のようだ。真夏君はここで待機、猫君、いけるかい?」

「にゃぁ~」

《スーちゃん!頑張ってください!》

《任せるにゃ~!》

「よし、では行こう!」

 舞杏は客室へ向かう扉を少しだけ開けて様子を見る。その隙間からスカーレットが飛び出し、身を隠しながら客席の下に潜り込んだ。見送る真夏にウインクして親指を立てた舞杏。貨物室をそっと抜け出し物陰に隠れる。

 素早く、誰にも気付かれないように小さな体で機内を探索するスカーレット。

 スカーレットに付けたカメラの映像をパトカーで確認する双連。巡回するハイジャック犯の正確な位置情報を更新して舞杏に送る。

(客室には変わらず2人が巡回…。老婆はまだ見つからない、か)

 送られる情報を確認しながらじりじりと客席に迫る舞杏。

(離れた所で1人ずつ処理するか、まとめて2人抑えるか…。コックピットからの応援が出る前には私がコックピット付近まで行ってないと乗客に被害が出る可能性がある。制圧は問題ないが、どちらにせよ老婆の存在がネックだな…。タイムリミットまで約50分。猫君、なるはやで頼むよ…)

 それから10分程かけて広い客席を一回りしたスカーレット。

『ネコちゃん、老婆の指定席はもちろん、一通り客席を見ましたが老婆が居ません。変装している可能性もあります、乗客全員のデータを照合するのでもう一度、一人一人の顔をカメラに映すように捜索してください!』

《にゃにぃっ!?もう1回にゃ!?》

『最適ルートに誘導します。移動タイミングはネコちゃん、お願いします』

《くっ!コイツ聞いてないにゃ》

《スーちゃん!頑張りどころですよ!》

 貨物室の真夏から声が届く。

《うにゃ~、やれと言われればやるにゃ~》

《ふふっ、お願いしますね》

 双連の誘導で二周目の機内捜索を始めるスカーレット。



 自由人民党本部周辺では大規模な避難指示が出され、警察と防衛省が慌ただしく動いていた。

 半径2キロの範囲を規制し、防衛省のバトルフレームを10機配置した。

「それじゃあ、手筈通りに頼むよ」

 民間人が居なくなった区画に防衛省の装甲車。そこから卑しい笑顔でそう言い残して立ち去る宮沢屋洋一郎。装甲車に残された防衛省と警察の幹部は互いに億劫な顔を見合わせる。

 警察はEFS331便のコックピットを占拠するハイジャック犯との交渉を進めるふりをして時間を稼ごうとしているが成果はなく、EFS331便は真っ直ぐに自由人民党本部を目指して飛行している。

 しかし宮沢屋にとって交渉の行く末などどうでもよかった。

 民間人救出の為、ハイジャック犯の要求を受け入れようという声も上がったが宮沢屋はこれを一蹴。テロに屈してはならぬとはねつけた。

 配置についたバトルフレームが持つロングレンジライフルなどの攻撃的な装備が宮沢屋の真意を物語る。

『公安六課の任務が失敗した場合、自由人民党本部駐車場を目標に撃墜しろ』

 宮沢屋の簡潔な命令には人命のことなど微塵も考慮されていないものだった。


 

 二周目の捜索を終えたスカーレット。しかし老婆の姿を見つけることはできず、タイムリミットは30分を切っていた。

『捜索終了…。老婆の所在不明です』

《無駄骨だにゃーっ!》

「ふぅ、困ったね。老婆が飛行機に乗ったのは間違いないんだよね?」

『はい、空港の監視カメラで確認がとれています』

「そうか…。だがもうこれ以上は待てないね。犯人の1人がこっちに来てる、貨物室へ行くかもしれない。ここで仕留めるよ…」

 小声で報告してタイミングを見計らう。身を潜めた舞杏に気付かない男がすぐそばを通り過ぎた瞬間、舞杏は音もなく飛び出して男に手刀を喰らわせ喉を潰した。驚きと共に潰れた喉で苦しそうに咳をする男の袖と襟を取り一回転させて床に叩き付ける。

