第三話『起承転結の転』 受諾
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第三話『起承転結の転』受諾
『トワレ』の街で、依頼主に夫人を送り届け、冒険者ギルドに依頼達成の報告をする。ミナも、『魔王』の潜伏先とどのような能力を持つ存在なのかアンジェロから得られた情報を元に報告をすることにしたようだ。情報を持ち帰るのも依頼の一部であるからだ。
「協力してもらって悪いわね」
「いや、行先は同じだからな」
「証言するのも平気ですよ。ミナさんの情報を信じないとは思わないですけど」
ミナは年齢は若いがそれなりに経験を積んだ傭兵であり、冒険者だとジャンヌは見ている。年は三四歳くらい上だろうか。
馬車は依頼人に引き渡したものの、騎乗兵から奪ったジャンの馬はどうしようかということになる。幸い、ギルドが買い取ってくれるという事で、金貨二枚ほどになった。依頼達成の金額と変わらないので、かなり儲かったという感覚になる。
「高く売れたな」
「戦で騎士の乗馬も減ってるからね」
「確かに」
戦場で死ぬ馬もいれば、手入れが悪く死ぬ馬も増える。馬不足は深刻なのだろう。多くの貴族が身代金を支払う必要がある捕虜となるか、あるいは戦死している。戦死しても捕虜となっても、身に着けた装備は捕らえたものの財産になる。故に、武具も不足している。
一度派手に負ければ、何年も立ち直るのに時間がかかるし、王国内で反乱が起こっていればさらにその期間は長くなるだろう。
二人が追加報酬に喜んでいると、報告を終えたミナがこちらへとやってくる。
「ミナさんも依頼完了ですか?」
「……半分だけね。それで、食事でもしながらちょっと相談があるのだけどいいかな」
「おごりならな」
「いいわ。ワインも付けてあげる」
ギルド併設の食堂兼酒場。田舎の宿屋同様、酒場と食堂を兼ねているのが冒険者ギルドだ。言い換えれば、ジャンの親父が鍛冶屋をしている街の冒険者ギルドの出張所は、宿屋兼酒場が出張所を兼ねている。
鶏の肉料理を頂きつつ、ワインを口にする。それなりのワインだが、ジャンもジャンヌも「うまい」程度しかわからないのは、やっと成人したばかりの年齢だから仕方がない。ワインを水代わりに飲む習慣がジャンには無かったからであり、元農民の娘であるジャンヌにもない。
「人の金で喰う飯はなによりうまい」
「うまい話には裏があるって知ってる?」
ジャンは無邪気に肉を口に運んでいるが、ジャンヌは厄介事の予感に警戒心を手放していない。
「食事を先に済ませましょう。食べながらって感じでもないからね」
「おお、じゃあ追加注文!!」
遠慮無用とばかりにジャンは勝手に料理を追加した。
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馬上で仮眠を取ったとはいえ、ジャンはかなり疲労していたからか、ワインの酔いが満腹感と共にかなり回っている。ジャンヌは腹八分目、ワインもさほど口にしていない。
「そろそろお話をしてください」
ジャンヌに促されてミアは話を始める。
「魔王城……ドルイドが率いる叛乱を支援している海老野郎の拠点の偵察を手伝って欲しいんだよね」
『海老野郎』というのは、赤ら顔をしている連合王国人がゆでた海老のような色をしている事から王国人が使う蔑称である。反対に、王国人の事は『蛙野郎』と呼ばれる。
場所は、旧街道沿いを監視するために作られた監視塔に毛の生えたような城砦。だが、その当初の目的に適うように、周囲を見晴らすのに適した場所に建っている為、大人数での討伐は不可能。逃げられてしまいかねない。
「そうすると、高位冒険者の何パーティーかを使った強襲か奇襲になるのか」
「そう。但し、揃えている間に逃げられる可能性がある」
星三以上の一流冒険者は数が少ない。トワレの街だけでは揃わないし、今は出払ってもいる。手配には十日から二週間はかかるとギルド長は見ている。
「それに、この依頼表向きはトワレの貴族から出されているけどさ、実際は王家の……王太子殿下の依頼なんだよね」
「まじか」
「す、すごい依頼ですね」
学者殿下等と揶揄される文人肌の方だと聞くが、王が捕虜になった後も各地の有力者を味方につけ、王子や他の王族を纏め、精力的に活動している。国難に至って、上下の別なく有能な者に声をかけ、臣下に加えているという噂もある。
「手柄立てて、召し抱えられたいのか?」
