表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

#9 newbie



 早朝の公安六課、応接室。真夏とスカーレットはゆったりとしたソファーに座らされている。

 負傷したしょう舞杏(まいあん)に抱えられて公安の医務室に運ばれていった。

《でも、なんで病院じゃなくて、公安…?に来てるんでしょう?》

《医務室、は病院とは違うにゃ?》

《ですね。病院の方がしっかりした設備があるはずです》

 密かに会話をしているが他には誰も居ない。

《まぁあんな怪我ツバつけときゃ治るにゃ》

「治りませんよぉ」

「ん?なにが?」

 応接室の外で資料をまとめていた双連そうれんが音もなく入室する。

「へ?あ、いえ、なんでもありません…」

 恥ずかしそうに下を向く真夏。

「その猫君はキミの使い魔なのかい?」

 続いて舞杏が入室する。

「は、はい。私の、使い魔になってもらいました。スカーレットといいます」

「うにゃ~ん」

「ふむ、随分と派手に防衛省とやり合っていたけど、コミュニケーションは取れているのかい?あれだけの戦力だ、制御できない力は危険だよ」

「それは、大丈夫です。スーちゃんは人の言葉が理解できているので、マナを伝って会話することができます」

 舞杏は真夏の向かいのソファーに座り、双連は立ったままデバイスに何かを打ち込んでいる。

「なるほど、つまり幸谷さんの意志で防衛省のバトルフレームを破壊したと…」

「へ…?」

(ゆ、誘導尋問ですか!?油断しました!ここは警察、これは取り調べですね!?)

 晶を人間の姿に戻すことに成功して緊張が解けていた真夏は気を入れ直す。

「そ、それについては…。晶さんを守る為に仕方なく…」

「うん、そうだね。あの場面、真夏君が動かなければ晶君は確実に撃ち殺されていただろう。ある意味正当防衛ともいえるが…。真夏君はいつからあのゴリラ怪人が晶君だと分かったんだい?」

「えっと、確信してた訳じゃないんですけど、晶さんが着ていたドレスがテレビに映った時です。あのドレスの裾に家紋がついてて、もしかしたらって…」

「そう、家紋がねぇ…」

 舞杏は真剣な表情で真夏を注視する。

「ところで真夏君。カツ丼でもいかがかな?」

「カ、カツ丼…?」

(と、取り調べといえばカツ丼ですが、朝からカツ丼はちょっと…)

「主任、私はエッグベネディクトでお願いします」

 双連の注文を受けて舞杏はデバイスを操作する。

「うん、ではカツ丼二人前とエッグベネディクト、あとは猫缶でいいかな」

《バカちんがーーッ!!ボクにもカツ丼用意するにゃー!!!》

 丸くなっていたスカーレットが突然立ち上がり舞杏を威嚇するようにシャーっと牙を見せる。

(え…?なに?私、カツ丼で決定ですか?)

「おぉ!?どうした急に?荒ぶっておられる」

(というより、取り調べって刑事さんも一緒にご飯食べるんでしょうか…?)

《カツ丼にゃ!カツ丼!ご主人とボクがカツ丼でおみゃーが猫缶食ってろにゃ!!》

 ぱんぱんとソファーに猫パンチを喰らわせるスカーレットを抱きかかえる真夏。

「すみません。スーちゃんには薄く味のついたお肉をお願いできますか?」

《ご主人?》

「味付きでいいのかい?」

「は、はい…。ジャンキーなんです、この子」

《カツ丼!カツ丼にゃ~》

 頭をぽんぽんと撫でて落ち着かせる。

「ふふ、グルメな猫君だ。それではステーキを用意してあげよう」

《!?》

(使い魔にとして体の内側も魔法で強化できれば人間と同じものを食べても大丈夫になるでしょうか?)

