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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第9章 クリスマスプレゼントを君に
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9-6 平和のために

「去年、クリスマス撲滅委員会ってのがあったじゃん?」


 僕の腕にぶら下がるようにして歩いてる絢香さんが、隣の先輩を振り返って言う。

 少し不機嫌そうな先輩は少し考えてから口を開いた。


「そういえば、ちょうど今頃の時期でしたかね」

「いやいや、去年のクリスマスなんだからキッカリ一年前だよ」


 呆れた顔で絢香さんが突っ込むが、別に先輩はボケてるワケでもない。

 興味がないことはすぐ記憶から飛んでしまう人なのだ。


「ああ、思い出しました。元彼のフリしたり、二股かけられたと言い張ってアベックに嫌がらせしてた奴らですね」

「あの事件をあっさり忘れてる、あんたにいまビックリしたよ!」


 僕が入学する前の話だから詳細はわからないが、かなり面倒な話だったようだ。

 絢香さんは僕を掴んでるのとは反対側の手で先輩の腕を取る。


「まあ、これで機嫌なおしてよ。んでね、今回のアレ、その残党」

「……私の記憶では全員、当時の三年生でしたが?」


 絢香さんにぶら下がられた先輩がよろけながら答えてる。


「ホント、記憶ないよね? 首謀者は三年だつたけど、二年もけっこういたじゃん?」

「そうでしたっけ? あまり興味がなかったもので」


 僕も絢香さんに引っ張られ、三人でヨタヨタしながら廊下を歩く。


「んでね。彼らは昨年の反省から、他人を不幸にしても自分たちが幸せにならないって気がついたんだよ」


 ちょっと言ってる意味が分からない。

 そこから、どうしてプレゼント盗難になるのだろう?


 そこまで話したところで問題の教室に着いた。

 すでに執行部のメンバーは揃っていて、僕らを出迎えるような形になった。


「あ、ポチだ」

「ポチくんが来てる」


 僕の姿に気がついた者たちが口々に僕の名を呼ぶ。

 いや、僕の名前はポチじゃないんだけどさ。


 居並ぶ執行部の中から、メガネをかけた二年生が一歩前へ進み出る。

 僕と先輩の間にぶら下がってる絢香さんをじっと見下ろし、


「会長、宇宙人を捕獲したからといっても、執行部に持ってこられては困ります」

「おいこら、いくらあたしでも、さすがにあそこまで小さくないよ!」


 僕らの腕を振りほどくようにして絢香さんが文句を言う。


「で、奴らは中にいるの?」

「確実です。昨年取り逃がした連中を一網打尽にできるかと」


 絢香さんが小首を傾げて尋ねると、執行部のメガネが半笑いで答える。


 今日は執行部の雰囲気がいつもより緩い。


 この辺はパーソナリティの違いなんだろうな。

 先輩が仕切っている時の執行部は、もっと堅くて怜悧な集団って感じだ。


 二人が喋っているのを聞いているうちに、ふと気がついた。

 よく考えたら、なんで僕はここにいるんだろう?


 絢香さんに腕を取られ、引っ張られるままに来てしまったが、これは明らかに執行部の仕事だ。

 いまさら言うまでもないが僕の所属は茶道部であって、執行部じゃない。


 関係者でもない者が混ざるのは基本、歓迎されない。

 みんな口に出さないだけで、ここにいる僕をこころよく思っていない可能性が高い。


 適当な頃合いでバックレようと後ろに下がったら、たちまち先輩に捉まった。


「ポチ、どこへ行く? いまから突入だぞ」


 冷たい目で睨まれるが勘弁して欲しい。


「僕、執行部の人間じゃないし、無関係ですから」

「無関係って事はないだろ? 君だってプレゼントを盗まれた被害者なんだ」


 大きな声で言うもんだから、みんなの注目が僕らに集まる。


「そうか、プレゼントを用意したのか」

「え? それって会長にか?」

「ああ見えて少しは進んでるのね」


 執行部員たちが口々に勝手なことを言い始めた。

 なんか恥ずかしくていたたまれない。


 ざわめく一同を絢香さんが手を挙げて鎮める。


「聞いた通りだ。執行部の平和のためにも、この件は一気に片付ける。一人も逃すな」


 宣言した後で隣にいる先輩の胸元をポンと叩いた。


「じゃ、あんた先頭でよろしく」

「私ですか?」


 いきなり突入役に指名されて先輩は戸惑っているが、絢香さんは当然のように頷いた。


「あたし、もう執行部じゃないし。あんたの方が迫力あるもん」

「……わかりました。全力で行きます」


 大真面目な顔で言う先輩に、彼女はニヘッと笑いかける。


「ねえ、ちょっとしゃがんで」


 先輩の肩に手をかけて、少し強引に座らせた。

 頭の赤いリボンにそっと触れる。


「せっかく可愛く作ったのに、ちょっと崩れてるよ。あんた、いつもの調子で髪、掻き上げたでしょ?」

「我慢してたつもりなのですが」

「ん、すぐ直すから、そのままね」


 絢香さんがリボンを直している間、言われた通りに先輩はジッとしている。


 この二人って仲良いよな。

 ちょっと羨ましい気もするが、僕にリボンは直せないしな。


「ん、オーケー。じゃあ、行ってみようか」


 不審な生徒がたむろする教室へ突入するのに、リボンを直す必要がどれくらいあるのかよく分からない。


 だけど、それで先輩の気分が変わったみたいだ。

 さっきまでの不機嫌さが払拭され、落ち着いた表情になっている。


 ホント、こういう顔だけ見てれば《クールビューティー》と呼ばれるのも頷ける。


 先輩は教室のドアに触れると力任せに開けて一歩踏み込み、表情を変えずに大声を出す。


「生徒会執行部だ、全員そこを動くな!」


 その言葉を合図にして僕や執行部のメンバーが一気に教室へなだれ込んだ。


 教室の中には盗品のプレゼントがうず高く積まれ、犯人と思わしき男子生徒たちが、サンタクロースやトナカイのコスプレをしてクリスマスケーキを頬張っていた。


 クリスマス撲滅委員会の名にふさわしくないエンジョイっぷりである。


 彼らはなだれ込んで来た僕らを見て、呆然とした表情で固まっている。

 やがて男子生徒一人が手に持っていたクラッカーがパンと乾いた音を立てて弾けた。


 絢香さんが腰に手を当て、満面の笑顔で彼らに言う。


「ハッピーメリークリスマス」


 釣られて部屋の中の一人が言葉を返す。


「……メ、メリークリスマス」

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