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プロローグ 転生まで

 2025年6月13日。俺は死んだ。

 

 さかのぼる事1年前、当時30歳の俺は1歳になる娘を引き取り、妻と離婚をした。理由は簡単だ。妻が浮気をしたからだ。相手は妻が昔働いていた職場の上司。結婚前からずぶずぶな関係だったらしい。子供が生まれてからもその関係は続いており、妻の態度に違和感を感じた俺が興信所を使って調べた結果、妻は真っ黒だったわけだ。そこからは妻の両親、俺の両親、弁護士とで話し合いの場を設けた。妻は「本当に愛しているのはあなただけ。」「彼とは遊びだったの。」などテンプレのような言い訳が出てきたが、結婚前から関係が続いていたことを指摘すると返す言葉もなくなり、だんまりを決め込んだ。今回の件に関して妻と間男に慰謝料を請求、妻からの慰謝料を両親が立て替える事は認めない、親権は俺が持つこと、接近禁止命令を条件として提示し、妻の両親が同意した。もちろん妻は反対をしたが、義父のビンタで何も言わなくなる。そうして離婚が成立したわけだ。

 

 そして運命の6月13日。その日は娘を両親に預け、自宅でのんびりしていた。というのも両親が「たまにはあんたも息抜きしないと人間として壊れるわよ。あたしたちが娘ちゃんの面倒を見てあげるから、あんたは今日一日休みなさい。」と言われ、自宅でゴロゴロしながらテレビを見ていた。そんな時「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴る。宅配かな?と思いながら玄関を開けるとそこには元妻と間男が立っていた。間男は空いた玄関が閉じないように力ずくでこじ開け、元妻と二人で無理やり自宅内に入ってきた。「あんたたち、なんなんだよ!接近禁止命令が出ているだろ!」と俺が声を荒げると、間男が俺の腹部に一発拳を入れてきた。「ぐふっ!」なんていうアニメのような声を上げながらその場に倒れこむ。腹部に走る鈍痛により、俺は立ち上がれない。すると間男が俺の腕をつかみ、無理やり立たせたうえで羽交い締めにした。次の瞬間また俺の腹部に痛みが走った。元妻が俺の腹部にナイフを突き立てているのである。じんわりと刺されたところが温かい。ほんとに刺されるとそこの部分があったかくなるんだな、なんて考えながら元妻の顔を見ると口元が動いている。何を言っているのかと思い、耳を澄ませると「あんたのせいであんたのせいであんたのせいであんたのせいで…」と永遠につぶやいている。いや、もともとお前たちのせいだろ!と思い、「お前たちが…浮気をしたから…だろ…」と妻に言ったら「うるさい!死ね…死ね…死ね…死ね…死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」と激高し、俺の腹部を何度も刺した。遠のく意識。きっと内臓はもうぐちゃぐちゃなんだろうなと思いながら俺の意識はそこで絶えた。

 

 次に目が覚めた時には真っ暗な空間に俺はいた。周囲を見渡しても何もない。ここはどこだろうか。さっきまで腹部に刺さっていたナイフもいつの間にかなくなっている。痛みもない。でもあの状態から助かるはずもない。つまりここは死後の世界だろうか。などと考えていると遠くの方に小さな明かりが見えた。あの明かりは…?なんだかわからないが、不思議とその光に引き寄せられる。光は最初微弱で小さなものだったが、近づくにつれ大きく、強い光になっていった。そして俺はその光の中へと入る。そこには一人の女性がいた…全裸の。

???「きゃー--!変態!出てって!」と開幕早々に変態認定をされ、その女性から発する強風により、俺は再度真っ暗な空間に戻されることとなった。あれは何だったんだろうか。俺は断じて変態ではない。それに俺の職業は医者だ。女性の裸などもう見飽きた。今更どうということもないのに…。などと考えていると遠くからすごい勢いで光が迫ってきた。そして俺の目の前で光が止まる。