《おみゃーなかなか話が分かるヤツだにゃ。家来にしてやってもイイにゃ》

 落ち着いて真夏の膝で丸くなるスカーレット。舞杏は注文を済ませる。

「あ、あのぉ…取り調べって刑事さんも一緒にご飯食べたりするんですか…?」

「取り調べ?あぁ、別にそんな堅苦しいものじゃないから楽にしてくれ。緊急出動だったからね、私達は朝食もまだだったんだ」

 だらっとソファーに身体を預ける舞杏。

「そう、なんですね。怪人が出ると警察も出動してるんですね」

「ま…まぁ、そうだね。…避難誘導なんかで出てたりするね」

 急にきょどりだす舞杏。

「その話は置いといて、主任!本題をお願いします」

 依然として公安の監視対象である真夏に変なことを言わないように双連が釘を刺す。

「あぁそうだった。真夏君をここに呼んだのは取り調べではなくて…」

 深刻な顔の舞杏。

「…真夏君、キミは、怪人とは何だと思う?」

「怪人…?怪人は…人間が変身したもの…ですよね…?」

「うん。今回、浅見晶君の件でそのことが確定した。怪人が現れて約30年、これまでに出現した怪人はそのすべてが殺処分、もしくは死亡が確認されている」

「………」

「怪人の処理に当たっている防衛省の話では、怪人とは出現から長くても十日程で自壊して死に至るとのこと。防衛省が殺した怪人も、死後異常な速度で腐敗が進みまともに検死もできないという」

「………」

 沈黙する真夏をよそに話し続ける舞杏。

「一方、このエルドランドで行方不明の届出件数は年9万弱。そのほとんどは発見されているが、1割程度、見つからないケースが存在している。約9千件だ。そして怪人の発生件数は年間約300件」

「……?」

「我々はね、都合の悪い人物を怪人化させて消している何者かが居ると考えている」

「えっ!?」

「そうは思わないかい?晶君は自分の意志で怪人になったのか。答えは彼女が目を覚ましてからになるが、私は違うと思っている。何者かによって、強制的に怪人化させられた。意思を奪われ、醜い姿となり、十日程度で死に逝く哀れな存在…。そのようなものに自分からなりたいだなんて言う人間はなかなか居ないはずだ」

「……秘密結社、ですか…?」

「そう。そのような組織が邪魔な人間を怪人化させて消していく…。怪人を利用して社会を崩壊させるつもりならもっと沢山の怪人を作りだしてもいいはずだ。でもそうじゃない、簡単に駆除できる程度しか出てこないのが現状。怪人を生み出すのに限度がある可能性はある。だが…死体がでなければ行方不明として扱われるのも事実だ」

「行方不明で済まされるように、調整している…?…あ、でも…怪人の死体を調べればDNA鑑定くらいはできそうですよね…?」

 真夏自身DNA鑑定を受けたことがあり、少量のサンプルでそれが可能なことを知っていた。

「今のところできていないね。怪人がどこから来たのか、何が目的なのか知る為にも徹底的に調査するべきだが、それをこの30年間やってこなかった」

「怪人が…人間が変身したものだと思わなかった、ってことです…?」

(怪人は何かしらの動物をモデルにしているみたいですし。知性を見せず、ただ盲目的に人を攻撃する怪人を動物が人間のように進化したものだと思ってたんでしょうか…?)

「いや、私達はね…防衛省もグルなんだと思っている」

「へ?」

 豆鉄砲を食ったように変な声が出た真夏。

《ずっと前から調べてたみたいな言い方にゃ》

《た、確かに…》

「防衛省はこれまで怪人案件の全権を握り対処してきた。国中の怪人対策システムや対策費、これには莫大な利権が絡んでくる。自ら飯の種を捨てるようなことはしないだろうからね、怪人は『謎』であってくれた方が都合がいいんだよ」

「だから、調査しない…?」

「自分等に都合の悪い人間を怪人にして自分等で殺し、収入減にさえしている。自作自演の劇団、とんでもない組織だよ」

「あの、一色軍曹も、知っているんでしょうか?」

「彼の反応からは知らないみたいだったね。末端の兵まで知らせる必要はないし、防衛省の後ろにも黒幕が居るはず、防衛省だって単なる操り人形なのかもしれない」

(黒幕…。リェン様が言っていた……敵?)

