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これは真冬のプロローグ 1



 凍える吹雪の山中でうずくまって震えている。

 コートの内側に抱いた子猫から流れる血がほんの少しだけ温かい。

 次第に手足の感覚が無くなって、意識が遠のいていく。

 真夏にとってそれが現世での最後の記憶となった。



「起きてくださぁ~い」

 甘ったるい声で起こされる。

「……う…ん…?」

 目を覚ます、という表現は間違っているかもしれない。魂だけとなった真夏が意識を取り戻すと自分のすぐそばに神々しい何かの存在を感じた。

「…な、なに?……誰ですか…?」

 経験したことの無い感覚に戸惑いながらも現状把握に努める。

「はい、おはようございまぁす。幸谷真夏さいわいやまなつさんですねぇ。私はリェン・カーネ、死者の魂案内役を任されている女神ですぅ」

 おっとりとした口調で女神と名乗るリェンが指をパチンと鳴らすと、ぼやけていた真夏の感覚が研ぎ澄まされる。

「ええっ!?ええぇ~???」

 視界がはっきりすると真っ暗な空間に美しい女性と白い炎のような自分だけが存在する。

「ど、どどどどーなってるんですかぁ!?」

「まぁ~、落ち着いてくださいねぇ。真夏さんは今、魂だけの存在ですぅ。動くこともぉ、現実から目を背けることもできませんよぉ」

 他人事で事務的に淡々と語るリェンだが、彼女が思っているよりもあっさりと真夏は現状を受け止める。

「あ、あはは…。そう、ですか。私ぃ、やっぱり死んじゃいましたかぁ…」

「死亡した自覚はあるようですねぇ、取り乱さないでいてくださるのは助かりますぅ~」

「ま、まぁ、あんな状況で意識を失えば…死んじゃいますよねぇ」

 姿形ではわからないが、声のトーンは寂しそうだ。

「そうですねぇ。死の状況を整理させていただきますよぉ」

 リェンは一冊の本をどこからか取出して開くと、小さくコホンと咳払いをして息を吸いなおす。

「お魚くわえたドラ猫♪ 追っかけて♪ 裸足でかけて…」

「ちょ待っ!ど、どこからリプレイするんですか!?いいですよ!普通に凍死で!」

「そおですかぁ?一応本人確認の一環としてぇ、死亡の経緯を確認することになってるんですよねぇ」

「ほ、本人確認?意外とお役所仕事ですね」

 リェンの持つ本に何が書いてあるのか気になる真夏だが、今の彼女には身体を動かすことすらままならない。

「取り違えると大変ですからねぇ。見分けがつかない魂だけですからぁ、間違えて地獄行きぃ→なんてことにもなっちゃいますからねぇ」

「幸谷真夏、八月一日生まれの17才。獅子座でO型。趣味で家庭菜園をやっています。どうか地獄行きだけはご勘弁お願いします!」

 真夏が勢いよく頭を下げる動作をすると彼女の魂が前後に揺らめく。

「なりすましぃ、という可能性も考慮しなければいけませんからねぇ」

「お魚くわえたドラ猫追っかけちゃいましたー!」

「はい、幸谷真夏さん、よろしくお願いしますぅ」

「オナシャース!」

 さながら面接で好印象を残そうとする体育会系のような返事をする真夏。

「まぁ、地獄なんてないんですけどぉ」

「ないんかーーーいッ!!!」

 虚無の空間に真夏の声が響く。

「冗談はさておきなんですけどぉ、真夏さんには三つの選択肢がありますぅ」

(な、なんでしょうこの女神様!?ペースが全く掴めません!クールな私が保てない…!)