???「どうぞ。中へお入りください。」とさっきとは別の女性の声がする。本当に大丈夫だろうか。そう思いながらもそれ以外にこの空間から出られそうな方法がないため、俺は仕方なくその空間に入った。

 

 光に目が慣れ、次第に視界がクリアになっていく。俺の目に入ってきたのは先程の全裸の女性の5歳ほど年上そうな女性だった。今度は服を着ている。

???「先ほどは私の部下が失礼をいたしました。私は女神フィーデルと申します。私のことはフィーデルとでもお呼びください。」と女性はお辞儀をしながら言った。…ん?女神?女神ってあの女神?神様的なやつ?なんでそんな人と今面と向かっているわけ?などと混乱していると

フィーデル「混乱している様子ですね。無理もありません。ここは現世と死後の世界との狭間。宗教的な考え方をするならば天国へ行くか地獄へ行くかを決める場所くらいの感覚でいていただければそれで構いません。」んーっと、つまり俺は死んだっぽいけどまだここは完璧な死後の世界じゃなくてその前段階のようなことか。なるほど。わかってきたような気がする。

俺「それではフィーデル様。私は天国と地獄、どちらへ行くのでしょうか。私の意見を反映させていただけるのであれば、できれば天国が良いのですが…」

フィーデル「そうですねぇ。私は本来あなたの担当ではないので詳しい事情が分からないのです。少々お待ちいただけますか?」

俺「待つことは別にかまいませんが…担当じゃないとはどういうことでしょうか」

フィーデル「神々にも管轄があるのです。私が担当しているのは主にヨーロッパ圏の人々ですね。あなたの住む日本は東アジアなので本来は女神リーシアという私の部下の管轄なのです。」

俺「部下…まさか!」

フィーデル「はい。先程あなたが入ったときに全裸だった彼女です。先程死者の魂を吹き飛ばしたので女神としての権限をはく奪され、魂を漂白、新たな命として中国の山奥の貧しい地域に転生させました。」

俺「えぇ…それ俺が恨まれて殺されません?」

フィーデル「ありえません。魂の漂白とはつまりそれまで培った知識や経験もすべてなくなるのです。ですのであなたと仮に出会ったとしてもお互いに通行人Aとしか認識しませんよ。」なんかさらっと恐ろしいこと言ってんな、この人。と思っていると、フィーデルがブラウン管テレビを奥から持ってきて、テレビの電源を付けた。

俺「…これは?」

フィーデル「これはその人がこれまでどんな人生を歩んできたかを30分に要約して流してくれる神器です。これを使用すれば、本来地獄行きの人が虚偽の申告をして天国に行くことを防げるという代物です。」

俺「へぇ、便利なものですね。それで私の人生を確認するんですか?」

フィーデル「はい。まぁ30分とは言ったものの、大体の神は倍速をかけますし、30分のうち6分程度はコマーシャルなので確認作業は10分とかからないと思いますよ。」

俺「そうですか。」神の世界にコマーシャルがあるの?神なのに?なんか欲しい物とか神通力とかで出せるんじゃないの?それに倍速って。神も忙しいだろうから効率重視なのはわかるけどさ…なんかこう…人の人生をないがしろにしているような感覚だな…。なんて思っていたらビデオが再生された。俺が医師として多くの命を救ったこと。本当に妻を愛していたこと。そして理不尽な理由で殺されたこと。倍速だしコマーシャルを飛ばしていたから10分未満で終わっているのだろうが、俺からしたら人生の振り返りそのものだ。31年とまではいかないものの、長い時間に感じた。見終わったフィーデルがこちらへ振り向くと、フィーデルの顔は涙でぐちゃぐちゃになり、化粧も涙で流れたせいで化粧崩れが激しく、バケモノのような状態になっていた。

フィーデル「素晴らしい方でありながら、辛い人生を送られてきたのですね。私は思わず感動してしまいました。」

俺「そう言われると報われるような気がします。ところでフィーデル様。一度お顔を洗ってきてはいかがでしょうか。折角の美しい顔も涙で濡れては美しさが半減してしまいますよ。」