「防衛省単独で利権を回せる訳じゃないからね」

「…黒幕が、誰か知ってるんですか?」

 舞杏は意味深に頷いた。

「昔誰かが言っていたよ。利権の創出と分配が『政治家』の仕事だってね」

「政治…家」

「摘発できるほどの証拠はまだ無いが、自由人民党、竹中派が裏で動いていると我々は睨んでいる」

「……!」

 静かな空間に緊張が走る。

(竹中派…?もしかすると、リェン様の敵かもしれない相手)

「主任!」

 沈黙を破る双連の言葉に真夏は固唾を呑んだ。

「カツ丼、到着です」



 同じ頃、伊月パンでは配達に飛び立つホルスを見送った女将が帰ってこない真夏を心配してため息をついていた。

(はぁ…。やっぱり回線契約して連絡できるようにしないとダメだねぇ…)

 厨房に戻ってテレビを見ながら作業をする。

(緊急報道では防衛省のバトルフレームが損傷した以外の被害はなかったと言っていたけど、心配だ…。帰ってこないでどこほっつき歩いてるんだろうねぇあの子は…)

(………)

 防衛省の緊急報道番組はいつも通りの警報解除で番組を終了させた。

 どこか上の空で作業に没頭する女将を緊張と心配の面持ちで見守る大将であった。



 公安六課の応接室にて朝食を食べる一同。

 テーブルの上では薄くソースを塗ったステーキを一心不乱に貪るスカーレット。その姿を愛でる舞杏は朝からのカツ丼を苦にすることなく飲み込んでいく。

(は、速い…!上品にナイフとフォークでエッグベネディクトを食べている西園寺さんとは対照的に、鷹司さんはカツ丼をまるで飲み物かのように飲み込んでいきます)

 自分の丼と見比べて5倍以上の速さで減っていく舞杏の丼に驚愕する。

(見た目はすらっとした上品な女性なのに、ギャップがすごい人ですね)

 真夏の視線に気付いた舞杏は空になった丼をテーブルに置いて真夏を見つめる。

「どうかしたのかい?」

「あ、い、いえ…。その…そういえば、さっきの話って部外者に話してもよかったんですか?」

「ああ、捜査状況を含む話だったね。部外者に話す内容ではないけど、我々は真夏君を公安六課にスカウトしようと考えていてね。関係する部分を話させてもらった」

「へ、へ~…スカウト…。…?…スカウト!?」

 掴んでいたカツをポロリと落として目を丸くする。

「わ、私をですか!?」

「そうだよ。朝食のメニューじゃなくてこっちが本題だったんだ」

 爪楊枝を咥えながら、カツ丼では物足りなかったのか出前のメニューを見ている舞杏。

(軽っ!この人すごく軽く言ってます)

「幸谷真夏、17才。O型でBカップの自称異世界人」

 上品に口元を拭いた双連がまったりしている上司に代わる。

「へ?」

「伊月パンに居候する現代に蘇った魔女。魔法の練習と店の手伝いをして日々を過ごしている。現在店では問題なく働いているが、過去にバイトを三日でクビになった経験あり」

(なっ…!?こ、これが公安警察の情報力…?)

「ここ数日、幸谷さんのことを調べさせてもらいました」

「さ、さすがです…。そんな情報、どこから…?」

「合わなかったチークをあげたらべらべら喋ってくれたよ」

(ん?お化粧品…?…ホルスちゃん!?)

