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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第8章 宇宙からのメッセージ
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8-4 二人で同じ星を見た夜

「言っとくけどアッシーはいい奴だよ!」


 羊羹をくわえながら高橋は力説する。


「あんな素敵な彼氏はそうそういないよ! あたしが男遊び激しかったのだって全く気にしてないの! チェリーだったら自分の彼女が男遊びしてたらどう思う?」


「普通に嫌ですけど……」


 僕の答えを聞いて、高橋は満足そうに頷いた。

 

「でしょう? チェリーとは男としての度量が違うのよ。今年の春に付きあい始めた頃から、ずっと――」

「あの、そういうの結構ですから」


 関係ない話になりそうだったから話の途中で遮る。

 あと、僕の名前を勝手にチェリーにしないでほしい。


「いいから聞いて! あたしたち付き合ってから毎日一緒よ。何でもしてくれるし、何でも買ってくれる。驚くほど素敵な人なの!」


 遮ったはずの話なのに、クワッとした顔で高橋は話を続けた。

 せっかく清楚で上品な見た目なのに、ニワトリみたいな顔になってる。


「会いたいときはいつでも側にいてくる。SNSは真夜中でも秒でレスしてくれる。今までこんな男、いなかったわ!」


 熱弁している高橋を眺めながら、絢香さんが苦笑している。


「こいつ、けっこう暑苦しいなぁ」

「いや、息苦しいですよ。束縛強くてキツそうです」


 僕らがお茶を飲みながら会話しているのもかまわず、高橋の熱弁は続いている。


「今年の夏は海に行ったの。二人でお揃いの水着なんか着ちゃって。夜の海岸で同じ星を見ながら二人の愛を確かめたりしたのよ!」


 同じ星を見ながらって、どんな姿勢だったんでしょうね?

 ちょっと疑問に思うが、具体的な事は何も明言してないから聞かないでおく。


 アホな事を考えてる僕の横で、先輩がポツリと呟いた。


「……いいなぁ、海」


 視線を向けると、先輩はうらやましそうな顔をしている。


「先輩、海、好きなんですか?」


 話を振ると彼女は複雑そうな顔をして腕組みをする。


「水着になりたくはないけどな。そういう遊びに憧れはあるよ」

「そのうち行きましょう。冬の海もきっと楽しいです」


 握りこぶしを固めて言ったら、先輩はクスッと笑った。

 水着姿が見れないのは残念だが、ああいうトコは他からの視線も多いからな。


 実際、僕は先輩のそういう姿を人目に晒したくない気持ちの方が強い。

 独り占めしたいって言うか、高橋に指摘された通りで度量が狭い男だ。


 僕らが雑談をしている間にも、高橋の熱弁はずっと続いていた。


「――のバッグをクリスマスにプレゼントしてくれるって約束してくれたし、そんなことしてくれるのアッシーだけなんだから! ねえ、あたしの話、ちゃんと聞いてる?」

「えーと、半分くらいは聞いてます」


 正直に答えたら、高橋はガッカリした顔で『ああ、そう』と呟いてお茶を飲む。

 その様子を見ながら絢香さんが不安気な顔で確認をする。


「ねえ、あのバッグ、100万以上したよ? 高橋、ホントにそんな約束したの?」

「アッシーは一度だって約束を破ったことなんてないよ!」


 思っても見なかった金額にちょっと引いた。

 恋愛成就の壺より高いのか。そんなバッグ、どこで使うのか想像できない。


 ずいぶん貢いていたようだし、アッシーはよくお金が続くな。

 その挙句に他の男と遊んでんだもんな。

 いい加減イヤになって宇宙に逃げ出したのかも。


「あたしも貰ってばっかりじゃ悪いから、アッシーの誕生日に何かあげようと思ったのよ。言っとくけど、あたしがそんな事するの初めてだったんだからね」


 レア度を強調する言い方だが、こいつって貢がれるのが当たり前と思ってるよね。


「でも何がいいのか分からないから、元彼に相談に乗って貰ったの。あたし何か間違ってたわけ?」


 やるコトやらなきゃ、それでもいいんだけどさ。

 胸張って言えるのがすごいよな。


「えーと、結局のところ、クリスマスはアッシーと一緒がいいんですよね?」


 改めて確認したら、しぶしぶ、と言った感じで頷いた。


「そうなんだけど、アッシー、どこにいるか分かんないし、クリぼっちになるくらいなら、誰でもいいからキープしときたいじゃん?」


 要するにアッシーがいなくて不安、なのかな?

 まあ偏ってはいるが愛情がある、と言えなくもない。


 ……うん、自分でもこの考えは無理があると思う。


 お茶を啜りながら考え込んでいたら、ふいに絢香さんが僕の肩を叩く。


「誰でもいいなら、コレどう? ワリとオススメだよ」

「え? ちょっと待って。なんでそうなるの?」


 僕の意思を無視して勝手に売り込みをしはじめた。


「ボンヤリしてるようで目端が効くし、こう見えてお茶淹れるのが上手いんだよ」

「えー、チェリーはお金持ってなさそうだからなぁ。プレゼント期待できなそうでヤダ」


 けっきょく金目かよ、この女。

 選ばれなかったのはむしろ嬉しいのに、なんか腹立つのは不思議だ。


「ていうかさ、チェリーって、どっち本命?」

「は? 何ですか、それ?」


 聞き返すと、高橋はニタっと笑って僕の顔を見る。


「んー、だって二人に挟まれて密着してるし、なんかあんのかなって思うよ? やっぱ、あやちん狙い?」

「やっぱってなんです? どこ見たらそんな風に見えるんですか?」


 僕が絢香さんを狙ってるとか心外だ。


 やんわり否定したつもりだったのに、高橋はオモチャを見つけた子供みたいな目になった。


「だって会長、エロい身体してるし、チェリーはそういうの苦手そうだもん。あやちんの方が怖くないじゃん?」

「その言い方やめましょうよ。先輩はそういう目で見られるのすごくイヤなんです。もう少し別の言葉があるはずですし、なんでも恋愛に結びつけるのはよくないです」


「でもチェリー、エロいの怖いでしょ?」

「先輩はエロくないです」


 ついムキになって反論してたら、高橋は何かを察したような顔になった。


「あー、そうなんだ」


 楽しそうな顔で僕らの顔を眺めている。

 なんのことやらと思っていたら、横から先輩が言葉を挟む。


「ポチはオススメできないぞ。察しが悪いから、あなたのように何もかも相手に用意してもらいたいタイプの人間には合わないと思う」


 いや、そんな大真面目な顔で『察しが悪い』とか言われてもな。

 何が嬉しいのか、高橋は大笑いしながら机を叩く。


「だってさ。あやちん、残念だね」

「うるさいな。黙って羊羹食べてろよ」


 絢香さんは面倒臭そうに言いながらスカートのポケットに手を突っ込み、羊羹を取り出して押し付けた。


 この人、スカートのポケットにどれだけ羊羹、入ってるんだ?

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