表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第6章 終わりを告げる犬が来る
70/154

先輩とみゆき 6

「なんでセクシーショットをポチくんに送る必要があるの?」


 すっかり日の落ちた公園で、みゆきは友人に聞き返す。

 さっぱり意味が分からないから、言われたそのまんまを聞き返すしかない。


「迷惑なのは分かっているが、約束してしまったので撮ってくれないと困るんだよ」


 言っている友人の顔は確かに困っているのだが。


「あんたは、なんでそんな約束したのよ」


 あられもない姿の写真を送って彼を自分の虜にしたい、などと言い出したら説教しようと思っていた。

 だけど友人は眉間にシワを寄せて胸の下で腕組みをした。


「……私はポチの写真が欲しかったんだ」

「はあ……」


 ちょっと予想していなかった方向の返事だった。

 みゆきの困惑には気付きもせず、友人は一人で話を続けていく。


「だけど、そんな話どうやって切り出していいのか分からないじゃないか」

「普通に『写真くれ』でいいんじゃない?」


 他にどんな言い方があるのだろう?

 当たり前のことを言ったつもりなのに、友人は激しく首を振る。


「そんな事、恥ずかしくて言えるわけないだろ! 話をどう切り出そうかと悩んでいて、互いの写真を交換しようと思いついたんだ。これなら『何に使うの?』と聞かれたって『君と同じ使い方だよ』て言ってしまえば誤魔化せる」


 むしろ、ややこしくなりそうなんだが。

 わかってて言ってるのか、こいつ?


「たが提案する直前になって気がついたんだ。私はポチの写真が欲しいのだが、彼にとって私の写真はそれだけの価値があるのだろうか? そう考えたら急に不安になって、もっと彼が喜んでくれそうな写真にするべきだと思ったんだ」

「それでセクシーショットなの?」


 確認のために聞くと、友人は大きく頷いた。


「ああ、男の子はみんなそう言うのが好きらしいからな」

「はいはい、あんたは物知りだね」


 胸を張って答える友人に、みゆきはぞんざいな返事をする。

 さすがにバカバカしくなってきた。


「あんだけ一緒にいて写真の一枚も持ってないの? イベントとかの記念で一緒に撮ったりしなかったの?」

「そ、そんなはしたない真似は私には無理だ!」


 ちょと聞いただけなのに、友人は顔を真っ赤にして否定する。

 どんなイベントを想像したんだ、こいつ?


「まあポチくんだって、あんたの写真くらい欲しいだろうから、いいんだけど」


 手渡された友人のスマホを手に、みゆきはため息をつく。


「……あたし、セクシーとか、よく分からない」

「実は私もだ」


 なんで、こいつは分かっていないのに、変な約束をしてくるのか。

 思わず説教をしたくなったが、早く終わらせたいから我慢する。


 何とか記憶をたぐって《弟が読んでるコミック雑誌のグラビア》を思い出す。


「じゃあ、とりあえず水着になろうか?」


 ——なんか、みんな、水着だった。


 みゆきの理解はその程度である。


 理由はさっぱり分からないが、とにかく水着を着るハズだ。

 何しろ真冬の雪山でも水着を着ていたのだから、それは必要な要素なのだろう。


「待ってくれ、みゆき。水着なんか持ってない」


 友人は切実な声で訴えるが、他に知らないので譲れない。


「セクシーと言ったら水着よ」

「……そうなのか? いや、なんか違う気がするのだが」


 きっぱりと断言してみたが、みゆきだって全く自信がない。 


 渋り続けている友人を納得させるため、二人で《水着 セクシー》とスマホ検索したら、思ったよりも過激なモノが並んでしまった。


「いや、これはダメだ。私がこんなの着たらはみ出てしまう」


 驚いた顔で友人が拒否する。

 みゆきも、こんなのを着た友人を撮影するのはとても嫌だ。


「それに私は今日のうちにポチに写真を送りたいんだ。こんなモノを注文している時間はない」

「あんたはどうして準備もなしに、あれこれ思いつきだけで——」


 つい説教を始めてしまったみゆきの言葉を、友人は大きな声で遮った。


「あっ、思い出した。衣装はセーラー服がいいと言っていた!」


 両手の拳を胸の前でギュッと握りしめ、満面の笑顔になって叫ぶ。


「ポチはセーラー服が大好きなんだ!」


 おそらく彼は『普段のままの君がいい』という意味で言ったのだろうが、こいつが言うと特殊な性癖に聞こえる。


「そういうの、最初に言いなさいよ」

「だって、みゆきが水着って言うから」

「ああ、わかった。それ以上は言うな。長くなる」


 話を打ち切ると、友人は自分の制服の胸のあたりをマジマジと見つめ、


「こう言う場合、制服は着崩した方がいいのか?」


 ——だから聞かれても分かんないんだってば!


 言いたくなる気持ちをグッとこらえる。

 こいつが制服を着崩したら、えらい事になるのは分かりきってる。


 夜とはいえ公園である。

 露出の多い格好で撮影なんかしてたら、誰が寄ってくるか分からない。


「あのね、そういうのはセクシーじゃなくてエロ」

「なるほど。そうなのか」


 セクシーとエロの違いをみゆきは説明できないが、友人はそれで納得したらしい。

 腑に落ちた顔をして満足そうだ。


 友人が思いとどまってくれた事に、みゆきはホッとして薄い胸をなでおろす。 


「とりあえず、その辺で撮ってみようよ。いっぱい撮って、その中からセクシーっぽいのを選べば……」


 手近なブランコを指差しながら振り返って絶句する。

 友人がバッグから目出し帽を取り出したからだ。


「ちょっと待って、何、それ?」

「だって、セクシーな写真を撮るんだぞ。顔なんか恥ずかしくて出せるわけないじゃないか!」


「あんた、水着はないのにこんなの用意してるの?」

「さっき駅前で買ってきたんだ。探してみるとなかなか見つからないものだな」


 喋りながら当たり前のように目出し帽を被っている。


 もう、セクシーとか全然関係ない。

 ただの不審者である。


「あー、うん。とりあえす何枚か撮ってみようか?」


 下手に説得するよりは、その方が早い。

 そう思ってブランコに座らせてみたら、あまりの絵面に笑えてきた。


「あー、いいね。うん、思ったよりいいよ。すっごいセクシー。そのままブランコ漕いでみようか。アハハ、そのまま目線こっちに。すごーい! ウルトラセクシー! アハハハ。よし、今度は滑り台に行こうか! アハハハハ」


 変なツボに入ってしまったのだろう。

 笑いが止まらなくなったみゆきは、あれこれで一〇〇枚近く撮影してしまった。


 撮り終わった写真は、案の定で酷いものばかりだった。

 これがセクシーなら、そこら辺の不審者だってセクシーだ。


 もう選ぶのも面倒くさいので、笑いすぎてブレた写真とか、ちゃんと写ってないのを除いて全部送ってしまった。


 正直、ポチくんには悪かったと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