宇治金時
ペンギンちゃん船長はインドの港を目指して北上していた。
巨大台風を突破したことで、強い風は今、船の後方から吹いてきている。
エンジンの出力をどんどん下げているのに、船の速度はどんどん上がり続けていた。
速度を下げたいけれど、船のブレーキは壊れている。
ロボットペンギンたちに修理をさせているが、
「今どんな感じ?」
「まだまだ時間がかかりそうです」
このまま船の速度が上がり続けるとなると、ブレーキの修理が終わる前に、インドの港に着くだろう。
そして、船が猛スピードで陸地に激突する、そんな未来を想像してしまう。そうなったら、この船はバラバラだ。
(どうにかして、船の速度を下げたいけど・・・・・・)
船の速度を上げる方法なら簡単だ。
海に荷物をどんどん捨てればいい。船が軽くなれば、速度は上がる。
(その反対をすれば、船の速度は下がるけど・・・・・・)
荷物を増やす。船が重くなれば、速度は下がる。
でも、ここは海の上だ。どうやって荷物を増やす?
(『冷凍ガス』は使い切っちゃったし・・・・・・)
あれで海水を凍らせる、ということはできない。
今こうしている間も、船は走り続けている。残された時間は限られていた。
このまま陸地への衝突が避けられないようなら、
(早く船から脱出しないと)
もしもの時のために、この船には「脱出用の大型気球」をつんでいる。ペンギンちゃん船長とロボットペンギンたち全員が乗れる大きさだ。
でも、その方法をえらぶと、今回の旅の目的が果たせなくなる。
ある荷物をインドに届けること。インド政府から注文された荷物だ。
そのために、ペンギンちゃん船長は南極から旅を続けてきた。
あとは、ここを乗りきることさえできれば、目的を果たすことができる。
気球で逃げるか、それとも・・・・・・。
ある荷物は大きすぎて、気球にのせることはできないし・・・・・・。
もっと考える時間がほしいけれど、
(そろそろ最終決断ををしないと)
ペンギンちゃん船長はため息をつくと、もう一度ロボットペンギンたちに確認する。
「今どんな感じ?」
ブレーキの修理状況はどんな感じなのか。
「まだまだ時間がかかりそうです」
「わかった。修理は中止」
ペンギンちゃん船長は決断する。
船のエンジンを止めさせた。といっても、エンジンが完全に止まるまでには、いくらか時間がかかるだろう。
さらに、ロボットペンギンたちに「ある指示」をした。
それからインドの港に連絡する。今の状況を知らせるのだ。
「この船は現在、ブレーキが故障しています」
なので、ブレーキのかわりになるものを、港の方で用意してもらうのだ。
「できる限りたくさんの『タイヤ舟』を、港の出入り口近くにならべておいてください」
タイヤでできた舟なら、この船がぶつかっても、衝撃をいくらか吸収してくれる。
とはいえ、この氷の船がこれ以上の速度になると、
(たぶん、『タイヤ舟』だけでは、すべての衝撃を受け止めきれない)