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スライムライダー・ビギニング  作者: ぴえ~る
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第二話『起承転結の承』 尋問

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第二話『起承転結の承』尋問


 城館の裏手の安全を確認し、ジャンは馭者のジャンヌを誘導し、裏手からの道をゆっくりと進めさせていた。


 城館の表側では、未だ気勢を挙げる農民や傭兵崩れの声が聞こえている。


 馬車には夫人と二人の子供、使用人、そして……


「助かったわ」

「いえ。これも何かの縁ですから」


 半死半生の騎乗兵が縄で縛りつけられ荷台の隅に転がされており、馭者台にはジャンヌとミナが並んで座っている。疲れからか、子供たちはすっかり毛布に包まれ熟睡しており、夫人と侍女も夢うつつとなっている。


 ジャンは、騎乗兵の乗っていた馬を奪い、馬車の後方に続いている。幸い星明りがあるお陰で、『トワレ』の街へと続く街道は問題なく進むことができる。


「二人で冒険者をねぇ」

「……修行みたいなものです。街にいる時から、ジャンとはよく採取に出かけていましたし、同志みたいなものですよ」


 ミナは、若い二人の男女で旅をしていると聞き、『恋人同士?』などとありきたりの探りを入れたのだが、ジャンヌからは全否定の勢いであった。


「でもさ、冒険者ならもう少し人数いた方が依頼を受ける幅も報酬も増えるじゃない? 何で二人でやってるのかなって」

「そんなのミナさんだって同じじゃないですか。女冒険者のソロとか、初めて会いました」

「はは、も、モテないからじゃないんだからね!! 私、弓銃での狙撃がメインだから、所謂五六人で組むパーティだと活動しにくいんだよね」


 弓銃は弓銃兵だけで運用されるのが傭兵においても普通だ。ミナはある程度魔力もあり、剣も扱えるが、ゼノビア傭兵の弓銃兵であれば、胸当と兜以外は布の鎧下を装備し、置盾と弓銃を背負って戦場へ向かう。遮蔽物として自立する大きな盾の陰に隠れ味方の突撃前に、もしくは、敵が突撃してくる戦列に弓銃の矢を放つことが仕事だ。剣はあくまでも護身用であるし、扱えない者はダガー程度しか持っていないことが多い。


 そう考えると、剣が扱えるミナは優秀な弓銃兵の冒険者であると言える。


「弓銃は引く手間が無い分、狙いを付けて撃つのはいいんだけど、次発を放つのに長弓の何倍も時間がかかるから、一撃必殺の場面じゃないと、評価されにくいんだよ」


 長弓は一分間に十本以上の矢を放つことができるのだが、弓銃は装填に二十ないし三十秒もかかる。人力で引けないので、梃子や歯車をかました巻き上げ機で弦を引かねばならないからだ。


 曲射ができないこと、ある程度の飛距離を飛ぶと急激に威力が低下するという欠点もあり、また、丸木弓である長弓よりも製造コストがかかるというデメリットがある反面、使う技術はさほど必要ないとされる分、新しい弓銃兵の訓練は長弓兵と比べれば容易とされる。故に、「傭兵」が成り立つのだ。


 長弓兵は『軍役』として定められた家系が子供のころから学んで身に着ける射撃技術が必要であり、また、その半数程度は騎乗して騎士に随伴する騎乗長弓兵でもある。機動力、速射性で王国の騎士軍を大いに叩きのめした存在でもある。


 先ほど首を刎ね飛ばされた弓兵は「長弓」ではなく、所謂普通の短弓遣いであった。狩人であれば、持ち運びに苦労する長弓ではなく短弓を古くは用いていたが、長弓と同威力が期待でき、狙撃に向いている『弓銃』を用いるのは当然のながれであったと言える。


 ミナは元々は狩人をしていた家の娘であり、訳有って王国軍の弓銃傭兵として参加していたのだが、先日の敗戦で軍は壊滅し、本人は命からがら逃げ延び、王国で冒険者をしつつ王国軍の再建を待っているのだという。


「じゃあ……」

「いたわよ、あの戦場にね」


 暗愚王……『善愚王』ジャンが連合王国軍に捉えられた『ポワトゥ』の戦場に、ゼノビア弓銃兵としてミナも参加していたのだ。その話だけで、ミナに対するジャンヌの気持ちは「尊敬」と「憧れ」に替わっていく。


「でも、酷い戦だったわ。仲間とはちりじりになるし、追撃の奴らはしつこいしね」


 ゼノビア傭兵は集落単位で傭兵を雇っており、ミナも同郷の仲間達と出稼ぎ感覚で出征したのだという。なので、故郷に戻らなければ、誰が生き残り誰が死んだのか分からないのだそうだ。