「カハッ…!?」

 うつ伏せに倒した男を後ろ手に拘束して銃を奪い銃の状態まで確認する。ほんの数秒の早業であったが後方の乗客が騒動に気付いて騒ぎ出す。

「警察です!そのまま動かないで!」

 言い終わらないうちに走り出し後方のフロアを駆け抜ける。

 前方フロアへ飛び出すと巡回していたハイジャック犯の女を確認する。斜め左方向に約10メートル。舞杏は低い天井と乗客の頭上の間を飛ぶように疾走して女に飛びかかる。異変に感づいた女が振り向きざまに銃を向けるが弾丸が放たれることはなく、舞杏の手刀が女の持つ銃を床に叩き落とす。転がる銃に気を取られる女を前方に投げ飛ばす舞杏。女は飛ばされ転がりながらコックピットの扉にぶつかる。

 舞杏は銃を回収して女のもとへ向かう。

「猫君、隠密行動解除。全域を周回して怪しい動きをする奴を抑えて!」

 通信機で指示を与えて大声で叫ぶ。

「警察です!皆さん座席から動かないでください!」

 乗客への言葉だが舞杏はハイジャック犯の女を見据えたままだ。コックピットの扉を守り立塞がる女だが舞杏にとっては脅威にならない。赤子の手をひねるように女を後ろ手に拘束する。

「西園寺君!コックピットを!」

『電子ロック解除!ドアガード有!銃で破壊できます!』

「了ー解ッ!」

 電子ロックが外れ扉が少しだけ開く。その隙間に銃を突っ込み金具を狙って銃を撃つ。

 扉を開くと主犯格の男が銃を向けて待ち構えていた。しかし舞杏はハイジャック犯の女を盾にする形をとっていた。

「今時ハイジャックなんて流行らないだろう?ごっこ遊びはもうお終いだよ」

 女の肩越しに銃を構えた舞杏はニヤリと笑う。

 動き出した舞杏に合わせてスカーレットも大胆に機内を走り回る。

《怪しい奴はいにゃいかー!?居てもいいんだにゃ!ボクがブッ飛ばしてやるにゃあ!》

 その場を支配する覇者のごとく立ち回るスカーレットだったが、人けのないバリアフリートイレの前で違和感を覚えて立ち止まる。

《にゃ?》

 赤い液体がトイレの中から通路まで流れ出ていた。

《なんにゃ…?》

『なんでしょうか?ネコちゃん、開けられますか?』

 カメラで状況を見ていた双連からの通信。

《にゃ。余裕だにゃ》

 取っ手には届かないが巨大化した右の前足でドアを開く。

《……はにゃっ!?》

『……えっ!?』

 スカーレットと双連が見たものは車椅子に寝かされた老婆。胸の前で手を組みピクリとも動かない。腹部からはおびただしい血が流れだしそれは通路まで届いていた。

 恐る恐る洗面台に跳び乗るスカーレット。

 老婆の腹は切り開かれていた。

『……なるほど…。銃を持ち込んだのはこの老婆ですか…!?主任!気を付けて下さい!』

 主犯格と対峙する舞杏。

「ふっ…。ごっこ遊びと侮るか…」

「クロム…すまない…」

 ハイジャック犯の女が呟き目を閉じるとクロムと呼ばれた主犯格の男は銃口を女の眉間にねらい定める。

 瞬間、放たれる弾丸。

「!?」

 


 その頃貨物室の真夏はコンテナとコンテナの間の程よい隙間に身を隠して荷物になりきっていた。

(ふぅ…。貨物室の空気って、なんだか薄い気がします…)

 小さな酸素ボンベからシュコーっと酸素を吸い込む真夏。

「ふふふ…。…宇宙人みたいですね…」

 暇を持て余していた。



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