6-12 どこかに嘘か間違いがある
さすがに、これで終わったら会長に怒られそうだ。
これじゃ何も問題が解決していない。
「……これ、話が横道に逸れるから口に出さなかったのですが」
頭の中の考えをまとめなながら、ゆっくりと話す。
「頑張って結果が全く出ないのはおかしいです」
オカ研の部長は僕の言った意味が分からなかったようで、少しうんざりした顔をした。
「こう言うのには向き不向きがあるのよ。で、私は勉強に向いてないの」
「それでも努力したらちゃんと結果は出るはずです。結果が伴わないなら、どこかに嘘か間違いがあるんです」
言った端から頭ごなしに否定されないよう、強い口調で話を続けた。
実は努力してないとか、してるつもりになってるだけ、という可能性はある。
本人の言うことがアテにならないのは、よく分かっている。
「これ、確認なんですが、受験勉強より前で、最後に勉強したのっていつになります?」
「だから、した事ないって言ったじゃん」
憮然とした表情で部長が答える。
予想通りの答えを聞いて、僕は先輩に振り向いた。
「先輩、この人、勉強のやり方を知らないんです。将来をゆっくり考える前に、そこをなんとかした方がいいです」
「へ? 知らないって何だ?」
今度は先輩が目を丸くしている。
うん、こんな顔の先輩も可愛いな。
「一度も勉強したことがないんだから、勉強しようにもどうすればいいのか分からない、と言うか想像がつかないんです。やる気がないとか基礎ができてないとかじゃなくて、全く別の問題ですね」
僕が解説をするが、いまいち先輩は納得できなかったようだ。
「しかし彼女はちゃんと三年生まで進級してるぞ。さすがに勉強の仕方が分からないハズがないだろ」
先輩の指摘はもっともで、でもちゃんと勉強してきた人の言葉だ。
だから根本的なところを見落としてしまっている。
「みんな、そこを誤解してるんです。もともとの頭がいいから、ただ授業受けてるだけで人並み以上に出来てたんですよ。だから自主的に勉強する必要が全くなかったんです。そんなやり方でここまで来て、とうとう壁にぶつかったんだと思います」
たまにいるよな、こう言う人。
努力したことがないんだよ。
「いやいや、あたし別に壁にぶつかったワケじゃないのよ。高校入ってからずっと成績右肩下がりだし、いよいよ誤魔化しが効かなくなったって方が正しいかな」
オカ研部長が自分でティーカップに茶を注ぎながら僕の考えを補足してくれた。
まあ、そこら辺のディティールはどうでもいい。
「勉強の習慣もないし方法もわからないのに、努力しろって言われても途方にくれるだけですよ」
「……つまり、彼女が『頑張って勉強した』と言っていたのは、ただ途方にくれていた時間を指すのか?」
「おそらく。そこを分かってない人から見れば、全く努力してないし、頑張ってないですね」
占い師になると言い出したのも、それが関係しているように思える。
そのやり方なら知っているし結果が出せる、というヤツだ。
「話を聞いてると、この人、やる気はちゃんとあるんですよ。結果が出せるやり方を覚えれば、それだけで成績は向上するハズです」
先輩は胸の下で腕組みをして、目を閉じた。
しばらく考え込んでいたが、眠そうな顔で僕を見る。
「……頑張るから、頑張り方を教えて?」
「そうです。誰もそこを理解してない」
僕が《我が意を得たり》と返事をしたら、先輩は長いため息をついた。
「君が言いたいことは理解した。たぶん、それで正しいのだろう」
「会長にここら辺を説明して、対応をお願いするのが早道かと」
そう提案したら、急に先輩が難しい顔になった。
「ポチは親切だな。私はそんなところまで気が回らなかったよ」
「僕だって気がつかない事ばかりです。だから二人でちょうどいい感じですよ」
僕が肩をすくめてみせると先輩も笑った。
「あのさあ」
椅子の上で片膝を立てて座り、ティーカップを抱えたオカ研部長が呆れ顔で言う。
「イチャつくのはヨソでやってくれないかなぁ」