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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第6章 終わりを告げる犬が来る
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6-6 学校の魔女

「待たせたわね」


 先輩がはしゃぎ終わった頃、ようやくオカ研の部長が戻ってきた。

 彼女は黒いローブに鍔広のとんがり帽子と言う、いかにもな装束に着替えて来た。


 メガネも外して、目元をやたら強調したメイクになってる。

 唇も真っ赤で、メリハリが強い。


 長い髪もムラなく真っ黒なので、こんな格好で夜中に歩いていたら車に轢かれそうだ。


 着替えた意味は分からないが、これは時間がかかるワケだ。

 全身黒装束で現れた彼女を見て、


「魔女みたいだ」


 と先輩が呟くと、オカ研の部長はニタァと笑った。

 たぶん喜んでいるんだと思う。


「今日はお一人ですか? 他の部員の方はどうしてます?」


 彼女が差し出すハーブティーのカップを受け取りながら聞くと、彼女は軽く肩をすくめる。


「期末テストが近いから、みんな来なくなっちゃって」


 ちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。


「ああ、期末テストですか」

「うむ、そんなモノもあったな」


 感心したように先輩が隣で頷いている。

 僕もすっかり忘れてた。


 彼女一人なのは都合がいいけど、そんな時期にここで何してるんだ、この人は?


 会長の友人って事は三年生だよな?

 もう冬なのに当たり前に部室にいる。


 演劇部の臼井といい、この人たちの進路はどうなっているんだろう?


 演劇部は一二月に大会があると言ってたからまだ理解できる。

 だがオカルト研究会が三年の冬まで部活に勤しむ理由が想像つかない。


「それで、生徒会が何の用件?」


 ティーカップを片手で持ちながら、オカ研の部長が椅子に座って足を組む。

 少し短めなスカートから白い足がひざ上まで露になった。


 粗雑な態度と変な衣装が堂に入っていて、案外とかっこいい。

 やたら化粧が濃くて僕の好みじゃないけれど。


「なあ、この棚にある媚薬というのは、よくフィクションに出てくるアレなのか?」


 先輩が予想外の方向から話を切り出す。


「もちろん、そうよ」


 オカ研の部長は胸を張って断言した。

 その言葉だけで、先輩が小刻みにプルプル震える。


 おかしくて笑い出しそうなのを我慢しているらしい。

 よせばいいのに彼女は平静を装って話を続ける。


「ここにいる私の後輩が興味津々でな。すまんが詳しい説明をしてくれないか?」


 この人、あんな大声ではしゃいでいたのに、堂々と僕をダシにしたよ。


「あたしの媚薬は、そこらの物と一味違うわ」


 絶対に聞こえていたはずのオカルト研の部長も、何事もなかったように答える。


「使い方にコツがあるけど、効果はちゃんと保証できる」

「ふむ、コツというのは具体的にはどうなる? 相手に気取られず自然に飲ませることができるのか?」


 さらなる質問を聞きながら、部長はゆっくりとした動作でイスから立ち上がり、棚の方へ歩いていく。


「まずね、親しくない相手には効かない。普段からよく話す相手で、日常的にボディタッチが行われているくらいの相手が望ましいわ」


 棚から大切そうに瓶を手にとって大真面目な顔で語っているが、そんな相手なら普通に告白してよくない?


「天然由来の成分一〇〇パーセントだから、漢方薬みたいに緩やかな効き目で、効果が出るのに時間がかかるの。今すぐ結果が欲しい人向きじゃないわね。初回セットは使い方の説明書もつけて五〇〇〇円。あまり効かなかったら継続の購入をオススメするわ」


「待ってくれ。私が聞きたいのは相手に気取られずの説明だ」

「無味無臭だから飲み物に混ぜても、まず気づかれないわ。それに天然由来成分一〇〇パーセントだから健康にもいいの。せっかく会長がここまで来てくれたんだから、半額でいいよ」


 目の前に《媚薬》と書かれた瓶を差し出され、先輩は思わず頷いた。


「そ、そうか。それなら——」

「待って先輩! なんで買おうとしてるの!」


 財布を取り出しかけた先輩を両手で押し留める。

 ハッとした顔で我に返った先輩は、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「……君に言った事はないのと思うが、私はこういうインチキ臭いオカルトグッズが、けっこう好きなんだ。絶対に効果がなさそうな能書きとかを読んでると楽しくなってしまうのだよ」


 そう言えば朝の占いコーナーも『信じてないけど毎朝見てる』と言ってたもんな。

 オカルトをオモチャとして楽しむ人なんだろうけど、それで二五〇〇円は高すぎる。


「えーと、今日は別件ですから、お楽しみは日を改めて」


 先輩の手を抑えたまま、顔を近づけ諭すように言う。 

 彼女は急に頬を赤く染め、抑えていた僕の手をそっと握る。


「そ、そうだった。忘れていたよ」


 少し落ち着きを取り戻した彼女の所へ、オカ研の部長がそっと近づく。


 先輩のセーラー服の胸ポケットに右手の人さし指をスッと差し入れ、出来た隙間に媚薬の小瓶を滑り込ませる。


「あげるわ。それ、ホントに特別製だから。——すごく効くわよ」


 蠱惑的な笑みを浮かべて先輩の耳元で囁くように言う。

 それが先輩のツボに入ったのか、机を叩いて大笑いしている。


 先輩の新しい一面を見れたのは嬉しいが、少し心配になってきた。


 大丈夫なのか、この人?

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