6-10 他人へのアドバイスは慎重に
「あたしが悪かったのはわかっている」
オカ研の部長はしょんぼりと肩を落とし、椅子の上で膝を抱えて丸まるように座っている。
すっかりおとなしくなって、遠目にはうごめく黒い塊みたいに見える。
「会長と何があったんですか?」
せっかく落ち着いてくれたので、なるべく静かな口調で聞いてみる。
彼女は上目遣いにチラッと僕を見上げ、すぐに視線を床に戻す。
やがて不安そうな小声で、訥々と語り出してくれた。
「……進路についてアドバイスされそうになった。ムカつくからわざと酷い事言った。……それが何かは言いたくない」
たぶん会長のプライバシーとかコンプレックスに関係する事を言ったのだろう。
ここは掘り下げない方がよさそうだ。
「会長は具体的にはどんなアドバイスをしたんです?」
ここは絶対に聞きておきたい所だ。
あの人は何を言ってオカ研の部長を怒らせたのか。
彼女の言い分を聞いて、会長に落ち度があるのか確認したかった。
「……だから、アドバイスしようとしてた」
「え? もしかしてアドバイスした事、それ自体がダメだったんですか?」
アドバイスの内容なんて関係ないのか。
ちょっと驚いて確認したら、彼女は丸まったまま首を横に振る。
「されてない。しようとしてたから、酷い事、言ったの」
「……それは酷い事しましたね」
これじゃ擁護のしようもない。
あの人、何もしてないじゃん?
「だってあいつ、一人でさっさと推薦で決めちゃったんだよ! そんな奴に何言われたって、あたしが惨めになるだけじゃん!」
「え? 待ってください。会長の推薦が決まったら、なんで惨めになるんです?」
他人の進路なんて関係ないし、友人が合格したのなら、むしろめでたい事だろう。
言っている意味が分からないが、精一杯想像力を働かせてみる。
「えーと、妬ましいとか、そういう事ですか?」
「そうよ! 妬ましいの! あいつばっか!」
オカ研部長はネガティブな感情を素直に認め、テーブルを叩く。
「あーやは、あたしに一言の相談もなく進路決めたんだからムカつくじゃん!」
「さっき相談なんかしない方がいいって言ってませんでした?」
つい突っ込んでしまったが、もちろん聞く耳なんか持ってくれない。
「合格決まったら、あいつ、笑いながら近づいてきてポケットに手を入れたの! もう怖くてとっさに酷い事言ったのよ!」
この学校は三年生になると、拳銃の携帯許可でも出るのだろうか?
あの人、いつもポケットにお菓子入れてるのくらい、知ってるだろうに。
「えーと、身の危険を感じたの?」
「だってポケットから合格通知でも取り出されたら、おめでとうって言わなきゃじゃん? 友達なんだから!」
「普通ポケットから合格通知は出しませんよ。おめでとうくらい言えばいいでしょ、友達なんだから」
「言えるわけないじゃない! こっちは苦しくて恋愛成就の指輪とか壺を売ってんのよ!」
「ちょっと待って。壺も売ってたんですか?」
それは聞いてなかったと口に出したら、彼女はすごい勢いで棚に駆け寄り、大きな壺を手にして駆け戻ってきた。
「なんなら買ってく? 今なら半額の100万円でいいわ! これは効くわよ。なんたって99万相手に渡すからね。どんな男もイチコロよ!」
「いえ、僕、男性とはお付き合いしたくないので……」
断る僕の膝の上に無理やり壺を置いてくる。
壺をよく見れば駅前のリサイクルショップの値札がそのままで《500円》て書いてあった。
「不良在庫なのよ! 正直言ってすごくジャマなの! タダでもいいから持ってってよ!」
そう叫ぶとテープルの上の指輪を鷲掴みにしてジャラジャラと壺に放り込む。
「これはサービス!」
満面の笑顔で言うが、もう売れなくなったゴミを押し付けにきているだけじゃん。
困り果てていたら、先輩が僕の脇腹を突つくように湯呑みを押し付けてきた。
どうやら『話を代われ』と言っているらしい。
 




