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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第6章 終わりを告げる犬が来る
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6-13 おとなしくて真面目な友人

 和室に戻ると、すぐに壺を畳の上へ置いた。


「これ、持ち運ぶとなると、けっこう重いですね」

「そんなの貰ってくるからだ」


 玄関で先輩が上履きを脱ぎながら冷ややかな声を出す。


「だって断ったら話がややこしくなりそうでしたよ」


 言いながら和室の隅の方へ転がしていく。

 ここは部室である前に教室なのであまり変なものは置いとけないが、壺の一つくらいなら問題にならないハズだ。


「先輩は生徒会室に行かなくてよかったんですか?」


 お茶の用意をするために台所へ向かいながら、すれ違う先輩に聞いてみた。

 いろいろと問題はあったが、緊急性もないので報告は明日にしようと先輩が言ったのだ。


 彼女は押し入れを開けて座布団を運びながら、こっちを見もしないで答える。


「会長、今日はもういないだろ。今は執行部と無関係なんだし。意味もなく残る人でもないよ」


 少し楽しそうに言うのは予想より簡単な話だったから嬉しいのだろう。

 僕も会長案件と聞いて警戒していたのだが、酷い話じゃなかったのでホッとしている。


「いろいろ言っていたが結局のところ、会長は友人と仲直りをしたいだけなんだよ。回りくどい人なんだ」

「ああ、だからなかなか帰ろうとしなかったんですね」


 会長から頼まれていたのは《変な商売を始めた動機と目的》だったのに、それが判明した後も居残りを決めたのは不思議だった。


 先輩は会長の言葉の裏までキチンと汲み取っていたらしい。

 なかなかできる事じゃないよな。


 二人の間には言葉にしない意思疎通がある。

 ちょっと嫉妬したくなる仲の良さだ。


「何にせよ、あっさり終わってよかったよ。処理すべきことは色々あるが、全部会長にぶん投げるつもりだ」


 ちょっと疲れたのか、先輩は座布団に座り、両手を上げて大きく伸びをしている。 

 僕もヤカンに火をかけ、奥の部屋へ顔を出す。


「いろいろと腑に落ちないところはありましたけどね」

「そうだな。彼女の選択肢になぜか浪人が入っていないところとかな」


「ああ、言われてみれば不自然でしたね」

「なんだ? 君は気がついていなかったのか?」


 意外そうな顔で聞かれたけれど、僕は全く気がついてなかった。 

 そうだよな。浪人て選択肢がなぜ一言も出なかったのだろう?


「……あの人と話してるうちに勢いに飲まれたんですよ。『おとなしくて真面目な友人』って触れ込みだったから、あれは予想外でした」

「まあ会長基準だからな」


 あれがおとなしくて真面目なら、他の友人はどんなだろう。


 今後、会長の友人関係の依頼は断ろうと心に決めた。


「……たぶんなんだが」


 少し言葉を選ぶようにしながら先輩が僕の方を向いた。


「彼女にアドバイスをした人たちは、積極的に浪人を勧めなかったのだろう。むしろ浪人は恥ずべき事と吹き込んだ者がいるハズだ」

「そう言うモノですかね? むしろアドバイスをしてくる人たちをバカにしているような口調でしたが」


 そんな人たちの助言を受け入れるのか?

 ちょっとした疑問だったが、先輩は首を横に振ってため息をついた。 


「どうしていいのか分からない、と言っていたからな。信じてなくてもいろいろ言われたら頭に残る。占い師と同じだよ」


 これは全くの憶測だが、と前置きをして先輩は話を続ける。


「おそらく彼女が占い師になるって言い出したのも自身の発案じゃないだろう。周りの人間に踊らされていたんだよ」


 なんの根拠もない話だが、なんとなく納得できる。

 誰かが彼女をオモチャにしていた可能性はあると思う。


「あんまり、いい話じゃないですね」


 僕の言葉に頷いて、うんざりした様に言う。 


「ああ、すべてのアドバイスが厚意や親切で発せられたワケでもないんだろうな」


 先輩の気持ちはよく分かる。

 僕らのところに来る案件は、そんな話ばっかだもんなぁ。

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