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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第1章 全知全能の神に導かれて僕らは出会った
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1-4 セーラー服を脱がないで

「あのですね。先週の月曜日だったんですけど」


 ゆっくりとした口調でお下げ髪が話を始めた。


「体育の授業が終わって制服に着替えようとしたら、ブラジャーが無かったんですよ。更衣室の中もあちこち探したんですけれど、結局出てこなくて」


 まっすぐに僕の目を見てとつとつと喋るもんだから、こっちが気恥ずかしくなってくなる。

 そんでもってブラジャーを連呼しているもんだから、僕の視線は自然とお下げ髪の胸元へと向かってしまう。


「……今は別のを着けてます」


 視線に気がつき、恥ずかしそうにお下げ髪が身じろぎする。


「ポチ、ブラジャーを確認する必要があるのなら、見せてもらえ」


 横から事務的な声で彼女が言うと、お下げ髪は硬直してしまった。


「あ、あの、それはちょっと……」


 そこまで言うと、真っ赤になって俯いてしまった。


 そりゃそうだろう。内気そうな女の子だし、初対面の男に下着を見せろなんて呆れるような提案だ。


 なのにお下げ髪は真っ赤になったままの顔を上げて、


「……で、でも、ポチくんがどうしてもって言うのなら……」


 ギクシャクとした動きでセーラー服の胸当を外し始める。


 本気で恥ずかしいのだろう。

 緊張のあまり彼女の指先が震えているのがハッキリと見て取れた。


「待って待って! 脱がなくていいから!」


 ビックリして押しとどめたら、彼女が感心したような声を出す。


「ほほう、さすがポチは変態だな。さっそくサオリに辱めを与えている」

「こんな恥辱は初めてです」


 涙目になったお下げ髪が何だか嬉しそうな声で言う。


 ため息をついて気持ちを切り替え、改めて僕はお下げ髪に向き直る。


「えーと、サオリさん、でいいんですよね?」


 先輩の言い方を真似て《えーと》を使ってみた。


「あ、そうです。漢字はこう」


 お下げ髪に確認すると、右手の指で畳に字を書いてくれた。なるほど、《沙織》か。


「では沙織さんに聞きたい事が二つあります」

「はい」


 僕が真面目な声を出すと、沙織さんもサッと居住まいを正してくれた。


「これは素朴な疑問なのですが、一般的に体育の着替えでブラジャーは外すものなんですか?」


 沙織さんの返事を待たず、横から彼女が口を挟む。


「普通は外さないな。運動部の連中なら、部活の時だけスポブラに替える、とかもありうるが、体育の授業でそんな面倒な事はしないよ」


 ブラジャーの事はさっぱり分からんが、とりあえず校内で下着を付け替えるのはレアケースというワケか。


 僕も校内でパンツを履き替えた事はないし、きっとそういうものなんだろう。


「沙織さんへの嫌がらせや単純な紛失ではなく、変質者の仕業と断定している理由は?」

「ええと、その……」


「体育教師が、授業中に更衣室前をうろついている男子生徒を見ている」


 これも横に座る彼女が答えてくれた。


「更衣室は男女とも出入り口が近いし体調を崩して更衣室へ戻ってくる生徒もいるから、さして気に止めなかったらしい。男子生徒という以外は学年すら覚えていなかったよ」


 なるほど。ちゃんと根拠があるんだな。


「もう一つ。沙織さんが希望しているのは『犯人を捕まえろ』ではなく『ブラジャーを返して欲しい』なんですね?」


 ここがよく分からん所だ。


 普通なら変質者が手にしたブラジャーなんて、どんなに高価な物だって、もう触りたくないってのが女性心理ではないのだろうか?


 二度と被害に遭わないよう、犯人を捕まえてくれと言わないのが不思議だ。


 横から『質問が三つ目だぞ』と突っ込まれたが、あえて無視して念を押すように確認すると沙織さんはコクリと頷いた。


「あのブラジャーは、あたしにとって大切なモノなんです」


 そう言ってから、ちょっとだけ目を潤ませた。


「去年亡くなった、母の形見のブラジャーなんです。犯人の人がどんなつもりで盗んでいったのか知りませんが、ぜひ返して欲しいんです」


「なるほど。沙織さんのお母さんが買ってくれたブラジャーなんですね」


 それは思い出の品として大切なのだろう。大事にしていたのも頷ける。


「いえ、母が愛用していたブラジャーです。母はBカップだったのですが、あたしはDカップなので、体育の時は擦れて痛いので外していました」


「……先輩」


 僕は横に座る彼女の方を振り向いて尋ねる。名前が分かんないから、とりあえず先輩と呼んでおく事にした。


「ブラジャーって形見にするモノなんですか?」

「普通、しないな」

「ですよね?」


「まあ、それはいいとして」


 沙織さんは困惑している僕たちから、サックリと話を自分へ引き戻す。


「あれを返してくれるなら、今あたしが着けているブラジャーをさしあげます」

「だそうだ。ポチ、すぐに返してやれ」

「先生には黙っててあげますから」


 ……結局、この人たちは僕が犯人だと思ってないか?

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