「私は生きてるって手紙を出したんだけどね。返事はほら、冒険者だからあちこち移動しているからもらえると思ってないから」


 一瞬不安な表情に見えたが、星明りの元ではよくわからない。ジャンヌにとって同郷の仲間はジャンだけだ。そのジャンと離れ離れになったとするなら、どれほど不安であろうかと考えれば、ミナの想いは容易に想像がついた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ここまでくれば一休みできるか」

「そうね。問題ないと思うわ」


 ジャンは街道からやや外れた草地へと馬を乗り入れ、ジャンヌはその後を追って馬車を止めた。ジャンもジャンヌもミナも休息を必要としていた。『デセレント』の街は見えなくなり、木立の多い林間の街道沿いを進み馬車を草地に乗り入れている。


 馬車からやや離れ、三人は声を潜めつつ、互いの目的について説明する。ジャンとジャンヌは夫人らを『トワレ』の街まで無事に避難させること。それにたいして、ミナは……


「農民の暴動って、ジャック何某が使嗾していることになってるじゃない? でも、実際は違うのよ」


 農民だけで暴動を起こすというのは無理がある。実際に戦闘に立って戦い、また、後方で指揮をする人間が存在する。『傭兵崩れ』ではなく連合王国に雇われたれっきとした傭兵達であるという。


「俺達が倒したようなのが混ざってるってわけか」

「そう。それで、その指導者というか指揮官が『魔王』を自称する魔術師なのよ」

「「魔王?」」


 傭兵達を指揮するのに、賊の親玉が王を自称することはままあることだ。没落した大貴族のご落胤であるとか、王太子の双子の弟であるとか。何かしら高貴な身分や力を持ってそうな肩書を『詐称』するのである。


「魔術師で王だから『魔王』ってだけなんだけどね」

「名前はともかく、実力はどうなんだ」

「星三ってところじゃないかな。星四なら英雄扱いで、わざわざ山賊まがいの活動する理由が無いから」


 星四とは、超一流冒険者であり、『伯爵並』として遇することを要求されるごく一握りの存在だ。軍を派遣するような討伐依頼も、数人のパーティーでこなす事ができると見なされる。雇う方からすれば、軍を編成するコストと比較し相対的に低い依頼料にメリットがある。


 一軍を編成すれば、例え千人程度であったとしても、毎日金貨が千枚単位で溶けていく。その一日分くらいで依頼を受けて貰えれば、失敗したとしても前金を損するだけの損失で済む。


 また、依頼しただけで「領主としての責務」を果たしているわけであるし、失敗しても領主の名誉は傷つかない。成功すれば自分の手柄、失敗したら冒険者のせいなら悪くない投資である。


「ミナは、その魔王の情報を収集する依頼を受けているわけだ」

「いいえ。討伐依頼よ」

「は?」

「ええ……いくらなんでも……」


 ミナは肩に背負った弓銃を手に取り、話を続ける。


「暗殺だもの、一人の方が簡単なのよ」


 ずっとどこかに籠っているわけにもいかない。魔術師であるからには、それなりに力を誇示し続けなければ、手下の傭兵・山賊どもは力を当てにしなくなりかねない。


 居場所さえつかめれば、忍び込むなり出入りを見張った上で、魔術師を弓銃で狙撃し殺す事ができると考えているのだ。


「魔術師ってもなぁ」

「護衛もいるでしょうし、身代わりと言うか、囮になる人間も何人か用意しているんじゃないですか?」


 ミナは「うっ、それはそうなんだけどね」と言いにくそうに肯定する。


「まあ、出たとこ勝負?」

「それでいいのか」

「いいのよ。失敗してもペナルティの無い賞金首だから。けどね……」


 連合王国に与する賊は、仲間の仇と同じ。いや、むしろ、積極的な仇でもある。なので、どんな形ででも、討伐をしたいというのがミナの偽らざる気持であるのだという。


「で、こいつに場所を聞き出すわけか」

「そう。まあ、指を全部切り落とせば、そのうち吐くでしょ」


 厳ついダガーを取り出すミナ。大型の獣の解体にでも使えそうな分厚い刃を持っている。


「さて、あんたの名前……なんて聞かないけどさ」

「アンジェロ……アンジェロだ……」


 物扱いされ、切り刻まれそうな気がした騎乗兵は、慌てて自分の名を名乗る。


「苦しんで死ぬか、苦しまないで死ぬか、あんたには選択肢があります」

「……」


 この時点でアンジェロはちょっと諦めた。が、どの道死ぬなら黙っていようと心を決める。


「ジェロって呼んでもいい?」


 アンジェというのは『天使』の意味だ。このままだと、自分が天に召されることになるのだが。


「いいか?」


 グレイブで圧し折れた脚をひざ下から切り落とす。


「があぁぁあ」

「ちょ、ちょっと何するのよ!! このままこいつしんじゃうじゃない!!」


 ミナが血相を変えてジャンに言い寄る。


「テル。痛み止めはいらんから、止血だけしてくれ」

『了解主。保護(Protego)


