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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第8章 宇宙からのメッセージ
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8-6 だから最初に教えてよ

 絢香さんが職員室から戻って来た。


「どうでした? 遅かったですけど」

「まあ、とりあえずお茶ちょうだい」


 僕の質問には答えず、また右隣に腰を下ろした。


 このソファ、三人で座るにはちょっと狭いんだけどな。

 さっきみたいに変な誤解を招くから勘弁して欲しい。

 そんなに高橋の隣が嫌なんだろうか?


 僕がお茶を淹れてる横で、絢香さんが話し始める。


「担任の先生、もう帰っちゃってて。副坦もいないし、どうにか学年主任を捕まえたんだけど、部活中だって嫌がられちゃってさ」


 疲れているのか、僕にもたれかかるようにしてため息をつく。


「おまけに芦田アツシで通じないんだよ。『二年生の宇宙人』でようやく誰の事だか理解してくれて。いやあ、手間取ったよ」


 そんな雑用、僕に振ってくれればいいのに。

 まあ、絢香さんの方が顔が広いし、何かとスムーズなのは確かだ。


「あ、あと、これ、おみやげ」


 スカートのポケットからミニ大福を取り出してテーブルに並べる。


 この人、どこで何して来たんだ?

 僕は聞き込みでお菓子をもらった事なんか一度もないぞ。


「結論から言うと、芦田は一ヶ月前から学校に来ていない」


 ミニ大福を指で挟み、ムニムニと弄びながら絢香さんが僕らに告げる。


「もっと言えば自宅にも戻ってない。ここら辺は個人情報になるので、あまり詳しく聞き出せなかったけど」


 口が固いんだよ、体育教師のくせに。

 偏見に満ちたぼやきを呟きながら、ミニ大福を口に放り込んだ。


「えーと、家出してるってことですかね?」


 確認をすると彼女は小首を傾げた。


「捜索願は出てないって言ってた。失踪ではないみたいだよ。あと、自宅に電話したけど、留守だった」

「まあ共働きの家も多いですからね」


 相槌みたいに答えてから気がつく。

 これ、ちょっと重要情報だ。


 家出の場合、家族は自宅で連絡がつくようにしている場合が多いハズだ。

 彼が帰ってこないのを深刻に心配してない、と考えてもいいかも。


 登校してない。

 帰宅もせず。

 でも誰も彼を探していない。


 家出や失踪にしてはキレイすぎる。


 影が薄すぎて家族ですら失踪に気がついていない場合もあるが、急にいなくなったのに誰とも揉めてないし騒ぎになってないのは不自然だ。

 つまり計画的な行動で周囲がそれを理解しているって事だ。


 ……これ、事件性ないよね?


「えーと、高橋さん。アッシーがいなくなる前に、何かメッセージを受け取ってませんでしたか?」


 難病で入院、とかのケースを想像してみた。 

 外宇宙の生物に地球の環境は厳しすぎたのかもしれない。

 それなら付き合っている彼女に隠したい場合もあるだろう。


 高橋はしばらく考えた後でポンと手を打ち、


「そう言えば、最後の連絡はこんなだった」


 スマホを操作してまた画面を僕らに見せてくれる。


 そういうのあるなら、最初から教えてくれよな。

 ……今日、同じことを何度思ったことだろうか。


 高橋が見せてくれた画面はよく使われているメッセージアプリだ。

 アッシーの最後の書き込みは1ヶ月以上前のもので、前の話とは何も繋がりなく唐突に、


《俺がナンバーワンだ!》


 と書かれていた。

 うん、意味がわからない。


「この直後から連絡が取れなくなったんだよ」


 悲しそうな顔で高橋は言うが、これで何かを推測するのは不可能だ。

 宇宙人のメッセージは解読するのも困難だった。


「えーと、次行きましょう。アッシーの友人から行方を探りたいです」


 さすがに『えーと』が多いな、と自分でも思うのだが、勝手に口から出てしまう。

 彼と親しい友人なら何か知ってるし、話してくれるかも。


「あのねぇ、アッシーとはいつでも一緒って言ったでしょ? 二人きりで遊んでたし、あたし、アッシーの友達なんか一人も知らない」


 憮然とした表情で高橋は言い切る。

 確かにいつも二人きりなら、相手の友人と顔を会わせる機会は少なそうだ。


 僕だって先輩の交友関係とかよく知らない。

 二人きりが多いし、友人関係の話って話題にしないからなぁ。

 僕に語るべき友人が全くいないのが大きな理由なんだけど。


 考え込む僕の横で、先輩がポツリと呟く。


「ふむ。そう言えば芦田は釣り同好会だったな」

「え? そうなんですか?」


 かなり意外な気がして聞き返したら、すぐに高橋が補足情報をくれた。


「うん。だから河原でデートとか多かったよ」

「ああ、今彼が分かんなかったのはそのせいか。人目につかない所で遊んでたのね」

「そうそう。ヘラブナとか釣ってた」


 それで絢香さんは納得してるが、僕はいまいち腑に落ちない。


 見た目とギャップがありすぎて、釣竿を持ってる姿が想像しにくい。

 彼の獲物が《牧場の牛》とか《人間》なら、すごく納得できるのだが。


「えーと、釣り同好会なら会長は山本さんですね? ちょっと連絡してみましょう」


 同好の士なら、何か知っているだろう。

 そう思って声をかけたのに、誰も反応しなかった。

 みんな黙って僕を見つめている。


 しばらくしてから、先輩がめんどくさそうに髪を右手で描きあげた。


「私は山本の連絡先なんか知らんぞ」

「あたし、山本とは部活の予算折衝で話しただけで」

「山本って誰?」


 もちろん僕だって山本の連絡先なんか知らない。


「同好会の部室に誰かいるかも」


 立ち上がりかけた僕を、先輩と絢香さんの両側から押し留められた。


「釣り同好会は例の不祥事があって活動自粛中だ。そもそも、あいつらは以前から放課後は外で釣りしてるから、あまり自粛の意味はないがな」

「まずここの生徒名簿、チェックしよう。山本の自宅くらいは載ってたハズ」


 絢香さんが立ち上がり、すぐに先輩も続いた。

 ソファは広くなったけど、なんとなく淋しくなるな。


「ねえ、今年度の名簿ってどこにあるの?」

「あれは個人情報だから鍵付きのロッカーに移したんですよ」


 ソファに残る先輩の体温を手で確かめていたら、テーブルの上に置いてある高橋のスマホが鳴った。


「あ、アッシー。久しぶり。ねえ、あたしのこと、ほっぽってずっと何してたの? え? あたし今、生徒会室にいるよ。そうなんだ、じゃあ待ってる」


 高橋は通話を切って僕たちを見た。

 それから、えへっと笑って舌を出す。


「アッシー、今から来るって」


 その笑顔は、まあまあ可愛いんだけど。


「……ねえ、ポチくん。あたし、お茶、まだ貰ってない」


 ちょっと疲れた声で絢香さんが言う。

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