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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第1章 全知全能の神に導かれて僕らは出会った
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1-6 こういうのエッチなマンガで読んだことある

「他に隠れる場所は無いんですか?」


 廊下に置かれた掃除用具入れの影で僕が言うと、すぐ背後から先輩の声がする。


「仕方ないだろ? 更衣室の入り口を見張れる場所は限られているんだ」


 僕らはいま、人生で初めての《張り込み》を体験中だ。


 下着ドロの現場を抑えるべく体育館まで来たけれど、あいにく更衣室の出入り口付近には、僕らが身を隠せそうな物がなかった。


 どうしようかと思っていたら、先輩が廊下の隅まで歩いて掃除用具入れのロッカーを指差す。


「うん、みんなでここに入ろう」


 大真面目な顔で言い出すからビックリした。

 先輩が指差したのは縦長の、どこにでもある掃除用具入れだ。

 

 二人だってキツそうなのに?


「これ、三人は絶対無理ですよ」


 僕が言うと、先輩はため息とともに首を横に振る。


「試してもみないうちから絶対とか無理なんて言うな。人生が狭くなるぞ」


 真顔でそんな事を言われてもなぁ。


「あのですね。狭いのは人生じゃなくて掃除用具入れなんですよ。先輩は自分のサイズを理解してますか?」


 見たままを口にしただけなのに、先輩は驚いたように目を丸くした。

 視線を下げて、少し恥ずかしそうに自分の胸に両手を当てる。


「そ、そうか。サイズの問題なのか。少し減らせればよかったのだが……」


 いや、そのサイズではないのだが。

 減らすのはもったいないから止めてほしい。


 何だかしょんぼりしてるし、僕はそんなに酷いことを言ったのか?


「えーと、いちおう試してみますか?」


 罪悪感に駆られてつい口にしてしまったら、先輩はパッと顔を上げて意外そうに僕を見る。

 それから気だるそうに髪をかき上げ、口元だけで薄く笑った。


「うん、そうだな。チャレンジは大切だ」


          □


 結局、無理だったんですけどね。


 掃除用具入れの中身を全部出して、僕→沙織さん→先輩の順に入ろうとしたのだけれど、沙織さんが入って来た時点でもう無理があった。


 そこに先輩が無理やり体をねじ込んでくるものだから、小柄な沙織さんが先輩の胸に挟まれて窒息しそうになり、このアイデアは断念した。


 まあ最初から分かっていたんだどさ。 


「入る順番に問題があったな」


 腕組みをした先輩がしみじみ語るが、そう言う問題じゃないと思う。

 

 掃除用具入れから抜け出した沙織さんが

「あんたの胸は凶器だ」

 と涙目で先輩に訴えていたのは、けっこう羨ましい話だった。


          □


 それで掃除用具入れの陰に隠れることにしたのだが、これだって相当に無理がある。


 先輩の指示で沙織さん→僕→先輩の順に並んで隠れるのだが、せいぜいが五〇センチ幅である。

 どうしたって体がはみ出してしまう。


 狭い空間に三人の体を隠しきろうとして、先輩が後ろからグイグイと体を押し付けてくるから嫌でも僕らの体は密着してしまう。


 僕の背中や腕にすごく柔らかい感触がある。目の前にある沙織さんの頭からはシャンプーのいい匂いがするし、落ち着かない事この上ない。


 胸の鼓動が伝わってしまいそうで、少し体を離そうとしたら、


「ほらポチ。もっとこっちへ来ないとバレバレだぞ」


 すぐに先輩は僕の肩を引き寄せて、真後ろから抱きつくような姿勢を作る。


 ……ちょっと待ってよ。


 別に文句はないんだけど。


 せっかく美人でグラマーなのに、この人は性的警戒心が乏しすぎやしないか。


 いろいろ大丈夫なのかと心配したくなる人だぞ。


「ところで先輩は、なんで今この時間に犯行が行われると判断したんですか?」


 もちろん質問の内容に意味なんかない。


 何でもいいから話をしていないと僕の意識が、密着している《先輩の胸》や、《沙織さんの腰》に全部持っていかれそうだからだ。


「ああ、それは——」


 彼女は返事を言いかけてから、急に考え込んでしまった。


「……つまり、根拠は無いんですか?」


 無理やり掃除用具入れに入ろうとするし、確信あっての行動だと思っていたのに。

 ただの思いつきだったの?


 いったい僕らは授業をさぼって、こんな場所で何をしているのだろう?


 そんな思いが沸き起こったけれど、すぐに沙織さんが首だけで僕を振り返った。


「実はあれ以来、体育の度にあたしの着替えが荒らされているんです」

「と、いうワケだ、ポチ」


 先輩は当然のように言うのだけれど、それを本当に知っていたのか疑わしい。


 疑いの眼差しで見ていたら、先輩はちょっと背伸びして僕の耳元に口を寄せて、


「君の声は大きすぎる。隠れている意味がなくなるから、もう少し静かにしてくれないか?」


 囁くように言うもんだから、熱い吐息が耳にかかる。


 もうホント、勘弁して欲しい。

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