 傷口の断面にぺーてるんの分体が張り付き、出血を止める。本来は、痛みを軽減し、回復を促進する能力もあるのだが、今回はオミットしている。拷問にならないから当然だ。


 実は、ペーテルにはアンジェが作った薬を幾つか仕込ませている。傷口や、口や鼻の粘膜からそれを強引に摂取させることもできるのだ。


「……便利ね、そのスライムの従魔」

「最高の相棒だ」

「……ジャン、私は何なのよ」


拗ねたようにジャンヌが口にするが、間髪入れずにジャンが返す。


「最愛の人」

「うっ……」

「冗談だ。だが、大切ではある」

「!!!!」


 ジャンの軽口はいつもの事なのだが、ジャンヌはそれに慣れることはない。ジャンヌも好意を持っているのだが、それは『頼れる兄』的なものである。ジャンはそれなりに偉丈夫で腕もあり、面倒見も良いので女性に好かれるのだ。ジャンヌは地味で薬草臭い女の子という自覚があり、年頃の女の子らしさに欠けていると思っている。


「まあ、なんかイチャコラされても困るんだよねお姉さん。で、なんかした?」

「……自白剤というか、意識を緩める薬を入れたと思います。なので、薬が効いてくるまでは様子見ですね」

「そう。助かるわ」


 ベラドンナの根から抽出した成分は、頭をぼうっとさせる効果がある。『美人草』等と呼ばれる事もあるが、これは瞳孔を拡大させ目を大きく見せる効果がある為に呼ばれる。中毒性もあり、猛毒の植物なので扱いには注意が必要なのだが。


 痛みを感じて混乱していたアンジェロは、やがて表情が弛緩し夢見心地な顔となった。


「アンジェロ。お母さんに教えてもらいたいことが有るんだよ」

「……なんだよ母ちゃん」

「今のお前たちのねぐらだよ。あんたちっとも家に帰ってこないじゃないか。たまには顔を出して、安心させておくれよ」

「お、おう。わかってるんだよ。けどよ」


 年のいった女性の声色を真似、ミナはアンジェロの母として話を続ける。やがて、『魔王城』と呼ばれる廃城塞の位置について話が進んでいく。


「魔王様はどんな方なんだい」

「……素晴らしい魔術を使う方だよ母ちゃん。動物を使って情報を集めたり、攻撃させたり、力を自分のものにするんだよ」

「そりゃ、たまがるね」


 ミナは母親の口真似をしつつ、相槌をうちより細かな話を聞き出していく。どうやら、連合王国に協力する『司祭』のような存在だという。剣は持たないが、杖で武装し、体術もそれなりに扱う『修道士』に近いかもしれないとジャンは推察する。


「あのさジャン」

「なんだよ」

「大島にはさ、薬師の親方みたいな人がいるって師匠に聞いてるんだよね」


 薬師の技は、その昔の『賢者』と呼ばれた人から伝わったものであり、『賢者』は今でいう領主のような指導者であったというのだ。


「へぇ、賢者さまね」

「御伽噺に出てくるような存在だけどさ、実際、いたんだし、いるんだよ」


 ミナもアンジェロの話を聞くにつれ、恐らく『樫の賢者』あるいは『ドルイド』と呼ばれた存在であろうと推測する。有名な人物としては、『レクサス王物語』に登場する『女賢者アンブロ―シア』が有名だろうか。

 そしてアンジェロは『魔王』は女性であるという。つまり、『ドルイダス(Druidas)』であると告げる。


「母ちゃん、俺もう疲れたわ」

「そうかい。なら、休むがいいさ」

「そうする。お休み」

「お休みアンジェロ」


 ミナはジャンに目配せをし、ジャンはペーテルに『眠るように死ねる』よう毒を調整して体に流し込むように伝える。ゆっくりと心臓が止まる薬と同じ成分を傷口から体内に注入させたのだ。


 



 アンジェロの死体を土に埋め、三人は明るくなりつつある空を見上げ溜息をつく。


「明るくなったら出発だ」

「馭者は交代でしましょう。仮眠を交互にね」

「ジャンは……」


 ジャンは馬の上で寝るのも得意だ。何なら、体を鞍に固定するくらいペーテルに頼んでしまえばなんとでもなる。一先ず一行は、「トワレ」の街へ向かい夫人たちを依頼主に送り届けることにしたのである。



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