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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第9章 クリスマスプレゼントを君に
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9-2 赤いリボン

 そんなこんなで迎えたクリスマスイブの当日。


 思ってたより校内に浮かれ気分はなく、ごく普通の日常と言っていい感じだった。


 もっと飾り付けやら、イベントやらをしたがる人がいると思ってたから、ちょっと肩透かしをくらった気分だ。


 まあ盛り上がりたい人は学校なんかにいないで、さっさと遊びに行くのだろう。

 いつも和室にいる僕らですら出かける約束をしてるんだしね。


 今日に限っては先輩も執行部に寄らず、まっすぐ和室にやってきたらしい。


「もう来てたのか、ポチ。私の方が先かと思ったのに」


 いつもよりずっと早い時間に現れた先輩は、挨拶もそこそこに僕の前に座る。

 少し急いで来たのか、座っても先輩の呼吸が落ち着かず、大きな胸が上下している。


 それはまあいいのだが。


 頭の赤いリボンは何なのだろう?


 とりあえずお茶を淹れながら考える。


 カチューシャの代わりなのか、前髪は残しつつサイドから顔にかかる髪をうまく抑えていた。

 そのリボン自体、右側でまとめてちょっと派手な結び方になってる。


 大輪の花みたいになってるから一度ほどいたら、僕には絶対に戻せそうもない。


 女性のファッションには詳しくないので、こういうのが流行っているのか分からない。

 うかつに触れていい話題なのかさえ、判断つかないぞ。


「えーと、先輩。お茶です」

「うん、ありがとう」


 僕が差し出した湯呑みを受けとり、いつもの癖で髪を掻き上げかけて手が止まる。

 そのまま、そっとリボンに手を添え、ちらっと僕の方を見る。


 ——あ、これ、コメントした方がいいヤツだ。


 鈍い僕でもさすがに分かる。

 赤いリボンの意図は分からないが、先輩が何かをアピールしたのは伝わった。


 さて何を言えばいいのだろうと考えてるうちに、先輩が何だかそわそわし出した。

 いかん、早く何か言わないと面倒くさい事になりそうだ。


「えーと、先輩」

「うん? 何だね、ポチ」


 ノープランのまま声をかけたので、次に続く言葉が見つからない。


「そのリボン、いいですね!」


 とっさに思いついた言葉をそのまま口に出したら、怪訝な顔をされてしまった。

 まあ、確かにこれではリボンの品質を評しているようにも聞こえるな。


 ラブレターの『メガネがかわいい』の件もあるし、ちゃんと言わないと伝わらなそうだ。


「えーと、リボンかわいいです。先輩に似合ってます。すごく素敵です。赤いのもいいです」


 誤解されないように思いつくままいっぱい褒めたら、彼女は呆れたように僕を見る。


「そんな一生懸命になって喋らなくてもいいよ。あまり言われるとかえって不安になる」

「かわいいと思っているのは本当です」


 力説してみたが、よく考えたら他が全部嘘みたいな言い方だった。

 幸いにも先輩は気にせず、小首を傾げてリボンを僕からよく見えるようにする。


「すこし派手かな。浮かれすぎてるように見えないか?」

「いいと思いますよ。クリスマスですし」


 僕が言うと、先輩は少しホッとしたような顔をする。

 見せびらかすようにしてたのに、案外と自信がなかったらしい。


「ポチ、このお茶を飲みきったら行こう」


 手元の湯呑みを軽く持ち上げて先輩が言う。


「いいですよ。どこのラーメン屋にするか決めてます?」

「うん。私のおすすめがあるんだ。そこへ行こう」


 けっこう自信たっぷりに言い切った。

 そういう店には縁がなさそうに見えるのに、意外な感じがする。


「先輩、ラーメン屋とかよく行くんですか?」

「ここんとこだけなんだけどな。まあ詳しくなったよ」


 何か思い出すような遠い目をして先輩は言う。

 それから少し口元で笑って僕を見る。


「まあ、君の大雑把な味覚でも満足できるかは別の話だけどな」



          □



「それじゃ行こうか」


 お茶を飲みきり、洗い物まで終えたところで先輩が言う。

 もちろん僕に異論はなく、二人でバッグを手にして立ち上がる。


 うん。楽しみだ。

 ただラーメンを食べに行くだけなのに楽しくて嬉しい。


 先輩と校外でも一緒なんて、いままでじゃありえなかったからね。

 もうね、一緒に下校するってだけで浮かれてる。


 こころなしか先輩も少し楽しそうだ。

 僕と目を合わせると、どちらからともなく笑ってしまう。


 なんか照れる。

 こんなことで照れてる自分にまた照れて、笑いが止まらなくなってしまう。


 たぶん、いま、僕は先輩には見せられない感じの顔になってる。

 こんな緩みすぎた顔なんて、恥ずかしくて見られたくない。


 なので僕の表情が見えないように、彼女の先へ立って玄関へ歩き出す。

 ほんの数歩、歩いたところで先輩のスマホが鳴った。


 嫌な予感がして僕らはピタッと立ち止まる。


「……絢香さんですか?」


 振り返って聞くと先輩は眉間にシワを寄せていた。


「いや、絢香さんとの話は昨日で終わってるんだ」


 ちょっと迷ってからスカートのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。

 画面を見て、がっくりと肩を落としてため息をつく。


「やっぱり執行部からの呼び出しだ」


 うんざりしたような顔で先輩が嘆く。


「緊急で全員に呼び出しがかかってる。なんでこんな日に面倒ごとが起こるんだ」


 スマホをポケットにしまうと、肩に担いでいたバッグを僕に手渡した。


「すまん。すぐ戻るから待っててくれ」

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