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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第6章 終わりを告げる犬が来る
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6-2 生きる呪いのアイテム

 元・生徒会長は美少女だ。


 その容姿はまるでよくできた人形のようで、生徒たちから《生きているピスクドール》という呪いのアイテムみたいな呼ばれ方をされている。


 幼さを残しながら整った顔立ちに、少し色素の薄い髪や肌。

 薄くて細い体は軽やかに動き、まるでファンタジーの物語に出てくる妖精のようだ。


 ちょっとオーバーサイズ気味のセーラー服を着ているせいもあって、とても高校三年生には見えない。


「もうちょっと背が伸びる予定だったんだよ」


 とは本人の弁。


 ランドセルを背負えば小学生にも間違われそうな容姿で、そっち方面の男子生徒から大人気なのだが、本人はあまり自分の容姿——特に身長を——気に入っていないので、そういう異性はお断りだそうだ。


 実際、彼女の魅力は顔や体型じゃない。


 見た目はもちろん、言動にも子供っぽいところがあるのだが、彼女の琥珀色の瞳には強い意志が宿っていて、そのミスマッチこそが彼女の魅力だ。


 これで迷惑な人じゃなければ、素直に《可愛らしくて素敵な女性》と言えるのだけれど。


          □


「んで、あんたたちは占い、好き?」


 会長が《会長の椅子》に座って、僕が淹れたお茶をすすりながら話を切り出した。

 久しぶりに彼女が座ると、椅子も机も大きく見える。


 ちなみに僕らは机を挟んだ向かいにパイプ椅子を置いて座っている。

 生徒会室にはいちおう応接セットのテーブルとソファもあるが、こっちの方が話しやすい。


 占いなんか信じてない、では好き嫌いの答えになってないよな。

 どう答えたらいいのだろうと考えていたら、横に座る先輩が口を開いた。


「朝のテレビでやってる占いコーナーはよく見てますが、家を出る頃には忘れてる程度です」


 先輩は湯飲みを両手で抱えながら、よく分からない事を言う。


「え? それ、どういう意味?」


 会長も理解できなかったようで、椅子から立ち上がって机に身を乗り出してくる。


「意味は無いです。あっ、今日は一位だ、とか、へー最下位だ、で終わりです。例えて言うなら、応援してないスポーツの試合結果を聞いてる気分ですね」


「つまり、ぜんぜん興味がないのに毎朝占いを見てるワケ?」

「まあ、そうです」


 先輩がそう答えたら会長は椅子に戻って深く腰掛け、何か考え込むように黙り込んでしまった。

 答えが予想と違っていたらしく、どうしたら話を思った方へ誘導できるか考えているようだ。


 空気が重くならないよう、場繋ぎも兼ねて先輩へ話を振ってみる。


「先輩は占いに興味ないんですか?」

「正直あまりないな。相性占いとか、たまに見る程度だ」


 僕の隣で茶を啜ってる先輩が淡々とした口調で答えた。


 まあ、この人はそんな感じだよな。

 と思ったら会長が小首を傾げる。


「でもさ、あんた今年度になってから、よく占い雑誌とか熱心に見てたじゃん?」

「そ、それはたまたまです!」


 手に持った湯呑みから茶をこぼしながら先輩が叫ぶ。


 先輩が和室以外でこんなリアクションをするのは珍しい。

 持参したタオルで机を拭きながら彼女を見上げる。


 生徒会室にいる時はいつも《クールビューティー》という名の、やる気のない態度が普通なのに。

 会長と会うときは緊張するって言ってたが、前からこんなじゃなかったハズだ。


「あんたが修学旅行で恋愛祈願のお守りを買ったって話題になってたよ」


 会長が指摘すると、先輩は手元にあったバッグを素早く隠すように胸に抱く。

 視線が宙をさまよい、バッグを抱いた手に力が入る。


「こ、これは妹のために買ったモノです」


 彼女は頰を赤く染め、意外なことを口にした。


「え? 先輩、妹がいたんですか?」

「……いや、いない」


 先輩は小声で呟くように否定する。


 え? いないの?

 じゃあ今の言葉はなんだったんた?


 意味が分かんなくて見つめていたら、先輩はしどろもどろになりながら言い訳を始める。


「妹はいないのだがお土産というのは、あの、その、そうだ! これは会長のために買ってきました!」


 叫ぶように言うと、鞄に付けていたお守りを引きちぎるように取り外した。

 先輩が鞄にお守りを付けてたのは気がついてたが、そんなものとは知らなかった。


「修学旅行のお土産です。受け取ってください!」


 まるで告白のような勢いでお守りを差し出す。

 会長はしばらくあっけに取られていたが、やがて苦笑しながらそれを受け取る。


「……あたし、もう会長じゃないんだけどな。じゃ、代わりにコレあげるよ」


 そう言って彼女はスカートのポケットから銀色のリングを取り出した。

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