 ふと頬の血色感が良いホルスの顔が頭に浮かんだ。

「ホルスは後輩でね。500円の安いお下がりで大喜びだ」

(中古の化粧品で売られてしまいました…)

「ホルスちゃんと変な、敬礼…?みたいのしてましたね…」

「ん!」

 言われると双連は左右対称に両手を頭に近づける変な敬礼をしてみせる。

「これからよろしくね!真夏ちゃん!」

(あ、あれぇ…?この人真面目なのか変な人なのか分らなくなってきました…)

「や、やる方向で決定なんでしょうか?」

「え?やらないの?身分証もない不法入国者状態なんでしょ?色々と融通利くよ?国家権力なめんなよ?しょっ引くぞ?」

「い、いえ…!や、やらないとは…。急なお話だったので…」

 急に圧をかけだす双連にたじろぐ真夏。

「ははは、西園寺君、落ち着きたまえ。未来の同僚を脅かしてはいけないよ」

 爪楊枝を細かく動かしている舞杏。奥歯に何か挟まっているようだ。

「怪人を元の人間に戻したことは防衛省も知ってしまっている。推測が正しければ真夏君をよく思わない連中から攻撃を受けるかもしれないね。単独で動くより、我々と共に行動した方がキミの為にもなるはずだよ」

(確かに…。悪の組織と戦うには一人だと心細いです…。私にしかできないこと…怪人を元に戻す…。これで世界が救えるかどうかは分かりませんが、できることはしていかないと、ですね)

「お給金も出るし、これからも怪人に絡んでいくつもりなら悪くない話だろう?」

「!お給金!?」

 ゴクリと唾を飲む真夏。

「い、いいのでしょうか。私なんかが…」

「ん?組織に属するのだから当たり前のことだろう?経歴のことを言っているなら気にすることはないよ。能力主義の職場だ。西園寺君だって飛び級で、確か真夏君と同じ17才じゃなかったかな」

 ちらっと双連を見ると頷き返す。

「真夏君には怪人を元に戻す力があるだろ?一芸採用ってことでよろしく頼むよ」

《悪い話じゃないにゃ。国家権力が味方について毎日ステーキが食べれるにゃら万々歳にゃ》

《そんな頻繁にステーキなんて食べられませんよ?…警察が味方になってくれるのは助かりますけど、敵も国家権力だということを忘れてはいけません》

「わ、分かりました。よろしくお願いします」

 気を引き締めて頭を下げる真夏に笑顔になる舞杏。

「うん、よろしく。歓迎するよ」

「よっし!後輩ゲットだぜ!」

 立ち上がって喜ぶ双連。

「それじゃあ、この後六課の課長に面接を受けてもらうよ。もう出勤してるはずだ」

「面接、ですか…?」

 真夏はいつもの魔女服であることを心配する。

「あぁ、既に話は通してあるから問題ない。形だけの面接だよ」

「そうなんですね」

「ただ一つ、注意点を…」

 突然真顔になった舞杏はすっと真夏に顔を近づける。

「課長の薄毛はいじらないことだ」

「…へ?」

「かなりきてるのを、本人も気にしていてね。いきなりそのことをいじったりしたら流石に怒ってしまうだろう」

「主任、初対面の禿をいじったりしませんよ。普通にしてればいいからね。あまり視線を上げず、目を見て話すんだよ。鼻でもいい。眉より上はダメ!奴等は上への視線に敏感だからね」

「は、はぁ…」

『ゴホン、ゴホン』

 応接室の外からわざとらしい咳払い。

「おっと、噂をすれば禿、だ。気楽にね、真夏君」

 舞杏と双連が退室し、交代で公安六課の課長が入室する。三人がすれ違いざまに見せた課長のジトっとした目に舞杏と双連は気付いていない。

「おはよう、幸谷真夏さんだね。六課の課長、清水次郎吉だ。よろしく」

「は、はい!よ、よろしくお願いします!」

 真夏は立ち上がり姿勢を正して一礼する。

「あぁ、緊張しないで。聞いてると思うけど、形式上の面接だから」

 清水が着席を促して真夏は元の位置に腰を下ろす。

《ハゲといえばハゲだにゃ》

《やめて下さい!見ないようにしてるんですから!》

「さて、今日は大変な活躍だったね。怪人が現れてから30年、怪人から人の姿になるなんて初めてのことだ。私達公安でも怪人の正体について調べていたんだが、思うように捜査ができなくてね。縦割り行政ってヤツだよ、怪人関係は防衛省ってね」

