メロン
一日後、風が強くなってきた。
南極を出発してしばらくの間は、大きな島がほとんどない。
なので、「風が島にぶつかって、いったん立ち止まる」ということがないのだ。そのままの勢いで風は、この船に向かってくる。
風が走りぬけていくたびに、氷の船は大きくゆれた。強い風は大きな波も起こす。
でも、ペンギンちゃん船長はあわてない。うまく風と波をやりすごして、船の姿勢を元にもどした。
ここは自分ががんばるしかない。
この船に乗っているロボットペンギンたち、彼らの中には船酔いしやすいものもいる。そういうペンギンたちは今、電源をきって休ませていた。
次々とやってくる風と波をやりすごしながら、ペンギンちゃん船長は考える。この海域を早く通りすぎてしまおう。
船のスピードを少しだけ上げた。南極特製スーパーエンジンの音が少しだけ大きくなる。
本当はもっと急ぎたいけれど、これが限界だった。
スピードを上げれば上げるほど、船は横からの風に弱くなる。最悪の場合、船は横転してしまうだろう。
そうなったら、この旅は中止になる。自分たちだけでは、どうしようもない。南極の工場に助けを呼ばないといけなくなる。
そんなことをペンギンちゃん船長が考えていると、またもや船の横から強い風が吹いてきた。
はげしく船がゆれる。これまでで一番強いかも。
でも、船が横に倒れないように、ペンギンちゃん船長はうまく操縦する。今回の風も無事にやりすごした。
このあと数時間、何回もあぶない場面があったけれど、氷の船は北に向かって走り続けた。
風がどんどん弱くなっている。船もそれほど、ゆれなくなってきた。
もう大丈夫だろう。電源をきっていたロボットペンギンたちを、そろそろ動かそうかな。
それから二日後、見張り台から大声がする。
「陸地が見えたぞ! オーストラリアだ!」
ペンギンちゃん船長はホッとする。
最初の難所、『魔の強風海域』を無事に通過することができた。
とはいえ、この先もいくつかの難所が待ちかまえている。
ペンギンちゃん船長は氷の船を進めて、オーストラリアの港に入った。ここで水や食料を補給するのだ。どこか壊れていないか、船の点検もしておきたい。
それに、この先の海を無事に通過するために、ある準備をしておかないと・・・・・・。
船が完全に停止すると、遠くの方で土けむりが上がった。
その土けむりが、こちらに向かってくる。
ペンギンちゃん船長は少しだけあわてた。
こんなに早く気づかれてしまうとは。
補給や点検をあとまわしにするよう、ロボットペンギンたちにすばやく指示する。
土けむりがさらに近づいてきた。
その正体はわかっている。
見張り台から大声がした。
「カンガルーの子どもたちが来たぞ!」
ペンギンちゃん船長も、土けむりの下をよく見る。
カンガルーの子どもたちがジャンプをしていた。この氷の船に向かってきている。
子どもたちの目的はわかっている。「かき氷」だ。
せまりくるカンガルーの子どもたちはみんな、その手にスプーンを持っていた。