「クールなんですかぁ?真夏さんはどっちかというと…」

「こ、心の声に反応しないでくださいよー!」

「女神様ですからねぇ」

 得意気なリェン。真夏は肺の無い魂で呼吸が早くなる。

「一つ目はぁ、このまま魂を消滅させて無になることですぅ。あなたの個は保たれて安らかにぃ、永遠の眠りにつくことができますぅ。二つ目はぁ、輪廻転生の輪に溶け込み新たな形になってぇ、現世に生まれ変わることですぅ。無限の意識に混ざってぇ、あなたの個は緩やかに分解されていきますぅ」

 マイペースに説明するリェンは開いていた本をパタンと閉じる。

「普通の人はこの二択になるんですけどぉ、真夏さんにはもう一つぅ、特別な選択肢がありますぅ」

 ニヤリと笑って顔を近づけるリェン。

「危機に瀕した別世界に転生してぇ、救世主となっていただくことですぅ。この場合ぃ、真夏さんの自我は保たれてぇ、第二の人生を歩むことができますよぉ」

「そ、それって、異世界転生ってやつですか?」

 指を鳴らして真夏を指差す。

「はい~。ご存じの通りぃ、噂のあれですぅ」

「異世界転生…。本当にそんなことが…?」

「非常に稀なことなんですよぉ。転生特典も付きますしぃ、是非ともご利用くださいぃ」

「危機に瀕した世界…。救世主……。わ、わかりました…。魂の消滅でお願いします」

「はい~。では転生特典を決めてくだsえええええええぇーーーぃ!?」

 真夏の返答を一瞬遅れて理解したリェンは飛び退いて驚く。

「お、お話聞いてましたー!?魂の消滅!真夏さんが消えちゃうってことですよー!?」

 おっとりとしていた女神に焦りが見える。

「いや~、自分で言うのもなんですが救世主なんて無理過ぎます。失敗した時の責任も負えませんし、眠るように消えられるならそれが良いかな~って」

「もっと生にしがみつきなさいよ!貴重なチャンスを与えられてるのよ!?つかみ取りなさいよぉ!」

「自分なんかが、おこがましいっす」

 てへへと頭をかくような仕草が目に浮かぶ。

「謙虚なコ!ねぇお願いよぉ!困っている人達を見捨てたりしないでぇ!」

「そう言われても、人には向き不向きがありますし、次来る人にその権利を譲らせてください」

「来ないのよ!ココには滅多に人は来ないの!」

 リェンは真夏に圧をかける。

「そ、そうなんですか…?」

「そうよ!私の担当は転生の権利を持つ者の案内だからー、この役目を果たすことすら稀なのよ!」

 真夏の魂の前に正座して両手を合わせて頼み込むリェン。

「ね?私の世界を救ってちょうだい?」

「女神さまの世界?」

「そうなのぉ!数多ある世界の中で救ってほしいのは私の世界!ちょっと目を離した隙に人類滅亡の危機なのよぉ!」

(というか、女神様が直接救ってしまえば良いのでは…?)

(それが出来ないから困ってるんでしょぅ!)

「こ、心に直接語り掛けないでください!」

「お願い!お願い!お願い!お願いー!」

 地べたでじたばた駄々をこねる女神。

「何でそこまでして…」

 そんな女神に冷めた視線を向ける真夏。

「………。私はぁ、私の世界の人々を皆愛しています」

 真夏の視線で我に返るリェン。

「自分で救うことが出来ない決まりなので、私にとってもあなたは貴重な存在なのです。どうか、世界を救ってください…」

 姿勢を正し、しおらしく神々しい姿に真夏は心を打たれてしまう。

「うぅ……。失敗しても、知りませんよ…?」

「はいぃ!きっと大丈夫ですぅ!女神の祝福が真夏さんをお助けしますぅ!」

 ぱあっと表情が明るくなるリェン。

「ではでは転生特典を決めちゃいましょぉ!」

「転生特典…」

(転生特典と言われても、どんなのが良いんだろ…?どんなことが出来るのかも分からないけど、異世界…?魔王みたいなのと戦うのかな?…絶対無理。……魔法、なら離れた所から戦える?仲間を集めて、遠くから凄い魔法でドーンって…。魔法使い…。最強の魔法使い…)

「そ、その世界で最強の魔法使いにしてもらうことって、できます?」

「アバウトですねぇ、出来ますよぉ。それで良いですかぁ?」

「それは出来ちゃうんですね。…じゃあ、それでお願いします…」

「ハイ、では契約成立ぅ!気が変わらないうちにさっさと行っちゃってください→」

 リェンのそばに大きな赤いボタンが現れる。

「ポチッとな」

「!?」



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