 初老の風貌をした清水は生き生きとした表情で口早に話している。

「だがこれからは違う。怪人が人の姿になり、確保できるのであれば、これは捜査機関の管轄になる。まぁ、混乱を避ける為公表の時期は調整されるだろうが、これから忙しくなるだろうね」

 そう言いつつもどこか嬉しそうな清水。

「あ、あの…。晶さんはどうなるんでしょうか?」

「浅見晶。15年前に亡くなった浅見信三と、浅見三子議員の次女。本人も政治家を目指し母の秘書として勉強中。両親の思想を引き継ぎ保守的だがその理念はどこか政治に対する不平不満からきているふしがある。15年前、父の事故を政敵による暗殺だと思い込んでいる可能性あり…」

 清水は浅見家の関連資料をデバイス上に表示させる。

「浅見信三の検死は二度行われ、その両方で生前に泥酔状態であったと結論付けられている。あり得ないと主張があっても、暗殺事件として捜査することはできなかった…。しかし今回、浅見三子議員の事故。そして娘である浅見晶の怪人化。これらすべてがたまたま浅見家で起こったというのは少々不自然だ。何者かによる浅見家への攻撃、可能性は十分にある。浅見晶の保護と監視の為我々六課のセーフハウスでしばらく軟禁することになるだろう」

「軟禁ですか!?」

「我々は公正でなければならない。浅見晶が被害者である可能性と、何らかの組織、事件に関与している可能性を考える必要がある。もちろん、彼女に非がなければただ保護されていることと相違ないことだ」

「保護…ですね」

 ほっとして胸を撫で下ろす真夏。

「私は、どんな仕事をすればいいんですか?」

「幸谷さんはとにかく怪人の人間化。戻せると分かった以上は防衛省に殺される前に保護するんだ。私の方からも防衛省に殺処分ではなく確保するように働きかけるが、実現できるかは分からない。敵からの妨害もあるだろうからね」

「は、はい。それならできそうな気がします…。スーちゃんも居ますし」

 ステーキで満足したスカーレットはすでに丸くなって眠っている。

「うん、その猫も大した戦力だ。期待している。…まずは鷹司主任の捜査に協力し、怪人の出現に備えて待機ってことでお願いするよ」

「はい、了解しました!」

 気合を入れた返事をする真夏。

 その後、事務手続きを済ませ、舞杏と共に浅見三子の元へ事件の説明に行ったり、晶をセーフハウスに運んだりした真夏。しかし意気込む真夏とは裏腹に、晶は目を覚まさず怪人の出現もぴたりと無くなってしまうのだった。



 夜、浅見三子の病室を訪れる森永卓也。

「あ、おじさん。久しぶり~」

 出迎えた皛は陽気に手を振る。

「皛ちゃん、久しぶりだね。…ぐあいはどう?」

 眠っている三子。

「心配は要らないみたいだよ、意識も戻ったし。ただ、痛みがきつくて強めの痛み止めを使ってるから眠っちゃってるけどね」

「そうか、よかった。…悪いね、来るのが遅くなって」

 お見舞いの品として持ってきた果物を皛に渡す森永。

「ありがと~。ふふ、気にしないで、おじさんも忙しいんだから」

 果物かごを置いて替わりに洗濯かごを持つ。

「ちょっくらランドリーに行って来るから、ゆっくりしてってね」

 そう言って病室を出て行く皛。警備している警官に会釈をしてランドリーへ向かった。晶の事件を受けて警備の数も増やされている。廊下に二人、病室の窓の下にはパトカーと警官。しかし、病室内に警備は入らない。

 病室には静かに眠る三子と、三子の無事を確認できて安心した森永の二人。

「あぁ…。無事でよかった…」

 本心からの言葉がぽつりとこぼれる。

『プルルルルッ』

 静かな病室にデバイスのコールが鳴る。

「はいはい…。…あぁ、そうだね。やっと最後のピースが揃ったみたいだ…」

 カーテンを少し開けると暗いガラスに反射するしたたかな笑顔の森永が居た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