フィーデル「お優しいのですね。ではお言葉に甘えて少しお暇いたします。ここでしばらくお待ちください。」そういってフィーデルはこの空間から出ていった。そこからどれくらい時間が経っただろうか。体感1時間は経っている。女性の身支度には時間がかかるものだと理解しているつもりだが、如何せん時間がかかりすぎじゃないか?この空間でお待ちくださいって言ってもこの空間何もないし。暇つぶしになるようなものがあるなら1時間でも待てるけど…何もないと退屈すぎて死ぬよ?もう死んでるけど。なんて考えているとフィーデルが帰ってきた。

フィーデル「大変お待たせいたしました。化粧が事故ってしまい時間がかかってしまいました。それでは話を戻しましょう。あなたは現在理不尽な死に方をしましたが、人生に悔いはありませんか?」

俺「悔いですか…娘と両親くらいでしょうか」

フィーデル「そうでしたね。娘さんとご両親には祝福を与え、逆にあなたの殺害に関与した二人は即刻死罪とし、自然死をさせた後に地獄へと送りましょう。そしてあなた本人なのですが、このまま天国へと送ることも可能なのですが…あなたには転生という選択肢もありかなと私は考えています。いかがなさいますか?」

俺「転生ですか?それはどのようなものでしょうか。」

フィーデル「転生は先程まであなたがいた地球とは別の世界に記憶や経験を維持したまま新しい命として誕生することを指します。あなたが今生で得た医療知識や経験は財産であると同時に、あなたを貴重な人材たらしめるものです。その知識を欲する異世界は数多く存在します。中には魔法が存在する世界もありますが、治癒魔法にも限界はあります。そこであなたのような人材が働けば、その世界を救うことにつながるかもしれません。丁度あなたの転生先としてぴったりの世界もあるのですが…いかがですか?」

俺「なるほど…俺が今よりももっと輝ける可能性がある世界ですか。それはいいですね。天国に行けば今生で血反吐を吐くような思いをして習得した知識もすべてパーになるわけだし。それなら転生の方が今生の苦労も報われるというわけか…俺、転生します!」

フィーデル「あなたならそう言ってくれると思っていました!今その異世界を管轄する神に連絡をとりますね。」あぁ、見切り発車だったんだ…

しばらくすると物凄いイケメンが来た。

イケメン「初めまして。私はイシューリアという世界を統括する神、ヴァンスと申します。フィーデルよりあらかた話は伺っております。私の世界では治癒魔法があるもののうまく使いこなせていません。それに加え、医療技術も治癒魔法があることから発展しておらず、人々が簡単に死ぬ世界なのです。おかげさまで私はここ1週間まともな休息を得られていません。そのため、私としてもあなたに転生していただけるのはとても喜ばしく、ぜひお願いしたいと考えています。」

俺「はぁ…」イケメンでモテそうなのに話し出すと止まらない残念タイプの神だ…

ヴァンス「そこで私からのプレゼントです!治癒魔法と何かがあったときのためにゴーレムの召喚魔法をあなたに授けましょう。魔法はイメージです。そのイメージがより具体的であればあるほど魔法の効果も強くなります。つまり治癒魔法を使う術者が医療知識を有している場合、その効果は絶大なものになるのです。それこそ、転生先で治せない病はないほどですね。あなたの活躍に期待していますよ。なんせ私の就労にもかかわるのですからね。では転生させます!良い異世界ライフを!」

え?もう転生なの?まだ聞きたいことも山ほどあるんだけど。転生先の家は?どんな家族?どんな国?わからないことを上げたらきりがないのにこの神は…

俺「自分勝手すぎるだろぉぉぉぉおおお!フィーデルさん!彼を止めt…」

フィーデル「行ってらっしゃい♡」

俺「神にはバカしかいねぇのかぁぁぁぁああああああああ!」そう言って俺の意識は再度無くなった。

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