「違うわ。ポワトゥの戦いでね、王国の騎士の突撃が不発になった理由は、参戦したドルイドが阻止線に使った生け垣を強化したからなのよ。その前の、先王時代の大敗北も、ドルイドが戦場に雨を降らせてぬかるませたから、騎士の突撃が失敗したの」
「つまり、有能なドルイドを始末することが、王国の為になると言いたいのか」
「敵討ちよ。ポワトゥで死んだ同郷の……仲間も敵討ち」
ゼノビア傭兵として参加したミナ達は、騎士の突撃を支援するため弓銃で戦場に参加した。四度の突撃が失敗し、連合王国軍の騎兵が最後に戦場を蹂躙した。その際、多くの仲間が命を落とした。
「そうか」
「無茶をする気はない。けど、無理は承知で仇を討ちたい」
「……どっちなんですか?」
無茶しないけど無理はするってどういうこと!! ジャンヌは良く分からない。
「わかった」
「……何が」
「報酬と作戦次第だ」
依頼内容は分かった。能力は不足しているが、戦力自体が皆無の今の冒険者ギルドで、時間をかけずに討伐に向かうには、ミナとしても二人を巻込まなければならない。ジャンの腕は見ている。おそらく、それが決め手で巻込むつもりなのだろう。
「こう見えて、ジャンヌは投石がやばい」
「へぇ」
「見よう見真似ですよ。大したことありません」
「そんなことないよ。石礫を魔術で飛ばすだけで威張れるんだから、拾った石を叩きつけるんだってすごい戦力だと私は思うけど」
ジャンヌはジャン以外からこんな風に評価されたのは初めてで、ちょっと感激している。無力な薬師ではなく、戦力として数えて貰えたことにだ。
「ちょっと、石拾ってきます」
「……飯の途中だ」
「それを言うなら話の途中ね。それじゃあ」
「依頼を受けよう。報酬次第だがな」
「気張って交渉してみるわ」
気になるのは、ドルイドの潜む『魔王城』がどのとうなものなのか。ミナには心あたりと見当がついていた。
その昔、連合王国の王家がロマンデ公であった頃、領内に盛んに城塞を築いた。それは、巨大な領主の城のようなものではなく、見張台と少数の兵を収容するものであった。形式としては、小高い街道を見下ろす丘の上に築かれた、円形の城壁と一段高い位置に見張塔を兼ねた『貝殻砦』と呼ばれる、巻貝のような円塔を有する。
そこに張り付けられる兵士は三十人程度であり、大軍を相手にするような城砦ではなくあくまでも街道を制約し連絡船を確保するための施設に過ぎない。戦乱の時代であれば継続して近隣の領主が兵役の領民を交代で常駐させ確保したものであろうが、『聖征』の時代に至りそれも放棄されて久しい。
数千、あるいは万を越える兵士を動員する百年戦争の戦闘においては、この手の古い軍事施設は無視されている。が、代わりに傭兵崩れの盗賊団の隠れ家として密かに利用されていることも少なくない。あるいは、放棄された小規模な修道院などもその中に含まれるだろうか。
「街道を見渡せるって事は、馬車で近寄るわけにはいかねぇか」
「詰めているのは人数的には連絡要員と護衛を含めて十人ちょっとみたいだけどね」
「だが、腕は立つ」
傭兵崩れの盗賊風に偽装していても、送り込まれているのはドルイドの監視を兼ねた連合王国の騎士の類だろう。王から直接指示を受けているかもしれない。数人とはいえ、ジャンには荷が重い相手だと推測される。
「夜陰に乗じてって感じでしょうか?」
「ドルイドは動物を使役するから、狼や猫、あるいは梟のような夜目が利く動物に警戒させていると思うわ。だから……」
ミナの分析をジャンは軽く否定する。
「そうでもねぇよ。俺とテル……スライムの従魔が『人魔一体』を発動している間は、動物や魔物にとって俺は変なスライムにしか感じられないらしい」
横でジャンヌが頷いているのを見て、ミナは少々驚いた顔をする。
「スライムねぇ。確かに、人間を取りこんだりする巨大なスライムも聞いたことはあるけれど、御伽噺の類だと思っていたわ。目の前に実物がいるとはね」
ジャンはやれやれ顔だ。そんな伝説の戦士は望むところではない。
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ギルドでの話し合い。ミナはジャンとジャンヌの三人で「魔王城」の偵察に向かう依頼を受け、その後、討伐依頼を引き受けるという形に修正をさせた。
とはいえ、ギルド側は三人だけで討伐をさせるつもりはなく、偵察の成果を踏まえて、再度出撃するという依頼だと考えていた。しかし、ミナは恣意的に依頼を曲解し「偵察後、可能であればそのまま討伐に移行する」と受け止めた。
