表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第6章 終わりを告げる犬が来る
65/154

6-10 他人へのアドバイスは慎重に

「あたしが悪かったのはわかっている」


 オカ研の部長はしょんぼりと肩を落とし、椅子の上で膝を抱えて丸まるように座っている。

 すっかりおとなしくなって、遠目にはうごめく黒い塊みたいに見える。


「会長と何があったんですか?」


 せっかく落ち着いてくれたので、なるべく静かな口調で聞いてみる。

 彼女は上目遣いにチラッと僕を見上げ、すぐに視線を床に戻す。


 やがて不安そうな小声で、訥々と語り出してくれた。


「……進路についてアドバイスされそうになった。ムカつくからわざと酷い事言った。……それが何かは言いたくない」


 たぶん会長のプライバシーとかコンプレックスに関係する事を言ったのだろう。

 ここは掘り下げない方がよさそうだ。


「会長は具体的にはどんなアドバイスをしたんです?」


 ここは絶対に聞きておきたい所だ。


 あの人は何を言ってオカ研の部長を怒らせたのか。

 彼女の言い分を聞いて、会長に落ち度があるのか確認したかった。


「……だから、アドバイスしようとしてた」

「え? もしかしてアドバイスした事、それ自体がダメだったんですか?」


 アドバイスの内容なんて関係ないのか。

 ちょっと驚いて確認したら、彼女は丸まったまま首を横に振る。


「されてない。しようとしてたから、酷い事、言ったの」

「……それは酷い事しましたね」


 これじゃ擁護のしようもない。

 あの人、何もしてないじゃん?


「だってあいつ、一人でさっさと推薦で決めちゃったんだよ! そんな奴に何言われたって、あたしが惨めになるだけじゃん!」

「え? 待ってください。会長の推薦が決まったら、なんで惨めになるんです?」


 他人の進路なんて関係ないし、友人が合格したのなら、むしろめでたい事だろう。

 言っている意味が分からないが、精一杯想像力を働かせてみる。


「えーと、妬ましいとか、そういう事ですか?」

「そうよ! 妬ましいの! あいつばっか!」


 オカ研部長はネガティブな感情を素直に認め、テーブルを叩く。


「あーやは、あたしに一言の相談もなく進路決めたんだからムカつくじゃん!」

「さっき相談なんかしない方がいいって言ってませんでした?」


 つい突っ込んでしまったが、もちろん聞く耳なんか持ってくれない。


「合格決まったら、あいつ、笑いながら近づいてきてポケットに手を入れたの! もう怖くてとっさに酷い事言ったのよ!」


 この学校は三年生になると、拳銃の携帯許可でも出るのだろうか?

 あの人、いつもポケットにお菓子入れてるのくらい、知ってるだろうに。


「えーと、身の危険を感じたの?」

「だってポケットから合格通知でも取り出されたら、おめでとうって言わなきゃじゃん? 友達なんだから!」


「普通ポケットから合格通知は出しませんよ。おめでとうくらい言えばいいでしょ、友達なんだから」

「言えるわけないじゃない! こっちは苦しくて恋愛成就の指輪とか壺を売ってんのよ!」


「ちょっと待って。壺も売ってたんですか?」


 それは聞いてなかったと口に出したら、彼女はすごい勢いで棚に駆け寄り、大きな壺を手にして駆け戻ってきた。


「なんなら買ってく? 今なら半額の100万円でいいわ! これは効くわよ。なんたって99万相手に渡すからね。どんな男もイチコロよ!」

「いえ、僕、男性とはお付き合いしたくないので……」


 断る僕の膝の上に無理やり壺を置いてくる。

 壺をよく見れば駅前のリサイクルショップの値札がそのままで《500円》て書いてあった。


「不良在庫なのよ! 正直言ってすごくジャマなの! タダでもいいから持ってってよ!」


 そう叫ぶとテープルの上の指輪を鷲掴みにしてジャラジャラと壺に放り込む。


「これはサービス!」


 満面の笑顔で言うが、もう売れなくなったゴミを押し付けにきているだけじゃん。

 困り果てていたら、先輩が僕の脇腹を突つくように湯呑みを押し付けてきた。

 

 どうやら『話を代われ』と言っているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