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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第9章 クリスマスプレゼントを君に
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9-5 蛇の道はヘビ

 生徒会室に入ると絢香さんがいた。

 他に誰もいない部屋の中で、生徒会長の椅子に座ってスマホをいじっている。


 入って来た僕らに気がつくと、顔を上げて眉間にシワを寄せる。


「あんた、何でまだ残ってんのよ」


 睨むような目つきで開口一番、先輩に文句を言う。


「あたしが仕切るから今日は帰っていいって言ったじゃん? この一週間、何のためにあんたに付き合ってたと思ってんの?」


 けっこうな剣幕で怒られて先輩の腰が引ける。

 だけど、そのままの姿勢で彼女は反論する。 


「やはり私が残らないとまずいですよ。絢香さんは執行部の人間じゃないですし」


 絢香さんはため息をつくとスマホに視線を戻し、ペタペタと操作しながら呟くように言う。


「あんたは愛想ないからね。あたしの方が学校相手の交渉には向いてるよ」

「そういうものですか?」


 つい口を挟んで聞いてみる。

 学校と執行部の交渉なんて、もっと事務的な感じがするのだが間違ってるのだろうか。


「そりゃそうだよ。愛想がいい方が交渉しやすいに決まってんじゃん。とくに男性教師相手だとなおさらだねっ」


 視線をスマホに落としたまま、口元を歪めて笑顔を作る。


「ま、あたしは舐められやすいからさ。向こうが嵩にかかって来やすいんだけど」

「教師が相手でもそんななんですか?」


 驚いて聞くと、絢香さんは横目でチラッと僕を見る。


「立場があるから、さすがにセクハラはしてこないけどね」


 ……この人って闇が深そうだよな。

 いつも明るい笑顔なだけに、たまに見えるダークな部分との落差が大きい。


 絢香さんはスマホから、机の上に置いていたタブレットに持ち替えて何かの操作をしている。


「あたしに敬語使ったり、きちんと距離を置いて対等な相手として付き合ってくれるのは執行部の連中とポチくんくらいだよ」


 ちょっと頭を抱えたくなる発言だ。

 僕だって馴れ馴れしすぎると思う時があるのに。


 僕が話している間に、先輩がそっと絢香さんの側まで歩いて椅子の背から手元を覗き込む。


「絢香さん、何してんです?」

「ん、スマホは連絡用にしときたいし、ここのPCは執行部の備品だから」


 タブレットから視線を動かさずに絢香さんが答える。


「タブレットも執行部のです。ロッカーの鍵、どうやって開けたんです?」

「これ、個人情報、入ってないじゃん? 勝手に使うにはこっちの方が都合いいから」


 無断使用を詫びれもしない。

 先輩は椅子の背もたれに肘を置いてため息をつく。


「いちおう許可とって欲しいんですけどね」

「固い事言うなよ。執行部の連中が大体のところを調べてくれたから、あとは尻尾を掴むだけなんだ」


 肩をすくめてニヘッと笑う。


「え? プレゼント盗難の件ですよね?」


 もうそこまで話が進んでいるのかと驚いたら、タブレットの画面を僕に向ける。


「……なんですか、これ?」


 何かのサイトのトップページっぽいのだが、そんなの見せられてもさっぱり分からない。


「ん、会員制の盗品販売サイトだよ。うちの生徒がやってるみたいなんだけどね。いまSNSやってる連中のグループで話題になってる」

「えーと、それは学校裏サイトみたいなものですか?」


 そういうのと縁がない僕にはピンとこない。

 なんとなくの知識で確認したら失笑気味に頷かれた。


「ま、そんな感じ」


 どこが間違ってるのかわからないが、大筋であってるならそれでいいや。


「今日盗んだクリスマスプレゼントを捌くためだけに作られたようでね。ちょっと調べたらすぐたどり着いたんだけど、パスワードが分かんないからログインできなくて、ちょっと手こずってる」


 言った後で、ふと気がついたように僕へ視線を向けた。


「このサイトの利用者を探してんだけど、さすがに執行部の関係者は警戒されててさ。ポチくんはSNSで何か回ってこなかった?」

「僕、友達いないので」


「……ああそうだった」


 絢香さんはひとりごちると、少しおかしそうに笑う。


「ポチは被害者ですよ。そんな情報、持ってるわけがありません」


 絢香さんの背後で先輩が言うと、目を丸くして僕を見た。


「ああ、そりゃ大変だ。怖くて後ろを見れないや」


 そう言って絢香さんは楽しげに笑う。

 ちょっと情報を整理してみよう。


 クリスマスプレゼントの盗難が相次ぐ。

 盗品を捌くためのサイトがある。

 被害者は男子生徒のみ。

 

 ……あれ?

 ちょっと待てよ。


 僕らがすれ違った不審者は男子生徒だった。

 だけど被害者は男子のみだ。女子は全く狙われていない。

 嫌がらせの可能性はもちろんあるのだが。


 それで盗品販売サイトは何かおかしい。

 怨恨や嫉妬が動機なら、サイトまで自作してプレゼントを売るのはリスクが高すぎる。

 ついでの小遣い稼ぎがしたかったら、普通にネットオークションとかに流すハズだ。


 ——これ、本当の目的はどっか別にあるんじゃないかなぁ。


「えーと、絢香さん。オカ研の部長さんに連絡取れますか?」


 なんとなくのヒラメキだが、確認する価値はありそうだった。

 唐突に聞かれた絢香さんはキョトンとした顔で僕を見ている。


「……へ? 宮本に連絡? あいつはクリスマスにかこつけて変なグッズ売ってるかもだけど、こういうのには関係ないと思うけど」

「蛇の道はヘビに聞けってヤツですよ。こういうセコイ商売は耳に入ってるはずです」


 自信を持って言ったら、絢香さんは半信半疑でスマホを手に取り電話をかける。


「あ、宮本? ちょっと聞きたいことあるんだけど——」


 そのまま話し込み始めたので邪魔にならないよう、僕らは少し距離を取る。


「なあ、ポチ。なんで急にオカ研の部長を思いついた? 私はいままでの話で彼女の顔すら出てこなかったぞ。もしかして君はいつも彼女のことを考えていたりするのかね?」


「犯人の動機が分かんないから説明するの、難しいんですけどね。頭の中で話を整理してたら、ふと連想的に出て来たんですよ」


 僕らが生徒会長の机に寄りかかるようにして雑談的なことを話していたら、絢香さんの方の話が終わったらしい。


 通話を切ると満面の笑顔を僕に向ける。


「ビンゴ! いいカンしてるね!」


 絢香さんはスマホをポケットにしまって椅子から立ち上がる。


「もうね。あいつ全部知ってた。想像以上にくだらなかった。もう尻尾掴む意味もないや」


 笑いながら言うと、スルリと僕の腕を取った。


「さて、行こうか?」


 絡めるように腕を組んで、ドアの外へ向かって僕を引っ張る。

 先輩と違って肘に胸が当たらないから、あまり抵抗する気にもなれず引っ張られるまま一緒に歩く。


「待ってくれ、絢香さん。ポチをどこへ連れて行くつもりだ?」


 置いてかれそうになった先輩が慌てた声で聞くと、絢香さんは笑顔のまま肩をすくめる。


「盗品の取引現場になってる教室だよ。大捕物になるから、あんたは見回り中の執行部全員を集合させて」

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