偵察に気が付かれた挙句、報告に戻る間に逃げおおせられたのなら本末転倒だからだ。それに、いつ冒険者が揃うかも不明である。
偵察の報酬は金貨一枚、討伐報酬は金貨二十枚。騎士の年収が金貨四枚程度なので、それに匹敵する額をたった一度の討伐で三人は手にすることになる。言い換えれば、それだけのリスクと依頼主にはメリットがあるということだ。
作戦は単純。ジャンとジャンヌが正面から攻撃をする。これは、普通に行動するならば成り立たないのだが、如何にも女連れの旅人という雰囲気で街道を歩いていくことで、砦から何人か出てくると考えた。仮に、出てこなかったとしても、近づいてくれば誰何に護衛が何人か出てくる。これを不意打ちに倒し、一気に砦に突入する。主にジャンが。
「……俺だけ危険じゃねぇか……」
「なにそれ、面白そう」
「面白くない。ミナは何するんだよ」
ジャンは相当の強さであるので、恐らくドルイドも応援に出てくると考えられる。そこを、潜んでいたミナが弓銃で狙撃して倒すという筋書きだ。
「囮はジャン、その援護をジャンヌ。私は先に砦の周りで良い狙撃点を探して隠れるわ」
「バレるんじゃねぇの。ドルイドの使役する動物のせいで」
「あはは、そうかもね。けど、ああいう自分の力に自信がある手合いは、偵察されてもどうということはないと考えているものよ。むしろ、あなた達を紐づけして捕まえようと出てくるでしょうね」
ミナの存在が、ジャン達を襲撃する理由になるという事か。
「じゃあ、私石拾いに行ってくるね!!」
「いや、街中よりも砦に向かう途中の方が見つかるだろう?」
投石する気満々のジャンヌである。
トワレの街の中に、連合王国に協力して監視している者たちがいるだろうと考えた三人は、夜のうちにミナが街を離れ先行し、翌朝、ジャンとジャンヌは半日ほどかけて砦に向かうことにした。
「ミナって結構有名人ぽいよね」
「なんだっけ、弓の名人の孫らしいな」
「そうそう。弓聖って呼ばれていた人だよね」
『弓聖 ヴィルヘルム』、帝国皇帝の代官の無理難題をあっさりと躱し、その後現れた皇帝旗下の騎士軍を山中に引き込み見事撃退した民衆軍の指導者と言われている伝説の弓銃手。その孫として有名なのだが、若くして名のある冒険者として活躍している。その存在は当然監視対象。
夜のうちに密かに街を出たのも、ジャン達がゆっくり朝出るのも監視の目を欺くためである。
薬師の道具を背負い街道を行くジャンヌ。そして、その横には倍する荷物を背負うジャン。これは、必要な装備だけではなく『行商人風』に見える為の偽装が含まれている。
「行商人もいいかもしれないね。旅の薬師様とそのお供」
「俺は端役か」
「だって、薬師が主役だからね」
聖征の時代、人が増えあちらこちらに新しい街ができ、古い街では親方に成れない職人たちが旅をしながら腕を磨き、新しい街で職人ギルドに席を得るというのは世のながれであった。枯黒病の大流行で、大きな街は人から人に病気が移り、場所によっては住民が全滅したところもあったとか。
なので、今ではそこまで行商人や旅の職人と言うのは多くはない。しかしながら、遊歴の商人・職人は若者の憧れでもある。生まれ育った街や村をでて、世界を旅してまわる。その過程で野盗に襲われたり、病気やけがで死ぬことは想定されていないのだが。
「冒険者と何が違う」
「主役が私なところとか?」
「俺を巻込んでいるなら、お前が主役だろうが」
ジャンヌは面倒見が良いというか、おせっかいな所がある。先の貴族の夫人を連れだす依頼もジャンは全く乗り気でなかった。元は農民とはいえ、武装した叛徒が街を襲っている中に二人で入り込んで夫人と子供を救出して無事送り届けるなんて、討伐依頼より余程難易度が高い。
「命あっての物種だぞ」
「困っている人を助けるのが冒険者じゃない?」
「馬鹿を言え。そういうのは本来、貴族の仕事だ。その貴族が貴族の仕事をしないから叛乱が起こっている。俺達の仕事は困った貴族を助けることだったんだから、笑わせる」
ジャンヌは老人の涙に弱い。夫人の母親に泣きつかれ、勝手に引き受けてしまったのだ。本来なら、数人の騎士なり騎乗の傭兵で行うような救出作戦だったのだ。
「魔王には興味があるからいいけどな」
もし、ドルイドの持つ力の一部でも理解できたのなら、ジャンヌが自衛できる手段が増えるのではないか。ジャンがこの依頼を引き受けた一つの理由でもある。
あと一話、続きます。週明までに投稿したいと思います!!
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