みぞれ
氷の船は巨大台風に向かって進んでいた。
すでに暴風圏の中だ。強烈な風と波とで、氷の船は大きくゆれている。
インド政府からの返事を、ペンギンちゃん船長は待っていた。
(もしも、『奥の手』を使うことができないなら・・・・・・)
その時は、シンガポールに引き返すしかないだろう。
そして、南極の工場から大勢のスタッフを呼んで、船の修理をすることになる。予定していた日までに、インドに着くのは無理だ。
これまで以上に船がゆれる。風と波がさらに強くなったらしい。
そろそろ無線が通じなくなる。そうなると、インド政府と連絡がとれなくなる。
(あと一分だけ待とう)
それで返事がなければ、シンガポールに引き返す。
ペンギンちゃん船長は時計の秒針を見つめる。
その針があと少しで一周する、という時だった。
ロボットペンギンが操縦室に駆けこんでくる。
「インド政府からの返事がきました! あの『奥の手』を使うことができます!」
ぎりぎりだった。
でも、これで希望がつながった。
この船はシンガポールに引き返さない。このままインドに直行する。
ロボットペンギンが地図に赤い丸じるしをつけた。
「『奥の手』を使うのは、この地点で」
「わかった。連絡ありがとう」
「インド政府に何か伝えますか?」
「うん。でも、台風を突破してからね」
ペンギンちゃん船長は船内放送用のマイクをにぎると、
「この船はこのまま台風の中を直進して、インドに向かう!」
船内にひびく声。
「今からおよそ三〇分後に、『雪だるま作戦』を開始する。その準備を大急ぎで」
船内にいるロボットペンギンたちが、立ち入り禁止の部屋の前に集まってくる。
立ち入り禁止の部屋は二つある。大きい部屋と小さい部屋だ。
ロボットペンギンたちが集まっているのは、小さい部屋の方。この中に、『奥の手』があるのだ。
船内放送でペンギンちゃん船長が力強く言う。
「みんなで行こう、インドへ!」
立ち入り禁止の部屋、その扉が開く。
部屋の中には、大きな機械が置いてあった。